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図書館まで100m

作者: 森下青海

「うぁぁぁぁ!」


突然、飛び起きてしまった。呼吸も荒いし心臓の拍動は激しいし滝のような汗をかいている。


まるで一キロを全速力で駆け抜けたみたいだ。そこで時計を見遣る。


「くそ、まだ午前二時じゃねぇか。三時間しか寝てねーよ」


仕方ないので水を飲んでから寝直すか。最近こんなんばっかだ。



「なんだまた寝不足か、マイフレンドシュンゼイ。いい心療内科、紹介しようか?」


「いらねーよ。つーか『しゅんぜい』じゃない。『としなり』だ」


時間は昼、場所は学食。つまり有象無象に混じって昼食中だ。


「まあまあ、固いこと言いなさんな。俺とお前の仲じゃないか」


「ならそのにへらにへらした面をどうにかしてこい。蹴り飛ばしたくなる」


「またまたー。つれないこと言っちゃってー。このこのー」


「…」


「ちょっ、ちょい待て!フォークを目に突き刺そうとするな!オーケイホーケイボーケイ、俺が悪かった!」


「当たり前だ」


「ま、まあ落ち着け。それより、例の夢の話だ」


ち、話を反らしやがった。…まあいい。


「かくかくしかじかで…」



「成程。つまりここ一カ月くらい毎晩同じ夢を見ている、と」


「ああそうだ。しかも段々鮮明になっている」


「しかしまあ、なんとも複雑だな。黒髪ストレートの和服美人が死ぬなんてよ。しかも自分の腕の中で。」

「お陰で寝不足だ。講義もバイトも集中できん」


昼食後、腹ごなしにキャンパス脇の桜並木を散歩してみる。不本意ながら藤孝のアホも一緒だ。


「んで、お前はその美人から『そうじろう』と呼ばれてたってか。お前は美人を『さくや』と呼んでいた」


「ああそうだ。相違ない」


「ふーん。難儀なこったねぇ」


「バカにしてんのかコラ」


「おいこらふざけコラ半島。まあまあ、んなことより聞いたか?国文学科の佐保、また我が大学が誇るイケメン君を振ったらしいぞ」


「佐保?佐保って同じ三年の佐保遥か?」


「ああ。非モテの俺達からしたら胸のすく思いだぜ」


「お前のイケメン嫌いは相当だな。しかし俺まで混ぜるな」


「全く自分に素直になれよなー。俺も付き合うならあんな別嬪さんがいいわー」


「無理だな。生まれ出づるところからやり直せ」


「ああ、ぼくちん傷付いた!シュンゼイがいぢめるー」


藤孝にはかなりイラッとしたが、なんとか抑える。眠いな。図書館行こう。


「どこ行くのよシュンゼイ?」


「眠い。図書館」


「ほう。じゃ途中まで付いてくわ」


二人揃ってキャンパスに戻る。…次の講義棟を左に曲がれば図書館だ。と、その時。


「あが」


角のところで出会い頭に人とぶつかってしまった。相手の女性は尻餅をついてしまったようだ。


「すみません。だいじょ…」


「どこ見てんのよ!痛いじゃ、な…い……」


同時に互いを見遣り、同時に言葉を紡ぎ、同時に言葉を失った。


「大丈夫、遥?」

「どうしたんだ、シュンゼイ?」


互いの連れが声を掛けてきたが、それどころじゃない。


思い出した。全てを。


仕えていたこと、落城したこと、互いに惹かれ合っていたこと、彼女の最期。


ようやく繋がった。そして一歩踏み出してみる。


「大丈夫ですか?」


そう言って、手を差しのべる。


「ええ」


彼女は手をとって立ち上がる。そしてスカートを少し払う。


「俺は史学科三年、龍田俊成」


「私は国文学科三年の佐保遥」

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