パトリック・ブルックスの断罪‐二
静まり返った会場で、テイラーの声の余韻だけが残っていた。
「……ふふっ、駄目だ。我慢できなそうにないや。」
あはは、と吹き出すアーリヤを皮切りに、先ほどまで険しい顔をしていたノア、カイル、それからヘーレーが、一斉に肩を震わせた。
「おい、笑うなって言ったのは、アーリヤだろ。」
ノアがくつくつと笑っていた。
「長時間、眉間に皺を寄せるのが、こんなに大変だとは……!」
ヘーレーはそう言いながら、目尻の涙を拭いた。
「中々に、楽しめたぞ!」
「おいカイル、公共の場でお前の“癖”は話題にするな。」
にかっと明るく笑うカイル。
そんなカイルの横腹に肘鉄を入れるノア。
「……は?……えっ、何を言ってるんですか?」
状況が飲み込めないながらも、テイラーはなんとか言葉を振り絞った。
縋るような目でアーリヤを見つめた。
周りの生徒たちのざわめきが大きくなる。
くすくすと笑っていたアーリヤの表情が、真面目な顔に変わった。
「“何”って事実だよ。僕たちは“既に噴水の中にいた”君しか見てない。」
アーリヤがそう告げ、後ろのノアやカイル、ヘーレーに「だよね?」と問いかける。
「ああ、俺は噴水の中にいた聖女しか見てない。」
ノアは、事実だけを淡々と話した。
「パットが突き落とした“瞬間”かあ、見てないな!」
屈託のない笑顔で、カイルも返事をした。
「我もだ!」
胸を張り、ヘーレーは明るく答えた。
突然、攻略キャラたちから飛び出した、裏切りとも言える言葉の数々に、
テイラーの頭がぐちゃぐちゃになっていく。
「(何が起きてるの!?さっきまで、わたしを庇ってたじゃないっ!!)」
――テイラーの周りにいただけで、彼らは庇っていたわけではない。
「なんで、そんなこと言うんですか!?わたしは本当に突き落とされて……」
テイラーは諦めなかった。
「見た人は、いないかもだけど……」
「でも、嫌がらせは本当で……」
「わたしのノートに落書きとか……」
テイラーは、支離滅裂な言い訳を、もごもごと口にしていた。
それに呼応するように、聖女の取り巻きたちも声を上げた。
「聖女様が、意図的に噴水に落ちるわけないだろ!」
「聖女様が、おれたちに特別に教えてくれたんだ!」
「聖女様が……」
パトリックは取り巻きたちを、ぎろりと睨みつけた。
「聖女、聖女ってうるさいですね。自分の言葉で話せないんですか?」
パトリックに指摘され、言葉が詰まってしまう取り巻きたち。
すごすごと姿を隠すように、人混みに紛れていった。
「(何よ、あいつら!なんの役にも立たないわねっ!!)」
怒りで顔を赤くしながら、ドレスをぎゅっと握りしめるテイラー。
そんなテイラーの姿を見て、誰にも聞こえない声でぽつりと呟くパトリック。
「(……もっと、楽しませてくれると思ったんですけどね)」
所詮、こんなものか。
私は聖女を買い被りすぎていたのかもしれない。
夢の中の聖女と同じはずなのに、違和感があるテイラー。
それを知りたかったんですけどね……
パトリックは小さく首を横に振り、現在と向き合う。
貼り付けたような笑顔のまま、パトリックはキツめの口調でテイラーに再度聞いた。
「証拠、ないんですか?」
テイラーが「うぐっ」と小さく呻いた。
そして、人混みをかき分け現れたノエルと“もう一人”を見つけて、笑みを深めた。
「駄目ですよ?ちゃんと目にわかる証拠を用意しなきゃ。」
パトリックはくるりとノエルの方を向いた。
ノエルと、もう一人――情報通のクランから写真を受け取った。
「私みたいにね。」
パトリックは、テイラーに顔だけ向けた。
――原作ゲームよりも、恐ろしい“悪役”の顔だった。
「さあ、皆様!こちらの写真をご覧下さい!」
写真に映っていたのは、とある女子生徒の姿――
『自ら、噴水に飛び込んでいるテイラーの姿』
『ノートに大きく文字を書いているテイラーの姿。』
『受け取ったお茶を、自分にかけようとしているテイラーの姿』
あらゆる角度で、自作自演を行っているテイラーの姿が写し出されていた。
会場全体が、人々のどよめきで埋めつくされた。
テイラーも写真に気付き、パトリックから奪おうと手を伸ばした。
「嘘よっ!こんなものでっち上げよっ!あんた、わたしが妬ましいんでしょ!?」
パトリックへと伸ばしたテイラーの手は、空を切る。
さっきまで自分を護る騎士だと信じていた四芒星によって、阻まれていた。
「なんで邪魔するのよっ!みんな、わたしのこと“を”愛してるのにっ!?」
テイラーの渾身の叫びに、真面目な顔をしていた四芒星は、目を皿のように丸くした。
「……」
四人ともが、目を見合わせた。
そして、アーリヤが口を開いた。
「……ずっと不思議だったんだが、何故、僕たちに好かれていると思ってるんだい?」
「……え、……?」
――テイラーの脳が、アーリヤの言葉の意味を理解することを全力で拒否した。
そうしなければ、『攻略キャラたちに愛される自分』を保てなかったからだ。
……しかし、そんなテイラーの考えとは裏腹に、口が勝手に言葉を紡ぐ。
「……だって、この世界は、わたしが主人公で、わたしは愛されてて……」
「――それが正規ルートで……」
虚ろな目をしたテイラーが、呪詛のように“わたしは愛されている”と呟いていた。
テイラーの姿を見て、思わず距離を取る四芒星
それを押しのけるように前に出てきたのは、パトリックだった。
「かわいそうな子。」
静寂の会場に、凛としたパトリックの声だけが落ちた。
……テイラーの虚ろな目が、パトリックを静かに見上げた。
パトリックは、テイラーと――かつての自分を重ね合わせていた。
……本当にかわいそうで、嫌になる。
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