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エピローグ

 人生万事塞翁が馬と言う言葉があるが、ヴェラはその言葉の意味を感度も咀嚼しては吐き出しているそんな面持ちであった。


 ウィスパー寄稿文店で読ませてもらった『そして誰もいなくなった』と言う投書を題材にした新連載作品『そして誰かが居た』が、どうも人気があるらしく。


 先程、編集さんが原稿を取りに来たとき、


「ヴェラ先生。これ差し入れです。ここ置いときますね。それから、『そしいた』なんですけど、来週から原稿を今の倍でお願いしますねっ!書籍化文の書き下ろしも忘れないで下さいねっ!」

 

 と死刑宣告のようなことをさらっと言い残して帰って行った。


「へぇー『そしいた』なんて呼ばれてるんだ」


 自分の作品が『そしいた』とか言うヘンテコな略し方をされていることをはじめてを知った。


 いつもは差し入れなんて持って来ないと言うのに、キッチンのテーブルの上には、ビンに入った生クリームのせプリンが4つ。


 ヴェラは自身の新連載が人気になっていると言う噂が、本当なんだと確信した。


 一月前くらいから原稿催促の電話がひっきりなしに掛って来るようになった。


 編集さんの声が本気だなーと思いつつ、いつも通り、受け流していると、先週の月曜日。


「ヴェラ先生‼ついに、『そしいた』が書籍化されることになりましたよっ‼それで、初本は書きおろしでお願いします‼」


 うわぁ。また死刑宣告だ。話を聞いた直後は信じられなくてそう思った。


 けど、じわじわと実感が沸いてきて、どうにもこの喜びを押さえられなくて、気が付いたら、部屋の中で踊っていた。


 下の階の人に怒られて、我に返ったヴェラは、常軌を逸した歓喜に包まれると、人は本当に踊ってしまうのだと言うことを体験した。


 夢に見続けた、書籍化。子供の頃に小説家になりたいと思って、幾星霜。何度も挫折をして諦めて、書けなくなって、それを繰り返して……それでも書きたくて。

 

「続けてきて良かった……」


 ヴェラは嬉しくなりすぎて涙が出てきてしまった。


 そして、空っぽの冷蔵庫を開けると、


「これで冷蔵庫が空っぽになることはなくなる」


 鼻をすすりながら、呟く様に言ったのだった。 



 そんな、興奮冷めやらぬ、先週のことを思い出しながら、相変わらず、空の冷蔵庫を開けて、

 

 そうだ、ウィスパー寄稿文店に行こう。


 ヴェラはそう思った。


 『そして誰かが居た』を連載開始してから、忙しくて、ウィスパー寄稿文店にはとんと顔を見せていない。それに、これからもっともっと忙しくなるから、ウィスパー寄稿文店にはますます行けなくなる。


 エマやレイチェルは元気でやってるだろうか。


 ヴェラは少し考えてから、プリンを1つ冷蔵庫に入れると、残りを携えて、家を出ることにした。


 締め切りは差し迫っていたが、この喜ばしい報告を2人にしたかったし、今から行けば、正午頃には到着できる。


 土産も持って行っているのだ。昼ごはんくらいご馳走してくれるだろう。ヴェラは置時計の時刻をもう一度見ると、思い鉄製のドアを開けたのだった。




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