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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
31/147

第30話  脱  走(2008年)

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  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナの父親・魁斗かいとは、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。そしてマスターと呼ばれる男に、自らが開発したソフトのアルゴリズムを要求された。返事に躊躇を見せる魁斗に、マスターはリナを殺すと宣言。


一方ヒロは、羽鳥魁斗誘拐の容疑で逮捕されてしまう。チームを組んでいる安田から、金属棒をもらいうけ・・・


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  第30話  脱  走(2008年)


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2008年12月7日(日)。午後4時33分。湾岸警察署。


捜査官・後藤源治郎は10ある留置室のうち、とある1室の前で足を止めた。コートの中からゴソゴソと留置室の鍵を取りだそうとしながら、鉄格子越しに部屋の中を見る。


後藤「・・・ !?」


瞬間後藤は愕然とした。鉄格子の向こうに・・・留置されているはずのヒロがいない。慌てて留置室の扉を開けようとするが・・・


後藤「な・・・」


鍵がかかっていなかった。


ヒロを留置した時、鍵をかけたのは後藤本人。手順にのっとり、2度も鍵が閉まっている事を確認したはずだ。


後藤「な、何故・・・?」


後藤はすぐに携帯をかける。


後藤「後藤だ。羽鳥魁斗誘拐事件の容疑者ヒロ・ハーグリーブスが逃げた!

    緊急配備をしいて、警察署付近を捜索させろ! すぐに!!」


携帯を切った後藤は、誰もいない留置室の中を探ってみた。どこをどう探しても、人の気配はない。


(後藤「何か・・・ 何かないか・・・」)


現場を調べるのは捜査の基本。後藤はベッドの下に落ちていた、白い紙切れを見つける。


【 20:00 浜松町 】


そう書かれていた。


後藤「浜松町・・・」


後藤は再び携帯をかける。


後藤「すまん! 容疑者は浜松町へ逃走した可能性あり。

    至急、浜松町へ通じるルートへ警官を配備してくれ!」


携帯をかけながら、その場を走り去った。


・・・ ・・・。


モニター室へ慌てて入ってきた後藤。監視カメラの映像を管理している部屋だ。部屋の中には、警察署内に設置された64台もの監視カメラ映像がある。それらを4人の警察官が、手分けしてチェックしていた。


後藤「おい。3階の留置所だ! ここ1時間の映像を映せ!」


部屋に入ってくるなり、後藤は一人の警察官の肩に手をかけ大声を出した。


「え・・・ っと・・・?」


言われた警察官は、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべる。


後藤「急げ! 3階の映像を映すんだよ!! 容疑者が逃走したんだ!」


警察官はあわてて機械を操作し、後藤の要求した映像を映し出した。


カメラは固定映像ではなく、定期的に首をふって全体を見渡す映像だ。後藤は時折警察官に早送りを指示しながら、ヒロの留置された部屋が映る映像を凝視した。


後藤「・・・ ・・・」


10ある留置室。その時間はヒロだけが留置されている。鉄格子の間から両手を出し、廊下の左右を確認しているヒロの映像が斜めから映し出された。


そして一瞬だが、間違いなく監視カメラに視線を合わせた。


後藤「カメラの位置をさぐった・・・? まさかな・・・」


ヒロの両手は何かモゾモゾとしているように見えるが・・・見ている映像だけでは、よくわからない。カメラはいったんヒロの部屋の画像を切り・・・しばらくしてまたヒロの部屋を映した。


その時すでにヒロの姿は見えず、カメラは留置室の奥まで映すことは出来ない。


後藤「部屋の中に入ったか・・・ それともすでに出た後か・・・?」


その後の映像を早送りで見たが・・・ ヒロを迎えに来た後藤が映るまで、特に変わった様子はなかった。監視カメラには、ヒロがいなくて慌てる様子の自分が映っている。10分前の映像だ。


後藤「いったい・・・どうやって・・・・?」


後藤はその場にいたカメラの管理担当警察官4人に、どこかの映像にヒロが映っているはずだとチェックをさせた。しかし・・・


この1時間、留置所付近の映像に現れたのはヒロと、彼を連行する後藤の姿だけ。誰かが留置室の鍵を開けた様子は一切ないどころか、そこに訪れた人物すらいない。


それに64台のカメラ全てに、ヒロの姿は全く確認出来なかった。

警察署の外では、パトカーのサイレンが鳴り響き、逃亡者のヒロの行方を追っている。


後藤「な、何が起こった・・・? 神隠しか・・・?」


後藤は呆然としながらも携帯を取り出し・・・羽鳥邸で待機している同僚の藤岡に連絡した。


後藤「後藤だ。ハーグリーブスが逃げた!」


電話の向こうから、驚いた声が聞こえてくる。


後藤「あぁ。今から私は、逃走先と推測される浜松町まで行く。

    仲間と合流して高飛びするのかもしれん。あるいは・・・


    容疑者はそちらにも現れる可能性はある。

    周辺の警備を強化しておくんだ!」


携帯を切ると、後藤は羽田・成田にヒロの写真を手配させた。


後藤「署から容疑者を逃がしたとあっては・・・」


唇をかみしめながら後藤は警察署を後にした。



・・・ ・・・。


後藤が警察署を出たちょうどその頃。ヒロが留置された部屋の、2つ隣の部屋。こちらも鉄格子つきの留置室だ。その中にはむきだしの洋式トイレと、簡易ベッドの上に布団一式がある。


パトカーのサイレンが警察署の外・・・そこかしこで鳴り響いている。


それを聞きながら・・・


ヒロはゆっくりと、布団の中から姿を現した。


(ヒロ「半分ぐらいは、外に出ていったかな?」)


1人でも多くの警察が、署の外に出てくれと願うヒロ。大きく深呼吸をすると


(ヒロ「さて・・・ お姫様の元へ行きますか」)


両手で顔をパンと叩き、気合いを入れる。タイミングを見計らい・・・鍵のかかってない留置室を出て行った。


・・・ ・・・。


監視カメラをチェックしていた警察官の1人は、思わず声をあげた。


「ん!?」


2台のカメラ映像が突然真っ暗になった。4階の一部を映しているカメラだ。


「おかしいな・・・」


機器を操作するが、画面は黒いまま。操作しながら警察官は受話器を取り、内線をかける。


「こちらモニター室だが・・・

  4階Bフロアの監視カメラ2台の映像が途絶えた。


  接続不良かもしれない。ちょっと見てくれないか?」


受話器の向こうから「了解」という声が聞こえたその時・・・


さらに4台のカメラ映像が黒くなった。いや・・・ 続けざまに3台、さらに3台、4台と画面が黒くなっていく。


「な・・・ 何だ!? 何が起こってるんだ!?」


1分後、64台のカメラ映像は全て真っ暗になった。その場にいた4人の警察官は混乱に陥る。いくら機器を操作しても画面は黒いまま。


4人は一斉に各部署に内線を入れ、各階の監視カメラをチェックするように指示した。


「何かがおかしい! 各階とも仕事を一時いちじストップ!

  すぐに異変の原因を調べてくれ!」


警察署内がちょっとした混乱に陥っている時・・・


ヒロは監視カメラを避けて、地下にある配電盤の前に立っていた。


ヒロ「1箇所に署内のブレーカーを全て配置するって・・・

    設計ミスだよな・・・」


独り言を呟きながら、タイミング良くいくつかのブレーカーを落としていく。


(ヒロ「さて・・・ 問題は外に出る時だが・・・

     パトカーを盗むわけにはいかないし。


     かといって、そのまま出るのも危険だし・・・ 

     どうしたものか」)


その時、背後からヒロの肩を掴む人物がいた。


男「おい!」



・・・ ・・・。



後藤からの電話を受け取った捜査官の藤岡は、羽鳥邸の1階で待機していた。電話を切って20分ほど経った頃・・・2階のリナの部屋に足を運ぶ。


コンコンコン・・・


リナの部屋の前に立ち止まりノックした。しばらくすると、目を真っ赤に腫らしたリナがドアを開ける。


リナ「な、何か・・・・?」


藤岡は2、3秒ほどリナを見つめた後、静かに声をかけた。


藤岡「あなたのピアノ講師、ヒロ・ハーグリーブスについてだが・・・」


ヒロの名前が耳に入るとリナは・・・ 目から枯れることのない涙をあふれさせる。


藤岡「・・・ ・・・」


藤岡は言葉を止め、しばらくリナを見つめた。


藤岡「いや、失礼。話はまた後ほど」


そういうと藤岡はリナに背を向け、静かに部屋を離れていった。


(藤岡「あの娘は、ハーグリーブスが逃げた事を知らない・・・」)


リナの様子から、逃亡したヒロとの接触がない事を確信する。いまだ、ヒロを捕らえたという連絡は入ってこない。


藤岡「・・・ ・・・」


藤岡はこの誘拐事件が、まだまだ一波乱ありそうだと感じていた。



・・・ ・・・。



警視庁から1km離れた道路を1台の車が走っていた。


ヒロ「いや、助かったよ」


車の助手席に乗るヒロは、運転手の安田に声をかける。


安田「さすがのあんたでも・・・

    1人であそこから抜け出るのは、厳しいかと思ってね」


運転しながら軽い笑顔を見せた。


ヒロ「まぁ、俺1人でも逃げ出せたが・・・

    時間を考えると、車を盗むところだったからな」


ヒロも笑いながら声をかけたが、すぐに真剣な表情になる。


ヒロ「で、覆面男の方は?」


安田「大丈夫。男の靴に発信器をつけるのに成功した。

    足取りはすぐ掴める。それより、あんたに渡す物があってね」


安田は胸ポケットからプリペイド携帯を取り出し、ヒロに手渡す。


ヒロ「助かる。自分の携帯が手元に戻るまで、これでお前に連絡できる」


安田「それともう1つ。あの男の身元が、ついさっきわかった。

    人民解放軍特殊部隊に所属していたようだ。


    名前はジャン


ヒロ「中国人か!?」


安田「いや・・・何せPLAの特殊部隊は、国家の最高機密事項扱い。

    外国人部隊もあるらいしいからな。


    コードネームの可能性もある」


※ PLA = 人民解放軍


ヒロ「どうやって調べた?」


安田「中国当局の極秘データーバンクを、知人に洗ってもらった。

    くわしい内容は、その携帯でアクセスできるよう設定してある」


ヒロ「そうか。俺はSISにあいつらが使った機器の照合を依頼してある。

    最先端のハイテク機器を使っていたから・・・


    そこからあいつらに繋がる情報を・・・期待しているんだが」


安田「お互い、情報に進展があればまた連絡するという事で」


ヒロ「あぁ・・・少しずつ近づいている。黒幕までもう少しだ・・・」


黒幕の正体さえ掴めれば・・・ この事件は全て解決する。そう信じてヒロは、気合いを入れ直した。


ひばりヶ丘駅の近くでヒロは車を降りる。


安田「今、6時半だ。俺は覆面男の所へ向かう」


ヒロ「Thank you! 必ず・・・テロリストを捕まえるぞ」


安田「もちろん!」


そういうと安田は、ウィンドウを閉めて車を走らせていった。


ヒロ「さて・・・」


ヒロはリナの自宅の方を見つめながら、リナを守るための作戦を考え始めた。



・・・ ・・・。


午後8時57分。羽鳥邸。


羽鳥邸の1階にいた藤岡は腕時計を見る。午後10時には後藤と交代の予定だ。現時点で逃げ出したヒロが捕まったという連絡はない。


羽鳥邸の中には藤岡以外に2人、庭先に3人の警官が巡回しているが・・・誘拐犯からの連絡もなければ、ヒロが羽鳥邸に現れる気配もない。


藤岡「・・・ ・・・」


ちらりと2階の奥の部屋を見た。


ヴィーン・・・


部屋からは、先ほど風呂からあがったリナがドライヤーを使用している音が聞こえてくる。


藤岡はスタスタと窓際まで歩いて行った。大きな窓から庭先をぐるっと見渡す。



その時だった。



ド・・・


ッッッッゴーーォォッォォオオンン!!!



突然の爆音が鳴り響いた。藤岡の視線の先では・・・羽鳥邸の庭と公道を隔てるブロック塀が粉々に砕け散り、煙が上がっている。


そして庭先の灯りに照らされた覆面男が・・・数名侵入するのが見えた。


庭先にいた警官は突然の爆音に、混乱する。


覆面男らは狼狽ろうばいする警官に銃を向けると、迷わず引き金をひいた。発砲音はしなかったが、3人の警官は次次に倒れていく。麻酔銃による攻撃だ。


それを見た藤岡は、すぐに2階のリナの部屋に向かっていた。しばらくして、覆面男らは窓ガラスを割って中に侵入してくる。


バタン!


藤岡はノックをせず、リナの部屋のドアを勢いよく開けた。


藤岡「覆面男が侵入! すぐに逃走・・を・・・」


その声は尻すぼみに小さくなっていった。


藤岡「・・・ ・・・」


部屋の中にリナの姿はなく・・・



ヴィーン・・・



スイッチがオン状態のドライヤーだけが、鏡の前に置かれてあった。




             (第31話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


侵入した覆面男らの狙いは、羽鳥魁斗の娘・リナ。

しかし藤岡がリナの部屋に入った時、リナの姿はなかった。


リナの部屋に残されたのはスイッチが入ったドライヤー・・・

それは、ヒロとリナが再会を果たすためのものだった。


次回 「 第31話 月  光 (2008年) 」

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