パトリック・ブルックスの暗躍
「幼なじみの俺たちに、紹介もないなんて、水臭いじゃないか?そう思うよなぁ、カイル。」
「全くもって、ノアに同感だ!」
競技大会から二日後。
アーリヤとパトリックは、ノアやカイル、そしてヘーレーに詰め寄られていた。
「“影”をわざわざ、紹介なんてしないだろ?」
アーリヤがノアたちに弁明する。
「トリシアは知ってたじゃないか。」
ノアは、パトリックに視線を向ける。
パトリックはノアの視線に気付き、顔を上げた。
そして、左隣にいるペイジを見た。
「彼のことは、ノアたちと出会う前に教えてもらってたんですよね。」
“ころころと顔を変えてますけど”と、パトリックは観察するかのように、じっくりとペイジの顔を見る。
「それ、僕も不思議なんですよねぇ。毎回、顔が違うのに、何故かパトリックさんは“僕”だと、わかっちゃうんですよ。」
少し困った顔をしたペイジが、やれやれと少し肩を竦めた。
「……というか、生物の準備室に集まらないでくださいよ。教材とかたくさんあるんですよ!」
“ぐらぐらの人体とか、かかると爛れちゃう薬品とか!”
ペイジは、ぷんっと怒っている効果音が付きそうな、仕草をした。
――皆が集まっていたのは、ペイジが担当する生物の教材が、所狭しと並べられた準備室であった。
「アンタにも直接、話を聞きたかったからな。俺がここを指定した。」
悪びれもなく、ノアは告げた。
「事前に、了承を取るとかしてくださいっ!」
“もうっ!”と呆れたように、ペイジは抗議した。
ノアとペイジのやり取りを見たアーリヤは、溜息をつきながら「しょうがないな」と呟いた。
「情報共有の意味も込めて、紹介しようか。」
アーリヤが、ペイジの前に立ち手のひらを差し出す。
「ペイジ――っていうのは偽名で、名前というものはない。こいつは王子付きの“影”だよ。」
ペイジ先生の時とは違う、ひょうきんな笑みを浮かべ、敬礼のようなポーズを取る“影”
「ご紹介にあずかりました、アーリヤ王子専属の“影”でーす!情報収集が基本で、今回もそんな感じです。」
“改めてよろしくお願いしまーす”と飄々とした笑顔の“影”であった。
「なんだか、先生であるときと印象が違うな!」
ヘーレーが不思議そうな顔で、大声で話す。
にゃはは、と笑いながらペイジが答える。
「“先生っぽい雰囲気で”って王子からのご要望でね!基本は明るい性格だよ!」
ペイジは、ウィンクをして、人差し指を自身の頬に当てた。
コンコン
「ペイジ先生は、いらっしゃいますか?」
準備室の扉からノック音と、女子の声が聞こえた。
一瞬で、“ペイジ先生”の雰囲気を醸し出し、ペイジは、優しい声で「どちらの生徒さんでしょうか?」と聞き返した。
「貴族科のラズ・ベリーです。」
「少し待ってくださいね。」
ペイジは、アーリヤとノア、そしてヘーレーの横を通り過ぎ、扉へと向かう。
「お待たせしました。どうかしましたか?」
ペイジは朗らかな笑みで、ラズに話しかける。
「次の授業の教材で、確認を……えっ!?“四芒星”が揃ってる!しかも、ブルックス様まで!?」
「四芒星……?」
ラズの言葉に首を傾げたのは、カイルだった。
“うそ!今日の運を使い果たしたわ!”とラズは、一人で大騒ぎをしていた。
“四芒星”という聞き馴染みのない言葉に、ハテナを頭に浮かべるアーリヤ、ノア、カイル、そしてヘーレー。
パトリックは、「ああ、あれか。」と短く納得して、
ペイジは、詳細を知っているらしく、ぷるぷると笑いを堪えるのに必死だった。
―――
「じゃあ、よろしくお願いします。」
ペイジは、ラズに必要な教材の運搬を任せた。
「はい!失礼しました!」
軽やかな足取りで、ラズは準備室を後にした。
ラズを見送ったあと、ペイジは扉を閉める。
「……っ、ふふっ……!」
ペイジの笑い声が、我慢できずに漏れ出ていた。
「“影”、説明を。」
アーリヤが冷たい声で、ペイジに呼びかける。
ペイジは「はい、我が主……くくっ」と笑いを押し殺せずにいた。
―――
「我が主であるアーリヤ王子、ノア様、カイル様。御三方は元々、女子生徒に大変人気がございます。」
ペイジが三人のことを、順番に見た。
「そして、最近ヘーレー様も加わり、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気になっております。」
ペイジは、ヘーレーに視線を送った。
ヘーレーは「我か?」と、自分自身を指さす。
「そんな皆様の総称が“四芒星”。そして、その名称を考えたのが……」
「私です。」
ペイジの言葉に、パトリックが挙手をした。
「何してくれてるんだ、お前は。」
ノアが、パトリックに対して静かな怒りをぶつけた。
しかしパトリックは、ノアの怒りを知らぬふりをした。
「セット売りする時、こういう名称があると“跳ねる”んですよ。」
そう言いながらパトリックは、懐から何枚かの写真を取り出す。
四人が、写真を見る。
楽しそうに談笑している四人の姿だった。
「パティ……」
アーリヤが、わなわなと震え出した。
「そんなに僕のことを想ってくれてたなんて……!」
「違います。」
いつも通りのアーリヤだった。
「オレの口、こんなに大きく開いてるのか!」
「画質が鮮明だな……撮影機の構造の教えを乞いたい!」
カイルとヘーレーは、あまり気にしていない様子だった。
「……無断で撮るなっ!そして、売るなっ!!」
ついにノアが大声を張り上げた。
パトリックから写真を奪おうとして、パトリックはノアをひらりと躱す。
「ノエルと話していて、気付かされました。」
写真を再び、懐にしまうパトリック。
「皆さんの顔がいいことに。そして、貴方たちの人気にっ!」
パトリックは、ノアを躱すついでに、準備室の出口まで飛び跳ねるように向かって行く。
「なので、王子の“影たち”と私の部下が連携して――学園内を徹底的に張りました。」
扉を開けて、パトリックはこちらに振り返った。
「写真のおかげで“イライジャが保健医でない”ことがわかったんですから、感謝してくれてもいいですよ。」
そのまま準備室から出た瞬間、走り出すパトリック。
「――んなわけあるかっ!!」
「待てっ、トリシア!」とノアが、走ってパトリックを追いかける。
「追いかけっこか?子供の時以来だな!」
そう言って、カイルも二人の後を追う。
「……“影”、パティを撮ってたりしないよな?」
アーリヤは脅迫的な笑みで、ペイジの肩を力強く掴んだ。
「……撮影してたら、真っ先に報告してますよお、我が主。」
ペイジは食えない笑みを、にこりと見せるだけだった。
『我も赤薔薇の写真を所望したい!……と言ったら、ああなるのか。』
ヘーレーは、ミシミシと音を立てるペイジの肩を見て、口を噤んだ。
――『ノア様の次に、パトリックさんの写真が人気ですよ。』
という情報は、さすがにアーリヤに伝えられないな。と思う“影”であった。
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