パトリック・ブルックスの断罪‐三
愛が愛とわからぬままに、貪欲に欲し続けた“わたくし”と、
世界から愛されていると、勘違いし続けた貴方。
どちらも滑稽すぎて、かわいそう、かもね。
――でも、
「愛されることばかり求めて、愛すことをしなかった。……貴方はなんて、かわいそうで、愚かなんでしょう。」
パトリックは夢の中で、聖女に言われたセリフを思い出した。
“愛されることばかり求めて、愛すことをしなかった、なんて寂しい人”
このセリフを言われた時も、卒業パーティの時だった。
……あまりにも腹が立ちすぎて、聖女に飲ませようとした劇薬入りの紅茶を、彼女の顔面にかけたんだっけ。
――ただの事実として、パトリックは淡々と思い出していた。
その時、
パトリックのセリフを、虚ろな目で聞いたテイラーに、変化が起きた。
目を見開いたかと思うと、その瞳は怒りに染まっていた。
「……っんで、あんたがそのセリフを知ってんのよっ!!」
聖女という顔を取り繕いもせず――
もとより、最初っからそんなものはなかったが。
怒りに任せて、テイラーは叫ぶ。
「そのセリフは、“聖女”のセリフでしょ!?」
テイラーの言葉を聞いて、パトリックは笑みを深めた。
そして、ゆっくりとテイラーに近寄り、そっと耳打ちをした。
「やっぱり、貴方にも――
“わたくしに顔を溶かされた記憶”があるのね。」
テイラーは言葉が出ないのか、口をはくはくと動かすだけだった。
『自分以外に、原作ゲームを知っている人物がいる』とは、考えてもなかった。
――パトリックは、ゲームシナリオを知っているわけではないが、そんなことをテイラーが知る由もない。
「あはっ!持っている知識を活かせないなんて、頭が“かわいそう”な子だったのね!」
パトリックの目が細まり、口元が三日月を描く。
――心底、テイラーを馬鹿にした笑みだった。
怒りで、テイラーの視界が真っ赤に染まる。
「……あんたが、」
絞り出されたテイラーの声は、酷く掠れていた。
「……あんたが、主人公だなんて、わたしは認めないっ!!」
テイラーは、袖下に隠していた小瓶をパトリックに向かって、思いっきり振りかぶった。
――だが、その手から小瓶が離れることはなかった。
「……カイルッ!いやっ、離して!離してよっ!」
「アッハッハ、それはできない相談だな。」
テイラーは、キッとカイルを睨みつけた。
しかし、彼女の瞳に映ったカイルの顔は、怒りを滲ませた表情だった。
「警備兵、この者を別室へ連れていけ。」
アーリヤの声で、警備兵がテイラーの元へと集まってくる。
「違うっ!わたしじゃない!あいつを連れて行きなさい!シナリオ通りにしなさいよっ!!」
今も尚、テイラーは、パトリックたちには理解できない言葉で話し続ける。
警備兵に引き渡されても、未だ騒ぎ続けるテイラーに向かって、パトリックは声をかける。
「今日までの一週間、いい夢は見れたかしら?」
「……は?何を言って……?」
パトリックは、ちらりと後ろにいる四芒星を見た。
「私が、みんなにお願いしたんです。“今日から一週間、聖女さんの傍にいてあげてください”って。」
――まるで、慈悲深い“聖女”のような声だった。
さっきまで怒りに染まっていた顔色が、みるみるうちに色褪せていく。
「嘘よ……みんな、私を心配して……そうよ、あんたに嫌がらせをさせない為に……」
警備兵に「ちゃんと立て!」と叱責されるも、膝に力が入らない様子のテイラー。
そんな彼女に留めを刺すように、パトリックは四芒星を呼びつける。
「もう、パティも人が悪いな!こうなるなら最初っから言っておいてよ!」
にこにこと爽やかに笑いながら、パトリックを抱きしめようとするアーリヤ。
パトリックは、それを華麗に躱した。
「しかも、トリシアと“目が合った時は睨め”なんて、変な注文つけやがって。」
ノアは、呆れたようにため息をつきながら、カイルとヘーレーを見た。
「次は睨む側よりも、蔑まれる側に回りたいものだな!」
「お前の癖に付き合うつもりはないが、今の俺はお前を軽蔑してるぞ。」
眩しく笑いながら、己の特殊性癖を語るカイルと、
半目でカイルを見るノア。
「ところで、国で保護している聖女なんだろ?処罰はどうなるんだ?」
ヘーレーは不思議そうな顔をしながら、テイラーを覗き込んだ。
「王族に対する虚偽申告罪と上級貴族に対する殺傷未遂か……」
アーリヤが「ふむ」と、口元に指を当てながら考えていた。
「何よりも、僕のパティに傷を負わそうとしたんだから、死刑にしたい気分だけど!」
「気分で死刑するなよ。」
アーリヤは明るく、死刑と宣った。
そんな彼に、鋭く指摘するノア。
アーリヤが言葉を聞いて、「そんなわけないっ!」と再び騒ぎ出すテイラー。
アーリヤはくるりと振り返り、父である国王を見上げた。
「禁固刑が妥当だと考えますが、彼女は聖女です。」
アーリヤは平然とした顔で、テイラーの処遇を話し出した。
国王は黙ってそれを聞いていた。
「屈強な見張り六名ほど付けて、各地に発生している“黒い瘴気”の浄化作業を、無休でさせるというのは、どうでしょうか?」
アーリヤの言葉を聞き、国王はぴくりの片眉を上げた。
「もちろん、金輪際、我が国への入国禁止ですよ。」
「して、期間は。」
国王は短い言葉で、アーリヤに問いかけた。
「――その命、尽きるまで。」
「……よろしい。」
静かな会場に、王族二人の会話だけ響いていた。
二人の言葉を聞き終わり、思考が追いついただろうテイラーが、渾身の力で暴れ出す。
「知らないっ!そんなシナリオ知らないっ!!」
「シナリオも何も、ここは現実ですよ。」
胸の前で手を組み、落ち着いた声色で言い放ったのは、ノエルだった。
「私も、パディ様も、全員、意志を持って生きてるんです。」
パトリックが、ノエルの肩を抱き寄せた。
「ちゃんと、現実を見てください。」
ノエルが、パトリックの肩にそっと寄りかかった。
「……モブキャラの分際で……」
――テイラーに、ノエルの言葉は届かなかった。
見かねた警備兵が、テイラーに猿轡を噛ませた。
警備兵がテイラーを、強制的に連行していく。
すれ違いざまに、パトリックは声をかけた。
「それでは、ご機嫌よう。親愛なる聖女様。」
テイラーの叫びは、猿轡の中に吸い込まれていった。
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