表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第1章 始まり
3/147

第2話  写  真

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


      「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2012年12月。箱根大学に通う1年生の慎吾と2年生のリナ。

2人でラーメン屋にいた時、ふとリナの携帯に【妹】からの着信が。


外に出て携帯に出たリナ。電話の相手が妹ではない正体不明の人物からだった。


そしてその声は。リナの妹・雛子ひなこを誘拐したと言う。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


     第2話   写  真  


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

声「単刀直入に言う。お前の妹を誘拐した。

   1週間以内に1億を用意してもらおう」


リナ「はぁ?」


素っ頓狂な声とは裏腹に、リナは真剣な表情を浮かべていた。


リナ「何の冗談かしら? どうやらひなはバカな彼氏を作ったようね~」


すぐにラーメン屋の中に戻り、肩と耳で携帯をはさみつつ自分のリュックの中からパソコンとUSBコネクタを取り出す。


ラーメンをすする慎吾が、のんきな表情で声をかけてきた。


慎吾「あれ? リナ先輩、どうかし・・・」


パソコンを起動しつつ、リナはものすごい形相で慎吾を睨み付ける。その殺気だった表情は、慎吾を黙らせるのに十分だった。


声「信じないのか? だとしたら妹は死ぬぞ?」


リナ「じゃぁ、妹を電話に出してみせなさいよ。

    取引するなら、妹が生きているってのが前提のはずでしょ?」


リナは会話を続けながら、携帯とパソコンをUSBコネクタで接続し、片手でカタカタとキーボードを叩き始めた。


携帯電話の逆探知と平行して、携帯会社のサーバへ侵入する。妹の携帯端末から送られるGPS-DATAを高速で検索し始めた。


声「くっくっく・・・ 驚いたな。交渉術まで身につけているのか。

   まぁすぐに状況がわかるさ。また連絡する」


携帯電話が切れたと同時に、逆探知ソフトは「追跡不可」の文字をディスプレイに映し出す。会話が途切れてもGPSでの追跡がまだ可能だ。


一刻も早く妹のGPS-DATAを見つけ出そうとリナは高速でキーボードを叩き続けた。1分後DATAを見つけたリナは、ディスプレイに妹の携帯電話の現在地を表示させた。


リナ「まさか・・・」


映し出された場所を見て息をのむ。数秒ほど考えたリナは、視線を前に移した。ラーメンをすする慎吾をじっと睨み付けると、声をかけた。


リナ「行くわよ・・・」


慎吾「え?」


キョトンとした表情で声を出す慎吾。


リナ「緊急事態! すぐにここ出るわよ!」


パソコンの電源を落としながら席を立つリナ。


慎吾「え・・・? あ、はい・・」


リナの【緊急事態】という言葉に反応した慎吾は、丁寧に箸を置くと席を立った。リナはすでに2人分の会計を済ませて暖簾のれんを後にしていた。


慎吾「あの・・・ どこへ行くんですか? 緊急事態って?」


追いついた慎吾がリナの背中に声をかけた。


リナ「説明はあと。いったん、うちに戻るわよ!」


早足でを進めつつ、これから起こりうる事態に対してどう対処するかをリナは考えていた。


・・・ ・・・。


偶然にも同じマンションの違う階に住んでいるリナと慎吾。カードキーで1階玄関をくぐると、リナは慎吾に声をかけた。


リナ「慎吾も私の部屋までついてきて。

    ほら、例のパワーストーンも用意して! 持ってるわよね?」


慎吾「え!? あ、はい。持ってます」


パワーストーン・・・。


今は亡き日本を代表する霊能力者・・・スピリチュアル・カウンセラー江浜からもらい受けた拳大の石。慎吾の持つ霊力は、この石を通して様々な形をなし、武器や防具を具現化する。


リナの態度からただならぬ事態を察した慎吾。ポケットに入ったパワーストーンを握りしめながら、緊張の表情を浮かべた。


リナ「エレベーターは避けて階段で行くわよ」


リナの後ろについて階段を上る慎吾。


慎吾「お、教えてください。いったい何が・・・?」


リナは歩きながら慎吾の方を振り向き、小さく声をかけた。


リナ「妹が誘拐されたって電話があったの・・・誘拐したってヤツからね」


慎吾「えぇ!? ゆ、誘拐!?」


リナ「ちょ、声が大きいって。

    電話があって、すぐに携帯会社のサーバに侵入したの。


    妹の携帯から発信されてるGPS-DATAを洗ったら・・・」


しばらくリナは沈黙した。


慎吾「洗ったら・・・?」


リナ「私の部屋からだった・・・」


慎吾の表情が険しくなる。


慎吾「じゃ、じゃぁ・・・誘拐犯がリナ先輩の部屋に?」


リナ「少なくとも17分前にはね・・・」


リナはリュックの中から銃の形をしたワイヤー型スタンガンを取り出した。


2人は3階の一番奥の部屋・・・ リナの部屋の前まで来た。リナは自分の部屋のドアに耳をそっとつける。慎重に聞き耳をたてたが、中から物音が聞こえる様子はない。


慎吾「あの・・・ リナ先輩・・・」


慎吾が小さな声でつぶやいた。


リナ「静かに! 誘拐犯がいるかもしれないんだから!」


リナは小さな声で慎吾に返した。


慎吾「あの・・・。中には誰もいませんよ・・・。リナ先輩の部屋の中・・・」


反射的に慎吾を睨み付けるリナ。


リナ「はぁ? なんであんた、わかんのよ? 

    壁の向こうを透視でもできるっての?」


慎吾「いえ・・透視は無理ですが・・・

    パワーストーンのおかげで、感覚が研ぎ澄まされているようになって・・・」


慎吾は右手に握っているパワーストーンを見せた。


慎吾「壁越しでも、中にいる人の気配というか魂を感じられるんです。

    今、部屋の中からは何も感じられないので、誰もいないはずです」


リナはじっと慎吾の目を見つめた。


慎吾とは半年以上の付き合いで、嘘をつけない人物というのはよく理解している。


リナ「わかった・・・」


念のため、ワイヤー型スタンガンを握りながらゆっくりとドアのカギを開けた。静かに扉を開き、中へ入っていくと・・・ 


誰もいなかった。リナの後を慎吾が続く。


慎吾「わ! こ、これはひどい!!」


部屋には誰もいなかったが・・・ 明らかに何者かが侵入したように部屋は荒らされていた。本棚にあった本は全て床にぶちまけられ、部屋中いたる所にあった小物や置物も全て乱雑に放り出されていた。


リナ「ったく・・・。乙女の部屋に忍び込んで、何してんだか・・・」


誘拐犯がいないという安堵感はすぐに怒りへと変わった。


リナ「ホントにもう・・・ やりたい放題や・・・   あ!!」


クローゼットから洋服はおろか下着も全て周辺にぶちまけられているのが目に入った。


リナ「ちょっと慎吾! あっち向いて!」


リナは大声で慎吾に回れ右を命令する。落ちてたブラジャーやパンティを素早く回収し、クローゼットの引き出しに押し込んだ。


リナ「くそぉ・・・ 死ねばいいのに・・・」


トイレや風呂場に誰もいない事を確認したリナ。自分の携帯電話を取りだし、【妹】に電話をかけた。


数秒後、ベッドの下から呼び出し音が鳴り響く。


リリリリーン・・・  リリリリーン・・・


慎吾がベッドの下を覗いてみると、鳴り響く携帯が見えた。

手を伸ばして携帯を手にしようとした慎吾にリナが大声をかけた。


リナ「ストップ!! 簡単に手にしないで!!」


リナは慎吾を制し、キッチンからビニール袋を取り出してきた。

それに手をつっこみ、ビニール袋越しにベッドの下の携帯電話をゆっくりと引きずってくる。


リナ「慎吾! キッチンにあるクッキングスケールとってきて」


慎吾「え? 何ですか・・それ?」


リナ「はかりよ、はかり! 小さな体重計みたいなヤツだからすぐわかる!」


慎吾は言われた通りキッチンへ向かい、小さな体重計みたいな物を見つけてリナの元へ差し出す。


リナはパソコンで何かを検索しながら、ゆっくりとベッドの下にあった携帯をクッキングスケールにのせた。


慎吾「あの・・・ 何を・・・?」


リナ「重さはかってるの。このスケールは1g単位までしか計れないけど・・・」


慎吾「何故そんな事を・・・?」


リナ「携帯に何か仕込まれてないか簡易チェックしてるのよ。

    市販された携帯の重さはネットで確認出来るし」


何故リナがそんな事を当然のようにおこなっているのか・・・ 

慎吾がそれを知るのは、もうしばらく後だった。


リナ「ストラップや余計なのもついてないし・・ 大丈夫そうね」


妹の携帯をビニール袋の中に入れ、口を閉じる。


リナ「証拠品の1つね・・・」


そういうとリナは慎吾の方へ振り返って指示を出した。


リナ「慎吾。何か犯人につながるもの・・・靴の跡とか、髪の毛とか・・・

    ちょっと探してみて。でも、クローゼット・風呂・トイレは私が探すから!」


慎吾「あ・・は、はい・・・」


慎吾は部屋中に散乱したリナの私物を片付けながら、犯人につながる物がないか目を光らせる。


ふと玄関前に落ちている写真立てに手をかけた。

何気にその写真を目にした瞬間、「はっ」と息をのむ。


写真には・・・ 


中学生ぐらいのリナが笑顔でピースサインをして写っていた。


トレードマークのメガネはかけておらず、つぶらな瞳がとてもかわいらしい。さらにもう1つのトレードマークであるポニーテールもしておらず、セミロングの髪の毛が胸元まで伸びていた。


そして・・・。


リナの右にはスラッとした細身の男が控えめな笑顔で写っている。眼の青い外国人・・・いや、ハーフのように見える。


慎吾「これは・・・ リナ先輩の彼氏?」


瞬間、人の気配を感じた。リナではない誰かの気配を。辺りを見渡した慎吾は玄関のドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けて外を見渡す。


(慎吾「・・・。誰もいない」)


数秒ほど3階の廊下を確認した慎吾は、ゆっくりとドアを閉める。


慎吾「・・・ ・・・」


部屋の中に誰かがいるわけでもない。


(慎吾「でも、間違いなく・・・。誰かの気配を感じた・・・」 )


正体不明の気配を気にしながらも、慎吾は再びリナと男の2ショットの写真を見た。


慎吾「・・・・・・」



・・・ ・・・。



リナ「ったく・・・ 髪の毛1本落ちてないとは・・・。

    プロね、プロの仕業ね」


奥の部屋からやってきたリナは、写真立てを手にしてる慎吾を見て目を大きくした。


リナ「ちょ! ちょっと!!! その写真はダメ!!」


大声をあげ慎吾の手から写真立てを奪うと、バツの悪そうな表情を浮かべた。


奪い取ったそれを自分のリュックに押し込み、慎吾に声をかける。


リナ「私、今からちょっと実家へ戻る。ママに電話してもつながらないし・・・

    今日はいろいろありがと。あんたは自分の部屋に戻ってね」


慎吾は写真立てを奪われた右手から、ゆっくりとリナに視線を移した。


慎吾「えぇ・・・ わかりました」


そしてトーンの低い声を出す。


リナはリュックを背中に担ぎ、足早に部屋を出ようとするが、慎吾がそれを止めた。


慎吾「僕も行きます」


ドアノブに手をかけたリナは、顔だけ慎吾に向ける。


リナ「はぁ? 今、自分の部屋に戻れって言ったじゃん。

    誘拐されたかもしれないのは私の妹。あんたとは関係無いし」


そういうとリナはドアノブを回した。慎吾はすぐにリナの手の上に自分の手をのせた。


慎吾「いえ、僕も行きます。僕がいなければダメです!」


リナは不愉快そうな顔を慎吾に向けて、少しいらだちながら声を出した。


リナ「あのね・・・誘拐事件ってのは時間が勝負なの!

    関係無いあんたは部屋に戻る。私は実家へ行く。いい!?」


慎吾は首を横に振り、リナの手を力強く握った。


慎吾「一騎当千・・・ 僕がいれば千人力です! ついていきます!」


トクン・・・


その言葉はリナの心臓を締め付けた。

普段控えめな慎吾が、強気の性格のリナを相手に一歩も譲らない。


それどころか自分を一騎当千と形容するなど、普段の慎吾では絶対にありえない事だ。


10秒ほど慎吾を見つめていたリナ。嘘をつけない性格に加え、この発言。


そして・・・


慎吾の強気な姿勢はリナの心を動かした。


リナ「わかった・・・ あんま頼りにはしてないけど・・・」


リナは携帯の時計を確認する。


リナ「7時半か・・・ 10時前には着くわね」


慎吾は自分のリュックを背負ってリナに声をかける。


慎吾「リナ先輩の実家ってどこですか?」


リナ「ひばりヶ丘ってトコ」


慎吾「わかりました。じゃぁまず箱根湯本駅ですね。急ぎましょう」


2人は東京ひばりヶ丘へ向かうべく、リナの部屋を後にした。



             (第3話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


リナはマンションの防犯カメラもチェックするが、自分の部屋に侵入した者の痕跡は一切見つけられなかった。


池袋を経由してひばりヶ丘へと向かう2人。

そしてたどり着いたリナの実家の前で・・・


慎吾は驚く事になる。



次回 「 第3話  計画的犯行 」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ