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悪役王子な婚約者が私だけの王子様になりました  作者: 焼きそばこっこ


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これが…婚約者…

「やーいやーい!この表情筋皆無女!!ブス!芋!!この俺の婚約者がこんな気味の悪い女だなんて、断固拒否だ!嫌だ嫌だ、いーやーだーー!」


そう言いながら、床にへばりつき首をまるでモップのように動かす子供。私の婚約者。


その言葉、そのまま返す。


私は、綺麗に磨かれた床を鼻水と涙と、どこでつけて来たのかも分からない土で、存分に汚していく皇太子を冷ややかな目で見ていた。


――――――――――


「ほら。これをあげるから。」

旧邸宅から両親に馬車へ押し込まれた時、お母様から自分の拳ほどの分厚さのある紙の束を渡された。親からの初めての贈り物に少々浮き足立ちながら表紙を見ると、タイトルには

『アスファルテ王国 皇太子カイン・アスファルテの()()』と書かれていた。


……ん?


もう一度目を擦り、タイトルを読み直す。けれど、その文字列になんら見間違いはないように思えた。到底主君に向けて使う言葉遣いではないように覚えて混乱しつつも、お母様に尋ねる。


「お母様。私の記憶では、『生態』という言葉は動物や植物に使われる用語であった気がするのですが。」


お母様が、鋭い目をさらに鋭くして口元に弧を描いた。

「えぇ。だって、皇太子様の横暴さや暴力性は、まるで我が国の象徴・獅子にそっくりですもの。」

お父様も母と似たような顔をして続ける。

「さすが皇太子様だ。その身の高潔さを犠牲にしてまで、獅子を表されるとは。」


なるほど。よく分からないが、『生態』と言う言葉には何か崇高な意味があるんだろう。


両親の()()()()笑い声を聞きながら、私は書類を読み始めることにした。ページを一枚、二枚とめくられる毎に、カイン・アスファルテという男がどれだけの問題児であるのかを私は思い知った。


『庭園中の植物という植物を切って回った』

『気分じゃない魚料理が出たから、と料理長他、宮廷調理人全員をクビに』

『メイドを魔法の実験台に。5人が未だ意識不明』


読んでも読んでも終わらない悪行達。やっと最後のページに辿り着いたと思えば締めの一文にはこう書かれていた。


『対象は9歳という事を考慮しても、年相応の悪戯であるとは言い難く、発達心理学の観点からして対象の更生は不可能であると考えられる。』


読み終えた時の感想は『悪役令息』と言う言葉がよく似合う男だということ。いや、この国の皇太子だから『悪役王子』と言うのが正しいだろうか。小説の中に出てくるような『悪役』。

正直、両親から『愛』を受け取ると言う最大の報酬を目の前にしても、これから私は彼と一生を共にしないといけないと思うとその場で二の足を踏んでしまう。

けれども、それもこれも『愛』を受け取るために必要なこと。

私は意を決し、だんだんと迫ってくる王宮を見据えた。


――――――――――

ただ、まさか、まさかここまでだとは思わなかった。


王宮に私たちが到着してから30分の時間が経って、やっと王子が部屋にやって来た。どこで遊んできたのか体中どこもかしこも泥まみれになっていた。汚れを気にすることなく、ドスンと向かいの椅子に座る。

私の存在に気づくと、近くにいた側近のほうに目をやってこちらに指を指して言った。


「あれは?」


ん?『アレ』?


多少の違和感を覚えつつも、先ほどお父様に教えてもらったばかりの挨拶をする。


「王国の光に拝謁申し上げます。パルソン公爵家のセレーネ・パルソンと申します。」


教わった通り、セリフを言った後はゆっくり深々とカーテシーを見せる。先ほどお母様に見ていただいた時は、笑顔が作れないのが気にかかりはするものの、見れないものではないと言われたので、落ち着いて、できるだけ堂々と、顔に表情がないことに違和感を持たれないよう心がけた。


周りがドン引いた様子もなかったのでうまくできたとほんのり安堵の息を漏らしたのも束の間。

さっきまで、(婚約者)存在など忘れていたであろう王子が口を開いた。


「おまえ、不細工だなぁ!」


周りにいた使用人の顔から血の気が消えていく。

彼の声色は、ただ純粋に事実を述べているだけのように聞こえた。表情にも皮肉も侮蔑も含まない。それが私にとっては逆に応えた。


それは、私の顔の醜美の話?…それとも『顔なし』の話?

どちらにしても、彼の将来が危ういってことを分かってらっしゃらないのは確かね。


彼のことを一目でも見た者はわかるように、カイン・アスファルテには性格に難がある。それによって、正妃の息子であり第一子であるという文句なしの立場であるにもかかわらず、家臣の中には、側室を母に持つ第二王子を支持するものが多くいる。それを危惧した正妃が、より強い後ろ盾を得るために、アスファルテ王国の貴族の中で最も地位が高いパルソン家の私を第一王子の婚約者として指名したのだ。


もちろん私がカイン王子に嫁いでその子供が王になれば、パルソン家は王の母家として地位を確立できるという我が家にとって美味しい点もあるものの…つまるところ、彼が次期国王になるためには私と結婚してパルソン公爵家とその後ろにつく大勢の貴族たちを味方にする必要があるわけで、開口一番にアレ呼ばわりされる筋合いは一切ない。下手すればこちらが、王子をアレ呼ばわりする側である。

けれども、ここで王子の気分を害しても面倒なだけなので、怒りを抑えて、口を閉じる。幸い私には表情がないので作り笑顔をする必要がないと言うのはありがたい。


隣にいた側近が慌てて王子に言った。

「カイン王子!セレーネ様は王子の婚約者であらせられます!もう少し礼儀正しく…」

めんどくさそうな顔していた王子が『婚約者』と言う言葉にピクリと反応する


「ちょっと待て…こんなのが俺の未来の妻だって言うのか?」

側近と私の顔を交互に見る。

側近も『顔なし』の話を知っているのか、心なしか王子を憐れに思っているようにも見えた。申し訳なさそうに側近が首を縦に振ると、信じられないというような真っ青な顔をして膝をがっくりと落とした。


下を向き、一度大きな深呼吸をしたあと、こちらをものすごい剣幕で睨みつけ、そして言いやがった。


「やーいやーい!この表情筋皆無女!!ブス!芋!!」


後ろに控える使用人達は口をあんぐりと開けている。側近に関しては、もうすぐ胃痛で倒れそうな様子だ。

もちろん私も、先ほどの失言では飽き足らず、ここで追い打ちをかけるように投げかけられる暴言の数々に怒り100%であった。

あの癪に触る金髪碧眼の整った顔にアッパーでもお見舞いしてやりたかったところだが、重ねた両手を動かす事はなかった。


こんなのでも私の婚約者。彼には、私が両親に愛されるための踏み台になってもらわないと困る。

ここは我慢…我慢…


無反応な私に痺れを切らし始めたのか

「この俺の婚約者がこんな気味の悪い女だなんて、断固拒否だ!嫌だ嫌だ、いーやーだーー!」


ついには四肢を床に放り投げてジタバタと暴れ回れ始めた。服についていた泥汚れが、どんどん床へとへばりついていく。

顔を横に振りながら、汚れを撒き散らす高貴な王子の様子はさながらモップと対照的な存在であった。


「王子。カイン王子に…」


しまった


何をされようと動揺しない心構えのはずが、あまりの暴れ馬っぷりに思わず声を上げてしまっていた。








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