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7.精霊と人間の恋の行方

本日4話目です。

完結まで書き終わりました。

全12話くらいなので、少し確かめをしてから、2・3日うちには終わります。

「ねぇ、カロリナ。前に言ってた、精霊と人間の恋物語についてなんだけど」

 穏やかな午後、私とカロリナはテラスでお茶を飲んでいた。


 あれから一週間。

 私はいまだにソザンヌ家にいる。


 今日は、執事のドークさんがいない。

 近々来客の予定でもあるのか、屋敷は忙しそうだった。

 これはチャンスだと尋ねてみる。


「そうそう、そうだったわね。そもそもソザンヌ家って大きいじゃない? 由緒正しい貴族で、元々はこの領地を治めていたのよ」


 そんなことを、ドークさんも言っていた気がする。

 思い返せば聖女として挨拶をしにいった領主の屋敷よりも、このソザンヌ家の屋敷のほうが大きい。

 商人といった感じの領主より、ソザンヌ家のほうがいかにも貴族という感じがした。


「昔はこの領土、ソザンヌっていう名前だったの。守護精霊・ソザンヌに守られた領土だったのよ」

 今回魔に落ちた守護精霊・アヌラは、前に聖女様が魔王を倒して、精霊達が一新されたときにやってきた精霊らしい。


 魔王を倒せば、魔物化した精霊達は消滅し、新しく生まれ変わる。

 見た目も存在も同じ、けれど全く別のまっさらな精霊として。


 彼らがまた魔物化してきた頃に、魔王が復活し、聖女がそれを倒し。

 人間は、同じことをずっと繰り返していた。

 

「守護精霊・ソザンヌとこの家の当主の息子は、恋に落ちた。当時の当主、つまり彼の父親はそれをよく思わなかった。ソザンヌとはもう会わせない。別の兄弟にソザンヌとの契約を譲渡し、当主の座を譲ると言い出したのよ」


 見てもらったほうがいいわねと、カロリナが私を案内する。

 厳重に隠された、屋敷の奥の奥。

 その部屋には、一体の精霊の像があった。


 膝をつき、前屈みになった美しい女性。

 その瞳は慈愛に溢れ、幸せそうな顔をしている。

 しかし、その胸には――同じく精霊の涙でできた剣が、つき刺さっていた。


「守護精霊・ソザンヌよ。美しいでしょう? ここまで大きな精霊の涙は、存在しないのよ」

 うっとりとカロリナは言う。


「愛を引き裂かれた2人は、心中したの。彼は完全なる死をソザンヌに与えたのよ。また別のソザンヌが現れることのないようにね」

「完全なる死?」


 精霊の死は、魔物になること。

 人間のように寿命もなければ、倒されたとしてもそのうち復活する。


 ただし、聖女だけは特別。

 魔物や精霊に死を与え――魔王を倒した際には、また新しく彼らを再生させることができる。

 そう教会では、習ってきた。


「精霊って、殺すことができるのよ。精霊の涙を受け取った、たった1人の愛するものだけが、精霊に死を与えることができる。再生のない本当の死――消滅をね」


 ただ、この事実は隠されている。

 内緒だよというように、カロリナは付け加えた。


「精霊が消滅すると、世界に循環する魔力は減る。それを教会は許さないの。禁忌を犯してしまったソザンヌ家は、領主の座を降ろされたのよ。だからね、本来はもっと凄い家柄なのよ!」


 カロリナが本当に言いたかったのは、おそらく最後のことだ。

 自分の持つ後ろ盾がどれだけ凄いのか、それを示したかったんだろう。


「教会は本当に、精霊を魔力の発生装置としか思っていないのね……」

 けれど私は、カロリナに構ってあげられなかった。


 幸せそうな顔で死んでいる、ソザンヌの像。

 それがどうしても――ジュレイルと重なった。



 ◆◇◆


「聞いてお姉ちゃん! 今日は聖女とその契約騎士である、聖騎士の方々がいらっしゃるのよ!」


 次の日の朝。

 起きたら、カロリナのテンションが高かった。

 いつも以上に濃い紅を引き、服装も気合が入っている。


 デルタとゲイル……そしてジュレイルが、この屋敷を尋ねてくるみたいだ。

 自由な時間は、もう終わりということなんだろう。


「アヌラを倒したら、私に会いたいって前々から手紙がきていたの。ソザンヌ家は精霊と関わりの深い家柄だし、私を将来の妻にしたいのかもしれないわ!」


 カロリナは完全に舞い上がっていた。

 教会の聖騎士は誰もがなれるわけではない。

 巡礼者とは格が違う、世界のために魔物を退治する気高い騎士。

 多くの人の憧れであり、正義のヒーロー。

 加えてデルタとゲイルは顔がいいので、女性からとても人気があった。


「どこかで私を見て一目惚れとか、そういうことなのかしら。私婚約者がいるのに困っちゃうわ。でも、騎士様が相手なら……ふふっ、どうしよう。お姉ちゃんどう思う?」

 困るといいながら、カロリナは嬉しそうだった。


「たぶん、別の用事じゃないかなと思うわ」

「そんなわけないでしょう? 私に会いたいって名指しなのよ。それ以外考えられないもの!」


 じゃあ、聞かなければいいのに。

 そうは思ったけれど、口には出さない。


「あのね、カロリナ。実は……」

 この勘違いをしたままだと、危険だ。

 カロリナを後で怒らせてしまう気がして、自分が聖女だと明かすことにした。

 けれどそれは、チャイムの音に遮られてしまう。


「あっ、ベルが鳴ったわ! 騎士様がきたのかも!」

「ちょっと待ってカロリナ。その前に私の話を」

「そうそう、長い間留守にしていた、お父様とお母様も帰ってきているの。お姉ちゃんを使用人にしてって、頼んでみるね!」


 興奮したカロリナは、私の話を聞く体勢ができていない。

 一方的にまくしたてて、いそいそと扉へ向かった。


「あのね、カロリナ。私は使用人にならないし、それに聖」

「お姉ちゃんは騎士様達が帰るまで、この部屋でのんびりしててね。粗相があったらいけないし!」


 慌ただしく、カロリナは部屋を出ていってしまう。

 脱力した私は、椅子に座り込んだ。

★2016/12/28 カロリナの両親と出会った記述が間違っていました。この時点ではまだ出会っていません。すみません。

★2016/12/30 カロリナの婚約者がいる設定について、追記をおこないました。特に内容の変更はありません。

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