第138話 回 想(10)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナ。誘拐された妹を追って、1つ下の後輩・慎吾と共に実家へ戻る。誘拐犯が警視庁捜査官の藤岡だと突きとめるも、彼等のアジトで捕まってしまった。
しかし殺されたはずの魁斗が現れ、皆を救出。
藤岡の属する秘密組織【Unknown】は、全世界の人間を抹殺する恐ろしいテロを計画。慎吾は組織のTOP、グランドマスターを倒し・・・リナの守護霊がヒロであると告げた。
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第138話 回 想(10)
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~ 第124話「マリア・アンナ・モーツァルト」より ~
12月22日(土)、午前0時1分。東京タワー付近にある建物、地下150m。
宇宙線飛来まで・・・ あと1分。
リナ「も、もう・・・ いいの? 演奏しても・・・?」
いったん慎吾は、リナと反対側のピアノに座るリゼット・・・の守護霊であるマリアを見た。
慎吾「・・・ ・・・」
(マリア「準備は整っています。
彼女が弾けば・・・合わせてこちらが弾きます」)
日本人ではないマリアだが・・・彼女の言わんとしている事は、直接慎吾の頭に入ってくる。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾は深く頷き・・・再びリナに視線を合わせた。
慎吾「えぇ。リナ先輩が弾き始めたら・・・
マリアさんが合わせるそうです」
リナ「わかった・・・」
慎吾の横で、魁斗と安田がヒソヒソと話す。
魁斗「慎吾君は・・・ その・・・ モーツァルトが見えている?」
安田「みたいですね・・・ モーツァルトの姉だとか・・・?」
2人の男達は今一度リゼットの方を見るが・・・ 慎吾の言う女性・マリアは見えない。
魁斗「・・・ ・・・」
安田「・・・ ・・・」
首をかしげながらも、慎吾の指示通り・・・魁斗と安田はリナのピアノ音声を拾うため、マイクとPCを繋げてキーボードを打つ準備をした。
ポーン・・・
リナがピアノを演奏し始めた。
マリア「・・・ ・・・」
音を聞いたとたん、マリアの目が厳しくつり上がる。
ビャララーン!!
リナに続くように、リゼットの体を借りたマリアが演奏を始める。
慎吾「・・・ ・・・」
リナがゆったりと演奏しているのに対し、リゼット・・・いや、マリアの演奏は目にも止まらぬ速さで鍵盤を叩き続ける。2人の演奏が合わさり・・・ 単純な音だが・・・美しいメロディが部屋中を満たした。
魁斗「・・・ ・・・」
雛子「・・・ ・・・」
父親も妹も・・・リナの演奏に聴き入った。
リナとマリアの演奏は・・・マイクを経由して光回線を伝っていく。日本国内のみならず、世界中の通信回線を通し、あらゆるメディアに配信された。
リナ「・・・ ・・・」
不思議だった。確かに数分前、この曲を1度演奏はした。
リナ「・・・ ・・・」
しかし数字を覚えるのが得意なリナでも、楽譜はそうではない。たった1度しか弾いてない、しかもスコア(楽譜)がない状況で・・・
(リナ「完璧に演奏できている・・・」)
慎吾の言う、モーツァルトの姉・マリアと・・・完全にシンクロした状態で演奏を続けている。
(ヒロ「・・・ ・・・」)
リナの手を使い・・・ヒロが鍵盤を叩いている。ヒロとリナもまたシンクロして演奏しているのだが・・・リナは気づかない。
そして・・・
リナ「気持ちいい・・・」
演奏しながら、思わず本音が出た。ずっとこわばっていた表情が、少しずつ和らぎ・・・いつしか笑顔になっているリナ。
(リナ「これなら・・・ 1時間でも弾き続けられる・・・」)
(マリア「・・・ ・・・」)
ピアノを弾くマリアの表情が若干険しくなった。
(ヒロ「・・・ ・・・」)
そしてヒロも。
(ヒロ「・・・ 危険が・・・ 迫っている・・・」)
リナとは対照的に・・・ヒロとマリアはこれから起こりうるであろう危険を察知する。
(ヒロ「・・・ ・・・」)
演奏に集中しつつも、数分後に現れるであろうあの男に対し・・・どうすべきか策を講じ始めた。
・・・ ・・・。
数分後。
バタン!!
突然部屋のドアが開いた。
慎吾「 !? 」
魁斗「 !? 」
一斉に男達がドアの方を向くと・・・
安田「グ・・・ グランドマスター!?」
青い眼、スキンヘッド・・・左手に杖をついたグランドマスターが、青白い球体に包まれて現れた。
老人「集結せし、光の者達よ・・・」
グランドマスターの視線は、慎吾・ヒロ・マリアを捉える。
(ヒロ「ミスターシンゴ!!」)
演奏を続けつつ、ヒロが慎吾に声をかけた。
右手を強く握りしめたグランドマスターは・・・
老人「奔!!」
その右手を勢いよく前に押し出す。すると右手から、直径30cmほどの光の球体が表れ・・・勢いよく真っ直ぐに放たれた。その先には・・・
(ヒロ「狙いはマリアだ! 守れ!!」)
リゼットがいる。
慎吾「唵!!」
いち早く反応したのは慎吾。直径2mの大きな光の円盤をパワーストーンから出現させ、グランドマスターの手から放たれた光の塊をはじき飛ばす。
老人「・・・。お前のような者が、まだ残っていたとは・・・」
慎吾を睨み付けたグランドマスターは、部屋の中へゆっくりと入ってきた。
・・・ ・・・。
~ 第125話「霊能バトル」より ~
12月22日(土)、午前0時6分。東京タワー付近にある建物、地下150m。
グランドマスターの攻撃により、リゼットの体に乗り移っていたマリアがやられてしまう。そして慎吾達は・・・高エネルギーの宇宙線を浴びてしまった。
マリア「大丈夫・・・ 未来はまだ、あなた【達】の手に・・・」
その姿を崩す直前、最期の言葉を遺した。
(ヒロ「マリア・・・」)
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾はその言葉を受け取る。
グランドマスターもまた、その様子を見守り・・・マリアが完全に消えた後、慎吾に視線を合わせた。
老人「ふっふっふ。シールドをしいてないようだな。
宇宙線はすでにお前達の体を貫いた。
30分程で症状が出る・・・そして死に至る」
慎吾はグランドマスターに向かって身構えた。
老人「すでに日本のほぼ全域も・・・ 宇宙線は降り注いでいる。
1時間で日本は・・・ 壊滅的な状態に陥る」
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾はリナの方に視線を合わせる。
(ヒロ「まだだ。宇宙線を浴びてしまったが・・・
助かる道はまだある!!」)
リナ「・・・ ・・・?」
ピアノを盾にするように、身を低くし・・・グランドマスターと慎吾の方を見ているリナ。慎吾は無言で自分の方を向いたままだ。
(ヒロ「あの楽譜には・・・もう1つの曲が隠されている。
それを演奏すれば、みな助かる。
そのためには・・・」)
グランドマスターを睨み付けたヒロ。
(ヒロ「倒すべきヤツを倒さないとな・・・」)
慎吾「わかりました・・・」
リナの方を見て深く頷いた慎吾は、グランドマスターの方へ視線を合わせる。
慎吾「まだ・・・ 終わりじゃない。皆が助かる道は・・・ある・・・」
老人「・・・ ・・・」
慎吾「宇宙線を浴びても・・・助かる方法がある。
そしてあなた【も】・・・それを知っている・・・」
グランドマスターもまた、ヒロの姿を見る事が出来れば・・・その声を聞くことも出来る。
老人「ふっ。面白い。余の考えをよんだつもりか?
仮にお前が言う事が正しいとしても・・・
その方法を実行するには・・・」
慎吾「あなたを倒す・・・」
老人「・・・ ・・・」
こうして・・・2人の男による霊能バトルが始まる。グランドマスターに押され気味の慎吾を見ていたリナは、慎吾のサポートに回ろうとするが・・・
リナ「ぐ!?」
腹部に強烈な衝撃がはしる。同時に、体が今来た方向へと吹っ飛ばされた。
リナ「くあ・・・」
グランドマスターの攻撃を予想してよけたつもりが、あちらはリナがよける事まで計算に入れて攻撃していた。
魁斗「リナ!!」
フロアを滑ってきたリナの体を受け止める。
リナ「う・・・ う~ん・・・」
最初グランドマスターにこの攻撃を受けた時と同様・・・リナは気を失う。
いや・・・
魁斗「・・・ リナ?」
リナの目が半開きになり・・・ 白目をむく。
リナ「・・・ ・・・」
(ヒロ「・・・ ・・・」)
意識を失ったリナは、霊能力なるものを全く持っていない。それゆえヒロがリナの体に乗り移ることはほぼ不可能だが・・・
今はリナの命が危ない。ヒロは守護霊として・・・無理矢理リナの体に乗り移ることを試みた。
(ヒロ「リナ・・・ 守って・・・ みせる・・・」)
そして・・・
意識があるのかないのか・・・リナは立ち上がり・・・ピアノの前に座った。
魁斗「な・・・ 何を・・・?」
魁斗には何が起こっているのかわからないが・・・
(ヒロ「・・・ ・・・」)
リナの体を操るヒロは・・・慎吾を殺そうとしているグランドマスターを睨み付ける。
・・・ ・・・。
慎吾「・・・ ・・・」
右手のパワーストーンからはすでに光の剣が消えている。そして胸を押さえつけたまま慎吾は・・・フロアに尻をついた。
慎吾「ハ・・・ ハア・・・ カハ・・・」
老人「苦しそうだな。楽に死なせてやる!」
左手の杖を包み込むような円月刀が・・・ 慎吾の真上に振り上げられた。
瞬間・・・
ビャラーーン!!!
老人「ぐぅ!?」
円月刀を振り上げたグランドマスターの、左脇腹を激痛が襲う。
その左方向に視線を移すと・・・
(ヒロ「・・・ ・・・」 )
白目をむき、青白いオーラに包まれたリナの姿があった。
老人「・・・ ・・・」
いや、リナの体を借りたヒロの姿があった。
老人「・・・ ・・・」
グランドマスターは脇腹を押さえながら・・・ヒロを睨み付ける。
老人「ふん・・・」
そして慎吾からリナの方へと、体も反転させた。
老人「どちらが本当の・・・【アロンのメシア】なのか・・・
わからせてやろう・・・」
慎吾「ハァ・・・ カ・・・ ハァ・・・」
慎吾もリナの方を見た。
リナ「・・・ ・・・」
(ヒロ「・・・ ・・・」)
(慎吾「ヒロさん・・・」)
青い眼のヒロが、リナの体を操っているのがわかる。
リナ「・・・ ・・・」
(ヒロ「いくぞ・・・」)
リナの体を操るヒロは・・・ 両手を真上にあげたかと思うと、勢いよくグランドピアノの鍵盤に振り下ろした。
(第139話へ続く)
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次回 「 第139話 回 想(11) 」
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