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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第1章 始まり
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第1話  妹からの着信

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 慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


      「アマデウスの謎」 


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     第1話   妹からの着信  


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2012年、12月12日(水)。箱根大学、パソコン室。


赤いメガネ、大きなポニーテールの女性はパソコンに向かい、ディスプレイから一切目を離さず、高速でキーボードを叩いていた。


カタカタカタ・・・


ブラインドタッチで叩かれるキーボードの音は、10分以上もの間休まずに鳴り続けている。音が鳴り始め15分が過ぎた頃、不意にその音が止まった。


赤い眼鏡越しに、じっくりとディスプレイに映し出される英字と数字の羅列を睨み付ける。


「よし・・・」


口元をきゅっと引き締めると、Enterキーを軽く押した。


直後ディスプレイから、数字の羅列がつらつらと表示される。

女性はディスプレイの上からその羅列を指でなぞり、何かを計算している。


「うん・・・。ちゃんと表示されているようね」


自然数の逆数を循環小数表示した時、その循環要素の個数を表示するプログラムが正常に動いている事を確認した。


「よっしゃ! ノーミス! 一発クリア!」


そう言うと、再びキーボードを操作してEnterを押した。

今度は、画面に2Dグラフと3Dグラフが現れ、女性は満足そうにそのグラフをチェックしている。


循環要素の度合いを2Dグラフ表示するだけでなく、数字を10ずつ区切った時の3Dグラフを表示出来ているかの確認だった。


「うん。完璧ね、これで数値解析のプログラム課題は・・・終了!」


ちらりと携帯の時計を見る。


「ふふ。17分で終了。絶対普通の人は丸1日はかかるプログラムだわ」


ふと横に座っている男に視線を移した。


「こっちは終わったわ。そっちは?」


女性の左隣の席には小柄な男が座っていた。クリっとした目の童顔の男は、くせっ毛の髪を軽くかきながら応える。


「こちらは、あと5分ぐらいですね。今、最後のチェックをしてるところです。」


ディスプレイの画面をじっと見つめながら、ボソボソと呟く。


「えっと・・・ プラトンの・・・ アカデメイア・・・ 幾何学が・・・」


5分が過ぎた頃、笑顔の表情を見せた。


「哲学序論のレポート、完成です! リナ先輩!」


赤いメガネの女性・・・羽鳥はどりリナに声をかけた男はすぐにプリントアウトを始める。声を受けたリナは、マウスの手を止め視線を男の方へと移す。


リナ「よっしゃ! サンキュー慎吾! これで年内のレポートは全て終了!!」


右手でガッツポーズをしたリナは、1個下の後輩・真保栄まほえ慎吾に笑顔を見せた。


リナ「は~、しかしこれでまだ文系科目4単位目か~。

    来年6単位も取らなきゃいけないのね~」


ため息をつくリナに慎吾が声をかける。


慎吾「大丈夫ですよ。文系科目は全部僕がレポート書いてあげますから。

   テスト前もしっかり教えてあげますよ!」


屈託のない笑顔は、逆にリナの心境を複雑にした。


リナ「なんか・・・先輩の威厳いげんっつーか、なんつーか・・・」


その言葉をさえぎって慎吾は笑顔で声をかける。


慎吾「大丈夫ですよ! 僕、リナ先輩の事、すっごい尊敬してますから!」


リナ「・・・」


慎吾の嘘いつわりのない瞳は、リナの表情をさらに複雑にした。

ふと慎吾はリナのディスプレイを覗き込む。


慎吾「僕がレポートの最終チェックしてる間、ゲームしてたんですか?」


視線の先には、小さなマス目の中に、数字や爆弾の絵が描かれるゲーム画面が映し出されていた。


リナ「そそ。マインスイーパ。わかる?」


慎吾「えぇ、爆弾を避けてマスを開けていくやつですよね?」


リナ「このゲーム、暇つぶしにはいいのよね。ちなみに私、上級47秒クリアが最高記録なんだけど、公式最高記録は33秒なのよね~」


慎吾「リナ先輩より10秒も早い人がいるんですか!?」


驚異的な数字の感覚を持つリナ。そのリナよりも早い記録保持者がいる事に慎吾は驚いた。


リナ「絶対、なんかプログラムを組み替えてると思うんだけどね~。

    ま、いつかは実力で抜いてやるわ」


慎吾「僕は初級以外クリアした事ないですけど・・・」


リナはバカにしたような笑いを浮かべた。


リナ「ふふ。あんたこういうロジカルなゲーム苦手そうだしね。

    さ! 夕飯行こ! レポートのお礼におごったげるから!」


慎吾「えぇええ!?」


突然驚きの表情と共に、突拍子もない声をあげた慎吾。


リナ「ちょ、ちょっと何よ・・・そのびっくり声は!? 

    こっちがびっくりしちゃうわ!」


慎吾「いや、だって・・・ リナ先輩って、お金にがめついみたいな・・・?

   絶対に人におごらないイメージが・・・」


そのセリフに、リナは眉をひそめて大声を出す。


リナ「はぁ!? あんた何言ってんの!? あんた半年も私と付き合って・・・

   あ、恋人じゃなくて同じ授業をとってるクラスメイトって意味での付き合いね。


   その間、ずっとそんな目で私を見てたの!?」


怒りをあらわにしたリナの表情に慎吾は反射的に後ろに身をひいた。

そして両手を胸の前に出し手のひらを見せ、STOPのジェスチャーをする。


慎吾「あ、いえ・・・すいません」


リナ「死ねばいいのに・・・」


ボソッと呟いたこの言葉は、リナの口癖である。その言葉に反応した慎吾。


慎吾「あ、何か久しぶりに聞きました。その言葉。懐かしい~」


そう言うと慎吾は、とびっきりの笑顔をリナに見せた。


8ヶ月前、慎吾はリナとの初対面でその言葉をかけられた。その時「どうしてそんな事をいわれたのだろう」と、とても悩んでいたが、今は逆にその言葉を聞くと「リナらしさ」を感じられ、とても安心する。


笑顔の慎吾をしばらく無表情で見ていたリナ。観念したようにため息をついた。


リナ「はいはい・・・あんた、そういうヤツよね。

    なんつーか、変っていうか、マゾみたいな?


   一度おごるって言ったから、おごるわよ! ラーメンね、ラーメン!」


さらに笑顔になった慎吾は元気な声で応えた!


慎吾「はい! ゴチになります! 

    今日は産まれて初めてリナ先輩におごってもらう記念日です!」


眉間をピクリと緊張させたリナは一瞬慎吾を睨み付ける。


リナ「あんたもさ・・・ どうにかならないもんかね~」


慎吾の天然ながらも皮肉めいた口調は、出会った時からだった。




・・・ ・・・




リナ「私はみそラーメン。あんたは?」


カウンターの席に着いたリナが慎吾に声をかけた。


慎吾「あ、じゃぁ僕は野菜ラーメンで」


リナは笑いながら店員に注文する。


リナ「ふふ。あんた、絶対草食系よね」


・・・ ・・・


注文から5分後。「へいお待ち!」の声と共に、2人の前にラーメンが差し出された。


リナ「う~ん、うまい! 冬はラーメンよね~」


赤いメガネをラーメンの湯気で時折曇らせるリナ。


慎吾「やっぱり沖縄と違って寒いですね、箱根は!」


沖縄出身の慎吾は、ラーメンの汁をすすって体を温める。


リナ「そりゃそうよ。沖縄って冬でも気温20度越えるんでしょ?

    私、冷え性だから、是非ともそういうところで暮らしてみたいわ」


慎吾「今度、沖縄案内してあげますよ!」


一瞬ドキッとする表情を浮かべたリナ。


リナ「は? なんであんたと2人で沖縄行かなきゃいけないのよ!」


今度は慎吾がドキッとする表情を浮かべた。


慎吾「え? え? 誰も2人でとは言ってませんよ。

    大学のみんなでとか、そういう意味で・・・」


5秒ほど会話が途切れる2人。


リナ「そ、そうよね・・・ はいはい、勘違い勘違い」


リナが沈黙をやぶった。


慎吾「大丈夫ですよ! 

    リナ先輩と2人で沖縄行こうなんて、絶対に言いませんから!」


笑顔で応える慎吾。その慎吾を見て、またリナが無表情になる。


リナ「・・・。なんだろ? もうちょっと女として見てくれてもいい気がするけど」


慎吾「え? どういう意味です?」


リナ「気がなくても、もう少し女を持ち上げろって意味。

    ま、草食系には無理な話ね」


慎吾は首をかしげた。


リナ「あんたが彼氏じゃなくてよかったわ。超めんどくさいもん!」


皮肉たっぷりで慎吾に声をかける。


慎吾「はい! そうですね! よかったですね!」


またしても慎吾の笑顔を睨み付けるリナ。


リナ「いかん・・・なんかあいつにペース乱されてる・・・。

    やっぱ今日、ワリカンに・・・」


慎吾「ところでリナ先輩!」


リナの独り言はさえぎられた。


リナ「なに?」


不機嫌そうな声を出し、めんどくさそうな表情を慎吾に向ける。


慎吾「リナ先輩って、彼氏いないんですか!?」


突然リナの表情が曇りだした。しばらく慎吾に向けていた視線は、ラーメンのどんぶりの中に移された。


リナ「今は・・・いないわね・・・」


その声はどこか寂しげだ。

突然リナの携帯からアイドルグループ【山嵐】のヒットソングの着信音が鳴り出した。


携帯を開いて見ると・・・【妹】と表示されている。


リナ「あ、ちょっとごめん・・・」


リナは一度外に出て、電話に出た。


リナ「ひな? 私だけど?」


予想もしなかった声が聞こえてきた。


声「リナ・・・だな?」


その声は人間の肉声ではなく、何らかの機械を通じての電子音声だ。男か女かの区別すらできない。眉をひそめながら、リナは語気を強めた。


リナ「あんた誰? まさか妹の彼氏ってんじゃないでしょうね?」


しばらくの沈黙の後、その声は応える。


声「単刀直入に言う。お前の妹を誘拐した。

   1週間以内に1億を用意してもらおう」


リナ「はぁ?」


素っ頓狂な声とは裏腹に、リナは真剣な表情を浮かべていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


不審な電話に、すぐ対応するリナ。

妹の携帯から送られるGPS-DATAから、相手の居場所を突き止める。


しかしその場所は・・・ 意外な場所だった。

そしてその場所で慎吾は、不思議な気配を感じるのだが・・・?


次回 「 第2話  写  真 」

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