小指から伸びる糸の話
後味悪めバッドエンド。
「 耳たぶから出た白い紐を引き抜いたら失明をした」
そんな都市伝説があった事を思い出しながら、茉莉花は自分の小指から出ている糸をぼんやり眺めていた。
高校三年の三月、制服のボタンがほつれていた。何とはなしに自分で直してみようかと思い、母親の針道具を勝手に借りて縫い、不慣れのあまりぷつりと小指の先を突き刺した。
そこからぴょんと赤い糸のようなものが飛び出してきて、引き抜こうとするとスルスル長く伸びてきた。
これはどこに繋がっている何だろう?
切ってしまうのはダメだろうか?
大事にはしたくない。
母の大事な針道具を勝手に使った事を責められるのも、全く関係がないはずの小指を刺すドジを笑われるのも茉莉花は嫌だったのだ。
仕方なく、指に巻きつけ絆創膏を貼って誤魔化す事にした。
学校帰りに病院にいくべきか、どこかで同じ症状がないか調べてみようか、そんな事を考えていたら、あっという間に放課後になった。
そんな茉莉花の悩みも知らず、学校の帰り道で、大好きな親友の美緒が言った。
「私さあ、高校卒業したらすぐに親が決めた人と結婚するんだ」
美緒は大きくて古い家のお嬢様だ。将来の夢を書く作文も進路調査も全部「決まってるから特にない」と語っていた。当時は何と羨ましい!と思っていた茉莉花だったが、今日その言葉で背中がぞくりと冷えた。
「今、それ言う?」
「今じゃなきゃもう言う機会ないし」
「あと2週間しかないじゃん」
「そうなんだよね、もう卒業目前でしょ?」
責める言葉が喉から溢れるのを抑えて茉莉花は俯く。卒業旅行はお互い予定があって行けなさそうだとつい先日話していたが、落ち着いたら、それこそゴールデンウィークにでも一緒に遊びに行けないか、なんて未来の話を気軽に話していた。
「多分、遊びに行く約束守れないや」
「そう」
仕方ない、と言いかけて小指の絆創膏が目に止まる。
小指から伸びた赤い糸。
もしも反対を繋いだら?
大好きな大好きな親友が、親友じゃなくなって、運命だから一緒にいられるかもしれない?
ーー美緒、今日久々にうちに泊まりに来ない?
その言葉を飲み込んだ。
運命じゃなくても、美緒は家のためにお嫁に行くだろう。無駄な運命で引き留めたところでお互い幸せにはなれないと思った。
「式には呼んでくれる?」
「わかんない。親と向こう次第」
「じゃあ、新婚旅行のお土産ちょうだいよ」
「よし、もらったら困りそうなもの送っちゃる」
「やだぁ」
自分の指に巻きつけた赤い糸を思い出し茉莉花は少し泣きそうになった。
美緒の糸はどこに繋がってるのだろうか。
翌々日、美緒は交通事故で死んだ。
その知らせを聞いた瞬間、茉莉花の指の紐はカサカサに枯れて、ちぎれて落ちた。




