第136話 回 想(8)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナ。誘拐された妹を追って、1つ下の後輩・慎吾と共に実家へ戻る。誘拐犯が警視庁捜査官の藤岡だと突きとめるも、彼等のアジトで捕まってしまった。
しかし殺されたはずの魁斗が現れ、皆を救出。
藤岡の属する秘密組織【Unknown】は、全世界の人間を抹殺する恐ろしいテロを計画。慎吾は組織のTOP、グランドマスターを倒し・・・リナの守護霊がヒロであると告げた。
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第136話 回 想(8)
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~ 第114話「リナとグランドマスター」より ~
12月21日(金)、21時31分。東京農工大、地下施設。
再び雛子が藤岡に捕まってしまった。魁斗と安田は、藤岡に指示された東京タワーへと向かう。一方、大学の地下施設に一人残ったリナは・・・突然現れたグランドマスターに戸惑いを隠せない。
スキンヘッドの老人、グランドマスター。
老人「・・・ ・・・」
その青い眼は、リナを直視し続けている。
リナ「・・・ ・・・」
その視線に吸い込まれるように・・・リナは身動き1つ出来ないでいた。
老人「余の事を知っている・・・ ようだな・・・」
部屋の奥を見ると、大きなディスプレイに自分と藤岡の姿が映っている。
老人「なるほど・・・ 父親の仕業か・・・」
リナ「・・・ ・・・」
老人「そんな事よりも・・・」
グランドマスターは、霊を直接見る力を持っている。その青い眼がいっそう青くなったかと思うと・・・リナの背後に立つヒロ・ハーグリーブスの顔を見つめた。
老人「・・・ ・・・」
そして驚きの表情を浮かべる。
(ヒロ「・・・ ・・・」)
ヒロもまた、グランドマスターをじっと睨み付けた。
老人「・・・ ・・・」
青い眼を持つ2人の男はにらみ合う。
老人「安田と名乗る男を泳がせ、追ってきてみれば・・・
まさか、お前に出会おうとは・・・」
自分と同じクムランの末裔・・・グランドマスターはそう直感した。
老人「余の予知能力をもってしても、見えなかったわけだ・・・」
同じ青い眼である事・・・そしてリナを守護している事。
(老人「そして・・・神の耳を持つ男・・・。
【アロンのメシア】というわけか・・・」)
リナ「 ? 」
グランドマスターの視線が、微妙に自分とズレているのを感じる。
老人「日本の諺にある・・・【事実は小説よりも奇なり】。
まさにそれだ・・・」
そう言うとリナの方へゆっくりと歩いてきた。
(リナ「・・・ う、動かなきゃ・・・」)
このままでは危険だと解っているのに・・・金縛りにあったように体が動かない。
老人「お前を殺す・・・」
(ヒロ「・・・ ・・・」)
ヒロがすごい形相でグランドマスターを睨み付ける。
リナ「・・・ ・・・」
青い眼から視線をそらす事が出来ず、グランドマスターとの距離が縮まってゆく。
老人「つもりだったが・・・ 予期せぬ出会い・・・」
(リナ「な・・・何を言ってるの・・・?」)
リナは瞬きと同時に、青い眼から視線をそらした。すぐに奥の部屋へ行こうとするが・・・
老人「行き止まりだぞ。その部屋は・・・」
グランドマスターは、部屋の奥が見えているかのように声をかけてきた。それでもリナは部屋へ入り・・・中央のテーブルに置いてあった銃型スタンガンを手にする。そして部屋の入り口に銃口を向けた。
リナ「・・・ ・・・」
しばらくの沈黙の後・・・ 入り口からゆっくりとグランドマスターが現れる。それを確認すると・・・リナは、迷わずその男に向けて引き金を引いた。
老人「無駄な事を・・・」
老人はリナの方へ左手を広げると・・・ スタンガンから放たれた高圧電流を帯びた銃弾がピタリと空中で止まる。
リナ「な・・・」
そしてその銃弾は、重力に従ってフロアに落ちた。
老人「クムランの力を知らぬ若き娘よ。いや・・・」
今度は右手の平をリナに向けた。
(ヒロ「・・・ ・・・」)
そしてリナの守護霊ヒロを睨み付ける。
老人「光の者よ・・・」
(ヒロ「リナ!!」)
どうする事も出来ないヒロ。グランドマスターは手のひらに何かを流し込む。
老人「奔!!」
(ヒロ「リナ! よけろ!!」)
その手のひらを押し出すと・・・リナの土手っ腹に、強い衝撃が走った。
リナ「ぐぅ・・・」
そのまま真後ろに吹っ飛ぶリナ。かつて似たような攻撃を受けた事がある。
(リナ「こ・・・ これは・・・ 江浜氏の霊能力と同じ・・・」)
3mも後ろに飛ばされたリナ。本棚に背中を強打し、そのままうつぶせに倒れる。
リナ「ハァ・・・ ハァ・・・」
意識が遠のきそうだが・・・ ここで気を失っては・・・
老人「【殺される】。そう思っているようだが・・・安心しろ。
今は殺さない・・・」
(ヒロ「・・・ ・・・」)
何も出来ずヒロは・・・ リナが倒され、拉致される様を見続けていた。
老人「くっくっく・・・。力を持たぬ者を守護するのは・・・
難儀な事のよう・・・」
グランドマスターは、気絶したリナの横に立つヒロに声をかける。
老人「【アロンのメシア】よ・・・。
我々の計画を・・・呆然と見届けるがよい・・・」
(ヒロ「・・・ ・・・」)
・・・ ・・・。
~ 第115話「魁斗と藤岡」より ~
12月21日(金)、21時56分。都内某所。
1台のロールスロイスが、4人の人物を乗せて走っている。
リナ「ん・・・」
その後部座席で横になっていたリナ。振動で目を覚ます。
リナ「・・・ ・・・」
目を開くが、視界はぼやけたまま。
老人「ほぅ。あと1時間は目を覚まさないと思っていたが・・・」
リナ「 !? 」
ロールスロイス後部座席。リナは目の前に向かい合うように座るグランドマスターの姿を見た。
リナ「・・・ ・・・」
何かアクションを起こそうとするが・・・手足がしびれて、思うように動かせない。
老人「余の攻撃を直接くらったんだ。
そうは動けまい・・・」
小さな笑みを浮かべながら、リナに視線を合わせる。
リナ「・・・ ・・・」
リナもまた、目の前の男に視線を合わせる事しかできない。
老人「新世界に向かっている・・・」
リナ「・・・ ・・・」
老人「【何故、私を連れ去るのか・・・】
その疑問に、納得いく答えを与えるには・・・
いささか時間が必要だ」
リナ「・・・ ・・・」
老人「そうだ。もっとも【霊能力】という言葉は・・・
お前達の言葉だがな・・・」
リナは無言だったが・・・ 頭の中で思う事が、全てグランドマスターには筒抜けだった。
老人「お前が連れ去られたのは・・・
全ての運命を握っているからだ」
(ヒロ「・・・ ・・・」)
グランドマスターは、リナの背後に立つヒロに視線を合わせる。
(リナ「私が・・・? 全ての運命を握っている・・・?」)
もちろんリナは・・・ヒロの存在を知らないまま。
老人「ユダヤの事は・・・ 知っているか?」
グランドマスターは、唐突に質問してきた。
(リナ「ユダヤ? ナチスの・・・ユダヤ人迫害・・・?」
老人「その程度か・・・
ポグロムや歴史的冤罪の話など・・・ 知らぬか・・・」
リナ「・・・ ・・・」
理数系にはめっぽう強いリナだが・・・ 歴史や政治経済など社会系の教科は大の苦手だ。
老人「よかろう。小学生相手と思い・・・端的に話してやろう。
我々ユダヤの民は、過去多くの迫害を受けてきた。
イスラエル共和国も・・・未だに多くの問題を抱えている」
(リナ「なんで・・・ そんな話を・・・」)
老人「お前は知る必要があるからだ。
【わたしはシオンに帰り、エルサレムのただ中に住もう】
旧約聖書にある言葉だ。余は、それを実現する」
(ヒロ「・・・ ・・・」)
(リナ「意味が・・・ わかんない・・・」)
老人「羽鳥家の人間は優秀と聞いていたが・・・」
グランドマスターは、ふ~っと溜息をつく。
老人「わかった。こう言えば通じるだろう。
多くのユダヤ人と一部の優秀な人間を残し、全てを滅ぼす。
先祖が夢見ていた・・・我々による新世界を建国するのだ。
それが我々の望み・・・」
リナ「・・・ 結局、ただのテロリストってわけね・・・」
(ヒロ「その通りだ・・・」)
リナは初めて声を出した。
老人「何と言われようと・・・ 構わぬ。
そして我々の前に立ちはだかるのが・・・お前達・・・」
リナ「・・・ だとしたら・・・ 邪魔者の私を・・・
な、何故殺そうとしない・・・?」
それを聞いたグランドマスターは、ニヤリと笑う。
老人「モーツァルトを・・・ 聞きたいからだ・・・」
(ヒロ「・・・ ・・・」)
リナ「・・・ ?」
まともなのか、それとも・・・
(リナ「この爺さん・・・ 頭がおかしいの・・・?」)
老人「おかしくはない。会話の論点が・・・掴めてないのはお前の方。
それはお前が・・・ 1つの大きな事実を知らないからだ」
リナ「事実・・・?」
老人「モーツァルト・・・」
(ヒロ「貴様・・・」)
グランドマスターとヒロはにらみ合う。
リナ「 ? モーツァルト?」
老人「あぁ、モーツァルトだ。好きか?」
リナ「・・・ ・・・ えぇ・・・」
老人「アウシュビッツで・・・
我が同胞が、死にゆく前に聞いたのが・・・モーツァルトだった。
そして今度は・・・ その逆・・・」
リナ「・・・ ・・・」
グランドマスターの青い眼は、リナに視線を合わせながらも・・・別の何かを見ているように感じられた。
そう・・・
グランドマスターは、ヒロを見ながら小さく笑っていた。
・・・ ・・・。
~ 第118話「電波ジャック」より ~
12月21日(金)、23時9分。東京タワー付近にある建物。地下150m。
とある部屋に通されたリナ。そこはミニドームのようになっており、真ん中に小さなステージがある。そしてそのステージには・・・グランドピアノが2台あった。
リナ「スタインウェイ・・・」
老人「【神々の楽器】・・・。 そう言われている」
そう言うとグランドマスターは、ピアノの上にあった1枚の楽譜をリナに渡した。
リナ「・・・ モーツァルト?」
楽譜の1ページ目・・・右上に【Mozart】と書かれているのが見える。
老人「2週間ほど前だ。オーストリアのリゼットという女性に・・・
モーツァルトの霊が乗りうつった。
その女性はピアノなど触った事無いのに・・・
突然ピアノを流暢に引き出したという」
リナ「・・・ ・・・」
グランドマスターは不気味に語り始めた。
老人「その女性が書いたスコアだ・・・」
グランドマスターはずっとヒロを睨み付けている。
(ヒロ「・・・ マリア・・・ 」)
老人「・・・ ・・・」
そして小さく笑った。
・・・ ・・・。
~ 第119話「光と闇の戦い」より ~
12月21日(金)、23時16分。東京タワー付近にある建物。地下150m。
老人「すでに両大学のDATAは破棄した。
そのモーツァルトやらが書いた楽譜は・・・今やこれ1つ。
現代に現れたモーツァルトの・・・唯一無二の楽譜・・・」
(ヒロ「嘘をついている・・・。若干声が上ずっている・・・」)
リナの考えている事をよめるグランドマスターだが・・・同じクムランの末裔であるヒロの考えをよむ事はできない。
(ヒロ「胸ポケットか・・・。もう1枚楽譜がある・・・」)
リナ「その楽譜が・・・ いったい、何だっていうの・・・」
老人「くっくっく。無知は罪。この楽譜こそ・・・
世界を救える、唯一の物だ」
リナ「・・・ ・・・」
そう言われても、ピンとこない。そんなリナに・・・グランドマスターは楽譜を広げて渡した。
老人「弾け・・・」
リナ「・・・ ・・・」
渡された楽譜を見てみると・・・
(リナ「このレベルなら・・・ 初見でも弾ける・・・」)
難しい技巧など必要無い・・・言ってみれば、初心者用の楽譜に見えた。
老人「ふっ。初見で弾けるのなら・・・ 弾いて貰おう」
リナ「・・・ ・・・」
老人「旧世界最後の・・・ モーツァルトだ・・・」
(ヒロ「そうは・・・させない・・・」)
2人の男はにらみ合ったままだった。
(第137話へ続く)
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次回 「 第137話 回 想(9) 」
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