もう一度
「セレーネ様〜!朝でっすよ〜!起きなきゃ私の『仰げば尊死♡耳元息吹きかけシチュエーション』が待っていますよ〜!…って、あれ…?」
「おはよう。シア。さぁ。身支度を始めましょう」
「その本の量…セレーネ様…徹夜しましたねぇぇ!」
「違うわ。…計画的睡眠管理法よ」
昨日読んだマナー作法の内容は全て頭に叩き込んだ。昨日のようなヘマは決してしない。今日も9時からあの人が来る。万全の体制を整えるために、素早い身支度が重要だ。私は両頬を叩いてスイッチを入れた。
「必ず、100点を取るの。」
「もぉぉ!徹夜して、それに追加で頬叩くとか!セレーネ様のぷにぷにほっぺを大切に扱ってください!大切に!」
定刻通り、マダム・エリザベートの乗った馬車が門前で止まった。私は口を開けず、ただ敬意を込めたカーテシーを送った。
「あら。今日は昨日ほどの馬鹿ではないようね」
「御機嫌よう。マダム・エリザベート。お褒めいただき光栄ですわ。」
そして、昨日と同じように、ただ椅子に座らせられた。私は落ち着いて、体全体に意識を向ける。
瞬きはゆっくり、頭の上の糸で体がつられているように、自然な美しさを意識する。
「…立ってみなさい」
「はい」
昨日鏡の前で何度練習したことか。客観的に自分の体制のどこが悪いのかをよく観察して、一つ一つ丁寧に修正していった。
立ち上がった後に、ゆっくりとマダム・エリザベートの顔色を伺う。
(…ん?気のせいかしら…マダム・エリザベートがおもしろいおもちゃを見つけたような顔をしているんだけれど…)
そう思ったのも束の間、マダム・エリザベートはピシャリと指摘をした。
「その厚化粧…どうせ徹夜したんでしょう?やめなさい。お肌の敵だから」
シアが後ろで激しく首を縦に振っている。だって、しょうがない。次の日の朝からもう一度やり直すなら今日と全く同じままとはいかない。だから、眠気を堪えて、物語でもない味気ないマナー本を必死で読んでいたけれど。それで帰ってきたのがこのダメ出し。
やっぱり、私はマナー作法の一つもできない人間なのか。自分の価値がどんどん下がっているように感じた。
「…でもその努力は認めるわ。こんな面白いおも…令嬢。久しぶりに見たわ」
いわゆる悪役令嬢のような笑みを浮かべて、彼女は言った。羽扇子には89の文字。
「あ、ありがとうございます…!」
「今日はもう帰ってあげる。すぐに寝ること。」
部屋のドアへと向かう彼女が、いたりと止まって、後ろを振り返った…
「それと…明日から今日よりももっと酷いレッスンが待っているから覚悟を決めなさい」
「…はい!」
自分の努力が全身で受け止められたこの感じ。認めてもらえたことがとても嬉しくて、私はブンブンと腕を振り回し――
「セレーネ様!寝ながら腕振り回さないでくださいね〜!ベッドはあちらですよ〜!」
睡魔の誘いを快く受け入れたとさ。




