パトリック・ブルックスの体面‐一
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よく晴れた当日。
生徒たちは、校庭にチームごとに整列していた。
「今日は暑くなりそうですね。」
そう言って、パトリックは前に並んでいるカイルと会話をしていた。
「それでは、保険医であるイライジャ先生から、皆さんへ心持ちのお話があります。」
教頭から拡声器を渡されるが断る、男性。
紹介されて登壇したのは、新任の保険医だった。
喉に二本の指を当て、声を出す。
「皆さん、怪我をしないのが第一です。」
拡声魔法が使えるのか、羨ましいな。
パトリックは、ぽつりと心の中で呟く。
使える場面が多い上に、使い方によっては、他貴族との交渉が円滑に進むよな……
ぼぅと保険医の言葉を聞き流す。
オレンジの髪に、褐色の肌。
白衣の上からでもわかる、鍛えられた筋肉質な身体。
「しかし、もし怪我をしてしまったら、無理せず隠さずちゃんと救護班か、私に声をかけてください。」
ニカッと爽やかな笑い、魔法を解除して、退場していく。
女子生徒が、キャーッ!と黄色い歓声を上げる。
その声で、意識が浮上する。
昨日も、その前も見てるのに飽きないな、と少し感心してしまった。
二列向こうに並んでいた、ノエルをちらりと見る。
心なしか、頬を赤らめて保険医に見蕩れている気がする。
理由はわからないが、胸の辺りがざわざわし出す。
不思議に思い、胸元を押さえて首を傾げた。
もう一度ノエルの方を見る。
そんな視線に気づいたのか、ノエルと目が合った。
パトリックと目が合った途端に、パッと表情が明るくなり、ひらひらと手を振る。
それが面白くて、こちらも小さく手を振る。
家では話せているはずなのに、競技大会の練習で学園では手を振り合うことしかできない。
それがなんだか、もどかしく感じる。
――でも、明るくなったノエルの顔を見たら、さっきのモヤつきがなくなってしまった。
―――
『第一種目目、二人三脚!』
放送係の生徒の声がマイクを通して、校庭内に響き渡る。
パトリックは左足を、ペアの生徒に縛られていた。
「……それにしても、そっくりですね――ラズさんとクラン先輩。」
「よく言われますー!」
ジッと見つめてくるパトリックに対して、
妹もいて、三姉妹そっくりですよー!と、にこにこと笑い返すラズ。
――特別授業の時、ノエルとカイルの引率をしていた先輩の妹だった。
『各自、定位置に着いてください!』
放送係の声を合図に、出場者たちがわらわらと集まり出す。
「ラズさん、もう少し近づけます?歩きづらいんですけど。」
「これ以上は無理ですねー!……アーリヤ王子の視線が痛いんでー!」
パトリックは、ラズの横からひょこっと顔を出す。
ギリギリと歯ぎしりが聞こえそうな顔をして、ラズを睨むアーリヤがいた。
「なるほど……わかりました。」
「納得いただけて良かっ……」
「あの、うるさい視線を黙らせればいいんですね?」
「違いますっ!違いますーっ!?」
似た背格好なはずなのに、パトリックの歩みをまったく止められず、焦るラズ。
ずんずんとアーリヤの方へ近づく。
それに気付いたアーリヤが、表情を切り替え、輝く笑顔をパトリックに向ける。
……アーリヤの笑顔を、見てしまった女子生徒たちがいた。
遠くから嬉声とも、悲鳴とも思える叫び声が聞こえてくる。
その後に続いて、“女子たちが倒れてるぞー!?”と救護班を呼ぶ声が、あちらこちらから聞こえてきた。
ラズを引きずり、アーリヤの前で腰に手を当て仁王立ちするパトリック。
アーリヤは相変わらず嬉しそうな満面の笑み。
――もし、彼に尻尾があったら、振り切れているだろう。
「王子、そのうるさい視線を止めないなら、くり抜きますよ?って、三年ぐらい前に言ったのを覚えてます?」
その言葉にギョッとして、ラズは思わずパトリックを二度見した。
「もちろん!パティとの会話は、全部覚えてるよ!」
今度はアーリヤの言葉を聞いて、彼を二度見するラズ。
ペアであろうノアに、「本当にですか?」とアーリヤとパトリックを交互に指を指す。
――深く頷くノア。
「三年前の春だったね。王宮の庭師がパティを不埒な目で見てて……今でも鮮明に思い出せるよ!」
ラズは、哀れな庭師がいたんだなぁと、見知らぬ庭師に少しだけ同情した。
「覚えていたのなら、何よりです。――なら、右目がいいですか?左目がいいですか?」
「選ばせてくれるのかい!?」
ぱぁと輝く顔に、再び遠くから叫び声が聞こえた気がした。
「“選ばせてくれるのかい!?”じゃないだろっ、こんッのバカ!……トリシアも阿呆なこと言ってないで、定位置に戻れ。」
しっしっ、と手で払い除けるような動作をして、パトリックたちに戻れと促すノア。
“競技大会が終わったら覚悟してくださいね”と言い残し、元いた場所に戻っていくパトリックたちだった。
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