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第29話 ゲオルグの首飾り

「……それで、一体どうやって金鱗蛇と銀鱗蛇を見つけるのですか?」


 アインズニールの街から離れた森の中で、カティアがゲオルグにそう尋ねた。

 なぜこんなところにいるかと言えば、二人で共に依頼を片付けるつもりだからだ。

 手続き上、依頼受注後にパーティーの人数が増えたりした場合には冒険者組合ギルドへ改めて申請するのが一般的だが、今回の場合、それはしていない。

 つまり、形式上、ゲオルグが受けた依頼をカティアが勝手に手伝っている感じになる。

 それだと色々問題が生じそうだが、今回の依頼はそのすべてが納品依頼であり、納品さえされるのであれば依頼主に不利益は生じない。

 どれだけ人数が増えようと依頼主が払う報酬に変化はないからだ。

 では何が問題かと言えば、増えた冒険者……この場合はカティアが受ける報酬がどうなるのか、という点である。

 しっかり冒険者組合ギルドに申請した上であれば依頼主が支払ったそれを冒険者組合ギルドが分割してくれるが、ゲオルグだけが受けている状態である今回のような場合には、ゲオルグが一端受け取ってから、ゲオルグがカティアに報酬を分ける、ということになる。

 そうすると、まともな支払いがされない可能性もあるし、それどころか依頼を受けたのは一人なのだからとただ働きさせられることもありうるわけだ。

 だから一般的にこのような場合にはしっかり申請するものなのだが、カティアはそうしようというゲオルグに、別にゲオルグがそんなせせこましいことなどするはずがないからと申請しなくていいと言ったのだ。

 実際、ゲオルグもそんなことをするつもりはないし、改めてそのような行為のみみっちさを指摘されるとやろうと思っていたとしても出来ないだろう。

 これがA級冒険者の処世術なのだろうか、と一瞬思うも、そんなにたいそうなことでもないか……考え直した。

 そもそもカティアはこれで相当な金持ちである。

 小さな依頼の一つや二つ、報酬がなかろうとどうとでもなるのだ。

 そこまで考えて、ゲオルグは改めてカティアの質問に答えた。 


「まぁ、色々方法はあるんだが……とりあえずは土鼠つちねずみを捕まえるぞ。まずはそこからだ」


 そんなゲオルグの答えはカティアにとって意外なものだった。

 しかし、その意味はなんとなく理解できる。


「……もしかして、それを餌におびき寄せるということですか?」


「平たく言えばな。餌だけありゃいいってわけでもねぇが、そいつは釣りと一緒だ。ただ、餌がないと話が始まらねぇからな……」


「なるほど。では、ちゃっちゃと捕まえますか……でもあれはあれで結構な手間ですよね。素早さが半端ではないですし、とても小さいですから……」


 土鼠、というのは主に森や平原を生息地とする小型の魔物であり、その姿は一般的な鼠によく似ている。

 しかし、その生物としての能力には大きな隔たりがあり、まともに戦おうとするなら冒険者であればD級程度の腕前は欲しいところだ。

 一匹や二匹程度でならそれこそF級でもE級でもなんとか出来なくはないのだが、多くの場合彼らは群れを形成して生活している。

 うまく群れからはぐれた個体を倒すならともかく、群れごと刺激してしまった場合には低級冒険者では相手にならず、気づけば骨も残らず食われていた、なんてことにもなりかねない、意外に恐ろしい魔物なのだ。


「普通にやるならそうかもな……だが、ほれ。こいつをつけとけ」


 そう言ってゲオルグは何かをカティアに向かった投げた。

 普通の女性であれば取り落とすかもしれないような突然のタイミングだったが、カティアはこれでA級冒険者。

 反応速度や戦闘能力は単純に比較してもゲオルグより上だ。

 そんな彼女の不意をそう簡単につけるわけもない。

 カティアはそれをしっかりとキャッチし、それから首を傾げ、言った。


「……首飾り……もしかして私にプレゼントですか!?」


 大分嬉しそうだが、まさかそんな訳もない。

 呆れた顔でゲオルグは言う。


「なんでこんな森の奥で突然プレゼントしないといけねぇんだよ……するならもっと場所を選ぶぜ。そもそも今日は何の日でもないだろ。カティアの誕生日だって知らねぇんだからな」


「誕生日を知っていればしてくれるつもりがあると……なるほど」


「いや、たとえばの話だからな」


「私の誕生日は天の月、三日です。どうぞよしなに」


「……まぁ、そんときは考えておいてやる。ともあれ、今はそいつの話だ」


「あぁ、そうでした……プレゼントでないなら一体……」


「そいつは俺手製のアクセサリーよ。効果は認識阻害に特化した品で、身につけていれば大抵の相手から存在を認識されない」


「ゲオルグの手製……! 一体いくらで貴婦人方に売れるのか考えるとわくわくしてきますが……認識阻害ですか。それだけ聞くと、よくある効果ですね。確かに土鼠捕りにも有用そうです。しかし……ちょっと聞き捨てならない話を聞いたような……今、聞いた効果は本当ですか?」


 カティアがそう尋ねたくなったのは、ゲオルグが言った効果が規格外だからだ。

 認識阻害の効果を持ったアクセサリ-。

 なるほど、それ自体は別に珍しくない。

 ただ、一般的に言ってその効果というのは多少、陰が薄くなる、くらいのもので、《大抵の相手から存在を認識されない》などというレベルではない。

 ようは、奇襲をかけるときに多少、有利をとれるかもしれない、とそれくらいの性能であるのが普通だ。

 それなのに、である。


「嘘を言ってどうするんだよ。なんなら試してみるか? 俺は俺で持ってるからな……どれ」


 そう言ってゲオルグは拡張袋から自分用の首飾りを取り出してその首にかけた。

 すると……。


「……!? う、嘘……ゲオルグ!? どこですか……」


 たった今の今までそこにいたはずのゲオルグの姿が全く認識できなくなった。

 A級冒険者としての技能を十全に発揮した上でも、どこにいるのか分からない。

 そして、次の瞬間、


 ――ぽんっ。


 と肩を叩かれ、振り向くと……。


「……ゲオルグ。いつの間に……」


「いや、普通に歩いて後ろに立っただけだ。でも、中々のもんだろ?」


 つまりはそれだけの効果をこの首飾りは発揮したというわけだ。

 中々どころじゃない。

 恐ろしいほどの効果だ。


「こんなものがあれば、暗殺者業界は大繁盛間違いなしでしょうね……」


 皮肉でなくそうなったときの恐ろしさを想像してカティアがそう言うが、ゲオルグは意外にもこの台詞に首を横に振った。


「そいつは難しいかもしれねぇな」


「それはまたどうして……?」


「こいつは魔力に弱いからだよ。魔力感知系統の結界や走査にぶつかると効果を引っぺがされる。それに街中だと大勢の人間の魔力で混沌としてるからな。そういうのにも弱いって訳だ。一般的な奴はそういうのに強くした上で作られてるからそう簡単に引っぺがされねぇがな。一長一短って奴だよ」


「それを聞いて安心しました……しかし、ゲオルグなら両方のいいところを採用してかなりレベルの高い認識阻害魔道具を作れるのでは?」


「……無理じゃあねぇとは思うが、そうなると素材の問題が出てくるからな……量産は出来ないだろうよ。それに、俺は暗殺者には売らねぇさ」


 本当かな……?

 と少しだけ考えてしまったカティアだったが、少なくとも後半の台詞については信用しても大丈夫だろう。

 ゲオルグの心根は善良だ。

 世を乱すためにその技術を使うつもりはないだろうと。

 ただ、量産可能か可能でないか、については……。

 そう思いつつゲオルグを見つめてみれば、こちらを見て笑った。

 鬼のごとくのそれであり、子供には凶悪な顔に映るだろうが、カティアにとっては頼もしいそれで……。

 まぁ、もし作れるにしても、売り先を考えるであろうゲオルグなら、別に構わないか、と思ってしまったカティアだった。

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