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甘いごほうび

「ではこちらが報酬です」

 受付嬢がカウンターに載せた報酬を確認して、アロウが眉を寄せる。

「……契約した額より多いようだが」

「ごたごたがありましたからね、特別手当です」

「遠慮なく頂いておくか」

「はい、またよろしくお願いいたしますね。それでは」

 次の案件の対応に移る受付嬢を見送り、アロウが銀貨を革袋に収めていると横からもぞもぞと黒い毛玉が生えてきた。

 ……シン。

 背の低いシンは、背伸びをしてやっとカウンターにあごが載るくらい。

「よかったねえ。走り回った甲斐があったじゃん」

 そう言って、にこにことアロウの手元をのぞき込む。

 その目は食事を見る時と同じ輝きを宿している。

 シンにとって、金銭というのは食事と引き換えできる石くらいの意味合いしかない。

 日々貪欲さをアピールする割にその言動は時々抜けていて、ずいぶんと可愛らしい"狼"なのだった。

 せっかくなので、本人に特別手当の使途を尋ねてみることにする。

「……何か欲しいものあるか?」

「えっボクにもくれるの!?」

「お前も働いただろう」

 アロウはちょっとあきれて黒いつむじを見下ろす。

 ……また染料が落ちて、銀色の地毛が少しのぞいていた。

 本当に隙が多すぎる。

「え、え、じゃあこの間の……"びすけっと"?ってやつ!もっかい食べたい!」

 シンが言っているのはごくシンプルな、粉を水でこねてハチミツを混ぜ焼いただけの素朴な菓子だ。

 甘味は一般に高価ではあるが、アロウの取引先にはハチミツを採集する農家があるので手が届かないようなものではない。

 しかしシンはなんとなく、たくさんもらえるとは思っていない口ぶりだ。

「……1枚だけなのか?」

 尋ねるアロウの口元が緩んでいるのを見て、シンは慌てて言葉を重ねてくる。

「じゅ、10枚!」

 自分で言っておいて、10枚という数を指で数えて「たくさん……」と呟いている姿にアロウはとうとう吹き出した。

「はいはい、10枚な」

「どう?困る?」

「うん、大変だな。食べるのが。悪くなる前に食べような」

 どこの店で買ってこようか。

 別の新しい菓子を与えてみるのも面白いかもしれない。

 目をキラキラさせてほおばるシンの姿を想像しながら、待ちきれないシンに背中をぐいぐい押されて、アロウは手続きカウンターを後にしたのだった。

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