パトリック・ブルックスの体面‐七
ガンッ、ガンッ
ガッ、ガンッ
ガツンッ
激しい打ち合いの音に、先生の額にも汗が伝っていく。
目で追うのがやっと、だからである。
木刀からギリっと音が聞こえるほどのせめぎ合い。
間合いを開けるためか、パトリックは一旦離れる。
「こうやって、サシで打ち合いをするのは久しいな!」
汗ひとつかかず、カイルは楽しそうに話し出した。
「……そうですね。」
カイルと比べて、パトリックは肩で大きく呼吸していた。
「(――本当、嫌になるぐらい強い)」
パトリックは心の中で舌打ちをする。
幼少期に比べたら、公爵家の仕事を優先的にこなしていた。
しかし、鍛錬を疎かにしたことはなかった。
それでも、こんなにも差が出るものなのか。
――お前は、どう足掻いたって“女”だ。
そう、まざまざと思い知らされるようで、パトリックの眉間のシワが、より深くなっていく。
パトリックは、額から頬を伝ってこぼれ落ちる汗をグイッと拭う。
長期戦になれば、こちらが不利になる一方だ。
どうにかして、打開策を考えなければ……
「考え事か?集中が途切れてるぞ、パット。」
息付く間もなく、真正面から豪雨のような攻撃に見舞われる。
「……ッ!?」
防ぐので精一杯で、攻撃に転じられない。
パトリックは、もどかしく思いながらも、必死に攻撃を受け流していく。
ガツンッ
「しまっ……っ!」
バランスを崩して地面に倒れたパトリック。
その隙をカイルが見逃すはずもなく、首元目掛けて木刀が振り下ろされる。
先生が、目を細めて確認する。
パトリックの手が地面に着いたと判断した。
『――っ試合しゅ……』
「「まだだっ!!」」
カイルとパトリックの声が重なった。
パトリックは『まだ粘れる』と、先生と――自分自身に言い聞かせるため叫んだ。
カイルは、『まだ打ち合いたい、まだ楽しみたい』という本能を優先した。
二人の気迫に押されて、先生は次の言葉が喉に張り付いて、出てこなかった。
それを確認して、カイルは再び、木刀を何度も振り下ろす。
パトリックは、地面をゴロゴロと転がりながら躱していく。
カイルは、一際大きく振り下ろし、木刀が少し地面にめり込んだ。
木刀が数秒、動かなくなったので、パトリックはその場から飛び退いて、体勢を立て直した。
「楽しいなあ!パットもそう思うだろ?」
「……まるで剣術中毒者ですね。程々にしてください。」
カイルは、顔の横に木刀を構える。
パトリックは、腰の位置で木刀を構えた。
見合う二人。
歓声も、葉が風に揺らぐ音も何も聞こえない。
――ポタタッ。
誰かの汗が地面に落ちた。
ガツンッ!!
さっきまで、距離があった筈のパトリックとカイル。
瞬きのうちに、その間を埋めて、木刀から軋む音が聞こえた。
再び激しい攻防。
パトリックがほんの一瞬だけ、隙に気付いた。
そこに木刀を振り下ろす――
――下から振り上げられた、カイルの木刀がパトリックの喉元にあった。
「……カイル兄さんの誘導に引っかかるなんて、私もまだまだですね。」
パトリックは、皮肉な笑顔を見せた。
「そろそろ終いの時間だからな、次は時間を忘れて打ち込みたいものだ!」
満足はしていないが、楽しかったという感情が溢れ出ているかのような笑顔のカイルだった。
両者が木刀を下ろした。
カイルが先に手を差し出し、パトリックがそれを掴んだ。
「先生!終了の合図を!」
カイルの声で、呆けていた先生が腕を振り上げた。
『――ッ試合終了!カイル・エリオの勝利っ!』
圧倒されたせいか、何も言えないのか。
無言の時間が生まれる。
「素晴らしかったよ、二人とも!」
にこやかに前に出て、二人を労ったのはアーリヤだった。
「みんな、この二人に惜しみない拍手を!」
アーリヤの言葉でちらほらと拍手が増えていく。
感情が追いついてきたらしく、拍手と大歓声。
それから口笛や「感動した!」と叫ぶ者まで現れた。
パレードのような賑わいの中、待機所へと戻るパトリックとカイル、それからアーリヤ。
そこに待ち構えていたのは――
「長女、クラン。」
「次女!ラズですー!」
「三女、ブルーだよー。」
「「「三人揃って、ベリー三姉妹!!」」」
と、声を揃えて名乗りを上げた。
真ん中に長女クランがポーズを取り、左右にラズとブルーが対称的なポーズをしていた。
二人三脚のペアだったラズと、その姉妹たちだった。
「それ、いりますか?」
パトリックは三姉妹のポーズを指差し、半目で指摘した。
「いりますよ!大事なやつですよ!!」
もう一度、切れのあるポーズを決めるラズ。
「なんでもいいんで、報告を聞かせてください。」
不毛なやり取りだと判断し、パトリックは本題に入る。
ラズは「そんなっ!?」と嘆きながらも、資料を渡すようクランに促した。
「……アーリヤ、ちょっといいか。」
ノアがアーリヤを呼び、この場から離れる。
カイルもアーリヤの方へ着いて行った。
待機所の裏手側で、三人集まった。
「さっき感じた違和感のことで、話がある。」
「何かわかったかい?」
カイルはなんの事だか、さっぱりわからないので黙って話を聞くことに専念した。
「恐らくだが……この学園内に、魔族が入り込んでいる。」
「魔族!?」
カイルが思わず大声で聞き返す。
ノアはこくりと頷いた。
「しかも上位の魔族だろう。……魔族の中でも、魔力の気配を自在に操れるのは、上位の奴らだけだからな。」
「なるほど……」
アーリヤは顎に指を当て、呟いた。
「じゃあ、なんで今頃になって気配出してきたんだ……?」
「理由はわからない。が、用心するに越したことはない。」
真剣な面持ちで、頷き合う三人。
―――
一方、その頃。
パトリックは、クランから受け取った資料を捲る。
いやー驚きでしたよ、とラズが話しかけてきた。
「なんでもない、普通の先生だと思ったんですけどねー?」
「全然わからなかったわよね。」
「めっちゃ不思議かもー。」
パトリックは「やっぱり」と一人、納得していた。
「まさか、―――保険医の“イライジャ”先生なんて人は、いないなんて。」
本当はパトリックを勝たせてあげたかったなー!
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