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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第4章 世界の命運をかけて
116/147

第115話  魁斗と藤岡

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  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗かいとが、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナ。誘拐された妹を追って、1つ下の後輩・慎吾と共に実家へ戻る。誘拐犯が警視庁捜査官の藤岡だと突きとめるも、彼等のアジトで捕まってしまった。


しかし殺されたはずの魁斗が現れ、皆を救出。


藤岡の属する秘密組織【Unknown】。彼等は、地球上の人間のほとんどを抹殺する、恐ろしい計画を遂行しようとしていた。


魁斗らが組織の計画を止める為、動いている中・・・リナの妹は勝手に外出してしまう。慎吾・魁斗・安田は、雛子を助けようと、東京タワーに向かった。


一方リナは・・・突然現れたグランドマスターに連れ去られた。


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   第115話  魁斗と藤岡


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2012年12月21日(金)、午後9時47分。東京タワー付近。

(宇宙線が地球に飛来するまで・・・残り2時間15分)



安田の携帯を片手に魁斗は、芝公園の中を歩いていた。


魁斗「・・・ ・・・」


藤岡「そこを右に曲がり・・・30mほど進め」


携帯を通じて、藤岡は指示を出し続ける。


幾度となく、同じ所を行ったり来たりさせられている魁斗。その理由も気づいていた。


(魁斗「相手も・・・ 安田と女性を捜している・・・」)


魁斗は1本の木を背にして立ち止まる。左手を上げて、3本指を立てた。


藤岡「何の真似だ・・・?」


魁斗「ここら辺だろう? 30mは?」


藤岡「まだ25m。あと5m先だ」


魁斗「わかった・・・」


立ち止まっていた魁斗は、再び歩き出した。5mほど先にあった低い木を確認すると、右側にそれが来るように立ち止まり・・・左手を真上に上げ、親指をグルグルと不自然に回した。


藤岡「次は左の小道に入れ。20m程先だ」


(魁斗「ここは・・・ 見えてない・・・」)


さらに指定された場所の近くにある木に身を寄せ・・・心臓を抑えて、前屈まえかがみにしゃがみ込む。


藤岡「ふ・・・。苦しいようだな。だが休む暇はないぞ。立て。

    道なりにもう少し歩けば・・・ 図書館がある。


    そこまで行くんだ」


(魁斗「この位置は・・・ 見えている・・・」)


IQ180の頭脳は・・・ 相手が見えている位置と見えてない位置を元に・・・すでに頭に入っている東京タワー周辺の地図から、藤岡のいる場所を絞っていく。


(魁斗「高い位置から、こちらを見ている。

     そして、メソニックビルや大学施設ではない・・・


     ならば・・・」)


左右に見える、大きなホテルを確認した魁斗。左側に東京プリンスホテル、右側にはパークタワーホテルが見えた。


(魁斗「この2つのどちらか・・・」)


図書館の前にある駐車場に入り、大きなトラックを左側の壁にし、魁斗は携帯電話をわざと落とした。


ゆっくりとそれを拾い上げ・・・再び耳にあてる。


藤岡「携帯が壊れたら・・・その時点で終わりだぞ。

    そのまま真っ直ぐ歩け」


(魁斗「見えている! この位置が見えるなら・・・

     プリンスパークタワーだ!」)


何気に歩き、ふと立ち止まった。


(魁斗「ここなら・・・ 死角になっているはずだ・・・」)


藤岡「どうした? 何故、立ち止まる?」


魁斗「さっきから、同じ所をグルグル回っている・・・

    娘の所へ案内する気はあるのか?」


そして時間稼ぎに出る。


藤岡「あぁ。もうすぐだ」


魁斗「具体的な場所を言うつもりはないのか・・・?」


左手に携帯を持ちかえ・・・藤岡と会話する魁斗は、右側のポケットに手を突っ込む。


藤岡「そんな事はないさ・・・」


そしてポケットの中にある自分の携帯電話を操作した。



・・・ ・・・。


午後9時56分。都内某所。


1台のロールスロイスが、4人の人物を乗せて走っている。


リナ「ん・・・」


その後部座席で横になっていたリナ。振動で目を覚ます。


リナ「・・・ ・・・」


目を開くが、視界はぼやけたまま。


老人「ほぅ。あと1時間は目を覚まさないと思っていたが・・・」


リナ「 !? 」


ロールスロイス後部座席。リナは目の前に向かい合うように座るグランドマスターの姿を見た。


リナ「・・・ ・・・」


何かアクションを起こそうとするが・・・手足がしびれて、思うように動かせない。


老人「の攻撃を直接くらったんだ。

    そうは動けまい・・・」


小さな笑みを浮かべながら、リナに視線を合わせる。


リナ「・・・ ・・・」


リナもまた、目の前の男に視線を合わせる事しかできない。


老人「新世界に向かっている・・・」


リナ「・・・ ・・・」


老人「【何故、私を連れ去るのか・・・】

    その疑問に、納得いく答えを与えるには・・・


    いささか時間が必要だ」


リナ「・・・ ・・・」


老人「そうだ。もっとも【霊能力】という言葉は・・・

    お前達の言葉だがな・・・」


リナは無言だったが・・・ 頭の中で思う事が、全てグランドマスターには筒抜けだった。


老人「お前が連れ去られたのは・・・

    全ての運命を握っているからだ」


(リナ「私が・・・? 全ての運命を握っている・・・?」)


老人「ユダヤの事は・・・ 知っているか?」


グランドマスターは、唐突に質問してきた。


(リナ「ユダヤ? ナチスの・・・ユダヤ人迫害・・・?」


老人「その程度か・・・

    ポグロムや歴史的冤罪の話など・・・ 知らぬか・・・」


リナ「・・・ ・・・」


理数系にはめっぽう強いリナだが・・・ 歴史や政治経済など社会系の教科は大の苦手だ。


老人「よかろう。小学生相手と思い・・・端的に話してやろう。

    我々ユダヤの民は、過去多くの迫害を受けてきた。


    イスラエル共和国も・・・未だに多くの問題を抱えている」


(リナ「なんで・・・ そんな話を・・・」)


老人「お前は知る必要があるからだ。

    【わたしはシオンに帰り、エルサレムのただ中に住もう】


    旧約聖書にある言葉だ。余は、それを実現する」


(リナ「意味が・・・ わかんない・・・」)


老人「羽鳥家の人間は優秀と聞いていたが・・・」


グランドマスターは、ふ~っと溜息をつく。


老人「わかった。こう言えば通じるだろう。

    多くのユダヤ人と一部の優秀な人間を残し、全てを滅ぼす。


    先祖が夢見ていた・・・我々による新世界を建国するのだ。

    それが我々の望み・・・」


リナ「・・・ 結局、ただのテロリストってわけね・・・」


リナは初めて声を出した。


老人「何と言われようと・・・ 構わぬ。

    そして我々の前に立ちはだかるのが・・・お前達・・・」


リナ「・・・ だとしたら・・・ 邪魔者の私を・・・

    な、何故殺そうとしない・・・?」


それを聞いたグランドマスターは、ニヤリと笑う。


老人「モーツァルトを・・・ 聞きたいからだ・・・」


リナ「・・・ ?」


まともなのか、それとも・・・


(リナ「この爺さん・・・ 頭がおかしいの・・・?」)


老人「おかしくはない。会話の論点が・・・掴めてないのはお前の方。

    それはお前が・・・ 1つの大きな事実を知らないからだ」


リナ「事実・・・?」


老人「モーツァルト・・・」


リナ「 ? モーツァルト?」


老人「あぁ、モーツァルトだ。好きか?」


リナ「・・・ ・・・ えぇ・・・」


老人「アウシュビッツで・・・ 

    我が同胞が、死にゆく前に聞いたのが・・・モーツァルトだった。


    そして今度は・・・ その逆・・・」


リナ「・・・ ・・・」


グランドマスターの青い眼は、リナに視線を合わせながらも・・・別の何かを見ているように感じられた。



・・・ ・・・。


午後10時4分。東京タワー近く、芝公園ビル。



メール受信 【 羽鳥魁斗 】


(安田「きた!!」)


芝公園ビルの中で身を潜めていた安田。タブレット型PCを手に、魁斗からメールが来たことを確認する。


内容 【 プリンスパークタワー 7階から11階

      北側が見える部屋 急げ! 】


メールを確認した安田。


(安田「狙撃ポイント・・・ やはりそうくるか・・・」)


PCをポケットに入れ・・・


(安田「だが、敵の場所さえわかれば・・・」)


すぐにビルを出る。プリンスパークタワー北側からは見えないルートを辿り・・・


パークタワーの死角になる木陰に身を隠した。そしてポケットから小型望遠鏡を取り出し、パークタワーに照準を合わせる。


安田「・・・ ・・・」


北側に面した部屋・・・電気の点灯していない部屋をチェックしていった。


(安田「スナイパーなら・・・ 電気など点けない・・・」)


そして・・・


(安田「あそこだ!!」)


パークタワー11階、東側の部屋。電気は消えているが、わずかに風になびくカーテンの見える部屋が1つあった。


望遠鏡をしまった安田。


(安田「11階とは・・・ よほど、腕に自信があるらしい・・・」)


藤岡がいるであろう、その場所へ近づいていった。



・・・ ・・・。


午後10時11分。プリンスパークタワーホテル11階。とある一室。


スイートルームの中に藤岡はいた。


藤岡「・・・ ・・・」


部屋の電気を消し、わずかに開けた窓から・・・サイレンサー付き狙撃銃のスコープを通し・・・魁斗を見ている。


藤岡「よかろう。日比谷通りに出ろ」


インカムマイクを通じて、魁斗に指示を出す。チラリと時計を確認すると・・・


(藤岡「この時間で、見つけられないとなると・・・

     見切りを付けるべきか・・・」)


ピキーーーーン・・・


ふと、魁斗と会話を続ける携帯から小さな警告音が鳴った。


(藤岡「!? 侵入者!?」)


スイートルームは2つの大きな部屋に分かれていて、藤岡は奥の部屋にいる。隣の玄関がある部屋・・・そこに何者かが侵入した事を告げる警告音だった。


(藤岡「・・・ っく・・・ どうやってここが・・・」)


侵入してきたのが何人で、どのような武装をしているのかわからない。だとしたら、取るべき行動は1つ。


藤岡はすぐに、銃を抱え・・・


安田「動くな!!!」


背後から安田に声をかけられる前に・・・


(安田「いない!?」)


姿を消していた。


銃を握りしめ、警戒しながら安田は部屋の奥の窓へ近づく。外から見たときとは違い、窓は全開になっており・・・ 幅の狭いベランダに通じる。


窓から顔を出すと・・・ 何も無い。いや・・・隣の部屋のカーテンがなびいているのが見えた。


安田「っく!」


外から見たとき・・・両サイドの部屋は真っ暗で、窓も完全に閉まっていたはずだ。


(安田「ベランダから、隣に逃げた・・・」)


あわてて安田は部屋を出ようとするが・・・



シューーー・・・・


部屋の中央で、バルサンをたいたような煙が立ちこめている。


(安田「ト、トラップ・・・!?」)


煙の出所はベッドの下・・・そしてTVの後ろ。安田はそれを【ただの煙】なのか【毒ガス】なのかを、判断する時間はない。


すぐにベランダを出て・・・ 藤岡が逃げたであろうルートを追い始めた。



・・・ ・・・。


午後10時17分。日比谷通り。


魁斗「・・・ ・・・」


しばらく藤岡からの連絡が途絶えていたが・・・


藤岡「ハァ、ハァ・・・ やってくれたな・・・ 教授よ・・・」


息を切らせた藤岡の声が聞こえてきた。


(魁斗「っく・・・ 失敗か・・・」)


予定では安田から、藤岡を捉えたという連絡が来るはずだった。


魁斗「何の事だ?」


とぼけた声を出す。


藤岡「近くにフットサルのコートがある。その近く・・・

    茂みに隠れるように、車がある。娘はその中だ」


魁斗「わかった。確認したら、女を渡そう」


藤岡「ふん・・・ だといいがな・・・」


そう言うと電話が切れた。


魁斗はすぐにフットサルコートがある場所に向かう。そして木々の間から、コートが見えたその時・・・




ドッッゴオオオーーーーン!!!




魁斗「!?」


コートを正面に見た右側の木々から、大きな火柱があがった。


そして何かの金属片が飛び散る。


魁斗「・・・ ・・・」


魁斗の視線は・・・ 勢いよく燃え上がる木々の中に・・・


上部が吹き飛んだ車の一部を捉えた。


魁斗「ひ・・・ 雛子・・・」





           (第116話へ続く)

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次回予告


爆弾がセットされた藤岡の車。そしてその車に閉じ込められた雛子。


慎吾は雛子を助けるため・・・ 


車の上に立ち上がった。



次回 「 第116話  雛子と慎吾 」

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