パトリック・ブルックスの戦術
夏休みが明けてから、数日が経った。
ある日のこと。
六時間目の授業で、ペイジが軽快なリズムで、黒板に文字を書いていく。
“学園祭について”
手に付いたチョークの粉を、ペイジは払いながら話し出した。
「来月の豊穣祭に合わせて、学園祭が開催されます。」
ペイジは教室を見渡し、話を続ける。
「豊穣祭は、皆さんも知っての通り、国を挙げて作物の豊穣を願う、大規模なお祭です。」
“楽しみだね”“王都のお祭、見に行く?”
など、少しざわざわとしだす教室。
「王都にはたくさんの人が、豊穣祭と学園祭を見に来ることでしょう。」
ペイジはにこりと笑ってから、手を叩き、教室を静かにさせる。
「……各クラスで、出し物の内容を競い合います。来場者にどの出し物が良かったかを投票してもらいます。」
もう一度教室内を見回すペイジ。
「では早速、このクラスでお披露目する出し物を考えましょう!」
はーい、と一際声を上げたのは、女子生徒たちだった。
―――
小さな紙が配られ、自分たちがやりたい出し物を書いていく。
書き終わった紙を、ペイジが回収して、箱の中に入れた。
「似た出し物は、合算していきますね。」
紙を引きながら、ペイジは黒板に出し物の案を書いていく。
その様子を眺めながら、パトリックは――クラスの女子生徒たちの不敵な笑みに気づいていた。
―――
・魔法の原理(貼り物)
・剣術お披露目
・ゲームフロア
次々に出し物の候補が書き出されていく。
後ろの方から「カフェ来い、カフェ来い、カフェ来い」と、テイラーの声が呪文のように聞こえてきた。
“また何か言ってるな”とテイラーの周りの生徒は、聞き流していた。
――そして、とある出し物が、とてつもない票数を獲得していた。
「――それでは貴族科の催し物は、庶民の暮らしに寄り添い、体験するということで、カフェに決定です!」
「やったぁ!!」
立ち上がり、テイラーはバンザイをした。
テイラーの周りの生徒たちが、肩をびくっと跳ねさせた。
その時、ペイジが「あれ?」と何かに気付く。
「よく見たら、小さく“男女の衣装が逆で”って書いてますね……」
「男女の衣装が逆……?」
それを聞いた男子生徒がざわつき出す。
そして、女子生徒たちが、にやりと笑う。
メガネをかけた女子生徒が、はいっと挙手をした。
「先生!ただのカフェでは、面白みがないように思います。なので男子は女物の衣装を、女子は男物の衣装を着ることを提案しますっ!」
高らかに宣言したメガネの女子生徒に、他の女子生徒たちが“賛成!!”と声を上げた。
テイラーは、「は?何それ!?そんなのシナリオになかったわよ!?」と、一人慌てていた。
「……えーっと、では多数決を取りましょう。通常のカフェがいい方は、挙手を。」
テイラーがビシッと手を挙げた。
男子生徒たちも、おずおずと挙手をしだす。
「次に、男女の衣装が逆がいい方、挙手を……」
ものすごい勢いで、女子生徒たちが手を挙げていく。
――パトリックはノエルの男性服姿を思い描き、挙手をした。
「(毎夜見てるけど……寝巻きの姿だけだし……)」と、もじもじしながらノエルも挙手をした。
「(トリシアの女性衣装……!!)」
「(パットの女性衣装……!!)」
「(我が赤薔薇の女性衣装……!!)」
――ノア、カイル、ヘーレーがすっと手を挙げた。
「(みんなにパティのドレス姿を見せたくはないけど、見せびらかしたい気持ちもあるよね!)」
そして、アーリヤも笑顔で手を挙げた。
「……では、多数決の結果、男女逆転カフェです。」
クラスの女子生徒たちが「やりましたわーっ!」と一斉に歓喜の声を上げる。
テイラーだけが、「こんなストーリー知らないっ!」と、机の上で突っ伏して項垂れていた。
一番に声を上げた、メガネの女子生徒――ネリエがペイジの代わりに取り仕切る。
「カフェなので、給仕服……というは無難すぎると思うんです!」
ネリエが力強く演説を始める。
女子生徒たちが強く頷く。
「豊穣祭や学園祭に来る方たちは、貴族だけではなく、庶民の方もいらっしゃる。」
“なので”とネリエは、黒板をばんっと叩き、言葉を続けた。
「庶民の方に、“貴族の社交場”を見せるというのを提案します!!」
盛り上がる女子生徒をよそに、男子生徒は気圧されて発言できないでいた。
パトリックがすっと手を挙げる。
「……ブルックス様、どうぞ。」
ネリエは、パトリックの姿を目視して、思わず肩を揺らした。
少し怯えた様子で、パトリックの発言を待つ。
「全員が全員、華やかなドレスだと、教室が狭くなります。」
“やはり、反対意見か……”とネリエは身構えた。
「ですので、男子のドレス組、女子の紳士服組、男女の給仕服組というように、みんな違う衣装にするのはいかがでしょう?」
「な、な、な……」
ネリエがわなわなと震え出す。
「なんて素敵なご提案!素晴らしい!」
目を爛々と輝かせ、ネリエは「きゃーっ」とはしゃいだ。
女子生徒たちの“異議なーし!”という声が揃った。
「もう一つ提案なんですが、特に人気の方たちの写真を撮って、配布するのはどうでしょう?」
「え?配るんですか?販売ではなく?」
不敵な笑みを浮かべるパトリック。
「写真を販売だと、写真しか買わない人が出てきます。」
パトリックの話を、ふむふむと聞くネリエ。
「ですが、料理に写真が付いてくる。飲み物に写真が付いてくる。――そうなれば……」
パトリックが席から立ち上がり、ネリエに近づく。
「食材の地産地消に貢献……引いては経済を回すことになる……?」
「“写真が付いているから”という文言で、少し割高にもできます。」
パトリックとネリエは、ガシッと力強い握手を交わす。
「感服いたしました!さすがは、ブルックス家ですね!」
「褒めてくれてありがとう。貴方“たち”の提案が、素晴らしいものだったから、それに便乗したまで。」
互いに褒め出すパトリックとネリエ。
二人の姿に拍手を送る女子生徒たち。
その光景を、ぽかんと見てるだけしかできない男子生徒たち。
「誰のルートでもこんな話なかった!なにこれ、バグ!?」
周りの席の生徒から、白けた目で見られていることにまだテイラーは気づいてなかった。
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