パトリック・ブルックスの体面‐四
『貴族科、全男子生徒と、普通科の参加希望者は、校庭に集まってください。』
放送の声で、男子生徒がぞろぞろと校庭に集まりだした。
「では、行ってきます。」
パトリックは振り返り、ノエルに告げた。
繋いだ手を惜しむように離し、アーリヤたちと合流する。
校庭を歩いている途中、カイルが「そうだ!」と四人に提案をする。
「どうせ勝ち残るのは、ここにいるオレらだろうから、最後に勝った奴がご褒美を貰えるってのはどうだ?」
「ご褒美ですか?」
パトリックがカイルに聞き返す。
「その方が、気持ちが入るだろ?」
なるほど、とパトリックは顎に指を当てる。
こうやって、周りの人間の士気を高めるのかと、パトリックは納得した。
「そうさな、王都で人気のケーキを買ってこさせるとか……」
カイルがああでもない、こうでもないと唸る。
そして、閃いたように手を叩いた。
「もしくは……この中の誰か一人を指名して、一日好きにできるとか!」
それを聞いて、目を光らせたのが三人。
「(パティと一日中……)さすが、カイル素晴らしい提案だ!」
「(我が赤薔薇を……)乗った!」
「(王族権力を、一日使い放題……)いいですね、やりましょう!」
三人が、一斉に賛同した。
「お、やる気になったな!模擬戦が退屈しなくて済むな!」
アッハッハ!とカイルは、豪快に笑う。
ため息をつきながら、空を見上げるノア。
「どっちみち、俺には関係ない話だな。」
―――
剣術担当の先生の前まで集まる。
模擬戦のルールを再度、確認していく。
ひとつ
木刀が手から離れた。もしくは、地面に手をついたら、終了。
ひとつ
「降参」の意を示した者に、攻撃をしてはならない。
……といった内容だった。
説明が終わり、張り出されている各自の参加順を見る。
「最初は、ノアとヘーレーの対戦ですか。」
パトリックは、後ろにいたノアとヘーレーの方を見る。
緊張しているのか、ノアはいつも以上に無表情だった。
隣にいたヘーレーは「負けないぞっ」と意気込んでいた。
―――
『それでは、始めっ!』
審判役の先生が、腕を振り下げ合図をした。
「降参で。」
木刀を抜く気配も見せず、ノアは両手を上げてそう言い放った。
木刀に手を置いていたヘーレーも、呆然とノアを見ていた。
校庭内に、サァと風が通り過ぎる音しかしなかった。
――次の瞬間。
「何やってんだあ!?」
「ちゃんと戦えーっ!」
「いくらなんでも早すぎるだろー!」
野太い声の罵声と、
「さすがノア様っ!英断ですわ!」
「ヘーレー様に、勝ちを譲ったのね!」
「ご無理はいけませんものねっ!」
ノアを擁護する声が入り交じっていた。
そんな罵倒も援護も無視して、ノアはヘーレーに近づき手を出す。
「さっさと手を出せ、じゃなきゃ試合終了にならないだろ。」
ノアの言葉に慌てて、ヘーレーは手を出し、握手をした。
『そ、そこまでっ!ヘーレー・イグニスの勝利!!』
先生も呆気に取られていたところを、何とか持ち直し、試合終了の宣言をする。
先生の声で、ノアは素早く手を離し、スタスタと歩き出した。
ヘーレーはノアを追いかけ、小声で話しかけた。
「貴殿は、いいのか……?」
一日好きにできるんだぞ?と、ヘーレーは少し気恥ずかしくなって言いどもる。
ノアはヘーレーをちらりと見て、また視線を前に戻す。
「……カイルが勝手に言ってるだけだ。それに元々、降参するつもりだった。」
やり取りをしているうちに、三人がいる待機所に着いた。
「ノアが、魔法杖以外を持てないのを失念してました。」
ニヤニヤと笑いながら、パトリックは茶化す。
「木刀を振り上げるだけでもすれば、良かったじゃないか。」
純粋にそう思い、口に出すアーリヤ。
「すまんっ!今回は、魔法なしだったのを忘れていた!」
悪びれた様子はなく、快活に笑いながら、カイルは謝罪した。
「だと思ったよ。」
ふっと笑った後。
ノアは、真正面からカイルの頭をわしっと掴んだ。
ギリギリという音が、今にも聞こえそうだった。
「次は俺を除け者にするなよ、カイル?」
「もちろんだ!」
ヘーレーが「大丈夫なのか?」と心配そうに、二人を交互に見ていた。
「いつもの事なので、気にしなくていいですよ」とパトリックが、なんでもないように言い退けた。
『次っ、アーリヤ・ガルシアとパトリック・ブルックス、前へ!』
先生から二人の名前が呼ばれた。
「手加減しませんよ。」
「うーん、難しい問題だよね。パティを応援したい気持ちと、パティにかっこいいって思ってほしい気持ち。」
悩ましいよね、と爽やかに笑うアーリヤ。
パトリックは王子の顔を、感情を乗せずに見ていた。
話しながら所定の位置に着き、木刀を構えるパトリックとアーリヤ。
先生が二人の顔を確認し、腕を振り上げる。
『それでは――始めっ!』
両者、共に砂を蹴り上げた。
カンッ
ガッ
ガツンッ
木刀が激しく撃ち合う音が、校庭内に響き渡る。
笑みを絶やさないアーリヤと、集中している様子のパトリック。
――真剣勝負は、まだ始まったばかりである。
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