第119話 光と闇の戦い
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナ。誘拐された妹を追って、1つ下の後輩・慎吾と共に実家へ戻る。誘拐犯が警視庁捜査官の藤岡だと突きとめるも、彼等のアジトで捕まってしまった。
しかし殺されたはずの魁斗が現れ、皆を救出。
藤岡の属する秘密組織【Unknown】。彼等は、地球上の人間のほとんどを抹殺する、恐ろしい計画を遂行しようとしていた。
再び敵の手に捕まった雛子を、何とか慎吾が救い出す。
一方リナは突然現れたグランドマスターに捕まり、新世界の入り口へと連れていかれ・・・モーツァルトの楽譜を見せられた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第119話 光と闇の戦い
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2012年12月21日(金)、午後11時12分。東京タワー、放送機械室。
(宇宙線が地球に飛来するまで・・・残り50分)
慎吾「 !? 」
ソファに寝ていた慎吾が急に飛び起きた。
慎吾「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
雛子「・・・ ちょっと・・・」
ずっと慎吾の横にいた雛子。
雛子「無理しないで寝てなさいよ。
また心臓止まるわよ・・・」
ツインテールの両端を握りながら・・・ 心配そうに声をかけている。
慎吾「・・・ ・・・」
雛子を無視して、辺りを見渡す。そして隣のソファで寝ている・・・外国人女性を見つけた。
慎吾「・・・ ・・・」
この時、慎吾は初めてその女性を目にした。
雛子「ちょっと・・・」
しばらく女性を見つめた後・・・
慎吾「時間は・・・ 今の時間は・・・?」
会話を無視して、雛子に声をかける。
雛子「・・・ 11時13分だけど・・・」
父親のいる部屋の方を見て、時計を確認した雛子。
慎吾「い、1時間をきってる・・・ 急がなきゃ・・・」
体を起こし、ベッドから降りる慎吾。しかし・・・立ちくらみで体がよろけた。
雛子「あぶ・・・」
反射的に雛子が、慎吾の体を支える。
雛子「あんたさぁ・・・ 絶対今、動くの無理だって・・・
ゆっくり寝てなさいよ」
慎吾「だ、ダメです。時間がないんです・・・」
そう言うと慎吾は、胸を抑えながら魁斗達のいる部屋へ歩いて行く。
雛子「・・・ ・・・」
雛子は無言で、慎吾の体を支えるように・・・ 共に歩いていった。
隣の部屋に行くと・・・魁斗と安田が数台あるTVのモニター画面を見ている。
慎吾「リナ先輩の・・・ お父さん・・・」
大声を出すと心臓に響くため、小さな声をかけた。気づいた魁斗が振り返る。
魁斗「慎吾君・・・ 起きてきて大丈夫か?」
隣で娘が肩を抱いているのを見て、心配になった。
慎吾「えぇ・・・ その・・・
テロ計画は・・・?」
魁斗「あぁ。彼等がジャックする予定だった人工衛星は・・・
こちらが制御した。
NASAからの指令を間接的に伝えたから・・・
もう危険はないはずだ・・・」
慎吾「い、いえ・・・ まだです・・・」
魁斗「まだ?」
言いながら慎吾は、どのTV画面も同じ映像である事に気づく。映像では・・・グランドマスターが演説をしていた。
慎吾「こ、この映像・・・ 放送局は違いますよね?」
ユダヤ迫害の歴史を語り、そして・・・
老人「バチカンが必死に公開を阻止してきた・・・ その内容・・・
隠された真実。今こそ、それを告げようではないか・・・」
数時間前の式典と語っている事は同じ。いや・・・
老人「その炎の矢は・・・ 宇宙から降り注ぐ。
それは洪水のように24時間、降り注ぎ・・・
その全ては、地球上のあらゆる生き物を突き刺すもの・・・」
慎吾「式典と全く同じ・・・ヤツですね・・・」
魁斗「あぁ・・・ ライブではない。録画映像だ」
安田「しかし・・・ 何故、今この映像を・・・?」
人工衛星ジャックは止めた。宇宙線は無害のまま地球に降り注ぐはずだが・・・
(慎吾「まだ何か・・・ あるはずなのに・・・」)
映像を見ても、その【何か】がわからない。
雛子「・・・ ・・・」
3人の男の後ろにいた雛子。眉をひそめて、その映像を見ている。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾はじっとその映像を見つめていたが・・・
雛子「気分悪・・・」
後ろで雛子が呟き、部屋の奥へ消えた。
慎吾「・・・ ・・・」
雛子を一瞬気にしたものの・・・再び映像を見つめる慎吾。
(慎吾「何か・・・ 何かがあるはずだけど・・・」)
藤岡が出てきて、高エネルギー宇宙線の話をし始めた。
安田「こんな話をしたら・・・ 見ている人が不安に・・・」
魁斗「あぁ。電波ジャックを止めようと・・・
警察やTV局が動いているはずだが・・・」
どの局も同じ映像が流れ続けている。
雛子「ねぇ。それさ・・・ 気分悪くなるんだけど・・・」
慎吾「え?」
奥に行ったはずの雛子が戻ってきた。
雛子「なんていうか・・・ 音を聞くだけで、気分悪くなるのよね・・・
耳鳴りがするみたいな・・・頭痛がするみたいな・・・」
魁斗「音?」
慎吾「お・・・ と・・・?」
いち早く反応した魁斗が、自分のノートPCを操作し始める。
魁斗「・・・ ・・・」
魁斗が行っているのは・・・ 音声分析。いくつかの数字の列と、何らかの波形グラフを、ディスプレイに表示させた。
(魁斗「周波数・・・」)
さらにキーボードを打ち続け・・・
魁斗「超低周波音だ・・・」
安田「超低周波音?」
慎吾「な、何ですか・・・ それは?」
魁斗「人間は耳で感じ取れる音・・・その周波数が決まっている。
20から2万ヘルツ。20ヘルツ以下の音は・・・
人間の耳では聞き取れない・・・それが超低周波音」
慎吾「そ、それで・・・ 何かが起こるんですか・・・?」
魁斗「超低周波音は、聞き取れなくても・・・
人の体に害をおよぼすといわれている。
稀にそれを敏感に感じ取る人が・・・すぐに体調を崩すらしいが」
慎吾「モ、モスキート音みたいなものですか?」
以前、若者にしか聞こえない音があるというのを思い出した慎吾。
魁斗「違う。モスキート音は1万7000ヘルツに近い音。
年齢と共に、聞こえる周波数域が落ちて行く・・・1つのライン。
超低周波音は、波長が長くて・・・」
喋りながら・・・突然魁斗の表情が青ざめる。
安田「ど、どうしました・・・?」
魁斗「波長が長い波は・・・ 遠くまで届くんだ・・・」
瞬間、慎吾の表情も青ざめた。
慎吾「ま、まさか・・・」
そして、まだある【何か】に・・・・ 気づく。
慎吾「その音が・・・ 宇宙線にあたると・・・ 殺人光線になる?」
安田「・・・ ・・・」
安田も事態を理解した。
魁斗「急いで・・・ 電波ジャックを止めねば!!」
人工衛星の制御権を敵に渡さなかった事で安心していた魁斗。慌ててキーボードを操作し始める。
魁斗「安田! スカイツリーだ!
そちらに軍事衛星の通信コードを渡す。
東京スカイツリー周辺で、怪しい動きを見せる者がいないか・・・
すぐに捜すんだ!」
安田「わかりました・・・」
魁斗「まさか・・・ 第2の計画もあったとは・・・」
敵のテロ計画を止めたと思っていた自分を、情けなく思う。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾はポケットに入っていたパワーストーンを取りだし・・・奥の部屋に戻った。
雛子「・・・ ・・・」
気分悪そうな雛子の前を通り過ぎ・・・
オーストリア人女性・リゼットの前に来る。彼女はソファの上でずっと寝たまま・・・いや、眠らされたままだ。
慎吾「・・・ ・・・」
パワーストーンに意識を集中すると・・・ 彼女に乗りうつった霊がはっきりと見えた。
慎吾「僕は・・・ どうすれば・・・?」
そしてその霊に語りかける慎吾。
その霊は・・・ 慎吾の進むべき道を示した。
・・・ ・・・。
午後11時13分。東京タワー東側、とある建物の地下150m。
老人「光の者と、闇の者・・・過去6度に渡り、戦ってきた」
2台あるグランドピアノの1つに、グランドマスターは座る。そして右手に握った杖を、コンと床下にたたきつけ・・・ 続けて語り出した。
老人「それぞれ・・・言うなれば3勝3敗。
14世紀のペスト大流行。18世紀フランス革命。
そして・・・第一次世界大戦。
闇の者が勝つ時、多くの血が流れてきた・・・」
リナ「・・・ ・・・」
グランドマスターから1m程離れた場所で、リナは立ったまま話を聞いている。リナの背後には、大男が2人立っていた。相変わらず懐に手を入れ・・・ いつでも、発砲できるといった様子だ。
老人「一方、光の者の勝利は・・・多く血が流れるのを止めてきた。
その1つが・・・1791年。
フランス革命に乗じて、闇の者は多くの人を葬る計画を立てた。
しかし・・・光の者はそれを止めてみせた・・・」
グランドマスターはモーツァルトの楽譜を取り上げ、おもむろにそれを見る。
老人「フランス革命・・・
ナポレオン戦争も含めれば犠牲者は約500万人。
だが闇の者の計画が実行されれば・・・その4倍。
2000万人が死んでいた」
※ 16世紀~第1次世界大戦以前の戦争・紛争の中では最も死者数が多い。
14世紀ペスト大流行による死者数は、推定2~3000万。
第1次世界大戦では、2600万の死者数がいると言われている。
老人「その計画を止めたのが・・・」
楽譜をリナの前に差し出した。
老人「光の者・・・ モーツァルトだ」
リナ「モーツァルト・・・?」
老人「【魔笛】は・・・ 知っているな?」
リナは無言で、静かに頷いた。
グランドマスターによれば・・・ モーツァルトはフリーメーソンのメンバー。
1773年、ウィーンに滞在していたモーツァルトは、トビアスという男を通じてフリーメーソンの存在を知る。そして1784年12月に入会したという。
老人「後でわかった事だが・・・ モーツァルトは光の者だった・・・」
フランス革命に乗じて、当時のフリーメーソンは主要都市で、大規模な反乱を計画。多くの人々を殺し、世界の表舞台に君臨するための作戦を綿密に練っていたという。
老人「当時の・・・闇の者が中心になってな・・・」
しかし・・・
その計画を阻止しようとする者が現れた。
老人「それが・・・ モーツァルト」
ヨーロッパ各地に散らばったフリーメーソン。彼らの大規模な計画を止める為に選んだのが・・・作品ナンバー「K.620」の【魔笛】だった。
【魔笛】で描かれているストーリーは、フリーメーソンの世界観を模しており・・・さらに作中には、フリーメーソンの秘密の儀礼・・・密儀がたくさん盛り込まれている。
フリーメーソン・・・英語では【secret society】。内部で行われる儀式や、メンバーが実践する儀礼はもちろん非公開。そしてメンバーはそれらを守秘する義務がある。
その禁忌を破り、モーツァルトはフリーメーソンの多くの秘密を【魔笛】を通して、公にした。
【魔笛】はヨーロッパ各地で公演を重ね・・・一般大衆に大人気となる。それと同時に、このオペラがフリーメーソンに関する秘密を知らしめていると・・・世間では噂された。
当時、何かと黒い噂の耐えなかったフリーメーソン。【魔笛】が世に出る前でさえ、当局から取り締まりを受けていた時代でもある。
そんなフリーメーソンにとっては冬の時代の1791年・・・【魔笛】が発表された事で、さらに取り締まりが強化される事になった。
あまりにもたくさんの・・・ フリーメーソンに関する秘密が【魔笛】の中に組み込まれていたわけだが、その中にはフリーメーソンのメンバーを見破るサインも含まれていた。
こうして・・・ メンバーの何人かは当局に拘束され、厳しい尋問を受けている。
そして【魔笛】発表から3年後の1794年。
神聖ローマ皇帝フランツ2世により、オーストリアにおいてフリーメーソンの活動を禁止する宣言がなされた。これによりフリーメーソンは、厳しい弾圧を受け・・・結果、彼等の計画は頓挫に追い込まれる。
老人「・・・ ・・・」
じっとリナを見る、老人の青い眼。相変わらず吸い込まれそうな目をしていた。
老人「そしてまた・・・ モーツァルトは世界を救うため・・・
霊として現れた。人に乗りうつってな・・・」
(リナ「安田さんが・・・ 連れてきた女性・・・」)
老人「その女が・・・ いや、女に乗りうつった霊が・・・
書いたのが、この楽譜。ウィーン大学と・・・
ザルツブルグ・モーツァルテウム大学が保管していた楽譜だ」
リナ「・・・ ・・・」
老人「すでに両大学のDATAは破棄した。
そのモーツァルトやらが書いた楽譜は・・・今やこれ1つ。
現代に現れたモーツァルトの・・・唯一無二の楽譜・・・」
リナ「その楽譜が・・・ いったい、何だっていうの・・・」
老人「くっくっく。無知は罪。この楽譜こそ・・・
世界を救える、唯一の物だ」
リナ「・・・ ・・・」
そう言われても、ピンとこない。そんなリナに・・・グランドマスターは楽譜を広げて渡した。
老人「弾け・・・」
リナ「・・・ ・・・」
渡された楽譜を見てみると・・・
(リナ「このレベルなら・・・ 初見でも弾ける・・・」)
難しい技巧など必要無い・・・言ってみれば、初心者用の楽譜に見えた。
老人「ふっ。初見で弾けるのなら・・・ 弾いて貰おう」
リナ「・・・ ・・・」
老人「旧世界最後の・・・ モーツァルトだ・・・」
・・・ ・・・。
午後11時25分。東京タワー地下。
(慎吾「まさか、こんな所に・・・」)
まるで大木のような鉄筋が何本も突き刺さっている・・・東京タワー地下。
パワーストーンを握りしめ、慎吾は何かを感じ取りながら歩いていた。
細い通路が、縦と横に張り巡らされている。その通路を・・・慎吾は奥へ奥へと歩いて行く。
そして・・・
1つの扉の前に立ち止まった。
慎吾「・・・ ・・・」
頑丈そうな扉があり、そのノブには物々しい大きな銀色の南京錠が見えた。鈍い金属の光を放ち、鍵がなければ・・・電気のこぎりでも開きそうにない。
慎吾「スゥーー・・・」
大きく息を吸い込み・・・
慎吾「唵!!」
パワーストーンから、光の剣を出現させる。
慎吾「・・・ ・・・」
南京錠を見つめると・・・
慎吾「唵!!」
迷わず光の剣をたたきつけた。
ガッキィィーーーン・・
甲高い音と共に、一発で錠を破壊する。
ギィイイ・・・
扉を押し、その先へと進む。
慎吾「・・・ ・・・」
しばらく歩くと・・・ エレベーターに辿り着いた。ボタンを押すと扉が開き・・・ その中へ入る。
ボタンはわずかに2つ。【↑】と【↓】だけ。
迷わず【↓】を押すと・・・ エレベーターは下へと降りていく。
慎吾「・・・ ・・・」
地下深くに行くにつれ・・・ 耳鳴りがしてきた。
(慎吾「この先に・・・ リナ先輩が・・・」)
(第120話へ続く)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回予告
グランドマスターの目の前で・・・
リナはモーツァルトを演奏してみせた。
そして藤岡は・・・ リナを殺そうと動き出す。
次回 「 第120話 別れの言葉 」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~