カーチャンのアトリエ ~6畳1間の錬金術師~
ふと思いついたタイトルから思うがままに書くシリーズ3
「ほらタカシ、竹とんぼができたよ」
「これはなあに?」
「こうやってね……それっ」!
「わああ! 飛んでったよ。お母さんすごーい、僕にもやらせて」
「ほらタカシ、毛糸のセーターが編み終わったよ。着せてあげようね」
「僕1人で着てみるよ。……あれれ? やっぱり手伝って……」
「よしよし、ほら……どうだい?」
「すごくあったかい! お母さんってなんでも作れるんだね」
「お母さん、僕弟が欲しいの」
「じゃあタカシ、今度の休みにおばあちゃんの家に1人でお泊まりしてみるかい?」
「え? してみたいけど……どうして?」
「そうしたら弟ができるかもしれないよ」
「お母さんのお腹おっきいや、さわってもいい?」
「いいよ、やさしくね」
「この中に僕の弟がいるのかなあ?」
「どうかな? さすがの母さんも、男の子を狙っては作れなかったんだよ」
「そっかあ……じゃあ妹でもいいよ。僕ちゃんと面倒みるから」
「ねえお母さん、作って欲しいものがあるんだ」
「なんだい、タカシ」
「ゆうすけの服だよ。僕のお古ばっかりじゃかわいそうだもん」
「タカシはやさしいね。じゃあこのセーターをほどいて作り直そうか」
「お母さん、もっと広いところに住みたいな」
「実はね、トーチャンと新しい家を探してるんだよ。タカシの部屋も作ろうね」
「ほんと? 僕の部屋かあ、楽しみだなあ。ゆうすけ、遊びに来てもいいからな」
「わーい」
「ごめんね、新しい家には行けなくなっちゃった……」
「いいよ、僕ここ好きだもん。ほんとは新しい家になんか行きたくなかったんだ」
「僕も兄ちゃんと同じー。でも……お父さんはいつ帰ってくるの? どうしてお父さんの写真を飾ってるの?」
「ゆうすけ、今日から兄ちゃんがお父さんになってやるからな」
「お兄ちゃん、お母さん今日もいないの?」
「仕事忙しいみたいだから、先にご飯食べて寝てような」
「うん……。あ、お母さんに頼んでおいた雑巾と、破れたズボン直してくれてる」
「お母さんはなんでも作れるんだぞ。明日お礼言おうな」
「お母さん、俺とゆうすけで作ったんだ。いつもがんばってるから……手作りの賞状とメダル」
「2人とも……ありがとうね」
「あれ? お母さん泣いてる。嬉しいんだったら笑ってよー」
「タカシも今日から中学生だねえ。でも、制服そんな大きいので良かったの?」
「うん、俺大きい服好きだし。それにすぐ成長するよ」
「僕もお兄ちゃんみたいに大きくなりたーい」
「ふふっ、楽しみだねえ」
「タカシ、勉強はちゃんとしてる?」
「うるさいなー、もう。こんな狭い部屋じゃ勉強に集中できないんだよ」
「ごめんね……」
「……」
「タカシ、高校合格おめでとう。がんばったねえ」
「うん、ありがとう。母さん、あのさ……」
「なんだい?」
「えっと……なんでもないんだ、ごめん」
「ふふ、変な子だねえ」
「母さん、俺就職するよ。そして母さんに楽させてやるからな」
「大学行きなよ。ほら、この通帳見てごらん」
「これ!? いったいなんでこんな大金?」
「知ってるだろう? 母さんはなんだって作れるんだよ」
「ゆうすけ、お前が昔から欲しがってたゲーム買ってきたよ」
「え? これって最新のヴァーチャルの……。こんな高いのどうして?」
「タカシが大学で特待生になってね。学費がだいぶ免除されたんだよ」
「そうなんだ。ゆうすけ、兄ちゃんに感謝しろよ」
「母さん、突然だけど温泉旅行行こうよ」
「おやおや、急にどうしたんだい?」
「初給料は母さんにプレゼントするって決めてたんだ」
「僕もこっそりバイトしてちょっと出したんだよ」
「母さん、紹介するよ。俺の彼女の沙希。一応結婚も考えてる……」
「おやまあ! よく来たねえ、狭いところでごめんね」
「いえ、素敵なお部屋です。タカシ君がいつもいい場所だって自慢してるんですよ」
「おい、それ言うなよ……」
「ふふ、ついに私もおばあちゃんだね。この子、小さい頃のタカシにそっくりだよ」
「どちらかというと、ゆうすけに似てないか?」
「兄ちゃんと僕そっくりだから、同じようなもんじゃない」
「タカシ君に聞いた通りです。お母様はなんでも作れるんですね」
「ふふ、タカシが赤ちゃんの時にデザインした服。作るのはこれで3着目だよ」
「わたしにも教えて欲しいです。ご迷惑でなければ、ちょくちょく来ていいですか?」
「うん、いつでも大歓迎だよ」
「おばあちゃーん、今日はお泊まりさせてね」
「ようこそ」
「あのね、いい子にしてたら妹ができるらしいんだ」
「そっか、じゃあおばあちゃんと遊ぼうね。竹とんぼ作ってあるんだ」
「母さん、俺家買うことにしたんだ。一緒に暮らさないかな? 部屋もちゃんと用意するから」
「私はここが好きなんだ。死ぬまでここでいいよ」
「でも体弱ってるんだし……なにかあったりしたら」
「大丈夫。お前もゆうすけも、お嫁さん達も孫もみんなちょくちょく来てくれるもの」
「母さん……入院しないと長くはもたないって……」
「タカシにゆうすけ……母さんの最初で最後のワガママを聞いておくれ……」
「そんなにここが好きなんだね……わかったよ」
「母さん……聞こえてるかな? あ、こっち見てくれてるね。こないだ片付けしてたら出てきたんだ。母さんが作ってくれたおもちゃや服だよ」
「ん……」
「なんだか捨てられなくてさ。母さんはいつも魔法のようになんでも作ってくれたよね。おもちゃや服だけじゃない……弟だって、学費だって。改めてお礼を言いたいんだ。ありがとうね」
「うん……」
「あ、笑ってくれたね。今日は笑顔をくれて……ありがとう」
「先生急いで! 母さんがつらそうなんです!」
「ふむ……。これはもうもたないかもしれないね。お別れをすませるんだ」
「そんな……。母さん聞こえるかな? 俺母さんの子に生まれて幸せだったよ」
「僕も! 生まれ変わっても母さんの子でになりたい!」
「タカシ……ゆうすけ……。お前たちは……母さんの人生の最高傑作……だよ」
「この部屋どうしようか。しばらくのこままにしておきたいよね」
「でも、もうすぐここ取り壊しになるらしいんだ。建物の寿命でさ……」
「そっか……この部分だけうまいこと解体してもらってさ、庭にでも置こうかな」
「それいいな。漫画で憧れてた、子供用の離れ部屋が作れるぞ」
『ここが天国かあ。あれ? なんだか見慣れた部屋がある……』
『よく来たね。待っていたよ』
『あ、トーチャン? ひさしぶりだね。どうしたのこの部屋』
『お前が気に入っていたようなので、こっちで再現しておいた』
『そっかー、さすがだね。でも今はいいけど……タカシやゆうすけが来たら狭くなっちゃうね』
『その時は……今度こそ新しい家を用意しようじゃないか』
『そうだね、じゃあ今からここを私らのアトリエにしよう。設計図や部品を作って……大家族で暮らせる家を作るんだ』
『そうだね。ところでなにか忘れてないかい?』
『ん? なんだい?』
『ひさしぶりに言いたいんだ。愛してるよ、母さん』
『えへへ……愛してるよ。トーチャン』