第4話 羽鳥家の面々
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2012年12月。
リナの携帯に、妹を誘拐したという電話が届く。
その電話が自宅のマンションからかけられている事を知ったリナは、急いで部屋に戻るが・・・部屋の中は何者かに荒らされていた。
実家に戻ろうとするリナに、1つ年下の後輩・慎吾もついていく。
そして慎吾は、リナがお金持ちの家の娘である事を初めて知った。
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第4話 羽鳥家の面々
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リンゴーン・・・
リナが赤いボタンを押すと、重低音の呼び鈴が聞こえた。
しかし30秒が過ぎても、反応がない。
慎吾「誰も出ませんね。もう1回押してみます?」
リナ「あ、いつもこんなだから。1分以内に返事が来たら早い方よ」
じっと立ち、無表情で待つリナ。ふと携帯の時計を確認すると9時44分だった。呼び鈴を鳴らして1分半が過ぎた頃・・・
ボタンの下から機械越しに女性の声が聞こえてきた。
声「はい。羽鳥邸ですが、どちらさ・・・ まぁ!! リナお嬢様!!」
棒読みだった声が途中で素っ頓狂な驚き声になる。
声「まぁまぁ! 今すぐ開けますので!」
こちら側からは声しか聞けないが、あちら側は映像も見えているようだ。
おそらくボタンの上にある小さな穴から、こちらの映像をとらえているのだろう。
ブーーー・・・
甲高い機械音と共に銀色のごつい門が開いた。
しかし開いた門をくぐると、また別の赤い扉がある。
慎吾「な・・・ 何だ、ここは? いったい・・・?」
リナ「うち、めんどくさいのよね。まぁ仕方ないんだけどさ」
リナは小さくため息をついた。と、同時に何かを思い出したように慎吾に声をかける。
リナ「あ! 1つ忘れてた。私に話を合わせてね」
慎吾「はい?」
リナ「だから、私の言う事に頷いておけばいいのよ。
でないと、もっとめんどくさい事になるから・・・」
慎吾はよくわからないまま、首を縦に2度ふった。
しばらくして赤い扉が向こう側から開く。
扉の向こうには、警備服を着けた彫りの深い初老の男性が立っていた。
リナは男を見ると微笑んだ。
リナ「井上さん・・・。お久しぶり」
白髪交じりのその男は警備帽を取って笑顔で応える。
井上「お久しぶりです。リナお嬢様」
深々とお辞儀をした後、井上と呼ばれた男は何か蛍光灯のような物を手にした。
井上「すいません。決まりなものなので・・・」
リナ「気にしないで。それが仕事だし」
そう言うとリナは両手を横に水平に伸ばす。
井上は50cm程度の細長い光の棒を、リナの体のいたる所にかざし始めた。
リナの後ろで何か言いたそうな雰囲気で立っている慎吾。気づいたリナが、慎吾に声をかける。
リナ「金属探知機よ。空港とかでもあるでしょ」
慎吾「あ・・・ はい・・・」
リナに続いて慎吾も両手を水平に伸ばし、井上の金属探知検査を受け始めた。
井上は慎吾を見ると優しい笑顔を見せ
井上「リナお嬢様。失礼かとは思いますが、こちらの青年は?」
背後にいるリナに声をかける。
リナ「私の彼氏。まぁ色々あってね」
リナは素っ気なく応えた。
慎吾「え!?」
一瞬小さな声を出してしまった慎吾だったが、先ほどのリナの言葉を思い出す。
慎吾「えっと、あ・・・」
リナ「あんたは何も喋らなくていいから」
口を開くと下手な事を言いかねない慎吾を、リナが制した。
井上はただ、にこやかな笑顔で慎吾をチェックしている。
井上「OKです。ですがあと1つ・・・」
金属探知検査を終えた井上は、申し訳なさそうにリナに声をかけた。
リナ「わかってるわ。X線よね」
そういうとリナはスタスタと扉の先へ向かう。
扉の先には横に2m四方の薄い金属製の壁があった。
リナは壁と水平に歩いて行く。
井上は壁の横の小さなモニターを見て笑顔でリナに声をかけた。
井上「ありがとうございます。どうぞ家の中へ」
続いて慎吾が壁を横に、スタスタと歩いていく。
モニターを見ていた井上は、笑顔から少し怪訝な表情になった。
井上「お連れの方・・・。申し訳ございませんが・・・
ポケットの中にある丸い物を出していただけますか?」
慎吾「え・・・? あ・・・?」
慌てて慎吾はポケットに入れていたパワーストーンを取り出す。
井上「失礼します」
そういうと井上はパワーストーンを慎吾の手から取り上げた。
慎吾「あ・・・」
井上はマジマジと拳大の石を見ている。
リナ「大丈夫よ。それは彼のお守りで、ただのでっかい石だから」
井上「ふむ・・・ 特に問題はなさそうですな」
そういうと井上はパワーストーンを慎吾に返した。
慎吾「あ・・・ども・・・」
慎吾は反射的に頭を下げる。
井上「大変失礼しました。どうぞ家の中へ」
井上は元の優しい笑顔に戻って、家の方へと手を差し出した。
ようやく家に入るための手続きが全て終わったリナは、井上に声をかける。
リナ「あの、井上さん。妹は?」
井上は左手の腕時計を見ながら口を開いた。
井上「えっと・・・ 水曜日ですから・・・。
雛子お嬢様は10時まで予備校です。
今は9時50分ですから、もうそろそろ帰宅の時間になります」
リナ「妹の送迎は?」
井上「安田が運転手です。もうすぐ予備校に着く頃でしょう」
井上はリナが妹に会いたがっていると勘違いをして、リナに満面の笑みを浮かべている。
リナ「すぐに安田さんに電話して。
授業中だろうと雛を出迎えてもらって!」
その言葉に反応し、少し表情を硬くした井上。
井上「そんなに焦らなくても・・・。
10時20分までには戻ってきますよ、雛子お嬢様は」
リナ「違うの! 何かちょっと、嫌な予感っていうか何ていうか・・・。
とにかくお願い! すぐに安田さんに連絡して!
授業を受けてるかどうかの確認だけでもいいからして欲しいの!」
切羽詰まった表情で、リナが井上に懇願する。
リナの後ろにいた慎吾は
(慎吾「なぜ、誘拐の事を警備の人に話さないのだろう・・・?」)
と思いつつ、黙って2人のやりとりを見ていた。
少し困った表情を見せた井上だが、携帯を取り出して電話をかける。
井上「あー、もしもし。井上だが・・・ 安田、今はどこに?
そうか、もう予備校に着いたんだな。
すまんが駐車場に車を止めて、すぐに雛子お嬢様を確認して欲しい」
電話の向こうの安田という人物に、リナの意志を伝えた。
井上「あぁ。確認できたらまた電話を返してくれ」
電話を切った井上は、リナの方へと視線を移す。
井上「今、安田に雛子お嬢様を確認させてます。折り返し電話が来るはずです」
小さく息を吐いたリナ。
リナ「ありがとう、井上さん。久しぶりに会ったのに・・・申し訳ないわね」
井上「気になさらずに、リナお嬢様」
優しい笑顔のまま、井上は折り返しの連絡を待った。
午後9時55分過ぎ。井上の携帯が鳴り響く。
リナと慎吾は、緊張の表情を浮かべた。
井上「井上だ。あぁ・・・ 何!?」
リナと慎吾の視線が鋭くなる。
井上「あぁ・・・ そうか・・・ わかった。
とりあえずお前は、近辺を捜してみてくれ。
見つかったらすぐに連絡をするんだぞ!」
携帯を切った井上の顔からは笑顔が消えていた。
井上「予備校側は、今日は雛子お嬢様は欠席だと・・・。
1次限目の授業から・・・」
リナと慎吾の表情が険しくなる。
井上「あ、しかしご安心を。今、安田に近辺を捜索させています。
以前も1度こういう事がありまして。
確かその時は、塾を抜け出してお友達と・・・」
井上の言葉をリナが制した。
リナ「ごめんなさい・・ 井上さん。今回はヤバいかもしれないの。
まずはママを呼んで。緊急回線ですぐ呼び出して」
井上「しかし瞳様は今日、午前1時帰宅予定で・・・」
リナ「井上さん! おそらく雛は誘拐された・・・」
リナはここで初めて、妹が誘拐されたと口にした。
リナ「だから私がここへ来たの!
まずはママを呼んで! ママが来たらくわしい話をするから!」
笑顔の消えた井上はリナの視線をじっと見つめている。
井上「わかりました・・・」
そういうと井上はリナに言われた通り緊急回線を使ってリナの母親・・・
羽鳥瞳に連絡を入れた。
・・・ ・・・。
午後11時過ぎ。
リナの家の中、広い応接間に6人の人物がいた。
慎吾とリナの2人に・・・
井上仁
羽鳥家の警備担当主任。58歳男性。
安田透
羽鳥家の警備担当の1人。37歳男性。雛子の送迎係を勤める。
新城美也
羽鳥家の家政婦。食事や掃除など世話係の仕事をこなす。43歳女性。
(インターホンでリナに応対した人物)
そして・・・
羽鳥瞳
リナの母親でソフトウェア会社「羽鳥コーポレーション」の現社長。45歳女性。
紫色のビジネススーツをびしっときめた瞳は、腕組みをしたまま溜息をついた。
瞳「つまり、リナの携帯に犯人から電話がかかってきた・・・というわけね?」
その美貌はとても大学生の娘がいるようには見えないし、何よりも若いオーラを放っている。
リナ「えぇ。妹を誘拐したと・・・そして1億を要求していたわ」
瞳のすぐ横にいたリナは、簡単に状況を説明した。
小さなため息をついた後、瞳は応接間にいる皆を見渡す。リナの横に立っていた慎吾と目が合った。
瞳「悪いけど、あなたの事は後回しね」
慎吾「あ、はい・・・」
申し訳なさそうに声を返す慎吾。
瞳「悪いけど、席を外してもらえるかしら?
見ての通り緊急事態なので」
瞳は優しいながらも、厳しい口調で声をかけた。慎吾は指示に従い、奥の部屋の書斎に向かう。
慎吾が書斎に入って行くのを確認した瞳は、今一度羽鳥家にいる面々を見渡した。
瞳「みなさん、今日の雛子の事を報告してちょうだい!」
瞳の視線はまず、家政婦の新城に向けらる。
新城「あ、朝は間違いなく・・・。
こ、この家を出て行くのを私が確認しています・・・」
黒いブラウス、白いズボンの動きやすい格好をした女性。長年羽鳥家の家政婦を務めている新城は、緊張からかしどろもどろで瞳に話した。
軽く頷いた瞳の視線は、次に安田を捉えた。
安田「朝は自分が確実に学校へ送りました。
先ほど学校経由で雛子様の担任に連絡しましたが・・・」
羽鳥家警備担当の1人で主に送迎係を担当している安田は、ハンカチで汗を拭った。
安田「雛子お嬢様は午後に『体調不良で早退する』と言って帰宅したそうです。
しかし自分には連絡が入っておりません・・・」
警備員として仕事の不手際からか、瞳と目を合わすことなく報告を続ける。
学校から予備校までは徒歩3分。予備校のある日は、いつも学校から歩いて行く雛子。送迎の車に乗ることもなければ、わざわざ予備校に行く事を家に連絡することもない。
井上「じゃぁ・・・ 誘拐されたとしたら・・・ 午後か・・・」
羽鳥家の警備担当主任の井上は大きなため息をついた。
瞳「すぐに警察へ・・・」
リナ「ダメ!!」
その場にいた皆が一斉にリナの方を向く。
リナ「あ・・・ もし警察に連絡したら・・・。。
ほら、よくドラマなんかで人質を殺すとか・・・」
言葉に詰まりながらリナが声を出す。
瞳「あなたは・・・ 誘拐したという人物にそう言われたの?
雛子を殺すって・・・?」
リナ「・・・。いや・・・」
瞳「ならばこれ以上、私達に出来る事はないわ。警察に任せるべきよ」
新城「あ・・・ 私も・・・ 瞳様に賛成です」
小さな声で家政婦の新城が瞳に賛同した。
井上「警備担当の我々としては情けない話ですが・・・。
警察に連絡するべきかと・・・」
リナに賛同する者は1人もいない。
リナ「・・・ ・・・」
唇を噛むリナはどうする事も出来ない。その時、
リリリリーン・・・ リリリリーン・・・
誰かの携帯電話が小さく鳴り響いた。その音はリナの方から聞こえている。
リナ「!?」
自分の着信音ではない事はすぐわかった。そして聞き覚えのあるこの着信音。
周りにいる皆が顔を見合わせる中、リナは背中に背負っていたリュックを床下に降ろす。中からビニール袋に入れておいた妹の携帯を取り出すと、その音が大きく邸内に響いた。
リナ「・・・ ・・・」
鳴っているのは間違いなく妹の携帯。そしてその携帯の着信表示がリナの目に入った。
着信【誘拐犯】
リナ「な・・・」
(第5話へ続く)
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次回予告
妹の携帯に【誘拐犯】からの着信があった。
雛子の安否を気遣う面々。瞳は電話に出ることを決意した。
電話に出る瞳、そして逆探知を試みるリナ。
誘拐犯は、リナを電話に出せと要求する。
そしてリナは・・・ 逆探知に成功した。
次回 「 第5話 誘拐犯からの着信 」
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