第7話 手がかり
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2012年12月。
リナの携帯に、妹を誘拐したという電話が届く。1つ年下の後輩・慎吾と共に、実家に戻るリナ。
羽鳥家に関わる面々が集まる中、【誘拐犯】から連絡が入り、1週間以内に1億を用意しろという。
警視庁から2人の捜査官が訪れ、羽鳥邸にいた連中に事情聴取をする中、リナは母親が不審なメールを受け取った事を知る。
難攻不落と言われた、ネットセキュリティを突破した謎のメール。リナはそれを手がかりだと思うのだが・・・
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第7話 手がかり
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送信者 : $K$
タイトル : なし
内容
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-942-AA-6541-2-1-90697B ・・・ ・・・ ・・・
・・・ ・・・
・・・ ・・・
母親の瞳に届いたトラッシュメール(ゴミメール)を、じっと見ているリナ。
(リナ「絶対に何かあるはず・・・」)
難攻不落と言われたファイアウォールをくぐり抜けてきたメール・・・
出所を知りたかったが、それを突き止める事はできなかった。
そして今、ただメールを見ている。
ウォールをくぐり抜けてきた不審なファイルは全てDATAを破壊されるため、文字化けしたこのメールが何かの暗号である可能性はまずない。
仮にこれが暗号だったとしても、何をどうしていいのかわからない。
リナは大きな手がかりを目の前にして、行き詰まっていた。
その頃書斎では・・・
後藤が押収した羽鳥雛子の携帯電話が鳴り響いていた。
着信【非通知】
先ほどの【誘拐犯】とは違う着信表示を見つめながら・・・瞳は震える手で通話ボタンを静かに押した。
瞳「も・・・ もしもし・・・」
後藤と慎吾は緊張しながら様子を見守る。
入り口の横で立っていた藤岡は3人がいるソファーへ向かい、手にしていたアタッシュケースを静かに開いた。
ケースの中には小型パソコンを始め、いくつかの電子機器が光沢を放っている。
瞳「もしもし・・・?」
電話は通じているが、向こう側からの反応はない。
藤岡が瞳に「携帯をよこしてください」という合図を送る。
手袋をつけた手で携帯を受け取ると、静かに電子機器とコネクタで結んだ。
藤岡「冷静に・・・」
小さく瞳に声をかけ、携帯を返す。
瞳「もしもし。き、聞こえているんでしょ・・・?
話をしてちょうだい・・・」
先ほどの電話では取り乱してしまい、【誘拐犯】を不愉快にさせた瞳。今度は、パニックになる気持ちを抑えて声を絞り出した。
藤岡のパソコン、そのディスプレイには何らかの波形が映し出されている。
その波形は一瞬崩れた形になったかと思うと、また波打ち・・・それを繰り返していた。
慎吾はチラリと藤岡の扱っている機器を見た。視線の先の波形がいったい何を示すのか理解できない。
藤岡は無言でキーボードをカタカタと打ち続けている。
藤岡「スクランブル回線だ・・・」
小さな声で呟いた後、大きなため息をついた。
しばし高速でキーボードを叩いてたいた手は、やがて何かを諦めたようにその動きを止める。
藤岡「・・・ ・・・」
両手をポケットに入れ、藤岡は天井のシャンデリアを見上げた。
藤岡「高度なスクランブルを用いてる・・ 追跡できない」
瞳が声をかけ続けている携帯電話は、一言も伝えずに切れてしまった。
ツーーーー ・・・・・・
瞳「雛子! 雛子!!」
切れた電話に娘の名前を連呼し続け、その場で崩れ落ちる。慌てて後藤が瞳を抱きかかえた。
慎吾「あ、あの・・・ スクランブルっていうのは?」
慎吾はおそるおそる藤岡に尋ねてみた。
シャンデリアからゆっくりと慎吾に視線を移す藤岡。
藤岡「今の携帯はCDMA方式を採用している。
音声信号を電波にのせる際、AD変換をし変調、および拡散する。
そしてPN系列のコードがランダムに割り当てられるんだ」
慎吾「あ・・・」
藤岡「受信側は、逆拡散およびDA変換で相手の声を聞くことが出来る。
今の電話は、発信の際のコード割り当てに何らかの演算を加え・・・」
すでに慎吾は藤岡の言っている事を理解するのを諦めていた。
慎吾のポカンとした顔を確認しつつ、藤岡は結論だけ述べた。
藤岡「あぁすまない。仕事がらこういう事をよくしていてね。
つまり発信場所を特定できないようにする技術の事さ。
日本の携帯電話では、不可能な技術のはずなんだが・・・」
横から後藤が声をかける。
後藤「だとしたら今の電話は、犯人からだと・・・・?」
藤岡「えぇ、間違いないでしょう。
一般の人間にこのような電話をかける事はできません。
かなり高度な技術ですから」
後藤「しかし何故、電話だけかけて会話をしない?」
藤岡「わかりません・・・。
何かを警戒しているのか、それとも他に意図があるのか・・・」
後藤は慎吾に視線を移した。
後藤「君が誘拐犯という疑いは晴れたようだ」
慎吾は自分の嫌疑が晴れたのは嬉しいが、横でリナの母親がボロボロ泣いている姿を見て複雑な心境になる。
後藤「しかし、まだ不審な点を完全にはぬぐい切れたわけじゃあない。
主犯は否定されたとしても、共犯の可能性もあるわけだしな」
慎吾「えぇ!? じゃ、じゃぁ僕はどうすれば・・・?」
後藤「しばらくはここを離れないで欲しい。
我々の呼び出しには即座に応じるように」
後藤は軽く笑った後、表情を引き締める。
後藤「なぁに、君を犯人とは思っていないさ。事情聴取の様子を見る限りはな。
とはいえ、こういう事件は1つの失敗も許されないんでね」
事情聴取に対する慎吾のバカ正直な反応を見る限り、とても演技しているとは思えない。
後藤は慎吾がこの誘拐に関わっているとは思ってないし、藤岡は100%慎吾をシロと確信していた。
慎吾「わ、わかりました・・・ここを離れないようにしておきます」
慎吾が静かに頷いた後、携帯のコネクタを取り外した藤岡がため息をつく。
藤岡「ふ~。まさか俺の仕事になるとはな・・・」
藤岡はネクタイをゆるめ、銀縁眼鏡をはずし、眉間を強めに押さえた。
再びメガネをかけると鋭い目つきになり、若干落ち着きを払った瞳に声をかける。
藤岡「最近、文字化けしたメールが2通届いたと言ってましたよね?」
ハンカチで涙を拭きながら瞳は応えた。
瞳「えぇ・・・ このパソコンに」
瞳は部屋から持ってきたノートパソコンをテーブルの上に置く。すぐに藤岡はそれを起動した。パソコンが起ちあがる間、後藤が瞳に質問する。
後藤「他に変わった事とかは・・・?
最近不審な人物を見たとか、無言電話があったとか」
瞳「いえ・・・
雛子がいなくなるまでは、ホントに日常何も変わらずでした・・・」
後藤「どんな小さな事でも・・・ ありませんか?」
瞳は即座に首を横に振る。
瞳「本当に・・・ 昨日の朝まではいつも通りでした・・・」
雛子の事を思い出し涙をあふれさせる瞳。慎吾はただ見つめているだけだ。
起動したパソコンのキーボードを打ち、藤岡は文字化けしたメールを確認し始めた。
送信者 : $K$
タイトル : なし
内容
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・・・ ・・・
・・・ ・・・
腕組みをし、左手の拳を鼻っ柱にトントンと軽くあて悩んでいる。
メールの出所を探ろうとするが、そのアドレスすら文字化けしていてどうしようもない。
藤岡「このメールの差出人・・・ そいつが今回の事件の鍵かもしれない・・・」
独り言のように呟いた。
コンピュータ犯罪捜査官の藤岡は、WBCの提供するソフトの事は知っているし、この2年でウォールをくぐり抜けてきたファイルすら存在しない事もよく知っている。
例え文字化けしたメールであろうと、このメールには何かがあると思っていた。
藤岡「このパソコンをお借りしたい。署の方で解析させてみます。
何か事件の手がかりが出るかもしれませんので・・・」
瞳「えぇ、構いません。お願いします!
一刻も早く雛子を救出できるようお願いします!」
このメールは羽鳥雛子の携帯に続いて、2つ目の手がかりになるかもしれない。
後藤「では、署の方でお預かりします。
何かわかればすぐに連絡しますので」
後藤が丁寧に瞳に伝えた後、即座に藤岡が声をかけた。
藤岡「すいません。あと1つだけ・・・
このパソコン、あなた以外に触った人物は?」
瞳は軽く首を横に振りながら応える。
瞳「え・・・いません。
ついさっきリナがそのメールを覗いただけで、後は誰も・・・」
藤岡「わかりました。ありがとうございます。
必ず有力な情報を見つけますので」
藤岡は笑顔で声をかけた。
12月13日(木)午前2時・・・
後藤と藤岡の2人の捜査官は、羽鳥邸内にいる全員の事情聴取を終えた。
有力と思える手がかりは羽鳥雛子の携帯。そして・・・あのメール。
藤岡は、このメールが大きな鍵を握っていることを確信している。
後藤「今日は遅くまでお手数かけました。私はいったん署に戻ります。
念のため、警備も手配しています。
署から5人の警官がこちらに向かっているところです。
到着したら門の外に3人、庭に2人配備しておきますので」
藤岡「それと俺もここに残ります。
犯人は雛子さんの携帯から、身内の連絡先は得ているでしょう。
また電話が来る可能性は十分あります。
犯人から電話があればすぐ俺に伝えてください」
瞳が静かに頷く。
後藤「雛子さんの携帯とあなたのノートパソコンはお預かりします。
鑑識に回し、何かわかったらすぐに連絡差し上げますので」
そう言うと後藤は羽鳥邸を後にした。
藤岡は応接間の中央にある大きなソファーに腰掛け、テーブルの上に自分のパソコンを開いて何かの作業を始める。
藤岡「俺は・・・ 午前10時まで待機させて頂きます」
腕時計を見ながら藤岡は瞳に告げた。
・・・ ・・・。
新城「はい、お嬢様の彼氏さんはこのベッドで・・・」
家政婦の新城は、2階の1室でベッドメイキングを終えた。
慎吾「ありがとうございます」
新城「雛子お嬢様の無事を祈って、眠ってくださいね」
新城は疲れた表情を見せた。
慎吾「もちろんです。あの・・・」
何か聞きたげな表情を見せる慎吾。
新城「はいはい。質問の多い彼氏さんね・・・」
慎吾「あの・・・ リナ先輩、藤岡って人をずっと無視してましたが・・・
何かあったんですか・・・?」
しばらく沈黙を保っていた新城だったが・・・迷った表情を見せた後に口を開いた。
新城「4年前に・・・ リナお嬢様の初めての彼氏さんがいましてね・・・」
新城は大きな深呼吸をした。
新城「その彼氏さん・・・よくこの家にもいらしてたんですよ」
何かを思い出しながら、小さな笑顔を浮かべる。
新城「そりゃもう、私達から見てもステキな方でした」
笑顔から一転、暗い表情を見せた。そして驚くべき事を口にする。
新城「ただ・・・ その彼氏さんは・・・
あの藤岡捜査官に撃ち殺されまして・・・」
慎吾「えぇ!?」
(第8話へ続く)
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次回予告
捜査官藤岡によってリナの彼氏は射殺された。
いったいリナとその彼氏の過去に何があったのか・・・
その2人をつなげるものは・・・
ピアノだった。
次回 「 第8話 ピアノ 」
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