パトリック・ブルックスの嘘
今回は、ちょっと短めです。
卒業パーティの騒ぎから、七日が経とうとしていた。
生徒たちも、持ち主をなくした席に見慣れてきた頃だった。
「今朝、聖女を乗せた馬車が出立したよ。」
がやがやと騒がしい教室の中。
アーリヤが声を発した瞬間、ほんの少しだけ静まり返った。
『私の処刑には、一週間もかからなかったのに。』
パトリックはぼんやりと、そんなことを考えながら「そうですか。」と相槌を打った。
「あれからずっと、気になっていたことがあるんだが。」
ヘーレーが、カイルの後ろからひょこっと顔を出し、「いいだろうか?」とパトリックに話しかけた。
「何故、我々に聖女を見張らせていたんだ?」
ヘーレーは腕を組み、「王家の影も、赤薔薇の部下たちも動いていたんだろう?」と怪訝な顔をしていた。
「……確かに。」
むすっとした顔をしたノアが、ヘーレーの言葉に同調した。
アーリヤも「僕も知りたいな」と、朗らかな表情を浮かべていた。
カイルは、よくわかってなさそうな顔をしていた。
パトリックは、ヘーレーの言葉にきょとんと目を瞬かせた。
『見張りのつもりだったのか』と、内心で呟いた。
『……夢の中の皆さんが、聖女を庇うように立っていたから。』
聖女を守るように、立ち塞がる四芒星。
私を見つめる瞳は、嫌悪そのものだった。
仮にテイラーが、私と同じ夢の記憶を持っているんだとしたら、
それを再現してみたら、油断するだろうと思ったのだ。
「(こんなこと言われても、意味がわからないですよね。適当に誤魔化すとしましょう)」
四人の瞳がじっと、パトリックを見つめていた。
「それはですね、」と、パトリックが口を開いた。
「四芒星に“私は、聖女に手を出していなかった”という証言が欲しかっただけですよ。」
嘘は言っていない。
真実を言っていないだけである。
四芒星に見られていることを意識して、テイラーの“嫌がらせされているアピール”がだんだん“熱烈”になっていくだろう。
――しかし、四芒星に見られていることによって、テイラーから派手な行動に移れないだろう。
そういう考えも、ちゃんとあったのだから。
……嘘は言ってない。
パトリックは、にこりと笑い返した。
おそらくアーリヤは、パトリックが考えているところを察しているだろう。
笑顔を崩さなかった。
ノアも察している、だから「本音を言えないのか」という意味で、不満気な顔をしているのだろう。
「証言も大事だよな!」と曇りなく笑い飛ばすカイル。
ヘーレーは「なるほど」と納得してくれたようだった。
頃合いよく、授業開始の鐘が鳴った。
各自、自分の席へと戻っていった。
パトリックは、小さく安堵のため息をついた。
静かに本を読んでいたノエルが、パトリックに、こそっと話しかけてきた。
「パディ様は、一人でテイラーさんに立ち向かおうとしたんですよね。」
「え?」
パトリックは、ノエルに心の奥底に隠した本心を暴かれた気分だった。
――そう、再現だった。
何かの拍子に、回避したかった未来に戻ってしまうかもしれない。
そんな恐怖が、ずっと頭の片隅にあった。
だから、あの時の再現をして、『私は、皆がいなくても大丈夫だ』と信じ込みたかったのだ。
机の下で、ノエルがそっとパトリックの手に触れた。
「私は、どんな時もお傍にいますよ。」
ノエルは、恥ずかしそうにぎこちなく笑う。
――私は何回、ノエルを好きになればいいんだろう?
パトリックは、ノエルの手をぎゅっと握り返した。
「……勝手に離れたら、地の果てまで追いかけますからね。」
「はい!」
握られた手は、熱かった。
――春一番が吹く。
空は、どこまでも青く澄んでいた。
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