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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第4章 世界の命運をかけて
106/147

第105話  神に選ばれし者

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  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗かいとが、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾と共に誘拐犯を追うリナ。


2人は黒幕が警視庁捜査官の藤岡である事を突きとめるが、彼等のアジトで捕まってしまう。しかし死んだと思われていた父親の魁斗が現れ、皆を救出。


魁斗は慎吾に、秘密組織【Unknown】の恐るべき計画を語る。


一方、藤岡はグランドマスターと呼ばれる男の到着を待っていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第105話  神に選ばれし者


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2012年12月21日(金)、午後2時25分。墨田区某所。


1台のロールスロイスが、路地裏にある細い道路の隅・・・小さな建物の前で止まった。


人通りもなく、低い建物しか立ち並んでいない簡素な風景の中・・・似つかわしくないその車から、黒いスーツの大男が2人、運転席と助手席から降りてくる。


2人とも190cm以上。1人は黒人でサングラスをつけ、もう1人は白人でパーマ頭の男だ。


後部座席のドアの前に立つと、黒人の大男が扉を開けた。白人の男は周囲を警戒しているようだ。


そしてその後部座席から・・・ スキンヘッドの老人が降りてきた。黒いスーツに身を固め、右手には太い杖を握り、ゆっくりとそれをついて外に出る。目鼻立ちはハッキリとしていて、その眼は・・・濃いブルー。明らかに日本人ではない、ヨーロッパ系ともとれるし、中東系ともとれる顔立ちだ。


老人の両サイドについた大男達は懐に手を忍ばせ、周りをキョロキョロと見回していた。大男に挟まれているので小さく見えるが・・・老人の身長は178cm。けして低くはない。


ふと、車の前の建物の入り口から白いコートの男が現れた。


藤岡「お待ちしておりました。グランドマスター」


銀縁眼鏡の男・藤岡は・・・


老人「おぉ・・・ 我が息子よ・・・」


その老人に息子と呼ばれる。


藤岡「・・・ ・・・」


何か言いたそうだが、言葉をのみ込んだ。


藤岡「さぁ、こちらへ。神の子も・・・ 中にいます・・・」


老人「おぉ・・・」


老人の目が大きく見開いた。そして藤岡に手をひかれ・・・簡素な建物の中へと入って行った。


藤岡「・・・ ・・・」


建物に入る直前、藤岡はチラリと背後を見る。その視線の先には・・・東京スカイツリーがあった。



・・・ ・・・。


同時刻。東京農工大、地下施設。


魁斗「雛子は?」


奥の部屋から出てきた長女・リナに声をかける。


リナ「早くママに会いたいって・・・。

    明日には会えるからって言ったけど・・・


    とりあえず今は、携帯ゲームで気を紛らわしているわ」


魁斗「そうか・・・無理もない。

    早く家に帰したいが・・・ あと少しの辛抱」


リナはスーパーコンピュータの前にあるテーブルに座った。左隣には父親。そして正面には慎吾が座っている。


魁斗「あと30分で・・・ 

    【Unknown】のグランドマスターから、声明が発せられる。


    まずは【選ばれし者】と・・・【選ばれざる者】に向けてだ」


慎吾「【選ばれざる者】? テロ計画を知らない人たちの事ですか?」


魁斗「違う。何も知らずに死ぬ者は・・・

    【力なき者】、あるいは【herd】・・・彼等はそう呼んでいる」


慎吾「【herd】?」


魁斗「【群れ】という意味だが・・・

     彼等は【畜群】というニュアンスでその言葉を使っていた」


リナ「畜群?」


慎吾「ニーチェ思想ですね・・・。

    群れを作る弱い人たちを・・・ニーチェはそう呼んだんです」


リナ「じゃぁ、【選ばれざる者】って?」


魁斗「能力はないが、金はある・・・そういう連中だ。

    もっとも【Unknown】は、彼等に・・・


    【選ばれし者】だと言ってはいる・・・。

    結局、殺される対象に変わりはない」


慎吾「な、何故・・・【選ばれざる者】がいるんですか・・・?

    その・・・彼等の役目というか、役割は・・・あるのですか?」


魁斗「金さ」


慎吾「金?」


魁斗「いわゆる新世界と呼ばれる地下施設だが・・・世界に13箇所ある。

    特殊な量子シールドで守られている広大な施設で・・・


    それぞれ5000人~7000人を収容できる」


リナ「8万人前後・・・それだけが生き残る・・・?」


リナは新世界へ行くであろう、おおよその人数を計算した。


慎吾「そ、それ以外は、皆死ぬって事・・・ですか?」


魁斗は静かに首を縦に振った。


魁斗「さすがにそれだけの施設を作るには・・・莫大な金がいる。

    最新科学のすいを集めたその施設は・・・


    1施設、日本円で7兆円もの費用がかかると言われている」


慎吾「な・・・ 7兆円!? たった1つで7兆円!?」


リナ「じゃぁ・・・ 13施設で90兆円以上?

    日本の国家予算なみじゃない・・・」


魁斗の話はこうだった。


世界各地に散らばる大富豪に、2012年12月に大規模な宇宙線が地球に降り注ぎ、地球人類が滅亡するという話を持ちかける。 もちろん彼等は、簡単に信じる事はない。


そこで色々な科学者が、それら宇宙線を観測した時の実験映像を見せる。それら科学者は・・・観測に成功した後、突然苦しみだし皆死に絶える・・・その事実を伝えると共に、実際彼等が死んでいく動画を見せる。


最初はいぶかしがった富豪連中も・・・リアルな動画映像を見て信じ始める。


折しもマヤ歴が2012年12月に終わり・・・世紀末が訪れるという伝説が世界中に流れた時期・・・マヤの伝説も、それを信じる後押しをした。


金を持つ者の顕著な体質・・・「生に対する執着心」は尋常ではない。多くの富豪は自家シェルターを持つが、宇宙線はそのシェルターもくぐり抜ける。


そこで、量子シールドを持つ地下施設【新世界】の話を持ち出し・・・法外な金額を要求。その引き替えはもちろん・・・【新世界】への移住だ。


魁斗「彼等から集めた資金は、総額200兆円にも上る。

     その費用で【新世界】は、各地に建設されたんだ」 


慎吾「その富豪達が・・・【選ばれざる】者・・・」


魁斗「彼等にはダミーの施設が用意されている。

    結局は宇宙線の餌食になり・・・ 死ぬ運命・・・」


リナ「ひどい話・・・」


魁斗「【選ばれし者】は・・・ 

    各国にいる優秀な頭脳を持つ科学者だったり・・・


    優秀なアスリート・・・あるいは芸術家など。

    各界で、傑出した才能を持つ者だ。例え金がなくてもな」


慎吾「・・・ ・・・」


魁斗「【Unknown】はもちろん・・・

    すでに【選ばれし者】は選定済みだ。


    新世界で、優秀なDNAだけを残すつもり・・・。

    昔からある愚かな思想さ」


リナ「・・・ ・・・ 信じられないけど・・・

    あと数時間で、それを実行しようとしているのね・・・」


魁斗「彼等の計画は・・・非常に周到。

    まずは午後3時に・・・


    身内である【選ばれし者】【選ばれざる者】に向けて・・・

    グランドマスター、いわゆるメシアが声明を行う」


リナ「・・・ ・・・」




・・・ ・・・。


午後2時45分。墨田区某所。


とある建物の地下・・・その一室に5人の男がいる。


老人「・・・ ・・・」


10畳ほどの部屋。周りは白い壁で覆い尽くされ、その上座かみざ・・・白いソファに老人は座っていた。背後には、ボディガードであろう大男2人組が立っている。


藤岡「・・・ ・・・」


部屋の入り口には、藤岡が腕を組んで立っていた。


安田「・・・ ・・・」


老人、そして藤岡の視線は・・・老人の正面に座る安田に向けられている。黒いスーツに黒いネクタイをつけた安田は、緊張した表情を浮かべていた。


老人「で? 神の子は?」


安田「隣の部屋で・・・眠っています」


老人「よかろう。では・・・自ら足を運ぼう」


スキンヘッドの老人は、右手で杖をつき、椅子から立ち上がる。


藤岡「連れてきましょうか?」


老人は歩きながら、藤岡の立っている出入り口に向かっていった。


老人「いや・・・ 神童とよばれし天才・・・


    余自ら出向く・・・」


藤岡が扉を開き、老人は部屋を出る。さらにボディガード2人も続く。



隣の部屋に入った老人。窓際のベッドで横たわる女性を見つけた。


老人「・・・ ・・・」


ベッドの所へ歩くことはせず・・・部屋の入り口付近で、じっとベッドの方向を見つめ続けた。


藤岡「彼女がリゼット・トウシェク。

    今月初め、モーツァルトの霊が乗り移ったと言われる女性です」


老人の後方で、藤岡は説明する。ベッドの方へ案内しようとするが、老人は立ち止まったままだ。


藤岡「どうしました? 確認するのでは?」


老人は首を縦に振った。


老人「もう確認したよ。なるほど、実に興味深い・・・」


藤岡「 ? モーツァルトが見えたという事ですか?」


今度は首を横に振る。


老人「いや・・・。 神の子を見ただけだ・・・」


藤岡「 ? 」


老人の視線は、ベッドから離れる事は無い。


藤岡「言ってる事が・・・ よくわかりませんが・・・?」


老人「話せば長い。【最後の式典】が終わった後・・・ゆっくり話してやる」


藤岡「そうですか・・・ 1つだけ確認を?」


老人「何だ?」


藤岡「彼女は新世界に?」


老人の視線がようやく藤岡に向いた。


老人「もちろんだ。彼女は間違いなく・・・神に選ばれし者だ」


藤岡「か・・・?」


言おうとした言葉をのみ込んだ藤岡。


藤岡「わかりました。では、手配しておきます。安田!」


部屋の外、廊下で待機していた安田を呼んだ。


安田「はい」


藤岡「式典が終わるまで・・・」


安田「わかってます」


藤岡の言葉を遮って、安田は頷いた。その安田の肩に老人が手を置いてきた。


安田「グ・・・グランドマスター?」


老人「わざわざウィーンから・・・ 彼女を連れてきた?」


安田「え、えぇ・・・」


威圧感のある声に、額から汗が流れる。


老人「良い仕事をしてくれた・・・。

    そしてもう1つ・・・ いい仕事をしてくれそうだ」


安田「は・・・ はい・・・?」


よくわからないまま、安田は頷いた。それを見た老人は笑いながら、ボディガードと共に部屋を出て行く。直後安田は、大きな溜息をついた。


安田「ふ~・・・」


そしてベッドの上にいる女性に視線を移した。


藤岡は老人と共に、元いた部屋へと戻る。


(藤岡「モーツァルトではなく・・・ 彼女を新世界へ・・・?」)


老人「我が息子よ・・・」


物思いにふける藤岡に、老人は声をかけた。


藤岡「何か?」


老人「裏切り者の・・・  居場所を知りたいか?」


藤岡「え?」



・・・ ・・・。


午後3時ちょうど。東京農工大、地下施設。


魁斗「始まったぞ・・・」


慎吾「・・・ ・・・」


リナ「・・・ ・・・」


魁斗はスーパーコンピュータのキーボードを操作し、部屋中央にある大画面に何かの動画を映し出す。


魁斗「生中継で、世界各国にいる【選ばれし者】【選ばれざる者】・・・

    彼等に向けて、映像が流れている」


言いながら魁斗はコンピュータのキーボードを操作した。


リナ「あれが・・・」


慎吾「グランドマスター・・・」


大画面に映し出されたのは、スキンヘッドの老人。


魁斗「・・・ ・・・」


魁斗もその老人を、マジマジと見つめた。


魁斗「あぁ。【Unknown】のトップ・・・

    グランドマスターだ。


    彼等の言う【最後の式典】が・・・ 今、始まる・・・」





           (第106話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


グランドマスターは、【選ばれし者】について語り始めた。


これから起こる人類終焉の時・・・


そして【Unknown】の祖先について語り・・・


その話は、死海文書に繋がる。



次回 「 第106話  死海文書 」

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