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パトリック・ブルックスの体面‐六


ヘーレーの試合が終わった後。

次の対戦は、カイルと普通科から参加した男子生徒だった。


普通科男子を相手に、難なく勝利するカイル。

爽やかな笑みを浮かべ、彼は対戦者と握手した。


「ありがとう!」

「こちらこそ、ありがとうございました!」


『――カイル・エリオの勝利ッ!』


カイルは待機所へと戻った。

そこには体力を温存するため、しゃがんでいたパトリックたちがいた。


「お疲れ様です、カイル兄さん。このまま順調に進めば、私かヘーレーと戦いますね。」


「おっ、もうそんな人数なのか!どちらと戦えるか楽しみだな!」

カイルは豪快に笑う。


「次は、我と赤薔薇の番だな!」

ヘーレーは嬉しそうに、パトリックに話しかける。


アーリヤは三人の会話に参加せず、一人で考え込んでいるノアに気づき声をかける。


「さっきから何を見てるんだい?」


「……いや、なんでもない。」

そう言うとノアは腕組み、目をつぶる。


「ノア?」


不思議に思い、ノアの名前を呼んでみる。

しかし、ノアがこの体勢になったら、何を聞いても返してくれない。

そのことを長年の付き合いで知っているので、アーリヤは、ノアからの返事を諦めた。


「解決したら、教えてくれ。」

「ああ。」


アーリヤはぽんと、ノアの肩を叩いた。

それに対して、ノアは短く返事をした。


『次!ヘーレー・イグニス、パトリック・ブルックス。前へ!』


先生に呼ばれ、ヘーレーとパトリックは歩き出す。

距離を取り、向かい合う二人。

歓声が一際、大きく聞こえる。


「キャー!ヘーレーさまーっ!」

「ヘーレー様ーっ!頑張ってー!」

「負けないでぇ!!」


ヘーレーに向けての声が多かった。


「……まともな話し方かどうかは判断しづらいですが、呪いが解けてからのヘーレー人気が凄いですね。」


「まともに話せなかったからな。解呪されてからは、皆によく話しかけている。そのせいかもしれぬ。」


先生が両者を見て腕を振り上げる。


『それでは、始めっ!』


先に動きだしたのは、パトリックだった。

低い位置で木刀を構え、正面から踏み込み、間際で大きく左に回り込む。

背後を取り、横薙ぎに木刀を振るがヘーレーの木刀でいなされてしまった。


「なるほど……遠心力で筋力を補っているのか。」


ヘーレーは感心したように、自身の木刀を握っていた手を見る。

少しジーンと痺れてる手の感触を逃がすように、手を開いては閉じたりを繰り返した。


「真正面かと思わせて……しかも死角になる背後から攻める!戦う為の剣だな?」


「……あいにく、習ったのは“お行儀の良い剣術”じゃなかったもので。」


パトリックは、フーッと深く息を吐き、体勢を立て直す。

ヘーレーの方を見ると、まるで子供のような無邪気な笑顔の彼がいた。


「……素晴らしい!形だけの剣に、何が守れようか!ああ、やはり我が妃にならないか?赤薔薇よ!」

「お断りします。」


きっぱりと断り、パトリックはもう一度、ヘーレーに向かって走り出す。


カンッ、ガッ

カンッ、カンッ


激しく打ち合う合間に、ヘーレーはパトリックに話しかける。


「わかった。妃にならなくていい。我が家臣にならないか?」


「……家臣ですか?」


「そうだ!卒業と同時に我が国へ、我と二人で行かないか!」


うーんと考える素振りをして、パトリックはちらりと応援席を見た。

執事長たちと、胸の前で手を組む――

ノエルの姿。


「……わかりました。」


ヘーレーは、パァと顔を輝かせた。


――その隙をつく。

右上へと木刀を弾き、体勢を低くする。

パトリックは身体を捻り、ヘーレーの足を引っ掛けた。


「おわっ!?」

尻もちをつくヘーレーの肩に、パトリックはトンと木刀を当てる。


「来世でもご縁がありましたら、その時にでも。」

目を細め、歯を見せながらパトリックは笑った。


呆然とした後、諦めたようにフッとため息混じりに、ヘーレーが笑った。


「約束だぞ?我が赤薔薇よ。」


立ち上がろうとするヘーレーに、手を差し伸べるパトリック。

差し出された手を掴み、そのまま試合終了の合図となる握手を交わした。


『――勝者、パトリック・ブルックス!』


スっと手を離し、二人は待機所へと向かう。


「パティ素敵だったよ!」

一番に声をかけてきたのは、アーリヤだった。


「おい、アーリヤ!ヘーレーにも声をかけてやれよ!とにかく、お疲れさん、二人とも!」

アーリヤに指摘しながらも、カイルは二人を労う。


ノアは、最初の体勢から全く動いていなかった。

パトリックは無言のノアに気付き、声をかけようとした。


「……?どうかしたんですか、ノア?」

「うん、ちょっと気になることがあるみたい。」


パトリックの前に出て、アーリヤは彼女のセリフを遮った。

「もう少しで解決するみたいだよ」と、言葉を付け加えて、パトリックの気を逸らす。

「……そうですか」

パトリックは心に引っかかりを覚えながらも、納得した。


―――

名前が呼ばれ、前に出るパトリックとカイル。


『それでは、始めっ!』

先生の腕が振り下ろされた。


観客が、目で追えないほどの早さで互いに近づく二人。

響く剣戟の音は、木刀同士だと思えないほどだった。


―――ついに、兄弟子カイルと妹弟子パトリックの試合が始まったのである。



一戦一戦、丁寧にやるつもりなかったのに……


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