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プロローグ

 僕は歩いている。何処とも分からず、道とも知れないところを。

 最初は、きっと僕には行くべき場所があるのだろうと思っていた。それが何かは分からなかったが、そう思えるほどに僕の足は力強く地を踏みしめ前へ向かうのだ。

 しかし、ある時から様子がおかしくなった。確かに地を蹴って歩いているのだが、前に進まなくなった。

 出来の悪いムーンウォークを独りで永遠とやりつづけているような、そんなマヌケな姿である。

 僕は自分の力で必死に足で地面を蹴った。だが状況は変わらない。やはり虚しく身体は前に進まず、空回りするばかりだ。まるでうまく噛み合わない歯車のよう……。

 どうして。

 苦しい。

 これほどまでに苦しいことがこの世に存在するのか。

 痛さも痒さも暑さも寒さもない。なのに辛いのだ。

 そんな、訳の分からぬ地獄の責め苦に耐え難く、正気を失いかけてきたその時だった。

 光が出現した。

 今までぼんやりと薄暗く、意識にも上がってこなかった世界の景色が、力強く僕の視界に迫り込んでくる。

 赤。青。黄。緑。紫。黒。白。それらの強烈な色彩。ぐにゃぐにゃと、不可思議で形容できないほどに各色が複雑に混ざり合い、せめぎ合っているようである。

 そして、その奇妙な色彩を包み込む眩しい光が現れた。それは僕の眼に痛いほどに強く飛び込んでくるのだが、それでいて何故か優しさを感じさせるような光だった。


『ゴメンネ。クルシイオモイヲサセテ』


 僕の脳内に声が飛び込んできた。

 誰!?

 突然の言葉、そしてその内容に、僕は思わずそう言おうとした。しかし足と同じように、僕の喉はその役割を果たさなかった。


『ナイテルノ』


 泣いてない。


『ナイテルノネ』


 泣いてなんか、いない。

 光はどんどん強くなり、世界の色も、僕の身体もわからなくなった。

 思わず僕は目を(つぶ)る。しかし光は瞼を貫通し、視界は暖かいオレンジ色へと変わった。

 やがて色は薄くなり、普段通りの漆黒の世界へと戻る。

 恐る恐る目を開いてみる。

 視界が開けた瞬間、別の種類の光に目を奪われた。

 最初は、さっきの時のように僕がどのような場所に立っているのかわからなかった。

 やがて光に慣れてくると、自分が立っているところ、状況が把握できた。

 僕は制服を着て、通学カバンを持ち、いつもの通学路の横断歩道で信号が青になるのを待っていた。

 自分の身に何が起こっているのか理解できないまま、無意識に顔に手を当てていた。

 頬は生暖かく、濡れたように湿り気を帯びていた。

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