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お菓子の家

「ただいまーっ」

「こら」

 ぽいぽいと靴を脱ぎ捨てているシンの外套の襟を、アロウが捕まえる。

 オーバーサイズの外套は、シンがしゃがんだこともあってすぽんとに脱げた。

「帰ったら外套は脱いで干す、靴は脱いだら揃えて置いておけ。次に出る時手間取るだろ」

 テキパキと荷物を置いて片付けていくアロウを目で追いながら、シンはベッドに体を投げ出す。

「後でやるよお」

「後っていつだよ」

 呆れた顔をしながらも、アロウは本格的に怒る様子はない。

 シンは不思議に思う。

(なんか気にしてんのかな?)

 確かにシンはみなしごだが、シン1人にここまで肩入れする理由はアロウにはないはずだ。

 最初の晩に、シンは寝落ちしてしまったが……何かことさら同情を引くようなことを言ったつもりはないのだけど。

 その理由がわかれば、誤解を解いて去ればいい。

 そう思うのだけど……

「シン。ほらタオル」

 タンスにものを出し入れしていたアロウが振り向いて布を無造作に投げつけてくる。広がった大きなタオルは避けようもなくシンに頭からかぶさった。

 大人しくタオルに埋もれているシンを見るとアロウは表情を緩める。「しかたのないやつ」とでもいうような顔で近づいてきて、タオル越しに頭をもみくちゃにして拭いてくれる。

 誰かに世話をされた記憶は、シンには数えるほどしかない。

 自分の足で生きてきたのがシンの唯一の矜持だ。

 なのに、誰かに何かをしてもらえるのは思いのほか心地よくて、手放しがたかった。

 理由のない甘さなんて、ありえない。

 きっと痛い目を見るに決まっている。なのに。

(理由なんて、みつからなければいいのに……)

 このタオルが外されるまでに、こんな本音は隠さなければ。

 シンは胸の内に湧き上がるものを飲み込もうと、タオルの中で目を閉じた。

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