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メレンゲドール殺人事件

作者: 山下愁

「クリスマスが今年もやってくる〜〜♪」



 ツリーの飾り付けをする未成年組のショウとハルアは、陽気な歌声を響かせながらモミの木にオーナメントを括り付けていた。

 小人やプレゼント箱などを模したクリスマス用のオーナメントはとても可愛らしい見た目をしたものが多く、どこか特別感のようなものが漂う。意気揚々と取り出した星の飾りはモミの木の1番上に飾りつけるもので、空を飛ぶことが出来るショウがハルアの両脇を抱えてふわふわと飛んで飾り付けていた。


 その間も、和やかな歌声は続いていく。



「楽しかった、出来事を、消し去るように〜〜♪」



 歌詞が物騒になった。

 何だか消したらいけないものを消している。



「さあパジャマを脱ぎ捨て出かけよう〜〜♪」


「ショウ坊、ちょっと待とうか」


「どうした、ユフィーリア。何故?」



 キョトンとした表情で首を傾げるショウ。歌詞の内容に疑問を持っていないらしい。



「歌詞の内容がおかしくねえか?」


「そうだろうか」



 やはり疑問に思うことはなかったのか、あの歌詞の内容で。



「ツッコミどころが満載なんだよ。何だよ『楽しかった出来事を消し去るように』って。地獄しか残らねえよそんなの」


「多分違うとは俺も思うのだが、元の歌詞を知らないからなぁ」



 こともなげにショウはそんなことを言った。元の歌詞を知らないから不穏な気配の漂う歌詞の内容に強制変更してもいいものだろうか。



「それに『パジャマを脱ぎ捨て出かけよう』って怪しくねえか? 全裸か?」


「私服に着替えたとかではなく?」


「ユーリやらしい〜!!」


「止めろおいハル揶揄からかうんじゃねえそんな考えに行きつかなかっただけだっての!!」



 全力で揶揄ってくるハルアの脳天に氷塊を落として黙らせ、ユフィーリアは「違うからな!!」とショウにも強く言い聞かせた。ちょっとした言葉のあやを変な感じに捉えられると困る。

 痛みのあまり用務員室の床に転がって悶絶する先輩用務員を横目に、ショウは黙って敬礼をしただけだった。察しのいいお嫁さんで助かった。


 ユフィーリアはそっとため息を吐くと、



「ツリーの飾り付けが終わったら買い出しに行ってきてくれ。買い物メモあるから」


「はぁい」


「頭が割れた!!!!」


「ハルさん、大丈夫だ。貴方の頭は最初から無事ではないから」


「それもそうか!!」



 パッと腹筋を使って復活したハルアは、ユフィーリアの掲げる買い物メモを強奪して「ショウちゃん行こ!!」と用務員室を飛び出してしまう。早々に用務員室を飛び出した先輩の背中を追いかけて、ショウが慌てて用務員室から駆け出した。

 ショウもハルアも、今日のクリスマスパーティーが楽しみな様子である。アイゼルネの誕生日パーティーと合同ということになるのだが、賑やかなのはいいことだ。


 未成年組を見送ったユフィーリアは、居住区画に戻る。台所に立つエドワードの背中に、



「ケーキの方はどうだ?」


「あとは飾り付けをするだけだよぉ」



 エドワードが「ほらぁ」と真っ白に染まったケーキの土台を示す。


 生クリームを絞ってある程度のところまでは綺麗に飾られているものの、肝心の苺などの飾りが載せられていないので物寂しい雰囲気の漂うケーキとなっていた。これはあとから未成年組の2人が飾り付けをする予定なので、買い物から戻ってきたらお願いしようと思う。

 肉料理に突出した料理の腕前を持つかと思いきや、どうやらお菓子作りでも腕前を上げてきているようである。クッキーやマフィンなどの焼き菓子だけしか出来ないかと思ったが、こんな繊細な作業まで得意とするとは驚きだ。



「上出来じゃねえか」


「ユーリはブッシュドノエルを作るんでしょぉ?」


「アイゼのリクエストだからな」



 今年のクリスマスパーティーは2種類のケーキを用意する方針となっていた。というのも、パーティーの主役であるアイゼルネが「ブッシュドノエルが食べてみたいワ♪」とおねだりしたので、作ることになったのだ。

 今まではエドワードがチョコレートを苦手とするので避けていたメニューだが、本日の主役におねだりされれば作らざるを得ない。誕生日特権は強いのだ。


 ユフィーリアはニヤリと笑い、



「たまには食べてみるか?」


「……ちょっとだけならぁ」


「お、珍しいこともあるもんだ」


「本当にちょっとだけねぇ。多少は克服しないと年上の威厳がさぁ」



 問題児の兄貴分として未成年組から慕われているので、好き嫌いのある格好悪いところを見せたくないのだろう。エドワードは渋い顔でそんなことを言う。

 別に無理して食べなくてもいいのだが、本人がやる気なのでユフィーリアは何も言わないでおいた。未成年組にも好き嫌いはあるので、エドワードが今更好き嫌いがどうのと言っても引かれないとは思う。


 さて、未成年組が帰ってくるまでに時間もあるので飾り付け用のメレンゲドールでも用意しておこうかと、ユフィーリアは食料保管庫の扉を開けた。



「あれ」


「どうしたのぉ、ユーリ?」


「メレンゲドールが大変なことに」



 ユフィーリアが「ほら」と食料保管庫からメレンゲドールを載せたお盆を引っ張り出す。


 金属製のお盆に載せられたメレンゲドールやチョコレートを流し込んで固めた家などは、ケーキに載せる為の飾りである。特にサンタクロースやトナカイなどのメレンゲドールはユフィーリアが手ずから作った力作だ。

 ところが、そのサンタクロースのメレンゲドールだけが首がなかった。胴体だけしか残されていなかったのだ。頭部だけがもぎ取られて無惨な死に様を晒している。


 メレンゲドール殺人事件が勃発してしまった。これは一大事である。



「…………エド」


「俺ちゃんじゃないよぉ」



 食に関して言えば真っ先に問題行動を起こすエドワードに疑いの眼差しを向けると、彼は即座に否定してきた。



「ショウちゃんとハルちゃんがガッカリするような真似はしないに決まってるじゃんねぇ」


「まあ、それもそうか」



 弟分としてショウとハルアの未成年組を可愛がっているので、彼らが落ち込むような真似をエドワードがする訳がなかった。

 では一体誰がメレンゲドールを殺したのだろうか。もちろんユフィーリアが犯人ではないし、今までクリスマスツリーの飾り付けをしていたショウとハルアでもない。


 ふと、ユフィーリアはある可能性を思いついた。



「なあ、アイゼは?」


「そういえば見ないねぇ」



 居住区画の周囲を見渡すも、アイゼルネの姿が見当たらないのだ。一体どこに行ったのか。

 誰もメレンゲドールに触れていないとなれば、犯人は自ずとアイゼルネだけになる。姿が見えないということは犯人だからだろう。幻惑魔法を使ってでも隠れているのか。


 すると、





 ――ガタン。





 衣装部屋からやけに大きな音が聞こえてきた。



「あそこかな」



 音が聞こえてきた衣装部屋に向かい、ユフィーリアは問答無用で足を踏み入れる。


 衣装部屋は、ほとんどアイゼルネが占領していると言っても過言ではなかった。お洒落好きなアイゼルネはたびたびドレスだの洋服だのを購入するので、衣装箪笥クローゼットだけでは足りなくなってきたのだ。しかも衣装部屋に関して言えばちゃんと男女が分かれる徹底ぶりである。そうでもしなければ全員分の洋服が入らないのだ。

 そんな衣装部屋は、ものの見事にひっくり返されていた。色鮮やかなドレスにニットのワンピース、妖艶な下着までもが放り出されて床に散乱している。開けっ放しになっている衣装箪笥の扉から、にょっきりと球体関節が特徴的な義足が垣間見えていた。


 ユフィーリアはそんな義足が突き出た箪笥を覗き込み、犯人を発見する。



「アイゼ」


「♪」



 南瓜のハリボテで頭部を覆った美人お茶汲み係、アイゼルネは全力で視線を逸らしていた。「私は何もしていません」と言わんばかりにハリボテをぐるりと動かして、ユフィーリアと目線を合わせないように徹底している。


 ユフィーリアはそんな彼女の魂胆などお見通しなので、南瓜のハリボテを容赦なく取り払った。

 すぽん、と呆気なく抜ける南瓜のハリボテ。中から緑色の髪と、見る角度によって色を変える不思議な色合いの瞳が現れた。そしてよく見ると、大きな裂け目が目立つ頬に何故か膨らみがあった。まるで何かを口に含んでいるかのように。


 ユフィーリアはアイゼルネの頬を鷲掴みにすると、



「アイゼ、お前か? サンタのメレンゲドールを食ったのは」


「♪」


「黙っていてもお前の口の膨らみが証拠だぞ」


「…………♪」



 観念したように、アイゼルネは口を開いた。


 真っ赤な舌の上に載せられた、溶けかけのサンタのメレンゲドールがコロリと転がる。やはり犯人はアイゼルネで間違いなかった。

 珍しいことがあったものである。摘み食いで怒られるのは未成年組だったが、アイゼルネが摘み食いをするのは驚きだ。



「何で食べたんだ?」


「……だって」



 アイゼルネは、か細い声で言う。



「食べてみたかったんだもノ♪」



 メレンゲドールは、年下のハルアがいつもねだるものだった。まあ酒も飲めないお子様だし、ユフィーリアもただ甘いだけのメレンゲドールはあまり好きではないので「食べたい奴に食べさせればいいか」と考えていたのだ。

 大人でもメレンゲドールは食べたくなるらしい。硬いし、甘いだけの砂糖菓子だが不思議と大人でも惹きつける魅力があるようだ。


 あまりにも子供じみた犯行をしたアイゼルネに、ユフィーリアは苦笑した。食べたければ自分もねだればよかったのに。



「新しく作り直すから、サンタクロースの胴体もちゃんと食ってやれ。生首だけもいでいくのはちょっと怖いぞ」



 ユフィーリアはそう言って、転送魔法で食料保管庫から残ったサンタクロースのメレンゲドールの胴体部分を召喚する。手のひらの上に転がったサンタクロースの胴体に、アイゼルネは目を瞬かせていた。



「でも、ショウちゃんとハルちゃんも食べたがらないかしラ♪」


「それに関して言えば、ちょっといいことを思いついたから大丈夫だ」



 ニヤリと笑い、ユフィーリアは弾んだ足取りで衣装部屋から出ていった。



 そんな経緯を経て、今年のケーキの上には何と問題児5人の姿を模したメレンゲドールが載せられた。ちょっと見た目もデフォルメされて可愛くなり、未成年組のショウとハルアは初手でメレンゲドールに食らいつくのを躊躇ったほどだ。

 意を決してメレンゲドールに齧り付いたらメレンゲドールが悲鳴を上げる仕様にしたのは、ちょっとした問題児筆頭の悪戯心からである。


 斯くして、メレンゲドール殺人事件は問題児筆頭によって隠蔽された。

《登場人物》


【ユフィーリア】硬いサンタクロースのメレンゲドールを食べて歯が欠けたことがある。内緒だよ。

【エドワード】子供の頃はいつもメレンゲドールをもらっていたけど、大人になってからはハルアに譲るようになった。

【ハルア】クリスマスツリーの飾り付けを全力で楽しむ。星を飾る瞬間が1番好き。

【アイゼルネ】大人だからがまんしていたけど、メレンゲドールはちょっと食べてみたかった。

【ショウ】ツリーを飾る機会がなかったので、飾り付けは何でも楽しむ派。

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