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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第4章 世界の命運をかけて
104/147

第103話  グランドマスター

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗かいとが、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾と共に誘拐犯を追うリナ。


2人は黒幕が警視庁捜査官の藤岡である事を突きとめるが、彼等のアジトで捕まってしまう。だが死んだと思っていたリナの父親・魁斗が誘拐された次女雛子、そして慎吾とリナを救出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第103話  グランドマスター


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2012年12月21日(金)、午前2時1分。都内某所。


羽鳥家・警備主任の井上が運転するバンは、深夜の車通りの少ない都道を走っていた。助手席に座っている魁斗は、井上に指示をして行く末をナビゲートする。


後部座席の広い空間で、リナと妹の雛子はずっと話していた。


雛子「あれ・・・ お姉ちゃんの彼氏?」


雛子の視線が、慎吾の方向を向く。


(慎吾「あ・・・ あれ?」)


雛子の視線を受けて、慎吾が半笑いの表情を浮かべた。


リナ「まさか。私の彼氏になる人はイケメンのみよ」


笑いながらリナが妹に告げる。


雛子「そうよね。あんなのがお姉ちゃんの彼氏だなんて・・・

    絶対ナイわよね!」


慎吾「・・・ ・・・」


会話に入り込むことが出来ず・・・慎吾は車に揺られていた。妹との会話が一区切りしたリナは、父親に話しかける。


リナ「パパも無事でよかった・・・

    どうしてもっと早く・・・連絡をくれなかったの?」


助手席に座る父親の右肩に、リナは手をのせた。


魁斗「羽鳥邸は・・・ずっとマスターの監視下にあった。

    私がコンタクトを取れば・・・家族はみな殺されただろう」


リナの手を握りしめる魁斗。


リナ「・・・ ・・・」


言葉が出てこない。


魁斗「羽鳥家の電話は私も傍受していた。以前マスターに・・・

    【聞いているんだろう? ゲームはすでに始まっているぞ!】


    と言われた時は、心臓が止まりかけたがな・・・」


リナ「あ・・・ あれは・・・ パパに言ってたんだ・・・?」


魁斗「マスターは・・・

    私が日本にいるかどうか、まだ確信してなかったはずだ。


    だから、カマをかけたんだろう」


リナ「日本にいない・・・ 可能性もあったの?」


魁斗「あちらからしたら・・・な。

    私が直接、ウィーンに飛んだ事も考えていたはずだ」


リナ「ウィーン・・・?」


大学のサーバに侵入した事を思い出すリナ。藤岡は、大学のサーバにあるDATAを破棄した事で・・・計画がうまくいくと言っていた。


魁斗「すまんな。もっと早く会いたがったが・・・

    彼等のテロ計画を食い止めるため、時間が必要だった・・・


    何とか彼に気づかれぬよう、情報を集めていたんだ」


魁斗は雛子に聞こえないよう、声を小さくして話す。


リナ「計画を・・・ 食い止める?」


魁斗「あぁ。日付が変わる頃・・・ある宇宙線が地球上に降り注ぐ。

    非常に特殊な波長を持つ宇宙線だ。


    そして地球上にいるほぼ全員が・・・ 死ぬ事になる」


リナ「嘘・・・ あいつの話・・・ 本当だったの?」


魁斗「マスターから聞いたか・・・ 新世界の話も?」


リナ「えぇ・・・あと、ウィーン大学のサーバがどうとか・・・

    私のせいで・・・計画が遂行できるって・・・」


大学への侵入手順は、直接魁斗が授けた。


魁斗「リナが大学のサーバに侵入しなければ・・・

    2つの大学は跡形もなく吹き飛ばされただろう。


    だから、リナのした事は正解。大丈夫、ちゃんと手をうってある」


リナ「手を?」


魁斗「妻に会いたいが・・・ もう一仕事ある。

    今日の24時までに・・・


    奴らの計画を阻止する」


リナ「で・・・出来るの・・・?」


魁斗「この4年間・・・ずっとこちらも計画を立ててきた。

    この命をかけてな・・・」


魁斗は自分の手で心臓を押さえた。


魁斗「今から・・・とある大学に行く。

    そこには、彼等の計画を止める物を揃えてある」


再びリナの手を握った魁斗。


魁斗「リナの助けも必要だ。協力してくれるね?」


リナ「も、もちろん・・・。死にたくないもの・・・

    せっかくパパと会えたのに、明日には死ぬなんて・・・


    絶対ありえないから!」


娘の心強い言葉に、魁斗は笑顔になる。


リナ「それよりパパ! 聞いて!

    雛子から聞いたんだけど・・・ 安田さんが・・・」


一転して魁斗の表情が暗くなった。


リナ「彼、雛子から連絡を受けてたのよ!

    でも取り調べの時は、何も連絡は受けてないって言っ・・・」


魁斗「リナ!」


リナの言葉を途中でさえぎる。


魁斗「安田の事は・・・ わかっている。だが今は・・・」


チラリと背後にいる雛子を見た。疲れたのか、横になって寝ている。


魁斗「時が来たら話す。今は・・・

    24時間後に・・・確実にくる驚異に備えてくれ」


リナ「パパ・・・?」


魁斗の目から涙がこぼれ落ちた。


リナ「・・・ ・・・」


魁斗「すまん。だが今は・・・   すまん・・・」


リナ「・・・ ・・・」


何か裏がありそうだが・・・リナはそれ以上、追求することはなかった。


(慎吾「宇宙線・・・?」)


バンの後部座席、奥の方で小さく丸まっていた慎吾。親子の会話を、それとなく聞いていたが・・・


(慎吾「まだまだ・・・ 落ち着けないんだ・・・」)


パワーストーンをぎゅっと握りしめた。



・・・ ・・・。


午前3時14分。


リナ達の乗ったバンは、とある場所で止まった。眠っている雛子を抱きかかえる魁斗が降りる。続いてリナと慎吾が車の外に出た。


魁斗「井上主任。ここまでありがとう」


雛子を抱いたまま、魁斗は運転席に残った井上に声をかける。


井上「必要なら、いつでも」


魁斗「あぁ。必ずまた連絡する。瞳にはまだ・・・」


井上「わかってます。まだ旦那様の生存は伏せて起きますから」


魁斗「もう少しで全てが片付く。

    今年のクリスマスパーティーは、是非あなたも参加してくれ」


井上「もったいないお言葉です」


しばらく会話を続けた後、井上は4人の男女を置いて車を走らせて行った。


慎吾「こ・・・ ここは・・・」


薄明かりに照らされるいくつかの建物群を見て、慎吾が呟く。


魁斗「覚えているか?」


慎吾「そ、そりゃもう・・・」


建物から魁斗に視線を移す。


慎吾「あなたを追ってここまで来たんですから・・・」


東京農工大学。府中本町から、当時正体不明だった男を追って慎吾はここへ辿り着いた。


魁斗「こっちだ。行くぞ」


次女を抱きかかえたまま・・・魁斗は慎吾とリナを、ある建物の地下へと導いた。



・・・ ・・・。


リナ「す・・・ すごい・・・」


地下の部屋に入るよう指示されたリナ。暗い部屋の電気が点灯すると、目の前に大型コンピュータが現れた。


魁斗「スーパーコンピュータ【那由他】(なゆた)だ。

    おおやけには発表されていない」


20畳ほどある広い部屋。中央に大画面があり、それにつながる複数のサーバ。周りにはデスクトップPCが10数台囲むように置かれている。


魁斗「隣に畳間がある。布団も用意されているから、そこで休むといい」


魁斗は雛子を抱いたまま、隣の部屋へ続く扉を開け、入っていった。


リナ「スーパーコンピュータ・・・ 初めて見たわ・・・」


慎吾「・・・ ・・・」


慎吾もそれを見るのは初めてだが・・・ほとんどPCを触ることがないので、ただ漠然と


慎吾「す、すごい・・・」


と言葉を漏らすだけだ。


魁斗「雛子はぐっすり寝ている。リナもずっと起きているだろう?

    しばらく寝ておきなさい」


リナ「で、でも・・・ 奴らを止めなきゃ・・・」


魁斗「今できる事は無い。時を待つんだ」

    

リナ「・・・ ・・・」


何かをしなければという使命感はあるが・・・ 30時間以上不眠不休でいるリナの体は、真っ直ぐ歩くのもフラフラする状態だ。


魁斗「その時は必ず来る。それまで、奥で休んでいなさい」


リナ「・・・ ・・・」


無言で首を縦に振ったリナ。


リナ「じゃ、じゃぁ・・・ 2時間だけ・・・」


奥の部屋へと入っていき・・・ 妹の横ですぐに眠りに落ちた。そのまま8時間眠る事になる。



慎吾「ぼ、僕は・・・」


スーパーコンピュータの前に残った男2人。


慎吾「僕はずっと寝ていましたから・・・全然眠くありません。

    出来れば・・・ これまでの事や、これからの事を・・・


    聞きたいです・・・」


魁斗「・・・ ・・・」


じっと慎吾を見つめる魁斗。


魁斗「君は・・・ スパイ・・・ ではないな?」


慎吾「えぇ・・・。ただの大学生です」


魁斗「・・・ ・・・」


しばらく考え込む魁斗。


魁斗「この3階トイレで君に麻酔銃を向けた時・・・

    覚えているか?」


慎吾「えぇ。でもあなたは・・・ 優しいオーラがありました」


魁斗「オーラ?」


慎吾「あ・・・・ はい・・・ 何て言うか・・・

    リナ先輩と同じ、奥底にある優しさみたいなものを・・・


    何となく僕は感じ取れたんです・・・はい・・・」


霊能力の事を伏せて、苦笑いを浮かべる慎吾。


魁斗「君にはホントに感謝しているさ。

    君がいなければ・・・ 雛子の居所も突きとめられなかった」


慎吾「い、いえ・・・。僕は・・・ 

    ただ、出来る事をしただけです・・・」


魁斗「・・・ ・・・」


慎吾の自然な言葉に、不思議な気持ちになる。


魁斗「私が君に麻酔銃を撃つ前・・・ 何て言ったか覚えているか?」


慎吾「えぇ。あの時、やけに色々な物に集中できて・・・

    はっきり聞こえました。


    ブレーカレッグ・・・【Break a leg】ですよね?

    あ、足を折れ?」


それを聞いて魁斗は大笑いする。


魁斗「はっはっは。ホントに君は・・・英語がわからないんだな?」


慎吾「え? え?」


魁斗「マスターですら、気づかれないよう行動していた私に・・・

    君は気づいた。どれだけ優秀なスパイかと思っていたが・・・」


慎吾「ど、どういう意味です?」


魁斗「【Break a leg】は、【頑張れよ】って意味さ」


慎吾「えぇ!? そうなんですか!?」


魁斗「その英語力で、よく大学に入れたな」


屈託のない笑顔を浮かべる魁斗につられ、慎吾も苦笑いを浮かべた。


慎吾「お、お恥ずかしい・・・」


魁斗「いや。冗談さ。君がスパイでない事はよくわかった。

    しかし君は・・・ 


    普通の人とは違って、何かしら優秀な能力を持っている。

    でなければ、目黒基地や私の存在に気づくはずがない」


慎吾「・・・ ・・・」


魁斗「・・・ ・・・」


魁斗はじっと慎吾の目の奥を見た。


魁斗「いいだろう。組織【Unknown】の話を君にしよう。

    彼等の計画・・・ そして・・・


    【死海文書】についてもな・・・」


慎吾「死海・・・ 文書・・・?」



・・・ ・・・。


午後1時ちょうど。墨田区。


藤岡「あぁ。目黒基地は、すでに警察に封鎖された。

    墨田区のグランドロッジに変更だ。港区の方ではない!」


携帯を握る藤岡の姿があった。


藤岡「式典は3時ちょうどに変更。各国に向けて発信する準備はしている。

    あぁ・・・ そうだ・・・ もちろん。


    グランドマスターも今、向かっている・・・ そうだ」


とある建物の内部にいる藤岡。チラリと外を見ると・・・スカイツリーが見える。


藤岡「いいな。必ず女も連れてこい。

    グランドマスターとの謁見があるからな・・・


    最後にもう1度言う。電話はこちらからする。

    よほどの緊急でない限り、お前からはかけてくるな」


そして携帯電話を切った。しかしすぐにまた、どこかへと電話をかける。


藤岡「・・・ ・・・」


5回ほどのコール音の後、電話は繋がった。


藤岡「藤岡です。準備はほぼ完了。ロッジに現れるのは何時頃に?」


電話の相手は・・・


藤岡「2時半ですね。わかりました。警察の警戒もありますので・・・

    あまり目立たぬようお願いします。


    グランドマスター」


グランドマスターと呼ばれる男だ。しばらく会話した後、電話を切った藤岡。


藤岡「ふぅ・・・」


タバコを取りだし、火をける。


(藤岡「色々ありはしたが・・・ もうすぐだ・・・」)


タバコをふかしながら、再びスカイツリーの頂上を見つめた。



・・・ ・・・。


9時間前。東京農工大学、地下施設。


慎吾「グランドマスターが・・・?」


魁斗「あぁ。【プロパガンダ2(ドゥエ)】の頃から暗躍している。

    ジェッリの裏に隠れて・・・法王暗殺も遂行した男だ」


慎吾「それが・・・


    藤岡さんの・・・   お父さん・・・?」


魁斗は静かに頷いた。


魁斗「そして死海文書にある・・・メシア(救世主)でもある」


慎吾「・・・ ・・・」




           (第104話へ続く)

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次回予告


今だ完全解読に成功していない死海文書。

魁斗は、それがある預言と密接な繋がりがあるという。


さらには【Unknown】の前身、【プロパガンダ2】の・・・

恐ろしい過去が明らかになる。


次回 「 第104話  第3の予言 」

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