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ノエル・ブルックスの内心‐二 /???の本音


競技大会の後始末に追われ、ヘトヘトになりながらも、パトリックとノエルは帰路に着いた。

夕食時に、仕事を終わらせた公爵とテーブルを囲む。

騎馬戦のことはぼかしつつ、競技大会での出来事を語る。


ノエルは湯浴みを済ませ、寝る前に予習と復習を終わらせる。

そろそろ寝るかとベッドに潜ろうとした時だった。


コンコンコン。


ドアをノックする音が響く。

ノエルはびくりと肩を揺らした。


「(こんな時間に誰かしら?)」


夜遅い時間、自分を訪ねてくる人物に心当たりはなかった。

恐る恐るノエルは、声をかけた。


「……どなたでしょうか?」


「……私です。」


聞こえてきたのは、控えめなパトリックの声だった。

ノエルは、パトリックの声がいつもより弱弱しいことに気付いた。

慌てて扉に近づき、ノエルは一度息を整えた。


「お待たせしました。」

ガチャリ

ノエルは扉を開けた。

そこには――

いつもは、締め上げているコルセットを外し、

シルクのワンピースパジャマに身を包んだパトリックがいた。


「少し、いいかしら。」


パトリックはそう言うと、少し浮かない顔を隠すように、持っていた枕に顔を埋めた。


「もちろんです。」

ノエルは柔らかく微笑み、パトリックを部屋に招き入れた。


―――

「こんな時間に、どうかなされましたか?」


メイドにホットミルクを二つ頼む。

ノエルは受け取ったホットミルクの片方を、パトリックに手渡した。


「……」

ノエルに促され、パトリックはノエルのベッドに座っていた。

カップに入っているミルクを見つめるパトリック。

パトリックの隣に座り、ノエルはホットミルクを一口飲んだ。


「……騎馬戦での、ことについてなんですけど。」

パトリックの言葉尻が、だんだんとすぼまっていく。


“ノエルはそのままでも……”


“私が嫌なんですっ!”


色んな出来事が重なり、自分たちの気持ちをぶつけられず、そのままになっていた話。

それを今ここで、話し合うために来たのかと、ノエルは察した。


ノエルは、まだ少し温かいカップをサイドテーブルに置く。


「あの時の言葉の意味、そのままです。」

パトリックが持っているカップごと手を握り、まっすぐとノエルはパトリックの横顔を見つめる。


「最初は、契約だけの関係だと、自分に言い聞かせてました。」

ノエルが、言葉を続けさせないように、パトリックのカップをするりと奪った。


「でも、パディ様が笑った私の顔を見て、“その方がいい”と仰ってくださいました。」

パトリックから奪ったカップを、ノエル自身のカップのとなりに置く。


「私、あの時からパディ様をお慕いしておりました。」

ノエルは、パトリックの両手を包む。


「それでも、パディ様の気持ちが信じられなくて……」

パトリックが、ノエルの言葉を聞いて、勢いよく顔を上げた。


「私だって……っ!」

“ノエルを本気で愛しています!”

パトリックの口から、その言葉が紡がれることは、なかった。


お互いの呼吸が、触れ合うほどに近づく。

――パトリックの唇とノエルの唇が重なっていた。


キスの勢いで、ベッドに倒れ込むパトリックとノエル。


「昼食の時、パディ様の鼓動を感じて、私はやっと信じられたのです。」

ノエルに上から見下ろされ、パトリックは「ノエル……?」と漏らすように呟く。


「だから……だから私は、貴方に誇れる、私でありたい。」

ノエルの顔が、徐々にパトリックに近づく。


「誰もが、“パトリック様の隣に相応しいのは、ノエル”だと思ってほしいのです。」

パトリックの胸元のボタンを、ノエルはゆっくりと口で外していく。


「パディ様は、こんな我儘な私はお嫌でしょうか?」


明かりのせいか、ノエルの瞳が揺らめいたように見えたパトリック。

パトリックは、そっとノエルの頬に手を添える。


「……ねぇ、ノエル」

ノエルにしか聞こえないほど、小さな声でパトリックはノエルを呼んだ。


「……私ね、少し怖かったの。」

胸の下にあったノエルの顔を、パトリック自身の近くまで引き寄せた。


「ノエルの伴侶として、貴方を守っていきたいのに、ノエルに守られてしまうんじゃないかって。」

パトリックは、ノエルの額に口付けを落とし、流れるように耳たぶにキスをした。


「“私”は“男児”として生きてきたの。好きな人の前ではカッコよくありたいじゃない?」

いたずらっ子のように、パトリックはくすくすと笑った。

“でも、”とパトリックが言葉を続けた。

「ノエルの前なら、“パトリシア”に戻ってもいい?」


“パトリシア”は、いたずらっ子から、妖艶な女性の雰囲気を醸し出した。


――ノエルとパトリシアの顔の距離が、ゼロになった。


……カップの中のミルクは、人肌まで冷めていた。


―――


ここは、王城のとある場所。

名も無き“影”に与えられた一部屋。

若葉色の髪が、楽しそうに揺れていた。


「貴方は、僕にとって大事な人だから。」


甘く蕩ける声が、独り言を呟く。


「“我が主”にとっても大事な人なのは、わかってるんですけどね。」


窓から差し込む月明かりが、一室の壁を照らした。


「“僕”にとっても、大事な人なんですよ。我が主?」


王子アーリヤ専属の“影”が、月明かりに照らされた壁に頬擦りをする。


「早く、僕のものにしたいなぁ。」


ああ、愛しの――“パトリシア嬢”


壁一面に貼られている――“パトリシア”の写真。

そして、横の壁にずらりと並ぶ“パトリシア”そっくりの人形たち。


“影”――ペイジがうっとりと、壁に貼られている写真に口付けを落とした。



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