表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

11.近づく最後のとき

本日2話目となります。

次回が最終話で、本日完結です

「あぁ、目が覚めたか」

 気がつけば、宿のベッドにいた。

 私が起きたのを見て、デルタが読みかけの本を伏せて窓際に置く。


 むすっとして腕を組み、壁に寄りかかっているゲイルと、ベッドの横に椅子を置いて座っているデルタ。

 そして、デルタの後ろに隠れるかのように、ジュレイルが立っていた。


「リディも起きたんだ。そろそろ、隠し書庫で見つけた手記の内容について、教えてもらおうか。あと、俺やリディ抜きで勝手に行動したことに関して、弁明があったらしろよ」

 ゲイルの口調には棘がある。

 デルタを慕っている普段の彼なら、ありえない言い方だ。

 相当に腹が立っているのだろう。


「特に弁明することはない。私は任務を遂行しただけだ。手記の内容も、事実だな」

 淡々というデルタの胸ぐらを、ゲイルが掴む。


「じゃああんたは、最初からリディを魔王の器にするつもりで……一緒に旅してきたのかよ!」

「そうだ」

 ゲイルの怒りにもひるまず、デルタは即答する。


「あんたのこと、尊敬してたのに! こんな奴だとは思わなかった!!」

「私にしかできないことだ。他の者に……こんな辛いことを強いることはできない」

 変わらなかったデルタの表情が、苦しそうに歪んだ。

 

 彼は責任感の強い人だ。

 実をいうとはじめは人間味がない人だと思っていたけれど、そうじゃないことを今の私は知っていた。

 隠しきれなかったというデルタの様子に、ゲイルは服から手を離す。


「最後の仕上げだ」

 デルタは剣を抜き、ジュレイルに突きつけた。

 切っ先を向けられたのに、ジュレイルは微動だにしなかった。


「何か言い残すことはあるか、ジュレイル。必要ならば、時間も与えよう」

「我を殺すのは、魔王と対峙する直前にしてくれ。これ以上は辛くなるだけだから、時間はいらない。明日には魔王を倒しに行こう」

 まるで世間話のような軽さで、デルタとジュレイルは会話する。

 わかったとデルタは剣を納めた。


「ならば私とゲイルは、今から魔王戦の作戦会議に移る。最後の戦いだ。熱中するあまり、お前達がどこか遠くへ行ってしまっても、気づかないこともあるだろう」


 説明的なデルタの言葉。

 私には逃げろと言っているようにしか、聞こえなかった。


「……デルタ、ありがとう」

「お礼を言われる筋合いはない。結局……時間の先延ばしでしかないからな。行くぞ、ゲイル」


 感謝の気持ちを伝えれば、デルタがゲイルを伴って部屋を出ていった。



 ◆◇◆


「ジュレイル、私と一緒に逃げて」

「前にも言ったが、それはできない」


 2度目の逃避行の誘いは、あっさりと断られてしまう。

 ジュレイルは頑なだ。


 ベッドの横にジュレイルが腰を下ろし、私の頬にそっと触れてくる。

 やっぱりジュレイルからは、出会ったときと変わらない、新緑のいい香りがした。


「それにデルタはあぁ言ったが、われがリディを魔王の器にしたりしない。ちゃんと秘策があるのだ。言っただろう? 最後のときに、我はお前の力となる……と」

 ジュレイルの手が、頬から髪へと移っていく。

 その指先が、精霊の涙でできた花飾りをそっと撫でた。


「何も心配せずともよい。我がリディを殺させない」

「でも、ジュレイル! 私は……うっ!?」

 言いかけた言葉は、ジュレイルのキスに阻まれた。


「リディは我のことだけ、考えていればいい。面倒なことは全て忘れて、今は我に構え。我は最後のときまで、お前に愛されたい」

 私の膝に乗せられた、ジュレイルの手は震えていた。

 そっとその手に、自分の手を重ねる。


「ジュレイルも……怖いの?」

「怖くはない。死は我にとって救いで、それは変わらない悲願だ。だが……お前と離れるのが、辛い」


 その言葉を聞けただけで、十分だった。

 ジュレイルも私と同じ気持ちなんだと思えば、涙が溢れてくる。


「泣くな、リディ」

「ジュレイルも泣いてるじゃない……」


 精霊が泣くと、やはりその涙は宝石になるらしい。

 ぽろぽろとこぼれるジュレイルの涙は、シーツに辿りつくころには、白く丸い宝石になっていく。


「リディ……我は、お前が好きだ」

「私も、ジュレイルが好き」


 一緒にいられる、最後の夜だというのに。

 私達は抱き合って、朝までずっと泣いてすごした。



 ◆◇◆


 魔王が封じられている塔へ、半日かけて辿り着く。

 扉を開ければ、その向こう側に魔王がいる。

 その緊張感の中、ジュレイルが私の髪に触れてきた。


「リディ、そろそろ約束を果たすときだ」

「……っ」


 唇をかんで、涙をこらえる。

 そんな私に、ジュレイルはふっと笑った。

 精霊の涙でできた髪飾りを、私の髪から外す。


 真珠のような輝きを放つ、白い花の宝石。

 ジュレイルがキスをすると、それは剣の形になった。


 どこかで、私はこれと同じものを見た。

 記憶の中を探る。

 妹のカロリナが見せてくれた、守護精霊・ソザンヌの像。

 その胸に刺さっていた剣と、全く同じものだ。


「この剣があれば、リディが魔王の器にならずとも、魔王を倒せる」

「これは……精霊の剣か」

 ジュレイルが私に差し出した剣を見て、博識なデルタが呟く。


「精霊の剣? なんですかそれは」

「精霊に、本当の意味で死を与えることができる剣だ。聖女に倒された精霊も、まっさらな新しい存在として、生まれ変わることができるだろう? この剣はその連鎖すらも断ち切り、精霊をこの世界から消せる唯一の剣だ」

 首を傾げたゲイルに、デルタが説明をする。

 前に見た守護精霊・ソザンヌも、この剣で命を落としたのだろう。


「魔王を封印せずに、倒せるってことですか? 俺、ずっと教会にいましたけど、そんなものがあるなんて知りませんでしたよ」


「当然だ。教会は精霊の剣の存在を隠している。精霊を殺されると、その精霊が持っていた魔力が、二度と使えなくなるからな。例え魔物になっても聖女を使って倒し、再生させて、繰り返し魔力を使いたい。それが教会の考え方だ」

 ゲイルは何か言いたそうにして、それを止める。

 憤りをデルタにぶつけたところで、仕方ないと思ったのだろう。


「まぁ、でもよかったです。教会の意向なんて、もう知ったことじゃありませんし。これでサクッと魔王を倒せば、それで解決ってことですよね?」

 希望を見いだしたゲイルに、それは違うとデルタが首を横に振る。


「精霊の剣は使う者が限定される。作り出した精霊が愛した者しか、扱うことができない。そして――作り出した精霊本人しか、その剣で殺すことはできなかったはずだ」

「つまり、ジュレイルの精霊の剣で倒せるのは、ジュレイルだけってことですか」

 ゲイルは落胆を隠せないようだった。


「これが魔王の作り出した精霊の剣だったら、魔王を倒せただろうな」

「それなら問題はない」


 ジュレイルは私の手に精霊の剣を握らせ、デルタに答える。

 魔王が待つ扉を開け、走り出した。



「「「ジュレイル!?」」」

 突然の行動に慌てて、3人でジュレイルを追う。

 塔の最上階、色あせた絨毯を踏みつけて、奥へと進んでいく。

 そこには一段高くなった場所があり、王様が座るような椅子があった。


「よく来たな、リディ。ずっと待っていた」

 玉座には男が座っていた。

 私の名前を呼んで、立ち上がる。


 綺麗な金色の瞳。

 思わず息を飲んでしまうような、整った顔立ち。

 髪の色こそ黒ではあったけれど、男はジュレイルとよく似ている。


「ジュレイル……? いや、でも……」

 どういうことなんだろう。

 戸惑う私の目の前、男の側にはジュレイルが控えている。

 双子のように、うり二つだ。


「我は魔王と呼ばれる者。そして、ジュレイルは我の一部だ」


 彼が魔王?

 目を見開く私の前で、ジュレイルの姿がぼやけ光の粒となる。

 そしてその粒は、魔王の体へと吸収されてしまった。

 魔王の黒髪に、一房白い色が混じる。


「ずっと、お前を待っていた。我の聖女よ」

 私のよく知る声に、まなざし。

 魔王が、私の側へ歩いてくる。

 それは間違いなく、ジュレイルのものだった。

2016/12/29 誤字等、文書を微修正しました。内容に変更はありません。

2017/1/3 誤字修正しました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ