なんだあの女(※カイン視点)
「あぁぁぁぁぁぁ!」
「王子殿下…落ち着いてください!セレーネ令嬢はただ元気の出るおまじないを…」
「そう!ただのおまじないですから!だから一旦テーブルを蹴るのをおやめください!て、テーブル!限界来てますって!」
「気にしないでください!キスの一つや二つ…あ。」
周りの大人たちが言ってしまったとばかりにこっちを恐る恐る見やがる。
「き、き…キスじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺の名前は、カイン・アスファルテ。この国の太陽と呼ばれる男。国の庶民どもも、賄賂やらをもらって肥えている傲慢な貴族も、皆俺の前では頭を床につける。俺に指図していいのは…父上だけだ。
先日クビにした家庭教師が言っていた。
父上の前の代までアスファルテ王国はただでさえ戦に強い2つの大国にはさまれて、毎日侵略を恐れながら過ごす日々だった。
『それを今の国王陛下が、王国をここまで豊かにしたのです!!』
『へーーーー。…なんでだよ。』
『おぉ!珍しく殿下が勉強に熱心でいらっしゃる!!私たちがここまで成長した理由は単純明快。国民全員が、魔力を持っているということです――』
魔力。体の中に存在する生命力に次ぐ第二のエネルギー。世界的に見ても、魔力を所有する割合は40%。けれどこのアスファルテ王国では驚異の99.9%の国民が魔力を持っている。
それから、あーー。なんて言ってたっけ?あいつの話長いから嫌いなんだよな。まぁ、だから新しく買ったチェンジであいつのことオウムにしてやったんだけど。
『…しかし、この力は絵本の中のように火を放ったり、水を出したりすることはできないのです!ただ体の中に魔力という物が存在しているだけ…そこで天才であった偉大なる国王陛下は自らの手で魔印という傑作を生み出したのです!』
魔印は国の経済に大きすぎる利益をもたらした。そもそも魔印というのは魔力に反応する特殊なインクで複雑な模様を書いていくことで魔力を動かす、魔道具の原動力となるもの。我が国の輸出の9割は魔道具が占めており、その経済効果は、先代の約500倍。
俺はその時、父上の偉大さを知った。だからこそ、俺のことを少しでもいいから考えて欲しかった。
元々父上に寵愛されていた俺の母上は俺を産んですぐに亡くなった。だからなんだろうか。父上は俺のところに必要最低限しか来ない。でも、いつか俺のことを認めてくれる日は来ると思って努力した。
…でも
『陛下!今日も私たちの愛の結晶のユーリに構ってくださいな。』
『あぁ。もちろんだよ。ユーリ。さぁ。お父様と外へ行こうか。』
父上が私に直接帝王学を教えてくれる時間だった。わざと来たんだろう。
父上は俺の方を一度も振り返らずにユーリとかいうチビに俺にはかけたことのないような甘い言葉をかけながら去って行って、あのムカつくババァは帰り際に狐みたいな気味の悪い笑みを浮かべて出て行った。
俺が4歳の時、父上が側室を娶った。
ただの愛人だったくせに、いつの間にか側室として俺の母上のいるはずだった場所に堂々と立っていた。
あいつらのせいで俺は父上に振り向いてもらえなくなった。
あいつらのせいで!
あいつらなんて、いなくなってしまえ。
だから、俺はあいつらの服をギッタギタに切り裂いたり、夕食に鳥のフンを混ぜたりして、とにかく嫌がらせをした。顔を青ざめさせるユーリは愉快だったし、俺の仕業と知ってても言えないババァの悔しそうな顔も笑いものだった。
でも、しばらくすると警備が厳重になってそう簡単にあいつらに近づけなくなった。だから、作戦を変えた。あいつらを消すんじゃなくて、父上にこっちを見てもらおうと思った。
次は城中のいたるところで暴れまくった。スーパークリーンで城の生垣をぶっ壊し、自分の前に出された料理をなんかいい感じに文句をつけて料理ごとシェフに投げつけ、ライト・アップの強烈すぎる光でメイドを何人も気絶させた。
そして、父上が用意したという婚約者がやってきてもブスだなんだと適当言って泣かせて、父上を困らせて俺に世話を焼いて欲しいと思った。
それがあの女のせいで本当に散々だ!
俺にはちゃんと国王の資格はある!弱虫なんかじゃねぇ!
父上だって俺のことをわかってくれていると思ったら――
『カイン・アスファルテ。何故私の紹介した令嬢とわざわざ不仲になった?あの令嬢と結婚することの何が不満だというんだ?そんな貧弱な頭でよく次期国王と名乗れたものだな。』
久しぶりに呼び出されたと思ったらこれだ。
正直、この俺でもキツかった。父上があんな冷たい目で俺のことを見るなんて。
父上はああ言っていたけれど、俺はもうあの女と関わってもろくなことが起きないと思って、絶対に婚約破棄をしてやろうと誓った。
ちょうどいいタイミングであの女が謝罪に行きたいと言ったから時間を設けて、謝罪を受け入れた上で、婚約解消を条件にしたのに…!『いやです。』ってなんだよ。しかも俺の家臣全員納得させて、俺側から全員乗り換えられたし。しまいには、俺の頬っぺに…く、くちび…
「っほんっとに…なんなんだよあの女ー!!!」
覚えていろよ…!あの人形みたいな顔した女!は…初めてのチューだぞ!
思い出せば出すほど、耳周りがどんどん熱くなって、脳内で銀髪に翠の瞳を持つ人形のような女の子がずっと映し出される。
顔は悪くないと思ってたけど、俺を侮辱しまくった罪はとても重い!俺が国王になったら一番にあいつを追放してやる!
「覚えてろよー!」
「あ、あぁ!で、殿下!テーブルっ!テーブルがぁ!」




