表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/103

パトリック・ブルックスの断罪‐三


愛が愛とわからぬままに、貪欲に欲し続けた“わたくし”と、

世界から愛されていると、勘違いし続けた貴方テイラー


どちらも滑稽すぎて、かわいそう、かもね。

――でも、


「愛されることばかり求めて、愛すことをしなかった。……貴方はなんて、かわいそうで、愚かなんでしょう。」


パトリックは夢の中で、聖女に言われたセリフを思い出した。


“愛されることばかり求めて、愛すことをしなかった、なんて寂しい人”


このセリフを言われた時も、卒業パーティの時だった。

……あまりにも腹が立ちすぎて、聖女に飲ませようとした劇薬入りの紅茶を、彼女の顔面にかけたんだっけ。


――ただの事実として、パトリックは淡々と思い出していた。


その時、

パトリックのセリフを、虚ろな目で聞いたテイラーに、変化が起きた。

目を見開いたかと思うと、その瞳は怒りに染まっていた。


「……っんで、あんたがそのセリフを知ってんのよっ!!」


聖女という顔を取り繕いもせず――

もとより、最初っからそんなものはなかったが。

怒りに任せて、テイラーは叫ぶ。


「そのセリフは、“聖女わたし”のセリフでしょ!?」


テイラーの言葉を聞いて、パトリックは笑みを深めた。

そして、ゆっくりとテイラーに近寄り、そっと耳打ちをした。


「やっぱり、貴方にも――

“わたくしに顔を溶かされた記憶”があるのね。」


テイラーは言葉が出ないのか、口をはくはくと動かすだけだった。

『自分以外に、原作ゲームを知っている人物がいる』とは、考えてもなかった。


――パトリックは、ゲームシナリオを知っているわけではないが、そんなことをテイラーが知る由もない。


「あはっ!持っている知識を活かせないなんて、頭が“かわいそう”な子だったのね!」


パトリックの目が細まり、口元が三日月を描く。

――心底、テイラーを馬鹿にした笑みだった。


怒りで、テイラーの視界が真っ赤に染まる。


「……あんたが、」


絞り出されたテイラーの声は、酷く掠れていた。


「……あんたが、主人公ヒロインだなんて、わたしは認めないっ!!」


テイラーは、袖下に隠していた小瓶をパトリックに向かって、思いっきり振りかぶった。

――だが、その手から小瓶が離れることはなかった。


「……カイルッ!いやっ、離して!離してよっ!」


「アッハッハ、それはできない相談だな。」


テイラーは、キッとカイルを睨みつけた。

しかし、彼女の瞳に映ったカイルの顔は、怒りを滲ませた表情だった。


「警備兵、この者を別室へ連れていけ。」


アーリヤの声で、警備兵がテイラーの元へと集まってくる。


「違うっ!わたしじゃない!あいつを連れて行きなさい!シナリオ通りにしなさいよっ!!」


今も尚、テイラーは、パトリックたちには理解できない言葉で話し続ける。

警備兵に引き渡されても、未だ騒ぎ続けるテイラーに向かって、パトリックは声をかける。


「今日までの一週間、いい夢は見れたかしら?」


「……は?何を言って……?」


パトリックは、ちらりと後ろにいる四芒星よんぼうせいを見た。


「私が、みんなにお願いしたんです。“今日から一週間、聖女さんの傍にいてあげてください”って。」


――まるで、慈悲深い“聖女”のような声だった。


さっきまで怒りに染まっていた顔色が、みるみるうちに色褪せていく。


「嘘よ……みんな、私を心配して……そうよ、あんたに嫌がらせをさせない為に……」


警備兵に「ちゃんと立て!」と叱責されるも、膝に力が入らない様子のテイラー。

そんな彼女に留めを刺すように、パトリックは四芒星よんぼうせいを呼びつける。


「もう、パティも人が悪いな!こうなるなら最初っから言っておいてよ!」

にこにこと爽やかに笑いながら、パトリックを抱きしめようとするアーリヤ。

パトリックは、それを華麗にかわした。


「しかも、トリシアと“目が合った時は睨め”なんて、変な注文つけやがって。」

ノアは、呆れたようにため息をつきながら、カイルとヘーレーを見た。


「次は睨む側よりも、蔑まれる側に回りたいものだな!」

「お前の癖に付き合うつもりはないが、今の俺はお前を軽蔑してるぞ。」


眩しく笑いながら、己の特殊性癖しゅみを語るカイルと、

半目でカイルを見るノア。


「ところで、国で保護している聖女なんだろ?処罰はどうなるんだ?」


ヘーレーは不思議そうな顔をしながら、テイラーを覗き込んだ。


「王族に対する虚偽申告罪と上級貴族に対する殺傷未遂か……」

アーリヤが「ふむ」と、口元に指を当てながら考えていた。

「何よりも、僕のパティに傷を負わそうとしたんだから、死刑にしたい気分だけど!」


「気分で死刑するなよ。」


アーリヤは明るく、死刑とのたまった。

そんな彼に、鋭く指摘するノア。

アーリヤが言葉を聞いて、「そんなわけないっ!」と再び騒ぎ出すテイラー。


アーリヤはくるりと振り返り、父である国王を見上げた。


「禁固刑が妥当だと考えますが、彼女は聖女です。」


アーリヤは平然とした顔で、テイラーの処遇を話し出した。

国王は黙ってそれを聞いていた。


「屈強な見張り六名ほど付けて、各地に発生している“黒い瘴気”の浄化作業を、無休でさせるというのは、どうでしょうか?」


アーリヤの言葉を聞き、国王はぴくりの片眉を上げた。


「もちろん、金輪際こんりんざい、我が国への入国禁止ですよ。」


「して、期間は。」


国王は短い言葉で、アーリヤに問いかけた。


「――その命、尽きるまで。」


「……よろしい。」


静かな会場に、王族二人の会話だけ響いていた。

二人の言葉を聞き終わり、思考が追いついただろうテイラーが、渾身の力で暴れ出す。


「知らないっ!そんなシナリオ知らないっ!!」


「シナリオも何も、ここは現実ですよ。」


胸の前で手を組み、落ち着いた声色で言い放ったのは、ノエルだった。


「私も、パディ様も、全員、意志を持って生きてるんです。」


パトリックが、ノエルの肩を抱き寄せた。


「ちゃんと、現実いまを見てください。」


ノエルが、パトリックの肩にそっと寄りかかった。


「……モブキャラの分際で……」


――テイラーに、ノエルの言葉は届かなかった。


見かねた警備兵が、テイラーに猿轡さるぐつわを噛ませた。

警備兵がテイラーを、強制的に連行していく。

すれ違いざまに、パトリックは声をかけた。


「それでは、ご機嫌よう。親愛なる聖女様。」


テイラーの叫びは、猿轡さるぐつわの中に吸い込まれていった。



評価、ブクマ、レビュー、感想ありがとうございます!

大変励みになっております!

引き続き、どうかよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ