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悪役王子な婚約者が私だけの王子様になりました  作者: 焼きそばこっこ


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私の部屋

本性(?)を表したシアはもう何も恐れるものはないとばかりに私の手をぎゅっと握って満面の笑みを浮かべながら、長い渡り廊下を進んで行っていた。先の見えない廊下ではあるが、その壁にずらりと並ぶ色とりどりの絵画が歩く私を退屈にはさせてくれなかった。私は生まれてからろくに外に出てこなかったせいか、その絵に映し出される世界がキラキラ見えてしょうがなかった。緑色の草原の中に小さな家がポツンとあるような殺風景な絵でさえも、私の心を踊らせるものになった。


どの絵にも右下に同じサインが施されている。全て同じ画家が書いているのだろう。


「シア、ここに並んでいる絵は誰が書いているの?」


ふと、ちょっとした好奇心から聞いてみた。

シアは、一瞬目をそらして言葉を出すのをためらった。


「…有名な画家の作品なのですが、名前を隠されて活動していらっしゃるので、誰かとは存じ上げませんね。」

「じゃあ、その画家はなんて名前で活動してるの?」

「彼の方の名前は…クリエイターです。」

「…そのままね。」

「そのままですねぇ。」


まぁ、そこまで作者の名前に固執することもないかと、それ以上は何も聞かないまま私は壁の絵画を楽しみながら部屋へと向かった。


しばらくするとシアが立ち止まった。目の前には一つ寂しくドアがある。周りには絵画は飾られているものの、ほかに部屋はなさそうだ。


「こちらが、セレーネ様がこれからお使いになるお部屋でございます。」


シアが、鍵でドアを開けて部屋の中を見た瞬間私は感動した。大きな机、人二人はゆうに眠れそうなベッド、壁一面を覆うほどの大きさのタンスの中には新品のドレスや靴、アクセサリーがいくつも入っていた。


表情には出ないものの、大きくジャンプして喜びを表す私を、シアがキョトンとした表情で見てくる。


「なんで私がこんなに喜んでいるのかって?」

「あ!申し訳ありません!顔に出したつもりはなかったのですが、こんなにはしゃいでいらっしゃる姿を始めて見ましたので、つい…」

「両親が私のために買ってくれたからよ。これは全部、私のお父様とお母様が私のことだけを思って私のために買ってくれたに違いないわ。」


フカフカの真っ白の布団に思い切りダイブする。大きな窓から差した光で程よく温まっていた。天井には、キラキラした星のようなシャンデリアが心地よい音を奏でながら揺れていた。


「そう、なんですね」


私は、物であっても、態度であっても、なんであっても両親から私に対してもらえるものには世界で一番価値があると思っている。私は両親のことが大好きだから。


「あ、ところでシア。家庭教師はいつくるの?」

お父様が私のためにわざわざ手配してくださった家庭教師。すぐにでも勉強を始めて、主席入学を確実なものにしなければいけない。


「あ、明日からですが…」

「そう。ならこの邸宅に書庫はある?」

「は、はい!ご案内いたしますね。」


心なしか、シアが目を丸くしていたが、私は新たな本と出会えることに胸を高鳴らすことで精一杯であった。


「こちらになります。」

目の前に広がったのは四方を書物に囲まれたまさに夢のような空間。家にあった本は別邸の使用人たちがおいて行ったものと、申し訳程度の絵本だけだったのでその数の多さに圧倒される。


「素晴らしいわ…!」


決して表情には出ないけれども、私の声にその喜びを噛み締める気持ちが乗せられていた。


「ご希望の本がございましたらおっしゃってくださいね。お取りしますから。」


そう言って数百もの歯車と金属で構成された、得体のしれない何かの元へ駆け寄った。


「それは何?」

「こちらですか?司書魔道具(アーカイヴァ)です。欲しいジャンルの本などを伝えれば自動でこの大きな書庫の中からセレーネ様のお好みの本を選んでくれるんです!」

「へ~…それが魔道具なのね。」


魔道具をこうやってじっくり観察するのは初めてだ。

アスファルテ王国が、この魔道具を生産していることでどうにか周りの大国に潰されないで済んでいるということは知ってはいたが、別邸にある情報には限りがあって、魔道具がどういうものなのかはあまり理解していなかった。


「ねぇ、シア。魔道具ってどういうものなの?」

「あぁっ…!セレーネ様が私に上目遣い×裾ひっぱりでご質問を…!尊っっ!」

「そういうのいいから」

「はい!魔道具というのは、この国に住む職人にしか作れない特殊技術によって生み出されたもので、魔力を持つ職人が魔力の通る回路を繋げ合わせて作る道具です。とても身近なものでいうと、本についているページめくり機能や…、そこの空中に浮いているインテリアなどもそうですね」

「なるほど……」

当たり前すぎて気づかなかったが、本来紙は自分でめくらないといけない物なのか。ペン立ても空中には浮いていない、と。魔道具が思いの外身近な場所に潜んでいたことに驚いた。


「じゃあこの羽ペンも魔道具だったりする?」


たまたま近くの机においてあったペンをシアに渡した。シアはペンをじっくりと見渡すとこう言った。


「これは…違いますね。ただのペンです」

「何が違うの?」

「魔印がありませんから」

「魔印?」

「その魔道具を作った職人さんのロゴマークのような物ですね。魔道具は普通の道具と性能も値段も全く違いますから、詐欺防止のためにその魔印をつけることが義務化されているんですよ。それに有名な職人さんでしたら、その人の魔印がついているだけで価格が何百倍にも上がりますからねぇ」


なるほど。服やアクセサリーのブランドのようなものか。それにしても、魔道具というものは非常に便利なもののようだ。正直今まで私が魔道具を使っていないと認識していたこと自体がおかしいと思えるほどに、魔道具は便利だ。別邸の使用人たちも少しくらいものを教えてくれてもいいというのに。

おかげさまで、この国でごく一般的に使われているもののことさえわかっていないようでは、主席合格など夢のまた夢である。


(いやいや。いまそんなことを考えても何も意味はないわね)


ため息をついたのも束の間、私は幾千と並び立つ知識欲を掻き立てられる本たちとの充実した時間を過ごした。

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