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雪降る夜に

弓使いの冒険者・アロウのもとに転がり込んだみなしごのシン。

2人はシンが一人前の冒険者になれるかどうかを賭けて「勝負」をすることになった。

その日の晩のお話。

 真冬の夜は静かだ。

 シンはむくりと起き上がる。

 今晩は冷え込みがひどかった。

 外では雪が降っているかもしれない。

 こんな夜でも、数日前まではほとんど暖を取る手段もないままシンは外で暮らしていた。

 ベッドの端にかけられたハシゴをそっと音を立てずに降りる。

 二段ベッドの下を覗くと、部屋の借り主であるアロウが眠っていた。

 ベッドの端に腰掛ける。

 アロウは完全に寝こけていて、起きる気配もない。

 かすかな呼吸の音だけが無音の夜に響いていた。


 アロウは、本気でシンの面倒を見る気らしい。

 それが今日明日のことなのか、10日のことなのか、あるいは数カ月先までのことなのかはわからない。

 シンのこれまでの常識では、それが1日、2日のことであれ、ただで他人の世話をするというのはありえない。

 なにかしらの見返り――裏通りの人間のようななんらかの欲に満ちたもの――を求められるのかと警戒して過ごしていたが、今のところそんな様子はなかった。

(――こいつホントに男か?)

 ちょっと失礼なことを考えつつ、シンは困惑していた。

 髪を整えたり、体を拭いたりされたので身構えても、本当に部屋に持ち込む汚れが気になっただけのようだった。

 アロウの提案を真に受けるほど、シンはお人好しではない。

 人に生活を預けるなんて馬鹿のすることだ。

 部屋を見回すと、金になりそうなものはいくらかある。

 アロウの財布の場所だって知っている。

 持ち出せば当分の生活費にはなるだろう。

 だけど…ふとアロウを振り返る。

 無防備な寝顔を晒して眠っている若い男。

 妙に達観したような変なやつだった。

 ここ数日見ていてどんな振る舞いをするかはなんとなくわかってきた。

 たぶん、シンが盗みを働いて逃げてもアロウは怒らない。

「そうか」と言って苦笑いするのがせいぜいだろう。

 それはつまり、アロウの予想の範囲内ということだ。

「よくいる路上生活の人間の一人」と一括りにされるということでもある。

 それはなんだか、ひどく癪だった。

「ぎゃふんと言わせてやりたい……」

 アロウがずっと面倒をみてくれるなんてこれっぽっちも信じていない。

 金目のものを盗って逃げたっていい。

 でもアロウ相手ならいつだってできる。

 だから、何かこいつがびっくりするようなことをしてから。

「それまでは、おとなしく付き合ってやるよ」

 ふふん、と笑ってシンは布団に潜りこんだ。


 翌朝。

「うわあああっ!!」

 部屋にアロウの悲鳴が響き渡った。

「うるっさいなあ…何?」

 寝ぼけ眼をこすりつつシンは布団から顔を出す。

「なんで人の布団に入ってるんだ、馬鹿!!」

「わあ、真っ赤になっちゃって。かーわいいー」

「ふざけんなっ叩き出すぞ!……あっ裸足で降りるな寒いだろ!」

 怒っているくせにすかさず靴を差し出すアロウにシンは吹き出した。

「あんたって本当……おもしろいな!」

「はあ!?」

「さあ、今日も一日勝負だよ!」

 シンは窓に近づきカーテンを開ける。

 一面の銀世界が、陽の光を受けてキラキラと輝いていた。

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