昼の12時にとける魔法
明け方近くまで続いた甘い熱。
カーテンの隙間から射し込む柔らかな光が、乱れたシーツと、絡み合った僕たちの身体をほんのりと照らす。
ベッドサイドの時計は8時半。
僕は伊勢くんの腕の中で目を覚ました。
最近は、アラームよりも早く目が覚めるようになった。
それは、多忙な伊勢くんを少しでも、長く寝かせてあげたいから。
だけど……。
「……おはよう、直矢」
寝起きとは思えない、甘く低い声。
「おはようございます。まだ、もう少し寝てていいですよ」
彼の長い睫毛がゆっくりと持ち上がり、美しい瞳が僕を捉える。
「じゃあ、朝からしようか?」
「もう、いっぱいしました」
「1週間分には、まだ足りたないだろ」
夜の熱がまだ、身体中に残っているのに。
「ダメです。だって30分で終わらないもん」
伊勢くんが僕の鎖骨に頬を擦りつける。
「それに、寝不足ではいいパフォーマンスができませんよ」
「うちのマネージャーは厳しいな」
僕の髪を優しく撫でた。
「ああ。もう、直矢のおかげで充電は満タンだよ」
「もう少し、休んでてください。お願いです」
「キスだけ、それでがまんする」
軽く触れるだけのキスに、満足そうに微笑んだ。
「洗濯機、回しておきますね」
「うん……、ありがと」
昨日、羽田空港に行くまえに、美味しいと評判の食パンを買っておいた。ヨーグルトとコーンスープ、コーヒーを淹れて簡単な朝ごはん完成。
「あれ、今朝は焦げてない」
トーストを見て、からかうように笑う。
「僕だって成長するんです。毎回焦がしてたら、優くんの健康に悪いでしょう」
「そんなに急いで成長するなよ、寂しさから」
「そうやって、僕を甘やかすと、蒼真くんに怒られますよ」
「はは、そうだな」
こうして、2人だけの朝食を楽しんだ。
「そろそろ出発の時間です。情報番組の打ち合わせに間に合いません」
「わかったよ、《《湊さん》》」
伊勢くんは深く息を吐き、プロの笑顔を完成させた。その切り替えの速さに、僕はいつも胸を掴まれる
僕も、マネージャーとしての自分を取り戻さないと。
玄関に飾られた姿見で、身なりのチェックをする。仕上げに、お気に入りの香水をひと吹き。爽やかで、少しだけスパイシーな香水。
「変なところはないかな?」
伊勢くんは僕を振り返り、両手を広げる。まるで、ファッション雑誌の表紙から出てきたみたいだ。
「はい、とってもカッコいいです」
僕の言葉に嘘偽りなんてない。
優くんは意地悪な笑みを浮かべた。
「アイドルとして?恋人として?」
「どっちもです。僕にとって、優くんは、最高のアイドルで、最高の恋人ですよ」
「最高の褒め言葉だ」
ぎゅっと抱きしめられた。香水の香りが僕の身体にも移る。
「これで、今日は同じ香り」
優くんは僕の耳元で囁いた。
「もう、みんなに怪しまれちゃうでしょう」
「今さらだろ」
鍵を閉めて、エレベーターに乗り込むと、優くんがふいに呟いた。
「やっぱり、1階に引っ越すのはやめよう」
「え、どうしてですか?」
僕の質問には応えず、優くんは僕の頬に手を添え、不意打ちのようにキスをされた。
「15階から1階に行くまで、俺の恋人でいて」
優くんの目が、僕の動揺を愉しんでいる。
「だから!防犯カメラは付いているんです!誰かに見られたらどうするんですか!」
伊勢くんは、楽しそうに笑った。彼の止められない独占欲が愛おしくて、僕もつられて笑ってしまう。
今日はとてもいい天気だ。
昼の12時。僕らはアイドルとマネージャーという仮面を被り、外の世界へ踏み出した。
◆お読みいただきありがとうございました!
アルファポリスでは、ふたりの出会い編、おなじTOMARIGIのシリーズ作品集も、ぜひよろしくお願いいたします。
今後のためにも、ご意見、感想、叱咤激励、お待ちしております♡
【完結】ドジな新人マネージャー♂に振り回される、クールなアイドルの胸キュン現場
https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/772992683




