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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
19/147

第18話  忍び寄る影(2008年)

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  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナの父親・魁斗かいとが開発したセキュリティソフトを狙ったテロリストがいる。ヒロはイギリスへ帰るフリをして、敵を誘い込もうとするが・・・


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  第18話  忍び寄る影(2008年)


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2008年12月3日(水)、午後9時半。羽鳥邸、ピアノ室。


ヒロ「よし! じゃぁ今日のレッスンはこれで終わり!」


リナ「ありがとう・・・ ございました・・・」


レッスン終了後、リナは寂しい挨拶をした。


ヒロ「前から言ってた通り、俺は明日からイギリスに戻るんで・・・。

    帰ったらまた連絡入れるから」


リナ「うん・・・ でも、寂しいな~。

    1週間もヒロ先生と会えないなんて・・・」


ヒロは優しい目でリナを見つめる。


ヒロ「あぁ・・・ 俺も寂しいよ・・・。でもたった1週間だ」


リナ「うん・・・」


ヒロ「そうそう、リナにお土産があるんだ」


リナ「お土産? まだイギリスにも行ってないのに?」


いつも手ぶらで羽鳥邸を訪れるヒロだが、この日はカバンを持参していた。カバンの中に手を突っ込むと、何かを探し始める。


ヒロ「えっと・・・ あった。コレ!」


カバンの中から取り出したのは直方体の箱。ティッシュ箱より若干大きめの箱だ。


ヒロ「はい、どうぞ。開けてみて」


リナは手渡された箱の包みを開け、中を覗き込む。


リナ「こ、これ・・・」


ヒロ「わかる? 秋葉原で買ってきたんだ」


リナはTVなどで見覚えのある、電子機器を手にした。


リナ「スタンガン・・・」


ニコッと笑ってみせるヒロ。


ヒロ「そ。使い方は簡単だ。シェイバーと同じだからな。ははは」


相変わらず、くだらない事を言うヒロ。そのくだらない事さえもしばらく聞けなくなるかと思うと、寂しさが募るリナ。


リナ「彼氏からのプレゼントがスタンガン・・・?」


複雑な表情を浮かべたリナは、眉をひそめたままスタンガンを握りしめた。


ヒロ「はは。俺がいない間、もし何か怪しいヤツが襲ってきたら・・・

    迷わずスタンガンを突き刺せよ」


リナ「う、うん・・・」


元気ない言葉の後、リナは大きなため息をついた。


ヒロ「おいおい・・・ そんな顔するなよ。

    イギリスに帰れないじゃないか」


リナ「 ・・・ 」


相変わらず沈みがちなリナの表情を見て、ヒロは心が締め付けられる。しばらくリナを見つめた後、静かに頬にキスをした。


ヒロ「さ。玄関まで送ってくれ。しばらく会えないんだ。笑顔で送ってくれよ」


キスされた頬を触りながら、静かにリナはヒロの目を見つめた。


リナ「ヒロ先生・・・ 私ね・・・」


ヒロ「うん?」


リナ「私ね・・・  ヒロ先生の事が好きなの・・・」


ヒロ「・・・ ・・・」


ヒロの胸を何かが突き刺す。


ヒロがリナの彼氏になる前・・・ リナはこれでもかというぐらい、積極的に迫ってくる女の子だった。しかし彼氏になってからは(ヒロにとっては名目だけだが)、完全にその積極性は消え・・・


ヒロ「・・・ ・・・」


リナの女性としての魅力が日を追う事に増している・・・ヒロはそう感じていた。そしてそのリナの変化は、ヒロの心の変化も・・・もたらしていた。


玄関先でヒロは再びリナの頬にキスをする。


ヒロ「じゃぁ・・・ 元気でな」


リナにつられて、ヒロも少しばかり寂しい表情を浮かべていた。


リナ「うん。早く帰ってきてね」


ヒロ「あぁ。すぐリナに会いに戻るさ」


ふとリナの頬からこぼれる一筋の涙。


ヒロ「・・・ ・・・」


リナの涙をぬぐったヒロは、笑顔のまま羽鳥邸を後にした。夜空を見上げると、雨が蕭々(しょうしょう)と降っている。


ヒロ「・・・ ・・・」


傘もささず、雨にうたれるヒロ。


ヒロ「女の涙・・・ か・・・」



・・・ ・・・。


2008年12月4日(木)、午後2時45分。


先日からの雨は大降りになり、時折雷鳴がとどろく。


リナ「え!? 補講・・・ですか!?」


江口「あぁ。明日の放課後だ」


午後の英語の授業終了後、リナは江口に呼び出されていた。


リナ「そんな、急に・・・」


江口「君は中間テストで、英語の成績がすこぶる悪かった。

    来週から始まる期末テストに向けての補講だ。


    むしろ感謝してほしいぐらいだぞ」


リナ「・・・ ・・・」


確かに英語の成績は悪い。文句を言える立場ではない事も、よくわかっている。


前日は彼氏としばしの別れで落ち込んだばかり・・・

その上嫌いな英語の、嫌いな先生の補講を受けろと言われれば・・・


沈んでいた心が、さらに沈んでしまうというもの。


リナ「わかりました・・・」


うまくいかないときは何をやってもうまくいかない・・・。そう自分に言い聞かせ、翌日の補講に出席する事をしぶしぶと返事した。



・・・ ・・・。


リナ「そう言うわけで安田さん。明日は英語の補講があるから・・・。

    終わったら連絡するね」


学校から自宅へ戻る車の中で、リナは浮かない顔をしながら安田に告げていた。安田はバックミラー越しにリナの暗い表情を見る。


安田「かしこまりました。

    では、明日はリナお嬢様の連絡をお待ちしております」


静かにアクセルを踏み込み、2人の乗る車は羽鳥邸へと向かって行った。


車の中から、外の大雨を覗き込むリナ。


(リナ「ヒロ先生・・・ 今、どこらへんにいるのかな・・・?」)



・・・ ・・・。


2008年12月5日(金)、午後7時。


リナの父親・魁斗は自宅のキッチンで、食卓についていた。


魁斗はほぼ毎日、深夜近くまで自社で働いている。しかし午後7時~8時の間は自宅に戻り、娘と夕食をとることにしていた。


魁斗「なんだ? 今日はリナはいないのか?」


暖かいスープ皿を食卓に置きながら、家政婦の新城が口を開く。


新城「えぇ。なんでも今日は英語の補講で・・・。

    何時に終わるかわからないと・・・」


魁斗「そうか・・・今日は寂しいな」


リナを気にしながら、魁斗は静かにスープを口にした。



同日、午後8時10分。


14名の補講対象者に対して、江口は3時間にも及ぶ長い授業を終えた。もっとも電話の男に指示された通り、リナを8時まで学校に足止めしておくための補講だが。


江口「はい、今日はお疲れさん。

    土日は休みだが、もちろんテスト勉強をおこたらないように。


    英語の成績が悪かったらまた残すからな」


ようやく苦手な英語の補講を終えたリナは、思いっきり背伸びをして帰り支度をする。江口は疲れた表情を見せるリナに声をかけてきた。


江口「今日の授業は理解出来たかな?」


江口の顔が視界に入った瞬間、反射的に眉をひそめるリナ。


リナ「あ、はい・・・来週のテスト、頑張りますので・・・」


江口「帰りはどうするんだ? 送ろうか?」


その言葉に、リナの眉間にさらにしわがよった。


リナ「え? あ、今から迎えが来ますので・・・」


江口「そうか・・・。じゃぁ、まぁ・・気をつけて帰ってくれ」


電話の男が指示した通り・・・江口はリナを8時まで学校にとどめた。その後の事を全く聞いてないため、少しばかり不安になる。


江口「・・・ ・・・」


江口はリナが教室から出て行くのを、静かに見守っていた。



数ヶ月前、男は江口に電話をかけてきた。


虐待防止センターの者だと名乗ったその男は、当初羽鳥家の家庭内問題について話してきた。リナの親に虐待疑惑があるという内容だ。


男は江口に学校関係者として、隠密に羽鳥家を調査して欲しいという依頼をした。


虐待された生徒がいる・・・


連絡を受けた江口は男の依頼を受け、羽鳥リナに関して少しずつ情報を集める。自分の力で、生徒を救うことが出来れば・・・そういう思いだった。


ところが実際羽鳥家を調べてみると、リナの両親は誰に聞いても評判がよく、リナ本人ですら自慢の父親だと語っていた。


「羽鳥家は問題なし。調査を終える」


と報告したが・・・その男は、今しばらくの調査を要求。


男が言うには・・・リナの父親は非常に頭がよく、世間体を何よりも気にする人物。だから家庭内暴力については簡単にはおおやけにならないよう、用意周到に秘密を隠し続けているという。


男は調査の一環として、羽鳥邸の間取りや部屋数などのチェックを依頼。報酬として男は金を振り込むことを約束した。


実際江口が報告をする度に、自身の口座に数万円の振り込みがあった。そしてその振り込み金額は徐々に増えていき、江口はいつしか【生徒の心配】より【金の振り込み】が気になるようになっていた。


この日江口は、リナを学校に足止めした。男の言葉を信じれば、最後の依頼のはずだ。何故男は、リナの足止めを指示したのか・・・理由はわからない。


リナの身に、何か悪い事が起こりはしないか・・・?


そう案じた時もあったが・・・


それよりも江口の関心は、振り込まれるであろうお金の方にあった。



・・・ ・・・。


リナ「あ、安田さん? 今、どこ?」


校舎を出たところでリナは携帯をかけていた。


安田「今、お父様を会社に送り届けたところです」


羽鳥コーポレーションの駐車場に車を止め、リナからの電話に応じる安田。


リナ「今、補講終わったのよ。長かったわ・・・お迎えお願いね」


安田「かしこまりました。この雨ですので・・・

    渋滞が予想されます。今から40分程で着くと思います」


リナ「うん、待ってる。よろしくね」


リナは携帯を切った後、冬の夜空を見上げた。昨日からの大雨はまだ続いている。


リナ「ヤな天気・・・ 晴れればいいのに・・・」



・・・ ・・・。


午後8時半。


校舎内の電源は全て落とされ、真っ暗となった。今、学校で電気がついているのは校舎内1階の警備室、そして校舎外の外灯だけ。校舎の出入り口も全て施錠され、何者かが外から侵入すると警報がなるようセットされている。


補講を受けていた生徒、それに授業担当の江口もすでに学校から離れていた。学校に残っているのは校舎内の夜警と、校舎の外にいるリナの2人だけ。


夜警担当の警備員は、警備室の中で1人、TVを見ていた。

リナは校舎の外で雨宿りをしながら、寒さに耐えつつ安田を待っている。


数分後、校舎から40m程離れた駐車場に1台の車が止まった。大雨のせいで、リナはその車がよく見えない。


しかし校内に残っていた生徒は自分だけ。安田の車だろうと判断し、傘をさしながら車に向かって歩いて行った。


車に近づくと・・・いつもの白いハイブリッドカーではなく、真っ黒な車が止まっていた。ブラックウィンドウで、中の様子さえ見えない車だ。


(リナ「あれ? 安田さんかと思ったのに・・・」)


リナが勘違いを悟った時だった。



ガチャリ。


車のドアが開き、3人の男が出てきた。雨でよく見えないが、みな長身で体格がよさそうだ。


瞬間、ビカッと雷が光った。


そしてリナの目に、はっきりと男達の姿が映る。


男達はみな・・・ 


黒い覆面をしていた。目と口の所だけに小さな穴を開け露出させている。


よくドラマや映画で、銀行強盗がする格好だ。


リナ「な・・・・ なに・・・?」


男達は傘もささず、降りしきる雨の中、リナに向かって歩き出した。




             (第19話へ続く)

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次回予告


覆面男達がリナに手をかけようとした時・・・


ヒロが現れた。リナの手をひき、怪しい連中から逃げようとする。


しかし覆面男達は・・・武器を持って2人を校舎内に追い込んでゆく。



次回 「 第19話  応  戦 (2008年) 」

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