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3/3

午前3時の甘い吐息

「優くん!なんで入ってくるんですか!」



ガラッと大きな音を立てて、バスルームの扉が開いた。



「さっき玄関で言ったろ。シャワーは後でいいって。でも訂正だ。ふたり一緒に、今すぐ浴びる」


「もう……!」



シャワールームの明るい照明。湯気の向こうに立つ伊勢くんは、イベント用の華やかな衣装以上に眩しくて、全裸の姿に目のやり場をなくす。



「ほら、洗ってやるよ」



そう言って、シャンプーを手に取った伊勢くんは、当たり前のように僕の髪に泡を立てていく。


大きな掌が頭を包み込み、優しく、けれど確かに支配するような力で。



「イタリアにいる間、夜が長くて仕方がなかった」



低い声が耳元を震わせる。



「時差でまともに電話もできないし……気が狂いそうだった」


「優くん……」



濡れた肌同士が重なり合うたび、境界線なんてすぐに曖昧になる。


泡に包まれた指先が頬をなぞり、唇がそっと触れる。


シャワーの熱が二人の体温をさらに高め、理性はすぐに溶かされていった。



「もう限界だ」



伊勢くんが吐息混じりに囁く。



「ここで、そのままする?ベッドがいい?」


「あ、あの……、ベッドに行きましょう」



返事を待つ間もなく、彼はシャワーを止め、僕を抱き上げた。


水滴の残る体をタオルでくるみ、濡れた髪のまま寝室へと運ぶ。


シーツには彼の香水が微かに残っていて、その匂いが胸の奥を切なく締めつけた。


「直矢」



伊勢くんは僕をベッドに下ろし、真剣な眼差しで覗き込む。



シャワーより熱い吐息が、唇の奥まで流れ込んでくる。



「好きだ。言葉にしたくらいじゃ足りないくらい、直矢を想ってる」



胸の奥に直接届く告白に、僕は視線を逸らしながら、必死に堪える。


でも彼の手が腰を包み、強く抱き寄せられた途端、全身から力が抜けてしまった。



「優くん……僕も……」



囁くように答えると、彼は満足げに微笑み、再び唇を重ねる。



ようやく呼吸が整った頃、汗ばんだ前髪を伊勢くんが撫でてくれた。



「大丈夫?」


「ん、大丈夫です」


「明日の朝ごはん、買ってくるの忘れましたね」



羽田からマンションまで、ノンストップで来てしまったことを後悔する。



「正直なこと言っていい?」


「はい?」


「イタリアのホテルは朝から豪華だったんだ。毎日フルーツもクロワッサンも山ほど出てきてさ」


「いいなぁ……」



羨ましさより、彼が遠くにいた現実が胸を締めつけた。



「でも俺、ふと考えたんだ」



少し照れたように笑って続ける。



「直矢が焦がしたトーストが食べたいって」


「えっ……そこですか?」



思わず吹き出す。


だって、僕のトーストはいつも失敗ばかりで、ちっとも自慢できるものじゃない。



「笑うなよ。俺は真剣なんだ」



拗ねたように眉を寄せる伊勢くんが、可愛くて胸が温かくなる。



「たとえ焦げてても、直矢と一緒に食べる朝食。それが俺にとっての安心なんだ」



じんわりと涙が滲んだ。



「優くん……」


「マネージャーの湊も、俺の恋人の直矢も……、どっちも欠けたらダメなんだ。わかった?」


「はい」



短い返事しかできない僕の頬を、彼は濡れた指でなぞった。


胸いっぱいに幸せが広がっていく。



「直矢」


「はい」


「また、してもいい?」



耳元に落ちる低い声。その響きだけで、身体が震えた。



「だ、ダメって言っても、するんでしょう」


「そうだな。だって、俺よりずっと、『もっと欲しい』って顔してる」


「!」


一気に顔が熱くなる。彼は楽しそうに喉を震わせ、僕をシーツの中に引き寄せた。



「俺が欲しいって、言ってよ」



月明かりの差し込む寝室。素直に言葉がこぼれる。



「もっと……、もっとください」



深夜3時。


伊勢くんの熱と溺愛は途切れることなく、僕を包み込んでいった。




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