パトリック・ブルックスの選択‐五
2026/02/26の更新はお休みさせていただきます。
ノエルがパトリックに魔力を注ぎ続けて、半年が過ぎた。
定期的にノアと医者が、体調の確認をしに来るが、首を横に振るばかりであった。
ヴィタが来て一年。
ブルックス公爵家で、盛大な歓迎会が行われようとしていた。
ヴィタが来たその日にも、屋敷の従者も含め、総出でお祝いをしたが、今回は数人のゲストを呼んでいた。
―――
屋敷の広間に、今日のために設置された壇上で、ヴィタはぎこちなくカーテシーをした。
「今日はヴィタのために、来てくださり、ありがとうございます。」
ヴィタは恥ずかしそうにしながらも、一生懸命に挨拶をした。
「……えと、えと、」
だんだんと、ヴィタがもじもじとして、その場で俯いてしまった。
次のセリフが飛んでしまったらしい。
広間にいる人たちが、微笑ましそうにヴィタを見ていた。
その視線が、さらにヴィタの頭を真っ白に塗り替えていった。
頬を赤く染め、自分のつま先を見ているヴィタ。
そんなヴィタの後ろから、小さく声がかけられた。
「大丈夫ですよ、ほら。」
ヴィタの身体が突然、浮いた。
いや、パトリックが後ろから抱きかかえたのである。
「おとーさま!」
「ヴィタ、一緒に“どうぞ、お楽しみください”って言えますか?」
「いえる!」
ヴィタは、パトリックの顔に思いっきり抱きついた。
パトリックは「これじゃ、一緒に言えないですよ」とヴィタの手をぽんぽん叩いた。
“せーの”というパトリックの声で、ヴィタの口も開いた。
「どうぞ、お楽しみください。」
「どーぞ、おたもしみください!」
小さい子特有の言い間違いをしていたが、ヴィタは、気にする素振りもなかった。
そして、ヴィタの小さな腕がぎゅっと回された。
「えへへ。いえた!」
小さな胸が、得意げに張られる。
その温もりに、パトリックは小さく笑い声をこぼしながら、しっかりとヴィタを抱き直した。
「とても、立派でしたよ」
壇上から降り、オルジュを抱えたノエルとアレクシスが近づいてきた。
「よく頑張りましたね、ヴィタ。」
「うん!おとーさまと、いっしょにいえたの!」
パトリックに抱えられているヴィタが、うごうごと忙しなく動き回る。
“おろして”の合図だと気づいたパトリックは、ヴィタを下におろした。
その瞬間、ノエルの足にぎゅっと抱きつくヴィタ。
「ヴィタ、“おたもしみください”じゃなくて、お楽しみください、だよ?」
アレクシスがヴィタの言い間違いを指摘した。
ヴィタは不思議そうな顔で、アレクシスを見てから首を傾げた。
「おたのみしください?」
「お楽しみください!」
アレクシスが正しい発音を教えるが、ヴィタは首を傾げるばかりだった。
「おたのももしくだあい!」
「もう、オルジュまで!」
オルジュも楽しそうに、ヴィタたちの真似をしていた。
「あはは!随分、賑やかになったね。」
後ろからやってきたのは、いつもと変わらない顔ぶれだった。
ノア、カイル、そしてアーリヤ。
「誰かさんたちのおかげで、予定より早く家族が持てて、幸せなかぎりですよ。」
パトリックの言葉の端々にトゲがあったが、三人は動じなかった。
アーリヤは口元に手を当て、くすくすと笑っていた。
ノアは「だろ?」と、したり顔をしていた。
カイルも「褒めるな!照れてしまう!」と少しズレたことを言っていた。
―――
歓迎会も中盤を過ぎた頃。
パトリックは、自分の身体に少し違和感を覚えていた。
「(いつもより疲れるのが、早い気がする……)」
そう思ったが、「歓迎会の準備で少し無理をしたせいだろう」と結論を出した。
―――
ゲストの帰りを見送る時になって、
ノアが、パトリックをじっと見つめていた。
「何かありましたか?」
「いや……」
パトリックはノアに尋ねた。
しかし、ノアは一言呟いてから、思考の海に泳いでしまったらしく固まってしまった。
「ほら、さっさと帰るぞ!」
カイルがノアを引きずるように、歩き出した。
「子どもにもよろしく伝えておいてくれ!」
にかっと眩しい笑みを浮かべて、カイルは手を上げノアと共に去っていった。
「お疲れ様です、パディ様。これでゲストの方は全員、お帰りになったみたいですね。」
ノアたちを見送り、ノエルはパトリックに声をかけた。
子どもたちは、途中で睡魔に負けてしまい、今では夢の中であった。
「ノエルも、お疲れ様です。後半、ほとんど子どもたちを任せてしまい、すみません。」
気のせいだと思っていた疲れが、立ちくらみという形で出てしまった。
ノエルにも、子どもにも、迷惑かけたなと一人、肩を落とすパトリック。
「いいえ、大丈夫でしたよ。それより顔色が優れませんね。今日はゆっくり休みましょうか。」
ノエルは、そっとパトリックの頬を包んだ。
その手に自身の手を重ねるパトリック。
「……そうですね。今日“は”抱きしめ合うだけにしておきましょうか。」
「もう!」
小さく笑い合う、パトリックとノエル。
――実りの季節は、すぐそこまで来ていた。
ヴィタが、ノアに一目惚れするシーン書きたかったなぁ。
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