表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
21/147

第20話  閃  光(2008年)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナの父親・魁斗かいとが開発したセキュリティソフトを狙ったテロリストがいる。


リナは学校で、謎の覆面男達の襲撃を受けるが・・・イギリスに発ったはずのヒロが現れ、リナの窮地を救う。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  第20話  閃  光(2008年)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2008年12月5日(金)、午後9時1分。学習院女子高、校舎内。


「おい、そちらはどうなっている!? 報告せよ!」


つい先ほどヒロが倒した覆面男・・・その男から奪った通信機から、声が聞こえてきた。


(ヒロ「誘拐犯の一味か・・・」)


映画の主人公なら、ここで一言気の利いたセリフを言って相手を挑発するだろうが・・・実際はそう言うことをするのは危険だ。


相手には情報を一切与えない。これが最も効果的だと言う事を・・・ ヒロはよく知っている。


ヒロ「さぁリナ。とっとと、ストーカー達から逃げよう」


言うとヒロは、不安に満ちた表情のリナの手を握り、倒した男が来た階段を下りていった。


ヒロ「・・・ ・・・」


ヒロが直接見た覆面男達は3人。うち1人は倒した。倒した男がいた側とは、反対の階段にもう1人いるはずだ。


ならばこの階段を使う方が安全・・・ヒロはそう考えていた。


しかし・・・


ヒロ「う・・・」


3階から2階へ降りようとした時、下の階から何者かが上に上がってくる足音が聞こえた。ヒロはリナの手をひいて、すぐに3階の廊下へと走り出す。


「3階だ! 両サイドから挟み込むぞ!」


通信機から声が聞こえた。


(ヒロ「そ、そうか!」)


手にしていた通信機・・・倒した男から奪ったその機械が、自分の位置も知らせる電波を送っている事に気づいた。


(ヒロ「しまったな・・・予想以上にハイテク機を使ってやがる・・・」)


廊下の窓を開けたヒロは、通信機を外に投げ捨てる。


(ヒロ「これで俺たちは窓から飛び降りた・・・とは思わないよな」)


3階の中央。ヒロは目の前の教室の鍵をピッキングし、すぐに中に入った。内側から鍵を閉め、リナを抱きしめる。


ヒロ「大丈夫だから。俺が必ず守ってやる」


(ヒロ「ここが2階なら、飛び降りる事もできるんだが・・・」)


ふと周りを見ると・・・


ヒロ「ここは・・・」


学園祭で訪れた教室・・・理科室に2人はいた。


ヒロ「・・・ ・・・」


3階の長い廊下。ヒロの耳は、左右から足音が近づいていくるのを察知する。


(ヒロ「はさみ打ちか・・・ ちょっとヤバいな・・・」)


リナを見ながら左懐に右手を入れた。


(ヒロ「出来れば銃は使いたくないが・・・」)


リナに見えぬよう、銃を握りしめたヒロは何かを思い出す。


(ヒロ「待てよ・・・」)


理科室の奥。学園祭でリナと楽しんだあの装置・・・【ヴァンデグラフ】装置を、ヒロは見つめた。


ヒロ「なぁ、リナ・・・ 俺があげたスタンガン、今持ってる?」


リナの顔を覗き込みながらヒロが聞く。


リナ「え? あ・・ あるわ・・・」


リナはずっと手にしていたカバンの中から、そのスタンガンを取りだした。


ヒロ「Good!」


久しぶりに笑顔になったヒロは、それを手にする。


リナ「な、何するの・・・?」


スタンガンを見つめたヒロは、さらに笑顔を見せた。


ヒロ「ふふ・・・ 文字通りイギリス人の英知を見せてやろう」


リナ「 ? 」


ヒロはスタンガンのカバーを外し、中の電気回路を露出させる。ヴァンデグラフ装置の前に立つと、それを覆うカバーも外した。


ヒロ「・・・ ・・・」


スタンガンとヴァンデグラフのの配線を、慎重に絡ませていく。


リナ「な、何・・・してるの?」


ヒロはニコッと笑うと、時折稲光のする窓の外を指さした。


ヒロ「この部屋に雷を落とすのさ」


リナ「え!?」


驚いたリナは聞き返す。


リナ「雷を落とす?」


ヒロ「あぁ・・・」


リナ「でも変な連中がすぐ・・・」


ヒロ「大丈夫。ここは3階の中央の教室だ。

    相手は端から1つずつ教室を調べていくよ」


配線をいじりながら、ヒロは言った。


リナ「で、でも・・・」


不安そうなリナの表情とは対照的に、ヒロは落ち着いた様子だ。しばらく敵が来ない事を確信しているからだ。


逃走者が端の教室に身を潜めた場合、追跡者が中央の教室から調べる事はまず無い。


(ヒロ「プロなら端から追い詰め、逃走者を逃がさないはずだ・・・」)


泣きそうな表情のリナを、ヒロは優しく見つめて口を開いた。


ヒロ「コッククロフトという名前を?」


リナ「え・・・?」


ヒロ「コッククロフトって名前を知ってる?」


リナは首を横に振る。


ヒロ「イギリスでは誰もが知ってる有名な人物でね。

    彼はウォルトンと一緒に陽子の加速実験で、原子核の変換・・・


    いわゆる核反応を、人工的に初めて成功させたんだ。

    彼等はこれでノーベル物理学賞をとっている」


突然のヒロの意味不明な語りに、リナはどう反応していいかわからない。逆にヒロはあえて難しい事を言うことで、リナの恐怖心をそらせようという魂胆だった。


ヒロ「その実験で使われたのが、コッククロフト-ウォルトン回路。

    高電圧を発生させる回路なんだ。


    TVやパソコンのディスプレイなんかにも使われている」


言いながらヒロは、スタンガンをリナの目の前に見せた。


ヒロ「そしてこのスタンガンにもね」


リナ「こっくろふと・・・おるとん回路?」


ヒロ「あぁ。ヴァンデグラフも高電圧装置。

    で、そいつにコッククロフト-ウォルトン回路を繋げると・・・


    ちょっとした雷を起こせる」


リナ「え? スタンガンとヴァンデグラフで雷を作るの!?」


ヒロ「そうだ。リナ、窓を静かに開けて」


リナ「ま、窓?」


ヒロ「教室に雨水を浸す。

    雷はその雨水を通して、あの覆面男を感電させ、倒してくれる」


リナ「ヒロ先生・・・ なんでそんな事を知ってるの?

    ピアニストなのに?」


ヒロは幾度となく笑顔を見せ、リナに応える。


ヒロ「君を守るため・・・ ただそれだけさ」


頼りになる彼氏だが・・・ リナはヒロに対して、不思議な印象を持ちつつあった。


リナ「・・・」


ヒロに言われた通り、静かに理科室の窓を開けていく。横殴りの雨は容赦なく理科室内に侵入し、床をビショビショにしてゆく。


ヒロはヴァンデグラフの大きい球体と小さな球体を3m程離して置いた。


ヒロ「これでよし。

    スタンガンのスイッチを入れれば、ちょっとした雷が発生する。


    球体間で雷が発生し、その雷は雨に濡れた床に落ちる」


リナに人差し指を1本立てて見せるヒロ。


ヒロ「ただしチャンスは1回。高電圧で回路はショートしちゃうからね。

    床に落ちた雷は雨水を通り・・・敵を感電させる」


リナ「そんな・・・私達も感電しちゃう」


笑いながら首を横に振るヒロ。


ヒロ「イギリスの物理学者、ファラデーをご存じかな?」


オウム返しのように、首を横に振るリナ。


ヒロ「高校じゃ数学と理科はしっかり勉強するんだな。役に立つぜ」


ヒロは窓際にある掃除用具入れのロッカーまで歩いて行き、扉を開いた。


ヒロ「これに入るのさ。

    飛行機や車の中にいる人間は、雷で感電することはけしてない。


    それがファラデーの法則だ」


リナ「フ、フレミングの左手の法則は知ってるけど・・・」


ヒロ「はは。ファラデーもフレミングもイギリス人だ。

    イギリス人は優秀って事さ。


    とはいえ、さすがに金属部分に直接触るのはダメだ。

    ゴム底の上履き以外、ロッカーのどこにも触れないように」


ヒロは教室の半分が、大雨の侵入による水浸しになっている事を確認。


(ヒロ「これだけ濡れてれば十分だ・・・」)


窓を閉め、窓際の床にスタンガンを縦にして置く。そしてロッカーの中の掃除用具を全て外に出し、狭いロッカーの中にリナと2人で入った。


扉を少しだけ開け、縦に置いたスタンガンを見えるようにする。瞬間、ヒロはリナを抱きしめた。リナは目をつむり、ヒロの胸に顔をうずめる。


リナ「こ、この後は・・・?」


ヒロ「しばらくしたら敵が教室に入ってくる。

    奴らが教室の真ん中を過ぎる所まで来たら・・・スタンガンを倒す。


    スタンガンはスイッチのバネをとって、むき出しにしてある。

    倒れれば自動的にスイッチが入り・・・ヴァンデグラフが雷を起こす」


リナ「その雷が水を伝って、相手を感電させるの?」


ヒロ「水ってのは電気を通すと思われがちだが・・実際は通さない」


リナ「え・・・? そ、そうなの?」


ヒロ「水に含まれる不純物が電気を通すのさ。

    もっと正確に言えば、水に溶け込んでいるイオンが電気を通す。


    高校生だろ? 化学の授業で習ってないのか?」


リナは小刻みに首を横に振った。


ヒロ「雨水はいろんな成分が溶け込んで、まさに不純物だらけ。

    雷が落ちた後、雨で濡れた地面を通して多くの人が感電する・・・


    そんな事故が、世界中には結構あるんだぜ」    


リナ「相手・・・、感電死したりしない?」


ヒロ「まさか。本物の雷と違ってこの程度の電圧じゃ死なないよ。

    しばらく動けなくなる程度さ。


    その間に逃げる。OK?」


リナには言わなかったが・・・


ヒロは感電してしびれた相手に麻酔銃を撃ちこみ、その間に逃げる予定だ。


リナ「うん・・・わかった。ヒロ先生、信じてるから・・・」


リナはぎゅっとヒロにしがみつく。ヒロもリナを抱く腕に力を入れた。



・・・ ・・・。



土砂降りの駐車場に、白いハイブリッドカーが止まった。運転手の安田はリナに携帯をかける。


安田「 ・・・ ? 」


リナに繋がらない。再びかけ直してみるも、呼び出し音すら鳴らず、全く反応すらしない。


安田「・・・ ・・・」


不審に思った安田は、傘をさして車を降りた。


駐車場には・・・他に2台の車が見える。1台は見覚えがある・・・チームを組んでいるヒロの車だ。


もう1台の車に警戒しながら近づき、中を覗いてみる。しかし誰もいなかった。


安田は再び携帯をかけてみるが、通じない。そこで今度は、別の場所へかけてみた。


トゥルルルルル・・・   トゥルルルルル・・・


今度はちゃんと呼び出し音が鳴る。


安田「・・・ ・・・」


何かしら、嫌な予感がした瞬間


ガチャッ


電話が通じた。


安田「あ、安田ですが・・・」


リナには通じないが、別の場所には通じる。


パリーン!!


突然校舎の方向から、ガラスが割れる音が聞こえた。


安田「!?」


校舎に視線を移すと・・・


ある教室から、青白い閃光せんこうが放たれるのが見えた。




             (第21話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


覆面男2人が、リナとヒロのいる教室に侵入してきた。


ヒロの予定では・・・あっという間に男達を片付けるはずだった。

しかし予想外の事が起き、2人は危機的状況に陥ってしまう。



次回 「 第21話  絶体絶命(2008年) 」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ