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アカ。

一面の 白。


ああ、またあの夢をみているのか。


どこを見回しても白しかない世界。


そして、ここでは静寂がこの世界を支配している。


いつもはこのまま上を見上げるのだが、ふと、気になったので下を見回してみた。


やはり、ここには白しかない。


もう少しで視界が丁度一周するというところで、鮮明な赤が目に入ってきた。



あか・・・・・・・・・・??




夏特有の強い日差しを瞼の裏で感じて目が覚める。


眠たい目をこすりながら壁にかけてある時計を見ると。


まだ7時か・・・・・。


せっかくの夏休みなのに、はやく起きるにはちょっともったいない気がしてタオルケットにもう一度くるまる。


まだ半分はまどろみに浸かっている頭のなかで、先程みた夢の景色が反芻する。


毎回同じ、視界を埋め尽くすような白。


そして、静寂。


でもその中に、いつもとは違う。異質な 赤 があった。


あれはいったいなんなのだろうか。


何度となくこの夢をみているが、こんなことは初めてだ。


「お前が見てるその夢は、俺らが一番無くしてしまいたかった感情なんだよ。」


そういった昨日の男の言葉を思い出す。


そして、あの狼が言った言葉、


《消えてしまうんじゃよ。》


あれはいったいどうゆう意味なのだろうか。


なにが消えてしまうのだろうか。


わからないことが、多すぎる。


明らかに巻き込まれているのになあ・・・・・・。


いきなり後継ぎになれと言われたのに、なにも教えられていないのは不公平な気がする。




色々考えていたら、頭が冴えてきてしまった。


あのお店に、行ってみようかな。


っていうか、来いって言われてたんだよね・・・・。


このままではベッドでしばらくうだうだしてしまいそうだったので、思い切って体を起こす。


ベッドの横にある窓のカーテンを開けて、窓を開ける。


いい天気だなあ・・・・・。


まだ7時なので、日差しは強いが風が涼しくて気持ちが良い。


しばらく窓から入ってくる風の冷たさを楽しんでから、ベッドから起きて支度を始めた。


自電車をこぐことを考慮して、格好はラフなものにしようと思い、ジーンズのショートパンツと赤いハートが水彩画のようなタッチで描かれている白いTシャツをきた。


外は暑いだろうから髪を結ぼうと思い、階段を下りたところにある洗面所に行く。


顔を洗って、歯をみがいてから櫛を使って髪を高い位置で結ぶ。


よし、支度完了。


朝ごはんを食べるためにリビングに入ると、お母さんはまだ起きていないようだった。


パンでいいかなと思いながら支度をするためにキッチンに入る前に、テレビのスイッチをいれる。


トースターでパンを焼いている間に、テレビのニュースの声が耳に入ってきた。



今朝、○○県○○市の公園で、死体が遺棄されているのが発見されました。


また、被害者の外傷から判断するに、他殺の可能性が高いようです。



この時代、テレビで悲しいニュースが流れない日などない。


けど、その悲しいニュースに本気で心を痛めている人は少ないのだろう。


みんな、自分のことで精いっぱいなのだ。


他人に構っている暇など、ない。



そんなもん、だよね。


別に世界に失望しているわけではない。


ただ、なんの期待もしていないだけだ。



まあ、考えてもしかたがないよね。


トーストを食べながら考える。


人間の世界というのは、難しい。








えーっと、たしかここらへんだったような・・・・??


道を覚えているか若干不安だったが、どうにかたどり着くことができた。


相変わらずドアノブに掛けられている板には金細工でOPENと書かれている。


ほんとに営業してんのかな・・・・・?


ドアノブに手をかけてから、不安になる。


これで誰もいなかったら、私来た意味ないよね・・・・・。


っていうか、こんな馬鹿正直に言われた通りに来ちゃってよかったのかな・・・・。


うじうじとなやんでいたら、ドアが思いっきり開き、視界が灰色がかった毛並みで埋め尽くされた。


え・・・・これ・・・・なに・・・・?


一瞬がとても長く感じた次の瞬間、私は例の狼に押し倒されていた。


《遅いではないか唯嬢!わしは待ちくたびれたぞ!》


あまりの衝撃に頭がついていかない。


「こら、だめじゃないですか蒼さん。軽く意識失ってますよ。」


上の方からあの男の低い声が響く。


《む。本当だな。ではどくとしようか。》


せっかくどいてはもらったのだが頭がまったくついていかず、目をぱちくりしながら倒れたままでいると


「ほら。つかまれよ。」


男に手を差し伸べられた。


あれ、以外と好い人じゃん。


そう思いながら手を差し出す。


手をしっかりとつかまれて、力強く引き上げられる。


「ありがとうございます.....。」


一応お礼は言わなきゃいけないよね。


まあ、倒されたんだけどね。


頭のなかでお礼を言ったことを合理化していると


「お前、以外と重いんだな。」


何故だかしらないが怪訝そうな顔をしながら言われた。


前言撤回。


全然好い人じゃない!


「なんなんですかいきなり!失礼すぎるじゃないですか!」


「いや、別に重いのは悪いことじゃねーじゃん。俺もスレンダーな感じよりちょっとむちっとしてるほうが好きだし。」


男は焦りながらフォローする。


全然フォローになってないけどね。


むしろセクハラじゃないのこれ。


冷たい目で男を睨む。


「いやいやいや。そう睨むなって。」


男がますます焦る。


《今のはお主が悪いであろう。相も変わらずフォローができない男じゃのう。》


「いやいやちょっと、蒼さんまでひどいっすよ。っていうかまず蒼さんが押し倒すからこんなことになったんじゃないっすか。」


あ、たしかに。


《それは唯嬢がくるのが遅いから悪いのじゃろうが。わしは首をながーーくして待ってたというのに。》


え、結局私なの?!


まずなにがそんなに待ち遠しかったのだろうか、疑問だ。


このままだと会話に置いていかれそうなので、思い切って会話に入ってみることにした。


「あのー。なんでそんなに私がくるのが待ち遠しかったんですか・・・??」


すると狼はきょとんとした顔(実際表情等よめないのでなんとなくだが)しながら


《なにってお主、昨日シャンプーをしてくれると約束したではないか。》


ああ、そういえば言ってたかも。


でも、約束はしてないよね?


すると男が、


「ま、そうゆうわけだからよろしく頼むわ。外にホースとかシャンプーとかそろってるからさ。俺の手伝いは蒼さんの後でいいわ。」


え・・・・・っていうかあんたの手伝いもするのか?!


《そうゆうわけだから行くぞ唯嬢。のろのろするでない。》


狼が足早に店の裏口に向かう。


嗚呼、なに一つとして私の意見は採用されないんですね・・・・。



裏口にでるとすぐよこに水道があり、ホースがつながっていた。


シャンプーとブラシもちゃんとある。


ま、やりますか。


蛇口を勢いよくひねって水をだす。


《よし!ではたのむぞ!葵はめんどくさがって全然やってくれないからのう。》


「あの人の名前、葵っていうんですか?」


手を動かしながら尋ねる。


そういえば、マスターって呼んでとはいわれたけどろくに名前もきいていなかった。


《そうじゃよ。まあ、本名かどうかもわからんがな。ちなみにわしの名前は蒼介じゃ。改めてよろしくな。》


「よ、よろしくお願いします。」


本名じゃないかもって、胡散臭さはんぱないんですけど。


顔がひきつり気味の私とは逆に、蒼介さんは気持ち良さそうに目を細めている。


こんなにご機嫌なら、質問にもこたえてくれるかもしれないと思い、思いきって口にしてみた。


「あの!昨日言ってた、私があの夢のことを話すと消えちゃうっていうのは、いったいどういう意味なんですか?」


するとさっきまでは気持ち良さそうに細めていた目が、急に鋭いものへと変わった。


やはり聞いてはいけなかったことなのではないかと思い、身構える。




《消えてしまうのはな、葵なんじゃよ。》




蒼介さんは静かに語りだした。



星守り人というのはな、お主も知っての通りなるときに今まで経験してきた全てのものに対する全ての感情を無くす。


感情が無くなってしまえば、人間としての精神的な成長をすることはできない、だから体の成長もない。


だからあやつらは老いて死ぬことはない。


まあ体は人間じゃから、致命傷をうければ死ぬがのう。


だけど一つだけ、星守り人を傷つけずに消すことができる。


それが、やつらが一番忘れてしまいたかった感情、お主が見ている夢のことをじゃな、あやつらに教えることなんじゃよ。


それを聞いた星守り人は、その内容を聞いた次の日の朝、朝日の光を浴びて砂となって消えていく。


もともと人の世を捨てたあやつらは、跡継ぎを見つけた後はそうやって消えることを選ぶ。


それにのう


知りたいのじゃろうなあ。


全てを捨ててまで、無くしたかったものとはなんなのかを。




そう言って話す蒼介さんの横顔はどこか悲しそうだった。




「そういうことだったんですか........。」


なんだかすごく、悲しい話だと思った。


自分が全ての経験してきた感情を捨てたのにも関わらず、また人の感情を扱うなんて。


そして最後は、消えていく。


すべて捨ててしまった彼らは、星になることさえできないのだろう。



でも、どうして



「どうして私が跡継ぎに選ばれたんですか?」



《それは「それはお前が俺に近い存在だからだよ。」



急に聞こえてきた声に驚いて後ろを振り向くと、扉の前に葵さんが立っていた。


「シャンプーそろそろ終わったろ?今度は俺を手伝ってくれ。」


「あ、はい.....。」


「そろそろ客も来るころだしな。」



そう葵さんが言ったとき部屋の中から電話の音が聞こえた。


「客のお出ましみたいだな。」










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