第115話 魁斗と藤岡
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナ。誘拐された妹を追って、1つ下の後輩・慎吾と共に実家へ戻る。誘拐犯が警視庁捜査官の藤岡だと突きとめるも、彼等のアジトで捕まってしまった。
しかし殺されたはずの魁斗が現れ、皆を救出。
藤岡の属する秘密組織【Unknown】。彼等は、地球上の人間のほとんどを抹殺する、恐ろしい計画を遂行しようとしていた。
魁斗らが組織の計画を止める為、動いている中・・・リナの妹は勝手に外出してしまう。慎吾・魁斗・安田は、雛子を助けようと、東京タワーに向かった。
一方リナは・・・突然現れたグランドマスターに連れ去られた。
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第115話 魁斗と藤岡
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2012年12月21日(金)、午後9時47分。東京タワー付近。
(宇宙線が地球に飛来するまで・・・残り2時間15分)
安田の携帯を片手に魁斗は、芝公園の中を歩いていた。
魁斗「・・・ ・・・」
藤岡「そこを右に曲がり・・・30mほど進め」
携帯を通じて、藤岡は指示を出し続ける。
幾度となく、同じ所を行ったり来たりさせられている魁斗。その理由も気づいていた。
(魁斗「相手も・・・ 安田と女性を捜している・・・」)
魁斗は1本の木を背にして立ち止まる。左手を上げて、3本指を立てた。
藤岡「何の真似だ・・・?」
魁斗「ここら辺だろう? 30mは?」
藤岡「まだ25m。あと5m先だ」
魁斗「わかった・・・」
立ち止まっていた魁斗は、再び歩き出した。5mほど先にあった低い木を確認すると、右側にそれが来るように立ち止まり・・・左手を真上に上げ、親指をグルグルと不自然に回した。
藤岡「次は左の小道に入れ。20m程先だ」
(魁斗「ここは・・・ 見えてない・・・」)
さらに指定された場所の近くにある木に身を寄せ・・・心臓を抑えて、前屈みにしゃがみ込む。
藤岡「ふ・・・。苦しいようだな。だが休む暇はないぞ。立て。
道なりにもう少し歩けば・・・ 図書館がある。
そこまで行くんだ」
(魁斗「この位置は・・・ 見えている・・・」)
IQ180の頭脳は・・・ 相手が見えている位置と見えてない位置を元に・・・すでに頭に入っている東京タワー周辺の地図から、藤岡のいる場所を絞っていく。
(魁斗「高い位置から、こちらを見ている。
そして、メソニックビルや大学施設ではない・・・
ならば・・・」)
左右に見える、大きなホテルを確認した魁斗。左側に東京プリンスホテル、右側にはパークタワーホテルが見えた。
(魁斗「この2つのどちらか・・・」)
図書館の前にある駐車場に入り、大きなトラックを左側の壁にし、魁斗は携帯電話をわざと落とした。
ゆっくりとそれを拾い上げ・・・再び耳にあてる。
藤岡「携帯が壊れたら・・・その時点で終わりだぞ。
そのまま真っ直ぐ歩け」
(魁斗「見えている! この位置が見えるなら・・・
プリンスパークタワーだ!」)
何気に歩き、ふと立ち止まった。
(魁斗「ここなら・・・ 死角になっているはずだ・・・」)
藤岡「どうした? 何故、立ち止まる?」
魁斗「さっきから、同じ所をグルグル回っている・・・
娘の所へ案内する気はあるのか?」
そして時間稼ぎに出る。
藤岡「あぁ。もうすぐだ」
魁斗「具体的な場所を言うつもりはないのか・・・?」
左手に携帯を持ちかえ・・・藤岡と会話する魁斗は、右側のポケットに手を突っ込む。
藤岡「そんな事はないさ・・・」
そしてポケットの中にある自分の携帯電話を操作した。
・・・ ・・・。
午後9時56分。都内某所。
1台のロールスロイスが、4人の人物を乗せて走っている。
リナ「ん・・・」
その後部座席で横になっていたリナ。振動で目を覚ます。
リナ「・・・ ・・・」
目を開くが、視界はぼやけたまま。
老人「ほぅ。あと1時間は目を覚まさないと思っていたが・・・」
リナ「 !? 」
ロールスロイス後部座席。リナは目の前に向かい合うように座るグランドマスターの姿を見た。
リナ「・・・ ・・・」
何かアクションを起こそうとするが・・・手足がしびれて、思うように動かせない。
老人「余の攻撃を直接くらったんだ。
そうは動けまい・・・」
小さな笑みを浮かべながら、リナに視線を合わせる。
リナ「・・・ ・・・」
リナもまた、目の前の男に視線を合わせる事しかできない。
老人「新世界に向かっている・・・」
リナ「・・・ ・・・」
老人「【何故、私を連れ去るのか・・・】
その疑問に、納得いく答えを与えるには・・・
いささか時間が必要だ」
リナ「・・・ ・・・」
老人「そうだ。もっとも【霊能力】という言葉は・・・
お前達の言葉だがな・・・」
リナは無言だったが・・・ 頭の中で思う事が、全てグランドマスターには筒抜けだった。
老人「お前が連れ去られたのは・・・
全ての運命を握っているからだ」
(リナ「私が・・・? 全ての運命を握っている・・・?」)
老人「ユダヤの事は・・・ 知っているか?」
グランドマスターは、唐突に質問してきた。
(リナ「ユダヤ? ナチスの・・・ユダヤ人迫害・・・?」
老人「その程度か・・・
ポグロムや歴史的冤罪の話など・・・ 知らぬか・・・」
リナ「・・・ ・・・」
理数系にはめっぽう強いリナだが・・・ 歴史や政治経済など社会系の教科は大の苦手だ。
老人「よかろう。小学生相手と思い・・・端的に話してやろう。
我々ユダヤの民は、過去多くの迫害を受けてきた。
イスラエル共和国も・・・未だに多くの問題を抱えている」
(リナ「なんで・・・ そんな話を・・・」)
老人「お前は知る必要があるからだ。
【わたしはシオンに帰り、エルサレムのただ中に住もう】
旧約聖書にある言葉だ。余は、それを実現する」
(リナ「意味が・・・ わかんない・・・」)
老人「羽鳥家の人間は優秀と聞いていたが・・・」
グランドマスターは、ふ~っと溜息をつく。
老人「わかった。こう言えば通じるだろう。
多くのユダヤ人と一部の優秀な人間を残し、全てを滅ぼす。
先祖が夢見ていた・・・我々による新世界を建国するのだ。
それが我々の望み・・・」
リナ「・・・ 結局、ただのテロリストってわけね・・・」
リナは初めて声を出した。
老人「何と言われようと・・・ 構わぬ。
そして我々の前に立ちはだかるのが・・・お前達・・・」
リナ「・・・ だとしたら・・・ 邪魔者の私を・・・
な、何故殺そうとしない・・・?」
それを聞いたグランドマスターは、ニヤリと笑う。
老人「モーツァルトを・・・ 聞きたいからだ・・・」
リナ「・・・ ?」
まともなのか、それとも・・・
(リナ「この爺さん・・・ 頭がおかしいの・・・?」)
老人「おかしくはない。会話の論点が・・・掴めてないのはお前の方。
それはお前が・・・ 1つの大きな事実を知らないからだ」
リナ「事実・・・?」
老人「モーツァルト・・・」
リナ「 ? モーツァルト?」
老人「あぁ、モーツァルトだ。好きか?」
リナ「・・・ ・・・ えぇ・・・」
老人「アウシュビッツで・・・
我が同胞が、死にゆく前に聞いたのが・・・モーツァルトだった。
そして今度は・・・ その逆・・・」
リナ「・・・ ・・・」
グランドマスターの青い眼は、リナに視線を合わせながらも・・・別の何かを見ているように感じられた。
・・・ ・・・。
午後10時4分。東京タワー近く、芝公園ビル。
メール受信 【 羽鳥魁斗 】
(安田「きた!!」)
芝公園ビルの中で身を潜めていた安田。タブレット型PCを手に、魁斗からメールが来たことを確認する。
内容 【 プリンスパークタワー 7階から11階
北側が見える部屋 急げ! 】
メールを確認した安田。
(安田「狙撃ポイント・・・ やはりそうくるか・・・」)
PCをポケットに入れ・・・
(安田「だが、敵の場所さえわかれば・・・」)
すぐにビルを出る。プリンスパークタワー北側からは見えないルートを辿り・・・
パークタワーの死角になる木陰に身を隠した。そしてポケットから小型望遠鏡を取り出し、パークタワーに照準を合わせる。
安田「・・・ ・・・」
北側に面した部屋・・・電気の点灯していない部屋をチェックしていった。
(安田「スナイパーなら・・・ 電気など点けない・・・」)
そして・・・
(安田「あそこだ!!」)
パークタワー11階、東側の部屋。電気は消えているが、わずかに風になびくカーテンの見える部屋が1つあった。
望遠鏡をしまった安田。
(安田「11階とは・・・ よほど、腕に自信があるらしい・・・」)
藤岡がいるであろう、その場所へ近づいていった。
・・・ ・・・。
午後10時11分。プリンスパークタワーホテル11階。とある一室。
スイートルームの中に藤岡はいた。
藤岡「・・・ ・・・」
部屋の電気を消し、わずかに開けた窓から・・・サイレンサー付き狙撃銃のスコープを通し・・・魁斗を見ている。
藤岡「よかろう。日比谷通りに出ろ」
インカムマイクを通じて、魁斗に指示を出す。チラリと時計を確認すると・・・
(藤岡「この時間で、見つけられないとなると・・・
見切りを付けるべきか・・・」)
ピキーーーーン・・・
ふと、魁斗と会話を続ける携帯から小さな警告音が鳴った。
(藤岡「!? 侵入者!?」)
スイートルームは2つの大きな部屋に分かれていて、藤岡は奥の部屋にいる。隣の玄関がある部屋・・・そこに何者かが侵入した事を告げる警告音だった。
(藤岡「・・・ っく・・・ どうやってここが・・・」)
侵入してきたのが何人で、どのような武装をしているのかわからない。だとしたら、取るべき行動は1つ。
藤岡はすぐに、銃を抱え・・・
安田「動くな!!!」
背後から安田に声をかけられる前に・・・
(安田「いない!?」)
姿を消していた。
銃を握りしめ、警戒しながら安田は部屋の奥の窓へ近づく。外から見たときとは違い、窓は全開になっており・・・ 幅の狭いベランダに通じる。
窓から顔を出すと・・・ 何も無い。いや・・・隣の部屋のカーテンがなびいているのが見えた。
安田「っく!」
外から見たとき・・・両サイドの部屋は真っ暗で、窓も完全に閉まっていたはずだ。
(安田「ベランダから、隣に逃げた・・・」)
あわてて安田は部屋を出ようとするが・・・
シューーー・・・・
部屋の中央で、バルサンをたいたような煙が立ちこめている。
(安田「ト、トラップ・・・!?」)
煙の出所はベッドの下・・・そしてTVの後ろ。安田はそれを【ただの煙】なのか【毒ガス】なのかを、判断する時間はない。
すぐにベランダを出て・・・ 藤岡が逃げたであろうルートを追い始めた。
・・・ ・・・。
午後10時17分。日比谷通り。
魁斗「・・・ ・・・」
しばらく藤岡からの連絡が途絶えていたが・・・
藤岡「ハァ、ハァ・・・ やってくれたな・・・ 教授よ・・・」
息を切らせた藤岡の声が聞こえてきた。
(魁斗「っく・・・ 失敗か・・・」)
予定では安田から、藤岡を捉えたという連絡が来るはずだった。
魁斗「何の事だ?」
とぼけた声を出す。
藤岡「近くにフットサルのコートがある。その近く・・・
茂みに隠れるように、車がある。娘はその中だ」
魁斗「わかった。確認したら、女を渡そう」
藤岡「ふん・・・ だといいがな・・・」
そう言うと電話が切れた。
魁斗はすぐにフットサルコートがある場所に向かう。そして木々の間から、コートが見えたその時・・・
ドッッゴオオオーーーーン!!!
魁斗「!?」
コートを正面に見た右側の木々から、大きな火柱があがった。
そして何かの金属片が飛び散る。
魁斗「・・・ ・・・」
魁斗の視線は・・・ 勢いよく燃え上がる木々の中に・・・
上部が吹き飛んだ車の一部を捉えた。
魁斗「ひ・・・ 雛子・・・」
(第116話へ続く)
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次回予告
爆弾がセットされた藤岡の車。そしてその車に閉じ込められた雛子。
慎吾は雛子を助けるため・・・
車の上に立ち上がった。
次回 「 第116話 雛子と慎吾 」
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