表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第4章 世界の命運をかけて
120/147

第119話  光と闇の戦い

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗かいとが、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナ。誘拐された妹を追って、1つ下の後輩・慎吾と共に実家へ戻る。誘拐犯が警視庁捜査官の藤岡だと突きとめるも、彼等のアジトで捕まってしまった。


しかし殺されたはずの魁斗が現れ、皆を救出。


藤岡の属する秘密組織【Unknown】。彼等は、地球上の人間のほとんどを抹殺する、恐ろしい計画を遂行しようとしていた。


再び敵の手に捕まった雛子を、何とか慎吾が救い出す。

一方リナは突然現れたグランドマスターに捕まり、新世界の入り口へと連れていかれ・・・モーツァルトの楽譜を見せられた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第119話  光と闇の戦い


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2012年12月21日(金)、午後11時12分。東京タワー、放送機械室。

(宇宙線が地球に飛来するまで・・・残り50分)




慎吾「 !? 」


ソファに寝ていた慎吾が急に飛び起きた。


慎吾「ハァ、ハァ、ハァ・・・」


雛子「・・・ ちょっと・・・」


ずっと慎吾の横にいた雛子。


雛子「無理しないで寝てなさいよ。

    また心臓止まるわよ・・・」


ツインテールの両端を握りながら・・・ 心配そうに声をかけている。


慎吾「・・・ ・・・」


雛子を無視して、辺りを見渡す。そして隣のソファで寝ている・・・外国人女性を見つけた。


慎吾「・・・ ・・・」


この時、慎吾は初めてその女性を目にした。


雛子「ちょっと・・・」


しばらく女性を見つめた後・・・


慎吾「時間は・・・ 今の時間は・・・?」


会話を無視して、雛子に声をかける。


雛子「・・・ 11時13分だけど・・・」


父親のいる部屋の方を見て、時計を確認した雛子。


慎吾「い、1時間をきってる・・・ 急がなきゃ・・・」


体を起こし、ベッドから降りる慎吾。しかし・・・立ちくらみで体がよろけた。


雛子「あぶ・・・」


反射的に雛子が、慎吾の体を支える。


雛子「あんたさぁ・・・ 絶対今、動くの無理だって・・・

    ゆっくり寝てなさいよ」


慎吾「だ、ダメです。時間がないんです・・・」


そう言うと慎吾は、胸を抑えながら魁斗達のいる部屋へ歩いて行く。


雛子「・・・ ・・・」


雛子は無言で、慎吾の体を支えるように・・・ 共に歩いていった。


隣の部屋に行くと・・・魁斗と安田が数台あるTVのモニター画面を見ている。


慎吾「リナ先輩の・・・ お父さん・・・」


大声を出すと心臓に響くため、小さな声をかけた。気づいた魁斗が振り返る。


魁斗「慎吾君・・・ 起きてきて大丈夫か?」


隣で娘が肩を抱いているのを見て、心配になった。


慎吾「えぇ・・・ その・・・

    テロ計画は・・・?」


魁斗「あぁ。彼等がジャックする予定だった人工衛星は・・・

    こちらが制御した。


    NASAからの指令を間接的に伝えたから・・・

    もう危険はないはずだ・・・」


慎吾「い、いえ・・・ まだです・・・」


魁斗「まだ?」


言いながら慎吾は、どのTV画面も同じ映像である事に気づく。映像では・・・グランドマスターが演説をしていた。


慎吾「こ、この映像・・・ 放送局は違いますよね?」


ユダヤ迫害の歴史を語り、そして・・・


老人「バチカンが必死に公開を阻止してきた・・・ その内容・・・

    隠された真実。今こそ、それを告げようではないか・・・」


数時間前の式典と語っている事は同じ。いや・・・


老人「その炎の矢は・・・ 宇宙から降り注ぐ。

    それは洪水のように24時間、降り注ぎ・・・


    その全ては、地球上のあらゆる生き物を突き刺すもの・・・」


慎吾「式典と全く同じ・・・ヤツですね・・・」


魁斗「あぁ・・・ ライブではない。録画映像だ」


安田「しかし・・・ 何故、今この映像を・・・?」


人工衛星ジャックは止めた。宇宙線は無害のまま地球に降り注ぐはずだが・・・


(慎吾「まだ何か・・・ あるはずなのに・・・」)


映像を見ても、その【何か】がわからない。


雛子「・・・ ・・・」


3人の男の後ろにいた雛子。眉をひそめて、その映像を見ている。


慎吾「・・・ ・・・」


慎吾はじっとその映像を見つめていたが・・・


雛子「気分悪・・・」


後ろで雛子が呟き、部屋の奥へ消えた。


慎吾「・・・ ・・・」


雛子を一瞬気にしたものの・・・再び映像を見つめる慎吾。


(慎吾「何か・・・ 何かがあるはずだけど・・・」)


藤岡が出てきて、高エネルギー宇宙線の話をし始めた。


安田「こんな話をしたら・・・ 見ている人が不安に・・・」


魁斗「あぁ。電波ジャックを止めようと・・・

    警察やTV局が動いているはずだが・・・」


どの局も同じ映像が流れ続けている。


雛子「ねぇ。それさ・・・ 気分悪くなるんだけど・・・」


慎吾「え?」


奥に行ったはずの雛子が戻ってきた。


雛子「なんていうか・・・ 音を聞くだけで、気分悪くなるのよね・・・

     耳鳴りがするみたいな・・・頭痛がするみたいな・・・」


魁斗「音?」


慎吾「お・・・ と・・・?」


いち早く反応した魁斗が、自分のノートPCを操作し始める。


魁斗「・・・ ・・・」


魁斗が行っているのは・・・ 音声分析。いくつかの数字の列と、何らかの波形グラフを、ディスプレイに表示させた。


(魁斗「周波数・・・」)


さらにキーボードを打ち続け・・・


魁斗「超低周波音だ・・・」


安田「超低周波音?」


慎吾「な、何ですか・・・ それは?」


魁斗「人間は耳で感じ取れる音・・・その周波数が決まっている。

    20から2万ヘルツ。20ヘルツ以下の音は・・・


    人間の耳では聞き取れない・・・それが超低周波音」


慎吾「そ、それで・・・ 何かが起こるんですか・・・?」


魁斗「超低周波音は、聞き取れなくても・・・

    人の体に害をおよぼすといわれている。

    

    稀にそれを敏感に感じ取る人が・・・すぐに体調を崩すらしいが」


慎吾「モ、モスキート音みたいなものですか?」


以前、若者にしか聞こえない音があるというのを思い出した慎吾。


魁斗「違う。モスキート音は1万7000ヘルツに近い音。

    年齢と共に、聞こえる周波数域が落ちて行く・・・1つのライン。


    超低周波音は、波長が長くて・・・」


喋りながら・・・突然魁斗の表情が青ざめる。


安田「ど、どうしました・・・?」


魁斗「波長が長い波は・・・ 遠くまで届くんだ・・・」


瞬間、慎吾の表情も青ざめた。


慎吾「ま、まさか・・・」


そして、まだある【何か】に・・・・ 気づく。


慎吾「その音が・・・ 宇宙線にあたると・・・ 殺人光線になる?」


安田「・・・ ・・・」


安田も事態を理解した。


魁斗「急いで・・・ 電波ジャックを止めねば!!」


人工衛星の制御権を敵に渡さなかった事で安心していた魁斗。慌ててキーボードを操作し始める。


魁斗「安田! スカイツリーだ!

    そちらに軍事衛星の通信コードを渡す。


    東京スカイツリー周辺で、怪しい動きを見せる者がいないか・・・

    すぐに捜すんだ!」


安田「わかりました・・・」


魁斗「まさか・・・ 第2の計画もあったとは・・・」


敵のテロ計画を止めたと思っていた自分を、情けなく思う。


慎吾「・・・ ・・・」


慎吾はポケットに入っていたパワーストーンを取りだし・・・奥の部屋に戻った。


雛子「・・・ ・・・」


気分悪そうな雛子の前を通り過ぎ・・・


オーストリア人女性・リゼットの前に来る。彼女はソファの上でずっと寝たまま・・・いや、眠らされたままだ。


慎吾「・・・ ・・・」


パワーストーンに意識を集中すると・・・ 彼女に乗りうつった霊がはっきりと見えた。


慎吾「僕は・・・ どうすれば・・・?」


そしてその霊に語りかける慎吾。


その霊は・・・ 慎吾の進むべき道を示した。



・・・ ・・・。


午後11時13分。東京タワー東側、とある建物の地下150m。


老人「光の者と、闇の者・・・過去6度に渡り、戦ってきた」


2台あるグランドピアノの1つに、グランドマスターは座る。そして右手に握った杖を、コンと床下にたたきつけ・・・ 続けて語り出した。


老人「それぞれ・・・言うなれば3勝3敗。

    14世紀のペスト大流行。18世紀フランス革命。


    そして・・・第一次世界大戦。

    闇の者が勝つ時、多くの血が流れてきた・・・」


リナ「・・・ ・・・」


グランドマスターから1m程離れた場所で、リナは立ったまま話を聞いている。リナの背後には、大男が2人立っていた。相変わらずふところに手を入れ・・・ いつでも、発砲できるといった様子だ。


老人「一方、光の者の勝利は・・・多く血が流れるのを止めてきた。

    その1つが・・・1791年。    


    フランス革命に乗じて、闇の者は多くの人を葬る計画を立てた。

    しかし・・・光の者はそれを止めてみせた・・・」


グランドマスターはモーツァルトの楽譜を取り上げ、おもむろにそれを見る。


老人「フランス革命・・・ 

    ナポレオン戦争も含めれば犠牲者は約500万人。


    だが闇の者の計画が実行されれば・・・その4倍。

    2000万人が死んでいた」


※ 16世紀~第1次世界大戦以前の戦争・紛争の中では最も死者数が多い。

  14世紀ペスト大流行による死者数は、推定2~3000万。

  第1次世界大戦では、2600万の死者数がいると言われている。 


老人「その計画を止めたのが・・・」


楽譜をリナの前に差し出した。


老人「光の者・・・ モーツァルトだ」


リナ「モーツァルト・・・?」


老人「【魔笛】は・・・ 知っているな?」


リナは無言で、静かに頷いた。


グランドマスターによれば・・・ モーツァルトはフリーメーソンのメンバー。


1773年、ウィーンに滞在していたモーツァルトは、トビアスという男を通じてフリーメーソンの存在を知る。そして1784年12月に入会したという。


老人「後でわかった事だが・・・ モーツァルトは光の者だった・・・」


フランス革命に乗じて、当時のフリーメーソンは主要都市で、大規模な反乱を計画。多くの人々を殺し、世界の表舞台に君臨するための作戦を綿密に練っていたという。


老人「当時の・・・闇の者が中心になってな・・・」


しかし・・・


その計画を阻止しようとする者が現れた。


老人「それが・・・ モーツァルト」


ヨーロッパ各地に散らばったフリーメーソン。彼らの大規模な計画を止める為に選んだのが・・・作品ナンバー「K.620」の【魔笛】だった。


【魔笛】で描かれているストーリーは、フリーメーソンの世界観を模しており・・・さらに作中には、フリーメーソンの秘密の儀礼・・・密儀がたくさん盛り込まれている。


フリーメーソン・・・英語では【secret society】。内部で行われる儀式や、メンバーが実践する儀礼はもちろん非公開。そしてメンバーはそれらを守秘する義務がある。


その禁忌タブーを破り、モーツァルトはフリーメーソンの多くの秘密を【魔笛】を通して、おおやけにした。


【魔笛】はヨーロッパ各地で公演を重ね・・・一般大衆に大人気となる。それと同時に、このオペラがフリーメーソンに関する秘密を知らしめていると・・・世間では噂された。


当時、何かと黒い噂の耐えなかったフリーメーソン。【魔笛】が世に出る前でさえ、当局から取り締まりを受けていた時代でもある。


そんなフリーメーソンにとっては冬の時代の1791年・・・【魔笛】が発表された事で、さらに取り締まりが強化される事になった。


あまりにもたくさんの・・・ フリーメーソンに関する秘密が【魔笛】の中に組み込まれていたわけだが、その中にはフリーメーソンのメンバーを見破るサインも含まれていた。


こうして・・・ メンバーの何人かは当局に拘束され、厳しい尋問を受けている。


そして【魔笛】発表から3年後の1794年。


神聖ローマ皇帝フランツ2世により、オーストリアにおいてフリーメーソンの活動を禁止する宣言がなされた。これによりフリーメーソンは、厳しい弾圧を受け・・・結果、彼等の計画は頓挫とんざに追い込まれる。



老人「・・・ ・・・」


じっとリナを見る、老人の青い眼。相変わらず吸い込まれそうな目をしていた。


老人「そしてまた・・・ モーツァルトは世界を救うため・・・

    霊として現れた。人に乗りうつってな・・・」


(リナ「安田さんが・・・ 連れてきた女性・・・」)


老人「その女が・・・ いや、女に乗りうつった霊が・・・

    書いたのが、この楽譜。ウィーン大学と・・・


    ザルツブルグ・モーツァルテウム大学が保管していた楽譜だ」



挿絵(By みてみん)



リナ「・・・ ・・・」


老人「すでに両大学のDATAは破棄した。

    そのモーツァルトやらが書いた楽譜は・・・今やこれ1つ。


    現代に現れたモーツァルトの・・・唯一無二の楽譜・・・」


リナ「その楽譜が・・・ いったい、何だっていうの・・・」


老人「くっくっく。無知は罪。この楽譜こそ・・・

    世界を救える、唯一の物だ」


リナ「・・・ ・・・」


そう言われても、ピンとこない。そんなリナに・・・グランドマスターは楽譜を広げて渡した。


老人「弾け・・・」


リナ「・・・ ・・・」


渡された楽譜を見てみると・・・


(リナ「このレベルなら・・・ 初見でも弾ける・・・」)


難しい技巧など必要無い・・・言ってみれば、初心者用の楽譜に見えた。


老人「ふっ。初見で弾けるのなら・・・ 弾いて貰おう」


リナ「・・・ ・・・」


老人「旧世界最後の・・・ モーツァルトだ・・・」



・・・ ・・・。


午後11時25分。東京タワー地下。


(慎吾「まさか、こんな所に・・・」)


まるで大木のような鉄筋が何本も突き刺さっている・・・東京タワー地下。


パワーストーンを握りしめ、慎吾は何かを感じ取りながら歩いていた。

    

細い通路が、縦と横に張り巡らされている。その通路を・・・慎吾は奥へ奥へと歩いて行く。


そして・・・


1つの扉の前に立ち止まった。


慎吾「・・・ ・・・」


頑丈そうな扉があり、そのノブには物々しい大きな銀色の南京錠が見えた。鈍い金属の光を放ち、鍵がなければ・・・電気のこぎりでも開きそうにない。


慎吾「スゥーー・・・」


大きく息を吸い込み・・・


慎吾「唵!!」


パワーストーンから、光の剣を出現させる。


慎吾「・・・ ・・・」


南京錠を見つめると・・・


慎吾「唵!!」


迷わず光の剣をたたきつけた。


ガッキィィーーーン・・


甲高い音と共に、一発で錠を破壊する。


ギィイイ・・・


扉を押し、その先へと進む。


慎吾「・・・ ・・・」


しばらく歩くと・・・ エレベーターに辿り着いた。ボタンを押すと扉が開き・・・ その中へ入る。


ボタンはわずかに2つ。【↑】と【↓】だけ。


迷わず【↓】を押すと・・・ エレベーターは下へと降りていく。


慎吾「・・・ ・・・」


地下深くに行くにつれ・・・ 耳鳴りがしてきた。


(慎吾「この先に・・・ リナ先輩が・・・」)





           (第120話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


グランドマスターの目の前で・・・


リナはモーツァルトを演奏してみせた。


そして藤岡は・・・ リナを殺そうと動き出す。



次回 「 第120話  別れの言葉 」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ