ノエル・ブルックスの成長
「こっちの色なんてどうだろうか?」
「……少し地味な気がするな。」
「こっちの色味は明るいぞ!」
「色は良いが、ちょっとデザインが下品じゃないか?」
ブルックス家の客間にて、ドレスの色を吟味している“四芒星”
あれでもない、これでもないと騒ぎながら、持ち寄ったドレスのカタログを広げていた。
「……一応、私が着る予定のドレスなんですが?」
当事者であるパトリックとノエルは置いてけぼりであった。
パトリックはため息をつき、その横でノエルは苦笑いを浮かべていた。
―――
時を遡ること、午前中。
朝食を済ませ、一日の予定を確認するパトリック。
昨日のうちに、ノエルのドレスをあらかた決めたので、今日はパトリックの衣装を選ぶ番だった。
パトリックは、「私はタキシードしか着ません。」と主張したが、
ノエルと公爵に「「晴れ舞台だから!」」と押し問答の末、「一着だけなら」と妥協したのだった。
その数時間後。
「パティもドレス着るんだって!?」
少し息を切らしたアーリヤが、事前に訪問の告知もなく、屋敷の扉を開けた。
その後ろには、ノアとカイル。
そして、きょろきょろと辺りを見渡すヘーレーがいた。
――屋敷中が、従者たちの阿鼻叫喚で包まれた。
手が空いている者は、掃除へと駆り出され、厨房から怒号が飛び交っていた。
メイド長と執事長は、こめかみに青筋を立てながら、てきぱきと従者たちに、王子をもてなす指示を出した。
ブラウスに、スラックスというラフな格好で出てきたパトリックが、アーリヤたちに文句を言う。
「……王子は、小さい時よく、勝手に来てたので諦めはついてるんですけど、」
パトリックは後ろにいる三人を、じろりと睨んだ。
「そこの三人は、なんでいるんですか。」
「アーリヤに無理やり……」
目を逸らしながら、ごにょごにょと言い訳をするノア。
「アーリヤの“影”から連絡があったと聞いてな!」
アッハッハと豪快に笑っているカイル。
「ここが、我が赤薔薇の実家か……」
そもそも話を聞いていないヘーレー。
パトリックは大袈裟に「はぁ」とため息を吐いた。
がくりと肩を下げ、再度、四人を睨みつけた。
「……客間の準備ができるまで、そこで“勝手に来たこと”を反省しててください。」
パトリックは、躊躇なく扉を閉めた。
――そして、現在に至る。
―――
「パティ!青のドレス着ない!?」
アーリヤは、カタログにある自身の瞳のような色の青いドレスを指さした。
「そのお色は、アーリヤ王子すぎますので、却下です。」
間髪をいれずに、首を横に振るノエル。
「……水色とか、どうだ?」
ノアが珍しく、弱々しい声で自身の髪色のような水色のドレスを勧める。
「パディ様を引き立たせるのであれば、寒色は避けた方がよろしいかと。」
ノアの声色など気にする素振りも見せず、ノエルはきっぱりと断る。
「赤いコルセットが、かっこいいと思うんだが……」
明らかに、カタログには載ってないような衣装を指さすカイル。
「カイル様……ご自身の“癖”を、パディ様に押し付けないでください。」
そう言って、ノエルは、カイルが持っていたカタログを雑に閉じる。
「紺色に、金の刺繍を施したものなどどうだろうか?」
ヘーレーがここらでは見かけない型のドレスを指さした。
「ヘーレー様ってば、やっぱりパディ様のこと諦めてなかったんですね。」
ノエルが「察してはいましたが」と付け足し、にこりと微笑んでいた。
――しかし、その顔には怒りが滲み出ていた。
笑っているはずなのに、目の奥はあまりにも冷たかった。
思わず、びくっと肩を揺らすヘーレー。
「いや……その、あ、赤薔薇……」
ヘーレーが、思わずパトリックに助けを求める。
「……ノエル。」
「はい、なんでしょうか。」
パトリックは、ノエルの頬にそっと触れた。
「最初の頃は、自分の意見を言うことを躊躇っていた貴方が、ここまで自分の気持ちを言えるようになるなんて……!」
「私の見る目は、確かでしたね」といいながら、ノエルの頬に、次々とキスを落とすパトリック。
「あっ、だめですよ、パディ様!皆さんが見てますし、お義父様にも怒られたじゃないですかっ!」
ノエルはぷくっと頬を膨らませ、パトリックに抗議をした。
「もっとキスをしやすくしてくれたんですか?」とパトリックは止まらなかった。
「もう、聞いてください!」
ノエルが一旦、パトリックを離す。
ふぅと息を整え、ノエルは“四芒星”を見渡した。
「皆さまの意見は、大変参考になりました。それを踏まえ、私がパディ様のドレスを選びます!」
ノエルは、決意を固めるかのように、ぐっと拳を作った。
パトリックは「元より、そのつもりですよ。」と言い放った。
「この痴女め!パティからキスされていい気になるなよっ!」
「アーリヤ、人に向かって指をさすな。」
「その拳を、俺に振り下ろしてみないか!?」
「……我は助かった、のか?」
――外野が、それぞれ騒いでいた。
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