表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第1章 始まり
6/147

第5話  誘拐犯からの着信

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


      「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2012年12月。

リナの携帯に、妹を誘拐したという電話が届く。


その電話が自宅のマンションからかけられている事を知ったリナは、急いで部屋に戻るが・・・部屋の中は何者かに荒らされていた。


1つ年下の後輩・慎吾と共に、実家に戻るリナ。慎吾はリナがお金持ちの娘と知って驚きを隠せない。


羽鳥家に関わる面々が集まる中、リナが自分の部屋で押収した妹の携帯が鳴り響く。その着信表示は・・・【誘拐犯】だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


     第5話  誘拐犯からの着信  


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

慎吾は指示された通り、奥の書斎に1人で入って行った。

真っ暗な部屋、手探りで扉の横のスイッチを探り当てる。


カチッ


スイッチを入れた瞬間蛍光灯・・・、いや、大きなシャンデリアが光を放ち、四方に広がる本棚が慎吾の目に映った。


慎吾「わぁ・・・」


本棚には隙間なくたくさんの本がぎっしりと、そして整然と並べられている。


慎吾「すごい・・・」


数100冊、いや、数1000冊はあろうかという本の山。

慎吾は目を輝かせて本棚まで歩いて行き、1つ1つ本の背表紙を見ていった。


本棚事にジャンル分けされているようで、左の本棚には会社の経営に関する書物が多く並べられている。


ざっと見ながら歩いて行く慎吾。右の本棚には、数学や物理に関するであろう書物が多く見られた。


初等整数論  リーマン予想  ゴールドバッハ  abc予想  暗号理論 ・・・

特殊相対性理論  量子力学  シュレディンガー方程式  ナノテクノロジー ・・・


文系の慎吾には、どんな内容の本なのかさっぱりわからない。


(慎吾「ここは・・・ ちょっとした図書館だ・・・」)


歴史や文学を好む慎吾は、自分が読んでみたいと思う本を探し始めた。




その頃・・・




広い応接間にいた5人は、鳴り響く携帯を見守っていた。


リリリリーン・・・ リリリリーン・・・


行方知れずになった羽鳥家の次女・雛子ひなこの携帯。

リナが自分の部屋で発見して持ち運んだ携帯には


着信【誘拐犯】


と表示され、誰かが電話に出るのを待っている。


リナ「 ・・・ ・・・ 」


妹をさらった人物が勝手に妹の携帯をいじって【誘拐犯】と登録したのはわかる。しかし何故、こんな事をするのかが理解できなかった。


その場にいた5人も着信表示を目にし、沈黙を保っている。しばらくして警備主任の井上が声をあげた。


井上「と、取るべきではないでしょうか・・・?

    犯人から・・・ 何か要求があるかもしれないですし」


【誘拐犯】という表示は、その場にいた皆を凍り付かせるのに十分な3文字だった。井上の言葉に即座に反応できるものはおらず、20秒ほど携帯の着信音だけが鳴り響いている。


瞳「わ、私が出るわ・・・」


リナの母親・瞳がようやく震える声を絞り出した。瞬間、携帯からの着信音が途絶えた。


瞳「あ・・・」


その場にいた全員に動揺が広がる。静かになった携帯をただ見つめ、言葉に出来ない不安を募らせていく。


リリリリーン・・・ リリリリーン・・・


急にまた携帯が鳴り出した。


着信【誘拐犯】


リナは隣にいた家政婦の新城美也に声をかける。


リナ「美也さん。すぐに手袋取ってきて!」


口を半開きにし、目を丸くした新城は小刻みに震えながら状況を把握出来ない表情を浮かべた。


リナ「手袋よ! すぐ!!」


ようやくリナの言う事を理解した新城は、奥にあるキッチンに走っていく。


そのかんリナはビニール袋を開け、ハンカチ超しに静かに鳴り響く携帯電話を取り出した。そして母親である瞳に視線を合わせる。


瞳は2度首を縦にふり、その携帯を手にしようとした。即座にリナが声をかける。


リナ「直接は触らないで。

    美也さんが手袋を持ってくるまで、私が携帯を持ってるから」


そう言うとリナは通話のボタンをハンカチ越しに押し、瞳の耳にあてた。


瞳「も・・・ もし・・・もし・・・?」


電話の向こうからは人間の肉声ではなく、何らかの機械を通したであろう電子音声が聞こえてきた。


声「その声は・・・ リナではないな?」


瞬間、瞳は大声を出した。


瞳「娘は!? 雛子はどこに!?」


思わず瞳は携帯を両手で直接握ってしまう。


リナ「あ・・・」


そのまま瞳はリナの手から携帯を奪いとり、さらに電話の向こうにいる相手にまくし立てた。


瞳「早く雛子を返して! どこにいるの!?」


声「・・・ ・・・」


声は沈黙を保っている。


瞳「何故黙っているの!? 何とか言いなさい!」


それでも声は返ってこない。


瞳は受話器を握りながらボロボロと涙を流し始めた。


瞳「雛子、雛子・・・」


瞳の後ろには手袋を持った美也が立っていたが、ただ立ち尽くす事しか出来ない。


10数秒の沈黙の後、ようやく向こう側の声が返ってきた。


声「お前では話にならない。リナを電話に出せ」


瞳「これ以上、私の娘を巻き込まないで!!」


冷静さを失いかけている瞳がヒステリックな大声を上げる。その時だった。


「ママ!」


聞き間違えるはずのない、実の娘の声が電話の向こうから聞こえてきた。

瞳は大きく目を見開き、首を縦に振りながら言葉を絞り出す。


瞳「雛子! 雛子ね! 無事なのね!!」


雛子「ママ・・・ わ、私・・・」


瞳「ママよ! 今どこなの!? すぐ助けに行くから!」


雛子は今にも鳴き出しそうな震えた声で、衝撃的な言葉を告げた。


雛子「わ、私・・・ 今、銃を向けられている・・・」


瞳「雛子!!!  雛子!!!」


パニック状態になった瞳は、娘の名前を連呼する。すると再び、あの声が聞こえてきた。


声「これでわかっただろう。リナを出せ。すぐにだ!

   出さなければこの後、どうなるか・・・ わかるだろう?」


何の感情も表さない電子音声は逆に冷徹に聞こえる。

瞳は涙をボロボロと流しながら、震える手でリナに携帯を差し出した。


瞳「あ・・ あなたに・・・代われと・・・」


リナは一瞬「え?」という表情を見せたが、すぐにその表情を引き締める。 新城が持ってきた掃除用手袋を右手にはめ、その手で携帯を受け取った。


そして役に立てばと、すでに起動していたパソコンと携帯電話をUSBコネクタで接続する。左手でキーボードを叩きつつ【誘拐犯】相手に声をかけた。


リナ「代わったわ・・・」


声「その声を聞きたかったよ」


電話の向こうの相手は1つの欲求を満たしたようだが、感情の起伏を感じられない電子音声はただ不気味に感じられるだけだ。


声「今、お前の回りには何人いる?」


リナはキーボードを叩きつつ静かに応える。


リナ「4人・・・」


離れた場所にいる慎吾を除いた人数を伝えた。


声「警察に通報は?」


リナ「していない」


声「その言葉をそのまま信じていいのかな?

   まぁいい。音声をスピーカーにしろ」


リナは言われた通りにする。


リナ「スピーカーにしたわ」


声「よろしい。では、そこにいる連中に告ぐ。

   承知だろうが、羽鳥雛子は今、私の目の前にいる」


その場にいた全員が息をのんだ。


声「そして私は銃を手にしている」


警備員の井上と家政婦の新城は、緊張した表情を浮かべている。


声「今から1週間以内に1億を用意してもらう。

   もし約束が守れなかった場合はご推察の通りだ」


泣き崩れる瞳の両肩を新城が支えた。


声「今は12月12日の・・・午後11時半だから・・・

   12月19日の24時をタイムリミットとしよう。


   1秒でも過ぎたら・・・ 羽鳥家の人間が1人減る」


瞳はさらに大声で泣き叫ぶ。


声「何か質問は? ただし30秒以内だ」


即座にリナが声をかけた。


リナ「お金の受け渡し方法は?」


声「こちらから連絡する。あと25秒」


リナ「警察に知らせたら?」


声「ふふ・・・ 構わないさ。これはゲームだからな。あと17秒」


リナ「今、そちらに警察が向かっているわ」


声「はっはっは。お前のそういうところが好きなんだ。

   心配無用。警察よりも早く逃げ切るさ」


リナ「必ず捕まえてやる・・・」


声「あぁ待ってる。これでタイムオーバーだな。また連絡する。

   さっさと東京湾から逃げなければ」


瞬間、電話が切れた。と同時に、安田が声を出す。


安田「東京湾!? 犯人と雛子お嬢様は東京湾に!?

    す、すぐに警察に!」


井上「まさか・・・ 犯人が自分の居場所を言うなんて・・・」


2人の会話にリナがわって入ってきた。 


リナ「井上さん! 芝浦ふ頭よ!

    すぐ警察に事情を説明して、周辺を捜索させて!」


リナのパソコンには、電話が切れる直前まで声の主がいたであろう場所が表示されている。


井上「わ、わかりました!」


リナ「・・・ ・・・」


妹の携帯が鳴り響いた時、【誘拐犯】の着信表示と同時に、その電話番号もはっきりと表示されていた。


即座に携帯会社にハッキングしたリナは、その番号から個人情報を特定。さらにはそのGPS-DATAから電話をかけている場所も大まかに特定していた。


こまかい場所まで特定は出来なかったものの「芝浦ふ頭」付近・・・

すなわち【誘拐犯】の言う通り、東京湾付近である事は特定できた。


しかし、電話が切れた直後にGPS-DATAが消失したことから・・・

おそらく【誘拐犯】は、携帯電話をその場で破棄したと推測出来る。


(リナ「これだけ携帯の情報を与えて、それを保持するとは考えられない・・・

     レインボーブリッジから東京湾に携帯を投げ捨てたのかも・・・」)


井上はすぐに110番し、警察に今まで起きたことの事情を説明していた。


瞳はただただ泣き続け、横にいる新城がなだめている。

安田はしきりにハンカチで汗をぬぐっていた。



井上の通報後、すぐに湾岸警察署のパトカーが10数台芝浦ふ頭付近に駆けつける。30名近い警察官が、明け方まで周辺を捜索したが・・・


誘拐犯に関する一切の手がかりを得る事はできなかった。



【誘拐犯】からの電話が途絶えて15分が過ぎた頃・・・


リナは妹の携帯電話の着信履歴やメールの送受信履歴を見ていた。

中には妹の彼氏と思われる男性がいたが、メール内容から誘拐犯とは明らかに別人のようだ。


【誘拐犯】はわざわざ妹の携帯を操作して、とある番号を【誘拐犯】で登録している。


(リナ「何故、こんな手の込んだ事を・・・?」)


それに母親が電話に出た事にも、動じた様子は感じられなかった。


リナ「・・・ ・・・」


【誘拐犯】は妹の携帯を箱根のリナの部屋に置いてきたのに、今は東京のひばりヶ丘にある。 【誘拐犯】は、それも当然のように会話を続けていた。


(リナ「・・・。わからない事が多すぎる・・・」)



【誘拐犯】の驚くべき真の目的・・・

リナと慎吾がそれを知るのはもうしばらく後だった。



              (第6話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


日付が変わって12月13日(木)の午前1時。

警視庁の捜査第一課から2人の捜査官が羽鳥家へ訪れた。


慎吾を含めた6人の事情聴取が行われる中・・・

突然、慎吾に誘拐犯の嫌疑がかけられる。


そしてリナは犯人につながる手がかりを、母親のパソコンから見つけた。



次回 「 第6話  謎のメール 」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ