パトリック・ブルックスの体面‐五
激しく木刀を打ち合い、二人とも身体をくるりと一回転させた。
息を整えるため、距離をとる。
「赤薔薇は……本当に強いのだな……」
ヘーレーが二人の攻防を見て、独り言のように呟いた。
カイルはヘーレーの言葉を聞いて、嬉しそうに「そうなんだっ!」と返事をした。
「パットとオレたちでは、どうしても身体的な差が生まれてしまう。それでも、オレたちと変わらない修行をこなしてきたんだ!」
目を輝かせ、自分の事のようにパトリックの自慢をするカイル。
ヘーレーは少し、気押されてしまった。
彼は再び、パトリックとアーリヤに視線を向けた。
パトリックの突きを、アーリヤは最小限の動きで躱す。
躱した勢いで、アーリヤが身体を右回転させ、横薙ぎをする。
咄嗟に反応して、パトリックは木刀で受け流す。
少し息を切らしながらも、アーリヤは楽しそうにパトリックに話しかける。
「やっぱり強いな、パティは。」
肩で息をしながら、パトリックが答えた。
「……自分でも驚いてるところですよ。」
――夢の中の未来では、剣術どころか運動なんて、殆どしなかった。
首を斬られたくない。
違う未来を掴み取るための、手段でしかなかった。
しかし、パトリック自身が思っていたよりも、彼女は身体が動く人間だったらしい。
剣術の修行は辛くはあったが、苦ではなかった。
勉強と一緒だ。
自分の身体が想像通りに動かせるのは、なんとも言えない達成感があった。
「ずっと続けばいいなぁ、そしたらパティを独り占めできるのに。」
まるでダンスを楽しむかのように、アーリヤは無邪気な笑顔で言い放った。
「嫌ですよ、やるならカイル兄さんとやっててください。」
パトリックは嫌そうな顔で、私より鍛錬になりますよ、と吐き捨てた。
「私は、一抜けです。」
そう言って、パトリックは木刀を構え直し、アーリヤに向かって低姿勢で走る。
アーリヤも勝敗を決めるつもりで、木刀を振りかぶる。
振り下ろされた木刀を避け、パトリックはアーリヤの首筋に木刀を当てた。
「次の試合も頑張ってね、パティ。」
「もちろんです。」
姿勢を直し、握手をするパトリックとアーリヤ。
『……ッ、勝負あり!勝者、パトリック・ブルックス!』
校庭内に、盛大な拍手の音だけが響き渡る。
いつまでも手を握っているアーリヤの手を振り払い、パトリックは踵を返す。
カイルが、よっ!と手を挙げた。
ニカッと効果音がつきそうな笑みを浮かべ、アーリヤとパトリックに声をかける。
「二人とも、お疲れさん!」
「お疲れ様です。」
アーリヤは、肩をすくめる仕草をする。
「パティに負けてしまったよ。」
「今までの、アーリヤとトリシアの戦績で言うなら、五分五分ってところじゃないか?」
「詳細に言うなら、千九十勝、千九十負。五引き分けだね。」
「王子、数えてるんですか?もっと有意義なことを覚えた方がいいですよ。」
「これ以上に有意義なことはないよ!」
「アッハッハッハッ!さすがに擁護できないぞ、アーリヤ!」
会話をしているとカイルの後ろから、暗い顔をしたヘーレーが、前に出てきた。
「赤薔薇よ……すまない。我は、赤薔薇を少々見くびっていたようだ。」
「……戦う前に謝らないでください。それだと、ヘーレーの方が強いみたいに聞こえるじゃないですか。」
ヘーレーが顔を上げる。
パトリックは、ニヤリと悪い顔を浮かべていた。
「私が、ヘーレーに負けた時になら、“想像よりも弱かった”って謝っていいですよ。」
ですが、とパトリックは、言葉を続ける。
「貴方にも勝つので、賞賛の言葉でも用意しておいてください。」
「……その前に、次の対戦者に勝ってくださいね。」
パトリックの言葉に、
ヘーレーは、きょとんとした顔を見せた後、笑いだした。
「大口を叩いたな、我が赤薔薇よ!よかろう、万が一我に勝てたなら、惜しみない賛辞を送ろう!」
『次!ヘーレー・イグニス、前へっ!』
先生に名前を呼ばれ、ヘーレーが歩き出した。
「我とて、負ける気はサラサラないがな!」
振り向きざまに、彼は笑顔を見せ、ひらりと手を振った。
―――
『そこまでっ!勝者、ヘーレー・イグニス!』
拍手と歓声が巻き起こる。
アーリヤは感情が読めない笑顔を浮かべていた。
カイルは感心した顔で、ヒューと口笛を鳴らす。
何かを感知したかのように、左の待機所を見たノア。
パトリックは拍手をしながら、ヘーレーの動きの癖を頭に叩き込んでいた。
こちらに近づいてくるヘーレーが、パトリックの前で止まった。
「楽しみにしているぞ、我が赤薔薇よ。」
「ええ、ご期待に添えてみせましょう。」
笑顔に威圧感を加え、ヘーレーに突っかかろうとするアーリヤ。
カイルは、「やめろ、国交間に関わりそうだからやめろ。」とアーリヤの首根っこを掴む。
――ノアだけが、待機所から漂う、妙な違和感に反応していた。
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