第9話 暗 号
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2012年12月。
リナの携帯に、妹を誘拐したという電話が届く。1つ年下の後輩・慎吾と共に、実家に戻るリナ。
羽鳥家に関わる面々が集まる中・・・
【誘拐犯】から連絡が入り、1週間以内に1億を用意しろという。
警視庁から2人の捜査官、後藤と藤岡が訪れ捜査を始める。
リナも藤岡も、リナの母親・瞳に届いた不審なメールが事件の鍵を握っているとよむのだが、その出所を探れない。
事件発生の翌朝。リナは慎吾に、ピアノを弾いてあげた。
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第9話 暗 号
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2012年12月13日(木)、午後12時半。羽鳥邸、応接室。
新城「あの・・・ ホントによろしいんですか?」
羽鳥邸の家政婦・新城は、応接室で待機している捜査官の後藤に声をかけていた。
後藤「えぇ、職務中ですし。
それに刑事の食事は、パンと牛乳と決まってますので」
後藤は笑いながら、コンビニで買ったであろう、未開封のあんパンと紙パックの牛乳を新城に見せる。
後藤「私に遠慮なさらず、どうぞ皆さんで昼食をとってくだ・・・」
リリリリリーン・・・ リリリリリーン・・・
言葉の途中で後藤の携帯が鳴り出した。すぐさま電話に出ようと、ポケットから携帯を取り出そうとする。
カシャン
慌てた後藤は、携帯を床に落としてしまった。
後藤「全く・・・本庁から配布された携帯は、小さくていけねぇ・・・」
警視庁の捜査官は、専用の携帯端末を警視庁から配布される。毎年最新機能のついた携帯が配布されるものの、機械が苦手な後藤。通話と簡単なメール以外で、携帯を使用する事はほとんどなかった。
後藤「あー、もしもし。後藤だ。あぁ、うん。そうだ、今は羽鳥邸だ」
後藤の横で新城がその様子を見つめている。
後藤「何!?」
突然後藤は大きな声をあげ、眉間にしわをよせた。
後藤「あぁ・・・ うん・・・ 状況は・・・
そうか・・・ うん・・・ 」
新城は後藤の緊張した様子を見て、不安な表情を浮かべる。
その頃リナと慎吾、そしてリナの母親瞳は1階左奥の広い部屋の中で、昼食をとろうと大きな食卓についていた。
後藤の声が聞こえると、何かあったのかと応接室まで皆出てくる。
後藤「わかった。
こちらは動けないから、また何か情報得たら連絡をしてくれ」
電話を切った後藤。
カシャン
ポケットに携帯をしまおうとした際、またしても床に落としてしまう。
携帯を拾いあげると回りに皆が集まっているのに気づき、驚いた。
瞳「あ、あの・・・ 何か!? 誘拐犯の情報でも!?」
一睡もしていない瞳は目を充血させ、不安そうな顔で後藤に詰め寄ってくる。
後藤「あ、いえいえ・・・別件ですよ」
瞳「お願い、何でもいいの。何があったか話してちょうだい」
昨夜、犯人とコンタクトをとってから半日も過ぎてないが・・・
瞳にとって何もない事はただ不安を促進させるだけだった。
後藤「あぁ・・・レコード店で女性が刺されたという事件がありまして。
申し訳ないですが、誘拐とは別件です。
紛らわしい声をあげてしまい、大変申し訳ない」
瞳は目を閉じて大きなため息をつくと、フラフラとしながらまた食卓へと戻っていった。慎吾やリナも落胆した表情で瞳に続く。
・・・ ・・・
午後6時過ぎ。
未だに誘拐犯からの連絡はない。何もないまま、ただ時間だけが刻々と過ぎていく。慎吾は自分の部屋で分厚い本を読んでいた。
【失われたマヤ文明】
夢中で読みふけっていた慎吾の携帯にメールが届く。
受 信 リナ先輩
タイトル ちょっといい?
内 容 部屋まで来て。2階の1番奥ね。
慎吾はすぐに部屋を出ると、2階の廊下を歩いて奥の部屋まで行く。ドアをノックすると
リナ「開いてる。入ってきて」
奥からリナの声が聞こえた。
中に入ると、20畳ほどの広い部屋だった。つけっぱなしのTV、乱雑に床に散らばっている雑誌類。そんな部屋の奥の勉強机で、リナはノートパソコンを操作していた。
朝と違って長袖長ズボンの格好をしていたおかげで、慎吾は目のやり場に困ることはない。
リナ「これ見て」
慎吾が声をかけるより早く、リナが声をかけた。そして、ノートパソコンの画面を慎吾に見せる。
送 信 者 : $K$
タイトル : なし
内容
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・・・ ・・・
・・・ ・・・
リナ「これ見て、何かわかる?
ママに届いたメールなんだけどさ」
昨日から気になって仕方がないメールだ。慎吾はしばらくそれを見るが・・・何かがあるようには思えない。
慎吾「ただの・・・文字化けしたメールにしか見えませんが・・・?」
リナは大きなため息をついた。
リナ「やっぱりダメか・・・。
あんた歴史がらみは頼れるけど、こういうのはダメよね・・・」
慎吾「あ、あの・・・ そのメールが何か?」
リナ「うん・・・ このメール・・・絶対、何かあるはずなのよ・・・。
1日中見ても、何もわからないんだけど・・・」
じっとディスプレイを見つめるリナ。
リナ「霊感の強い慎吾なら、何かわからないかな~と思ってね・・・。
ドラマとか漫画で見た事あるのよ。
霊能者が、残された物から情報を得るみたいな感じのヤツ」
その言葉に反応するように慎吾が応えた。
慎吾「待ってください・・・」
何かに気づいた表情を見せる慎吾。そして今一度文字化けしたメールをじっと見つめる。
慎吾「・・・ ・・・」
しばらくしてリナの方を向いた。
慎吾「こ、このメールに書かれているのは・・・
暗号です! 間違いない!」
諦め顔だったリナの表情が一変する。首を横に振りながら
リナ「ありえない・・・。
このメールは、難攻不落と言われたウォールをくぐり抜けてきたのよ。
認証を得てないファイルは、ウォールにはじかれるか・・・
例えウォールを無理矢理抜けたとしても、破壊されるんだから」
と、慎吾に返した。慎吾は再びメールをじっと見ながら口を開く。
慎吾「いえ・・・でも、間違いなく暗号です。何かを・・・
何かをリナのお母さんに伝えたいんです」
リナ「何故、わかるのよ!? あんたの霊能力がすごいのは知ってるけど・・・
この文字化けしたヤツが、暗号だって・・・そんな事までわかるの?」
慎吾はゆっくりとリナの顔を見つめて言った。
慎吾「えぇ。わかります。正直、誰がどこから送ったかはわかりません。
ただこれが暗号って事だけは・・・わかるんです。
暗号を解けと言われても、僕には解けませんが・・・
おそらく何か・・・ 暗号を解くキーがあるはずです」
慎吾の返事は意外だった。リナはこのメールの内容自体には、全く意味がないと思っていた。大事なのは【誰が】【どのようにして】ウォールをくぐり抜けられるようなメールを送ったかだ。
だからリナは、慎吾にメールの出所を突き止められないかを期待していた。しかし、このメールが暗号というなら話はまた大きく変わる。
ウォールをくぐり抜けてきたというだけでもあり得ない事なのに・・・
暗号としてこのメールを意図的に届けた。
これはすなわち、WBCの提供する未だ破られていないと言われるネットセキュリティ・・・通称【ハドリアンズ・ウォール】を初めてくぐり抜けてきた事を意味する。
慎吾が嘘をつけない人物というのはリナが1番よく知っている。
リナ「でも・・・まさか・・・」
しばし2人の間に沈黙が流れた。
・・・ ・・・。
TV「今日、お昼頃。
パンダレコード秋津駅ビル店で女性客がナイフで刺されました。
女性客は病院に救急搬送されたものの出血多量により死亡。
当時レコード店内では・・・」
つけっぱなしのTVからニュースが聞こえてくる。
リナと慎吾はパソコンのディスプレイから、TVへと視線を移した。
慎吾「あ、これ・・・ お昼に後藤さんが言ってた事件では?」
リナ「秋津・・・」
リナは【秋津】という言葉に反応し、暗い表情を見せた。それに気づいた慎吾が声をかける。
慎吾「リナ先輩・・・? どうかしました?」
リナ「あ、いや・・・ 秋津ってここのすぐ近くだから・・・」
リナは何かをごまかすように慎吾に返した。
この殺人事件が・・・
羽鳥雛子誘拐事件を絶望的な状況に追い込む・・・
その始まりに過ぎないという事を、2人はまだ知らない。
(第10話へ続く)
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次回予告
話は4年前・・・
子供の頃からピアノを習っているリナは、新しいピアノ講師にレッスンを受ける事になった。
イギリス人の父、日本人の母親を持つハーフのピアニスト・ヒロ。彼は今までの講師とは違う、不思議なレッスンを展開してゆく。
リナが初対面のヒロに弾いてあげた曲とは・・・?
次回 「 第10話 出会い(2008年) 」
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