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悪役王子な婚約者が私だけの王子様になりました  作者: 焼きそばこっこ


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呆れ

お父様は大きなため息をついて言った。

「やっぱりダメだ。お前と同じ馬車に乗るなんて耐えれん。なぁ、セレーネ。」


その声は、怒りのこもったどすの利いた声だった。やはり王子のことで怒られるのかと覚悟をして目を瞑ると、首のあたりにヒヤッとしたものがあたった。見るとお父様は、馬車に上半身だけ体を入れて私の首のあたりに手を置いていた。首に少し触れたお父様の手がひんやりとしていたようだ。お父様と触れ合えるのはいつぶりか分からないほどだったから、とっても嬉しいはずだったのにどうも体が緊張して呼吸が浅くなっていく。


「私はお前に何をしろと言った?」


「カイン王子と、結婚するために、お、王子に好印象を植え付けろ、と言いま…カハッ」

私が喋り終えるのを待たずに、私の首をお父様の手が勢いよく握り締め始めた。

痛いし苦しいけれど喋れはする程度だったから必死になって手を緩めるよう懇願する。すると、お父様の手がスルスルと緩められて、私は急いで周りの空気を吸った。


そして頭の中を整理する。


落ち着け。きちんと事情を話して、誠心誠意謝れば許してもらえる。

…『私の持っていないものを持っていた王子に嫉妬して顔合わせを台無しにした』って?


お父様は喋ることもまともにできず惨めに咳をする私を見て言った。


()()()()、役に立たなかった」

私が、この世で一番嫌いな言葉。

私はどうにか弁解しようとしたが、先ほど喉を痛めてしまったせいかどうしても声が出ない。


ポロポロと涙が出てきてしまう。

そんな様子を見て、ますますお父様は不快そうな顔をした。


「…泣いている時も、『顔なし』は『顔なし』なんだな」


そう言い残して馬車の扉を閉めて去って行った。


馬車で迎えにきた時から間違っても私のことを『顔なし』と呼ばなかったお父様がついにその言葉を口にした。


私の一つの光が、希望が潰えた。


馬車の中で、お母様は窓の外をずっと眺めてこちらを向くことは無かった。

途中で一言、独り言のようにポツリと

「…感情がないみたいで気味が悪いのよ」とだけ言った。追い打ちをかけるようなお母様の言葉に私は返事もすることができず、ただただ下を見ていた。自分の顔をお母様に見せるのが申し訳なくて、綺麗にセットしてあった髪の毛をぐしゃぐしゃにほどいて、髪を覆い隠すようにして

馬車の中でひたすらに揺れていた。


馬車が向かったのは、私の住む公爵邸の所有する山奥の古びた別邸…ではなく、門を通ってすぐ目の前にある本邸だった。門が開かれると10数人の使用人が道を挟んで仰々しく並んでいる。


お母様が先に本邸に降りられた後、別邸へ向かうのかと思っていると、

そこで私も降りるように御者に伝えられた。


「なぜ私が本邸へ…?」

御者に尋ねても、お父様の命令だ、の一点張り。結局私が根負けして、大人しく馬車から降りようとしたのだけれど、私がいつも住んでいる別邸とは見かけも雰囲気も全く違ったものだから、馬車から降りるのに躊躇してしまった。

そして狼狽えるあまり、馬車から降りる時に足を思いっきり滑らせて地面へ勢よく転倒した。思わず目を瞑ったけれど、手のひらも、膝も全く痛くない。どうゆうことかと下を見ると、一人のメイドがそこに顔を地面にのめり込ませるような形で倒れ込んでいた。というか、私はメイドの上に乗っていた。慌てて退けて声をかける。


「ごめんなさい!大丈夫?」


むくりと立ち上がった彼女は、人の下敷きにされたというのに満面の笑みを浮かべて、こちらの方を心なしか危うい眼差しで見ているような気がした。まるで獲物を狙っているような…。けれども、すぐに愛嬌のある顔に戻ったから気のせいだったのだろう。


「いいえ。大丈夫です!」


くるくるした茶髪の彼女は、のんびりした雰囲気とは反対に、素早く姿勢を正し、出迎えのメイドの列へと戻った。…顔の汚れは取れていないが。

見た感じ20代前半と言ったところだろうか、見るからに人に好かれそうな社交性もありそうな顔をしていて、表情も豊かそうな彼女は、()()を持っていない私からすると明らかに苦手なタイプで、もし文字どおり私の尻に敷かれていなければ一生話さなかったであろう人って感じがした。


…そして、そんな彼女が先ほどから私の方をずっと見つめてくるのだが、なぜだろう。やはり先ほど私の感じた熊が標的を見定めるような目線は私の勘違いではなかったらしい。瞬きひとつせずじゅるりと涎を垂らしている彼女の方を可能な限り見ないため、まだ馬車の中でミリ単位でドレスの装飾の傾きを直しているお母様の方を向く。


お母様が馬車から降りられるまで私は馬車の横で待っていなければならないのだが、5分10分経ってもお母様はこちらへ降りてくる気配がない。そして時間を経るごとに、見ずともわかる…あのメイドの視線がだんだん強くなってきていた。左肩にチクチクと視線が刺さる。


思わず振り向き、クリクリとした茶色い瞳に聞いた。


「あの、私の顔に何かついていますか?」

「……」

お母様にこの顔を見せないように全く公爵令嬢らしからぬ乱れた髪が気になるのだろうか。

私のぼさぼさの髪の毛越しにしっかりと目が合っているはずなのに、返事が返ってこない。ただこちらをじっと見つめるだけで、周りの使用人たちも彼女を横目に見ていた。

なんで私の話に気づいてくれないのか、どうして無視するのか、私が『顔なし』だから?、家族に愛されていないから?嫌な言葉が脳裏に次々と流れ込んでくる。あぁ、いけない。不安になるとすぐこうやって嫌な事ばかり考えてしまう。


けれども諦めずにもう一度声をかける。


「あの…」

少し声が震えてしまって、さっきよりも声も小さくなってしまった。


すると我に返ったように、大きな声で彼女が言った。


「はい!お嬢様には完璧な顔のパーツが完璧な配置で並んでいらっしゃいます!」

「…え?」


声は一丁前に通っていて真面目に言っている感じだったから、余計彼女の言葉が理解し難い。

表情もすました感じを出しているけれども。今なんて言われた?私の聞き間違い?もしかしてお嬢様は完璧なお兄様と正反対の出来損ないですね!っていう言葉を脳が都合よく改変したんだろうか?



「深緑のような瞳と、絹のように細かく透き通った髪。卵のようにツヤツヤとしたお肌。つまりお嬢様は、完璧でいらっしゃいます!」


「…そうですか。」

どうやら聞き間違いではなかったらしい。


どうしてか、口の端がピクリと動いたような気がした……気のせいだったけれど。


彼女の私を見る目はどこか違う方面での危うさは感じるものの、決して悪意を感じるものではなかったし、それ以上に彼女が私のことを見てくれているという事実が嬉しかった。先程まで自分が彼女相手に「苦手なタイプ」だとか、ぐるぐるとマイナスな思考をしていたことなど忘れて、喜びのあまり心の中でジタバタとしていた。

初めてだったのだ。自分のことをここまで見て、それを伝えてくれるような人は。冷たく寂しかった心の中に、何か新しい光が灯ったような気がした。


「それから私のことは、どうかシアとお呼びくださいませ!」

「シア…」

彼女の名前を呼ぶと、シアは今度こそ本当に私の瞳を真っ直ぐに見つめて、そして心なしか微笑んだ。その温かい微笑みが私の心のドアを開かせたらしい。彼女とは仲良くなれそうな気がした。本邸は外から見てもとても大きい建物なので、いつまた会えるかはわからないけれど、会えたら嬉しいな、と心の中で密かに思った…


「はい、お嬢様!これからどうぞよろしくお願いします!」

「…ん?」

これからどうぞよろしく…?私は別邸に住んでいるし本邸のメイドとはほぼ関わらないはずなんだけれど…

シアが続けた。


「セレーネ様の専属メイド、本邸でセレーネ様が快適に過ごせるよう誠心誠意やらせていただきます!」


専属メイド…?本邸…?別邸へ帰るんじゃなかったの…?


「セレーネ様!公爵夫人様も、馬車から降りられたようですし、お部屋へ向かいましょうか。ご案内いたします。」

訳のわからないまま、私はシアが促すままに、歩みを進めて行くのであった。


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