第116話 雛子と慎吾
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナ。誘拐された妹を追って、1つ下の後輩・慎吾と共に実家へ戻る。誘拐犯が警視庁捜査官の藤岡だと突きとめるも、彼等のアジトで捕まってしまった。
しかし殺されたはずの魁斗が現れ、皆を救出。
藤岡の属する秘密組織【Unknown】。彼等は、地球上の人間のほとんどを抹殺する、恐ろしい計画を遂行しようとしていた。
魁斗らが組織の計画を止める為、動いている中・・・リナの妹は勝手に外出してしまう。慎吾・魁斗・安田は、雛子を助けようと、東京タワーに向かった。
魁斗と安田は藤岡を追い詰めたが・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第116話 雛子と慎吾
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2012年12月21日(金)、午後9時30分。芝公園付近。
フットサルコートの近く・・・茂みに隠れるように、1台の車が止まっていた。その車内・・・後部座席には雛子がおり、すぐ外には慎吾がいた。
慎吾「・・・ ・・・」
車内にいる雛子を助け出したいが・・・防弾装備され、もはや車というより鉄の檻のようなこの中から雛子を助け出すには・・・
ある程度の衝撃を外部から与えなければならない。
だが・・・
雛子「大きい衝撃与えたら、爆発するの!!! 」
助手席にある爆弾は、衝撃でも爆発するらしい。
(慎吾「どうすれば・・・」)
かなり思い詰めた表情・・・パワーストーンの光を元に、助手席にある爆弾をじっと見つめている。
雛子「・・・ ・・・」
後部座席で、雛子は慎吾の動向を見ていた。 長いツインテールの端っこを、両手で握りながら不安な表情を浮かべている。
(慎吾「フロント部分とサイド部分・・・ そして後部座席にも・・・
コードが接続されている」)
爆弾から出ているいくつかの配線は、車の前部や側部と結ばれている事に気づく。
(慎吾「エアバッグだ・・・。エアバッグと連動している・・・」)
その配線の仕方から、エアバッグが作動すれば爆弾が作動すると推理した。
慎吾「・・・ ・・・」
しばらく考え続ける。
慎吾「よし・・・」
周りを確認した慎吾・・・ 車の上によじ登った。
雛子「な・・・ 何して・・・?」
視界から慎吾が消え、不安になる雛子。
ボン
車内の上の方から、慎吾が飛び乗ったであろう音が聞こえた。
慎吾「・・・ ・・・」
幸い茂みの中に隠れるように車は置かれていたため、その上に乗っかっていても、誰かに見られるような事は無い。
(慎吾「衝撃を感知し、エアバッグを作動させるセンサーは・・・
確か、車の前部と側部にある。
上部にはなかった・・・はず・・・」)
パワーストーンを前に出し・・・
(慎吾「丹田に氣を集中し・・・」)
集中力を高める。
慎吾「唵!!」
かけ声と共に、右手に握っていたパワーストーンから槍のような光の棒が現れた。
慎吾「・・・ ・・・」
そして真下を見つめると・・・
慎吾「唵!!!」
力の限り、光の槍を突き刺す。
慎吾「っく・・・」
アスファルトに突き刺したように、衝撃が跳ね返ってきた。
慎吾「唵!!」
それでも、アスファルトを貫くつもりで・・・慎吾は力の限り、車の上部から光の槍を突き刺し続ける。
慎吾「・・・ ・・・」
貫けるような手応えはないが・・・それでも光の槍に力を込めた。
3分後。
慎吾「・・・ !? 」
何度も何度も突き刺しているうちに・・・ 手応えを感じる。車の上部に・・・初めて小さなくぼみが出来た。
(慎吾「・・・ いける・・・」)
かすかな希望を見た慎吾は、力の限りを光の槍の先に込める。
そして・・・
ゴン・・・ ゴン・・・ ゴン・・・
何かを車の上部にぶつけている音が響き渡る。正体不明の衝撃音に不安になりながら・・・雛子は天井を見続けていた。
雛子「・・・ ・・・」
慎吾が視界から消えて約5分・・・天井の一部が、円錐を逆にしたような形になり始める。
雛子「な・・・ なに・・・?」
その逆円錐は・・・ 少しずつ大きさを増していく。雛子はそれを避けるように、後部座席の右側に身を寄せた。
そして・・・
ズガン!!
雛子「きゃー!!」
蛍光灯のような物が、天井から垂直に落ちてきた。
(慎吾「あ・・・ 開いた!!」)
難攻不落と思われた車・・・ 初めて天井に直径5cm程度の穴を開けるのに成功した。
光の槍を抜いて、慎吾はの穴から車内を見る。
慎吾「雛子さん!! 聞こえますか!? 無事ですか!?」
しばらくの沈黙の後・・・ その穴の先に、上を見上げる雛子の姿が現れた。
雛子「き・・・ 聞こえる・・・」
穴を通して、2人の視線が合う。
慎吾「よかった・・・。この穴に光の槍を通して・・・
缶切りを開けるように、天井に穴を開けます。
右側に移動して・・・ もうしばらく待ってください」
雛子「・・・ わかった・・・ 早くしてよ・・・」
下から慎吾を見上げる雛子。慎吾の額に大量の汗が見えた。
(雛子「真冬なのに・・・」)
必死に自分を助けようとしている事を感じる。
慎吾「えぇ。必ず助けます。もう少しの辛抱です」
そう言うと慎吾は・・・再び気を集中して、パワーストーンを通して光の槍を出現させる。
そして雛子が、視界から消えたのを確認すると・・・
慎吾「唵!!」
光の槍を穴に突き刺す。槍の先が助手席の下の部分に達すると、そこを支点として槍を斜めにしようと力を入れる。
慎吾「ぐぐぐ・・・」
しかし、強固な天井は光の槍の進行を阻もうとする。
慎吾「ぐぅぅぅ・・・」
それでも慎吾は、力の限りを光の槍に注ぎ込んだ。
・・・ ・・・。
午後10時12分。プリンスパークタワーホテル11階。
(藤岡「まさか・・・ ここが突きめられるとは・・・」)
先ほどまでいた部屋は、何者かの侵入を受けた。あらかじめ用意していたルート・・・ベランダを通じて隣の部屋に移動するルートから逃走を図る。
携帯を取り出すと、何かの操作をした。元いた部屋、そして今いる部屋に煙幕をたくだけのトラップだ。
(藤岡「少しは・・・ 時間を稼げるはず・・・」)
追っ手の足を止めるためのトラップ。
隣の部屋の出入り口から、外に出た藤岡。左右を見渡し、敵がいないことをチェックする。
(藤岡「よし・・・」)
すぐに非常階段まで走っていき・・・
追っ手である安田の手から逃げ延びた。
・・・ ・・・。
午後10時17分。
ホテルを後にした藤岡。追っ手が見えない事を確認すると、ようやく携帯電話の向こうの相手に声をかけた。
藤岡「ハァ、ハァ・・・ やってくれたな・・・ 教授よ・・・」
息を切らせつつも、怒りに満ちた声だ。
魁斗「何の事だ?」
とぼけた声が返ってくる。
藤岡「近くにフットサルのコートがある。その近く・・・
茂みに隠れるように、車がある。娘はその中だ」
魁斗「わかった。確認したら、女を渡そう」
藤岡「ふん・・・ だといいがな・・・」
そう言うと電話を切った。
(藤岡「1分で・・・ いいな・・・」)
携帯を再び操作し・・・
(藤岡「教授よ・・・ 目の前で絶望を・・・ 味わうがいい・・・」)
そして東京タワーに向けて走っていった。
・・・ ・・・。
同時刻。藤岡の車の中。
ピーーーン・・・
雛子「 ? 」
突然車内に、甲高い機械音が鳴り響く。
雛子「な、何・・・?」
恐る恐る・・・ その音が聞こえてきた、助手席をチラリと見た。
雛子「な・・・」
爆弾のデジタル表示が
56 55 54 ・・・
カウントダウンしている。
雛子「ちょ・・・ ちょっと!!!」
天井に向けて大声を出す。
雛子「爆弾が作動してる!! あと50秒よ!!!」
慎吾「!?」
雛子の声を受け取った慎吾。ようやく円周の半分ぐらいを切り取った程度だ。
雛子「45秒!! 何とかして!! 早く!!」
慎吾「っく・・・」
迷う余地はない。慎吾はありったけのエネルギーをパワーストーンに集中させた。大きさを増した光の槍に、あらん限りの力と霊力を込め・・・
慎吾「あああああ!!!!」
その槍で車の天井を切り取る。
慎吾「くううううううう!!!」
そして・・・ いびつなれど、直径30cm程度の円を切り抜いた。雛子なら十分通れる大きさだ。
慎吾「手を!! 両手を!!」
開いた穴から、車内にいる雛子に向けて両手を差し出す。
雛子「は、早く!!」
慎吾の両手を掴んだ雛子。その目は、爆弾のデジタル【26】を確認した。
慎吾は思い切り雛子を引っ張り上げ・・・
車に監禁されていた雛子を、とうとう車外に出した。
慎吾「い・・・ 急いで車から・・・」
すぐに車から降り・・・ 出来る限り遠くへ走ろうとするが・・・
車から2,3歩離れたところで、慎吾は前のめりに倒れた。前を行く雛子はそれを見て・・・
雛子「何してんの! あと15秒で爆発すんのよ!!」
慎吾「ぼ、僕は大丈夫・・・ 先に・・・」
額からびっしょり汗を流しながら・・・震える手で心臓を抑えている。
雛子「バカ言わないでよ!!」
言うが早いか、雛子は慎吾を肩に抱え、無理矢理立たせた。
慎吾「・・・ ・・・」
予想外の行動だった。
雛子「バカ!! ちょっとは走る努力をしてよ!!!」
慎吾「木の陰・・・ それを背にすれば・・・ 爆風を防げる・・・」
雛子「わかった!!」
わずか3m程離れた場所へ移動し・・・ 転げるように大きな木の向こう側に身を隠した。
その瞬間・・・
ドッッゴオオオーーーーン!!!
・・・ ・・・。
魁斗「!?」
コートを正面に見た右側の木々から、大きな火柱があがった。
そして何かの金属片が飛び散る。
魁斗「・・・ ・・・」
魁斗の視線は・・・ 勢いよく燃え上がる木々の中に・・・
上部が吹き飛んだ車の一部を捉えた。
魁斗「ひ・・・ 雛子・・・」
・・・ ・・・。
雛子「た・・・ 助かった・・・」
大きな爆発音の後・・・背後から猛烈な爆風と熱風を感じたが・・・
背中の大木がそれらを遮ってくれたおかげで、ダメージはさほど感じなかった。
雛子「とりあえ・・・」
横を見ると・・・背中を木にもたれた慎吾が目を閉じている。
雛子「ちょっと・・・」
肩を揺さぶって声をかけたが、反応がない。
雛子「あんたまさか・・・ 死んだりしてないわよね・・・」
慎吾の心臓に手をあてると・・・
雛子「・・・ ・・・」
動悸を感じない。
雛子「じょ、冗談でしょ・・・」
右手をグーにして、雛子は慎吾の胸を強く叩く。
雛子「ちょっとあんた・・・ 私助けて死ぬとか・・・
フザけた事してんじゃないわよ!!」
2度、3度と慎吾の胸を叩くと・・・
慎吾「カーーーーーッ!!!」
瞬間、目を開いた慎吾が大きく息を吸い込んだ。
雛子「 !? 」
慎吾「ハ ハ ハァ・・・ ハァ・・・」
大きく目を見開いたまま、慎吾は呼吸を整える。
雛子「・・・ ・・・」
タイミングを見計らって・・・
雛子「ちょ・・・ ちょっとあんた・・・」
小さな声・・・
雛子「死んだフリとか・・・マジなしだから、ヤメてよね・・・」
遠慮がちな声で慎吾に声をかけた。
慎吾「ハァ・・・ ハァ・・・」
大きく開いた目をキョロキョロさせ・・・状況が飲み込めない表情を浮かべる慎吾。ゆっくり雛子に視線を合わせた。
慎吾「あ・・・ 助かったんですね・・・ よかった・・・」
ようやく息切れ以外の言葉を発した慎吾を見て、雛子が大きく溜息をつく。
雛子「・・・ 心臓止まったかと思ったじゃない・・・
悪い冗談・・・ マジヤメてよ・・・」
雛子の言葉を受けて、慎吾は自分の心臓を抑えた。
慎吾「・・・ そっか・・・ また、止まってたんだ・・・」
雛子「ま・・・ また!?」
慎吾「あ、いえ・・・。目黒基地に行った時、ちょっと・・・」
(雛子「目黒基地って・・・ 私が拉致られた所・・・
まさか、私を助けようとして・・・?」)
慎吾「無理な運動したら、心臓止まるって・・・
あなたのお父さんに注意されていたんです。
今、思い出しました・・・」
そう言うと慎吾は笑って見せた。
雛子「・・・ ・・・」
慎吾「・・・ ・・・」
つい今し方の記憶が戻ってきた慎吾。雛子が自身の危険を顧みず、自分を抱えて木の陰まで移動してくれた。
(慎吾「あの時も・・・」)
かつて糸見という男に拉致された時・・・リナは銃を持つ相手に対し、危険を顧みず自分を助けに来てくれた。その事を思い出す慎吾。
(慎吾「やっぱり・・・ リナ先輩の妹さんだ・・・」)
そう思うと笑いながら
慎吾「ありがとう・・・ 助けてくれて・・・」
感謝の気持ちを言葉にし、小さく頭を下げた。
雛子「・・・ ・・・」
生死の境をさまよったばかりなのに・・・目の前の男は、子供の様な笑顔で【ありがとう】と言ってきた。
(雛子「こいつ・・・ 何かネジ緩んでる・・・?」)
と思いながらも、慎吾への視線をはずし・・・
雛子「こっちのセリフよ・・・。 ありがと・・・」
唇をとんがらせながら、頭を下げた。
(第117話へ続く)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回予告
魁斗と合流した慎吾と雛子。
魁斗はリナと連絡を取ろうとするが・・・ 連絡を取れない。
リナを気にしつつも、【Unknown】の計画を止める為、東京タワーへ向かった。
次回 「 第117話 東京タワー 」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~