驚愕
「さぁ…感動のハグが終わったところで次はカイン殿下に別の魔印について考察をしてもらいましょうか。セレーネ様の回答は、8歳というのは死んでも信じられないものでしたから、殿下は気負わず、気楽に答えてくださいませ」
「はぁ?!この次期国王の俺が俺より2歳年下のやつより劣ってるとい…」
先ほどまで熱心にテキストを読み問題児の成りを潜めていた殿下が、眉間にシワを寄せて、まるで荒くれ者のような目つきでマダムを睨もうとしたが、あの監獄ボールのことを思い出したのかまた急に大人しくなった。
「まぁいい。問題は?」
「そうですね。ではこちらにしましょうか。」
そう言ってマダムが取り出したのは、黄色の魔印。…あれ、あの色にあの模様…心なしかどこかで見たことがあるような。あ、そうだ。邸宅の書庫にあった魔道具、アーカイヴァだ。思い出せば思い出すほど鮮明にあの時見た魔印が映される。ほんの少し、はらいや点の位置が違うところが気になるものの、それ以外はほぼ全く一緒だ。魔印というのは、おそらくだが同じ魔印をまるで印刷物のように量産できるものではないだろう。それでは魔道具の値段はそこまで高くならないはずだ。ならば、この程度の違いは手工業技術によるわずかなズレ。そこまで気にかける必要はないだろうし、この魔印はアーカイヴァで確定だ。
「あーー。俺のことなめてるだろう。この魔印はあまりにも身近なものすぎる。黄色の魔印に、中央は妖精型の模様。周りの古語も読み取りさえすればチビでもわかる。ページめくり機能の魔印だな。」
「え?」
思わず声が漏れる。
「は?」
殿下はどうやら、この魔印が本についているページめくり機能だと信じて疑っていないようだ。私の考えを読み取ったのか、マダムは言った。
「セレーネ様はなんの魔印だとお思いで?」
「アーカイヴァ…司書魔道具の魔印だと考えました…」
「なるほど…その根拠は?」
「少し前に一度見た魔印と酷似していたので…」
そういうと、殿下は私の方を一瞥し鼻で笑って言った。
「おい。お前、このばば…マダムの話を何も聞いてねぇじゃんか。酷似、だぁ?似た魔印なんて世界中いくらでもある!目的や、どの元素を動力とするかが一緒なだけで模様の半分は同じになるんだからな。だから、区別をつけるために、文字の捻り、はね、とめ、点を使っているって…今話していただろ。お前、バカじゃん」
「そ、そんなまさか。」
自分の予想が外れた。状況を把握しきれないまま、マダムが追い打ちをかけるように言った。
「セレーネ様?ちなみに正解はページめくり機能で、第一王子殿下の正解です」
「な?!」
一生の不覚。まさか、マインの大前提を間違えているとは。確かにページめくり機能の魔印をそこまでじっくり見たことがなかった。私は、負けたのか。あのばかより劣っているというのか。
悔しい。悔しい。
そう思うと急に視界がぼやけた。
「は?!お、おい!泣くほどじゃないだろう!」
「セレーネ様…?」
二人が焦ったように私に声をかけてくる。それがより私を惨めにした。
自分で勝手に得意になって答えたら完全なる勉強不足でただの知識不足が露呈しただけになってしまった。恥ずかしい。別邸でほとんど人と付き合いがなかったからだろうか。自分が人より弱い人間に見えた。今まで散々心の中で王子をバカにしてきたというのに。
それに、お父様、お母様にいつも優秀な姿を見せなければと努力してきたのに、こんなことでは…
「申し訳ありません。頭を冷やしてきます」
私はマダムが、監獄ボールを出すまもなく、部屋の外に出て、長い長い廊下をただ無我夢中で走っていった。




